新たな地質時代名が決定! ~地層は地球のタイムカプセル~

こんにちは!科学コミュニケーターの保科です。
2年ほど前から注目していた「チバニアン」。ついに今年の1月17日すべての審査をクリアしました!

ゆるキャラの名前? どこにあるの? 何がすごいの?

と思われるかもしれませんが、「チバニアン」は場所ではなく、地質時代の名前です。ジュラ紀とか白亜紀などと呼ばれたりするアレです。注目ポイントは地層からわかる地球の歴史です。

私たちは過去の出来事を知りたいとき、どうやって調べるでしょうか?

誰かが記録した情報を当たれば昔の出来事を知ることができますが、人間が地球上に誕生するもっと昔のことはどうでしょう?

実は地面の下、「地層」には長い長い地球の歴史の情報がたくさんつまっているのです。

「チバニアン」とは?

江戸時代、明治時代、大正時代...と、過去の日本の歴史には時代名がついていますよね。地球の46億年の歴史にも時代名があります。環境、気候やどんな生き物がいたかといった特徴で区切った地質時代です。たとえば恐竜が生きていた時代は中生代(三畳紀~ジュラ紀~白亜紀)と呼んでいます。約6500万年前に恐竜たちが絶滅するという生き物の大きな入れ替わりがあったために、地質年代はここで区切りを入れて、その前後を中生代・新生代としました。このように、何か大きな変化があると、区切りとして、地質年代を分けていくのです。

では、そうした生き物の入れ替わりや気候の変化は、どうやってわかるのでしょう?それが地層を調べることなのです。

地層は主に海底で砂や泥が長い年月をかけて堆積したものです。その中には岩石、火山の噴火による火山灰、生物の化石、花粉などが含まれています。これらを調べることで、過去の環境の変化や生物種の移り変わりを知ることができます。

地質時代は大きな区分だと古い方から冥王代、太古代、原生代、顕生代の4つに分けられます。顕生代はさらに古生代、中生代、新生代と分かれています。現在は顕生代の新生代/第四紀/完新世/メガラヤン期に含まれます。地質時代は累代/代/紀/世/期と5段階に分類されます。
(人類が地球の生態系に影響を与えるようになった時代を人新世と呼ぶ動きもありますが、これはまだ地質時代には認定されていません。)

地質年代表はまだ完成したわけではなく、新たな発見があるたびにアップデートされていきます。最も細かい分類の期については、地質時代の境界となる証拠(その前後で、気候の変化や生態系の変化などが起きた証拠)を観察できる場所が「国際模式地」として認定されます。

今回、千葉県市原市にある地層群である「千葉セクション(千葉複合セクション)」が国際模式地としての条件を最も満たしていると国際的に評価され、認定されました。そして千葉セクションを調べることで、約77.4万年前が更新世の中期とカラブリアンの境界であるとされ、約77.4万年前~約12.9万年前の地質時代が、「チバニアン(Chibanian)」と命名されました。ちなみに、Chibanianとはラテン語で「千葉の」という意味です。すでに国際地質年代層序表に"Chibanian"の表記が加わっています。
http://www.geosociety.jp/name/content0062.html

この期間の国際模式地として認定されるための特に重要な条件は、

  • 海底下で連続的に堆積した地層であること
  • 地層中に過去の地磁気逆転が記録されていること
  • 地層の堆積した当時の環境変動が詳しくわかること

となっていました。

地磁気とは?

上にあげた条件の2つめに「地磁気逆転の記録」があげられていますね。地磁気とは地球が持っている磁場のことで、この地磁気があることで太陽風や宇宙放射線から地表にいる私たち生物を守ってくれています。また、方位磁石が北を向くのは、地磁気によって北極付近がS極、南極付近がN極という性質を持っているからです。この地磁気ですが、実は過去に何回か入れ替わっていることがわかっています。つまり、方位磁石が現在とは逆の南を向いていた時期があります。

地磁気の逆転が起きたことは、地質に含まれる岩石が"記憶している"磁場からわかります。岩石は火山噴火などによって作られます。高温の地球内部から出てきて冷やされる際に、岩石中の磁気を帯びた鉱物が、その時点でのその場の磁気の方向を向くことで記憶されます。そのため、岩石の磁気を調べることで、その岩石が冷え固まった時の地磁気の向きを知ることができます。実は1900年代初期にはフランス人のベルナール・ブルンが岩石から地磁気が現在とは逆を向いていたという証拠を見つけ、日本人の松山基範が、最後に地磁気が逆転したのが約77万年前であったことをアジアの地層から見つけていました。

地層からわかること

地層には前述したとおり、火山灰や岩石、生物の死骸、花粉などが含まれています。これらが連続的に堆積し、保存されていると現在から過去へと時間をさかのぼって、地球の環境を知ることができます。

今回、千葉セクションのほかにイタリアの2か所の地層が国際模式地の候補に挙がっていました。いずれも条件のひとつ「地質中に過去の地磁気逆転が記録されていること」はクリアしていました。その中で千葉セクションが選ばれたのは、「地層の堆積した当時の環境変動が詳しくわかること」この条件をよく満たしていたからです。

岩石に地磁気逆転の証拠が残されていても、それだけでは何年前に起こったことなのかはわかりません。それを知るためには「いつ堆積したか」がわかる情報が必要です。地質の年代を調べるには火山灰に含まれる元素のアルゴン(Ar)がよく使われます。元素によっては放射線を出してより安定した状態の元素へと変わっていくものがあります。この変化は周囲の温度などの影響は受けずに、決まった時間で変化していくので、これを"時間を測るものさし"として使うことができます。千葉セクションでは、岩石の年代測定によく使われているArではなく、これよりも信頼度が高いウランと鉛の存在比を使った方法で調べることができました。重い元素であるウランは放射線を出して、時間をかけて鉛へと変化していきます。そのため、ウランと鉛の割合から、岩石が何年前にできるかを知ることができます。これを"時間を測るものさし"として、ウランと鉛の比から年代を測定しようという年代測定法です。この千葉セクションでの年代測定によって、地磁気逆転の時期を高精度に知ることができました。さらに、今まで兵庫県の玄武洞やほかの地層で調べられてきた地磁気逆転の時期(約78.1万年前)よりも、約1万年遅い約77.4万年前であったこともわかりました。

過去の環境は、地層に含まれる顕微鏡サイズの生き物である有孔虫や放散虫、花粉などの化石から調べることができます。地層の下から上(古い時代から新しい時代)になるにつれて変化しているかどうかを見れば、環境の変化がわかります。有孔虫や放散虫の化石からは、その酸素同位体値(重さが16と18の酸素が含まれている割合。温度が変わるとその割合も変わる)を調べることで地層が堆積した場所の海水温の変化がわかります。どんな種類の植物の花粉がどのくらいの量あるかを調べれば、陸上の植生の変化がわかります。さらに、千葉セクションに含まれるこれらの情報と、同じ時期に違う場所で堆積した地層や海底堆積物の情報を組み合わせることで、当時の海洋循環や気候の様子を知ることもできました。

千葉セクションは1000年間で2 mという堆積スピードです。これは地層としてはかなり速く、その当時の環境を調べるための情報がたくさんつまっていると言えます。たとえば、1000年で50センチほどしか堆積しない地層に比べると、千葉セクションはより細かな時間単位で調べていくことができます。

私たちの生活の記録でも、毎日日記を書いた方が月に1度しか書かないよりも、昔の出来事をより詳しく知ることができますよね。例えば、ある月の出来事として「大雨が降った」、「停電があった」と記録されていた場合、その1か月の間に2つのことが起きたことはわかりますが、大雨が何日続いたのか、停電と大雨に関係があるのかについてはわかりません。毎日記録を取っていれば、これらの情報を知ることができます。

市原市にある千葉セクション(筆者撮影)

地磁気の逆転に先だって、まず徐々に地磁気が弱くなり、一時的になくなり、再び逆の地磁気が強くなると考えられています。地磁気が消失する時期があるわけです。前述したように地磁気は宇宙放射線から守ってくれる働きがありますから、地磁気がなくなれば、生物の大量絶滅や大きな気候変動が起こるかもしれないと考えられていました。千葉セクションがより細かい時間単位で過去がわかる情報をたくさん持つおかげで、地磁気の逆転にかかる時間が今まで考えられたよりも長かった可能性がわかりました。また、地層に含まれる有孔虫や花粉などの化石から、気候変動や生物種の入れ替わりのタイミングと、地磁気逆転のタイミングが異なることも千葉セクションからわかりました。つまり、少なくとも約77.4万年前の地磁気逆転のときには、大きな気候変動や海洋循環の変化生物種の大量絶滅は起きなかったと推測されるのです。

また、この時期は現在と同じ間氷期と呼ばれる温暖な時期で、地球の大部分が氷に覆われる寒冷な氷期へと移行する途中です。ほかの地層の研究から、チバニアン以前は氷期と間氷期は4万年の周期で変わっていたのが、これ以降は10万年周期へと変化したことがわかっています。さらに、77.4万年前は地球全体の気候を決める地球の軌道や自転の傾きが現在とよく似ています。千葉セクションの化石などからわかる気候変動の情報と、同じ時期の南極の氷床コア(雪が降り積もって地層のようになったもの)の情報と一緒に調べることで、77.4万年前の気候変動がより詳しくわかると期待されています。過去の地球環境を調べることで、この先の地球環境の変化を知る手がかりとなります。

このように地層には過去の地球の情報がたくさんつまっています。このことから、地層は地球のタイムカプセルのように思えてきませんか?身の回りでも地層が見られる場所は意外とあります。もし見つけたら、地球の過去に思いをはせてみてください。

【参考資料】
(1) 千葉セクションGSSP申請グループの解説ページ
https://sites.google.com/a/nipr.ac.jp/chibasection/Home
(2) Y. Suganuma et al., Age of Matuyama-Brunhes boundary constrained by U-Pb zircon dating of a widespread tephra. 2015, Geology, 43, 491-494.
(3) Y. Suganuma et al., Paleoclimatic and paleoceanographic records through Marine Isotope Stage 19 at the Chiba composite section, central Japan: A key reference for the Early-Middle Pleistocene Subseries boundary, 2018, Quaternary Science Reviews, 191, 406-430.

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