現実世界と計算機の世界があわさった新しい自然とは? 【前編】常設展示「計算機と自然、計算機の自然」ツアー

未来館の常設展示には3つのゾーン「世界をさぐる」「未来をつくる」「地球とつながる」があります。

「未来をつくる」は、情報やロボットなどの技術を扱いながら、これからの私たちの社会や暮らしについて考えるゾーンです。このゾーンに2019年11月より新しく常設展示「計算機と自然、計算機の自然」が加わりました。

計算機? 自然? いったいどんな展示なのでしょうか?

展示制作に関わった科学コミュニケーターの松谷良佑が展示の一部をご案内します。

3F未来をつくるゾーンに入ってすぐ

そもそも計算機って...?

「計算機」と聞いてみなさんはなにを思い浮かべますか?
電卓を思い浮かべる方が多いでしょうか。それとも、パソコンでしょうか?

この展示では、計算する装置すべてを含めた呼び方として「計算機」という言葉を使っています。なので、もちろん電卓やパソコンも計算機です。さらに広げれば、そろばんだって、人工知能だって計算機の一つです。

スマートフォンやお掃除ロボットのような家電製品にも「計算機」が入っています。気づけば、私たちの身の回りは計算機だらけなのです!
これから先、ますます計算機はどこにでも存在するようになるに違いありません。

常識を疑え!

展示エリアに入ると、鏡の林のような空間のなかに29もの展示が配置されています。

例えば、展示の一つに砂時計があります。
ガラス管の中で砂が落ちる、あれです。昔から使われているような道具がなぜ?と思いましたか?
砂時計を拡大してみましょう。実際の展示にも拡大映像をうつすディスプレイを用意しています。
中に入っているのは、四角い形の・・・。

砂時計のなかを拡大してみると・・・

実はこれ、積層セラミックコンデンサと呼ばれる超極小の電子部品。電荷を一時的に蓄える役目をします。サイズは0.2 x 0.125 mmなので、長辺でもはがきの厚さ程度しかありません。この部品、みなさんが使っているスマートフォンにも700個ほど使われています。
そして砂時計の中には、なんと約1000万個!スマホ何台分でしょうね。

私たちの身の回りにも何千何万というコンデンサがあるはずですが、もちろんそんなこと気にかけている人なんていません。
同じように、それらの部品から作られる計算機もますます小さくなって、その存在感は薄れていくのではないでしょうか。

ちなみに、この積層セラミックコンデンサは現在製造されている中でも最も小さいコンデンサの一つです。名前の通り内部はセラミックの層がナノスケールで折り重なった構造をしています。最先端の製造技術がこうした小型化を実現しているのですね。

計算機と一緒にものづくり?

今度は頭上をご覧ください。展示空間に流れる不思議な音楽は、あちらの鉄琴が奏でています。なんだか、変な格好をしていますね。

頭上にある不思議なかたちの鉄琴です

鉄琴というと長方形の音板が並べたものが一般的です。長い音板は低い音、短い音板は高い音を奏でます。音板の形で音程や音色は決まります。ですので、音階を保ちながら形を自由にデザインするのはとても難しい。
ここにある鉄琴の音板はどれも複雑な形をしていますが、ちゃんと音階になっています。計算機の助けを借りれば、これまでになかった鉄琴をデザインできるようになります。
(ちなみに、それぞれの音階の周波数スペクトルの形もとにして設計をしています。なので、タイトルが「ドレミの形」です!)

そんなものづくりの常識を覆すような研究をされている東京大学大学院特任講師の梅谷信行先生は、他にもオカリナや紙飛行機などの設計を支援するソフトウェアをこれまで作っています。

計算機の力を借りて設計をする。そして、3Dプリンターを使えば製造も簡単!
そんな風にすれば、家庭でできるものづくりの幅もぐっと広がりそうですね。
ぜひ、計算機と人の共同作業でできた鉄琴の音色をお聴きください。
(閉館間際には、聞いたことのあるあの曲が演奏されますよ。)

「計算機と自然」

さて、展示エリアの中央に、ひときわ目を引く展示があります。
美しい生け花に、落ち葉を拾うロボットアーム? 蝶々? いったいこれは?

「計算機と自然」

自然に人工物が溶け込み調和した世界を表現しました。これは、展示全体のタイトルにもある「計算機と自然」という世界観にあたります。

青い蝶々をよくご覧ください。主に中南米に生息するモルフォ蝶という蝶ですが、この展示では本物の標本と人工的につくられた蝶とが混在しています。

構造色印刷のモルフォ蝶(実は3種の色違いの蝶がいます)

モルフォ蝶の持つ複雑な色彩は、構造色と呼ばれます。鱗粉に刻まれた微細構造に光が反射・干渉をすることでこのような色に見えます。他にも、クジャクの羽やシャボン玉などでも見られる現象です。

光を制御するナノ構造をつくることができれば、構造色を意図的に作り出すことも可能です。構造色印刷と呼ばれる技術で作られたのが、この人工蝶です。

人工物は、自然の持つ、複雑さにどんどん迫ってきています。身近なところでも、最近のディスプレイはもはや私たちの目には現実と変わらないほど高い解像度になってきました。人工物と自然物の境界というのは、徐々にあいまいになっていっているような気がしてきませんか?

その時、どんな風に私たちは新しい技術を受け入れればよいのでしょうか。そして、いったいどんな社会になるのでしょうか。

後編(https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20200327post-35.html)へつづく...

後編では映像展示を通して、この展示の示す世界観の背景にある考え方や社会とのかかわりについて理解を深めていきます。

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