冷暖房を使わなくても快適に過ごせる家って? 私たちの「選択」が進めるエネルギー大転換 ②家の選択

国内で消費されるエネルギーの15%は家庭によるもので、その割合は年々増加傾向にあります。また、家庭のエネルギー消費のおよそ3割は冷暖房に費やされており、エアコンやヒーターにできるだけ頼らずに快適な屋内環境をつくれる家の設計が求められています。賃貸で部屋を借りるとき、家やマンションを購入するとき、私たち生活者が持つべき視点とは何なのでしょうか。

日本科学未来館は2020年3月1日にトークセッション「今から始める! 『エネルギー大転換』~電気・家・車の選択~」を開きました。エネルギーの未来について考える「どうする!?エネルギー大転換」展の関連イベントです。本ブログでは「エネルギー大転換」の鍵を握る私たち生活者の「選択」について、3名の専門家が語った内容を紹介しています。第二弾は、省エネ建築の普及促進活動を行っているパッシブハウスジャパン理事、松尾和也氏のお話です(以下の内容は松尾氏が語った内容を要約・抜粋したものです)。

松尾和也氏((株)松尾設計室 代表取締役/パッシブハウスジャパン理事)

「健康で快適な省エネ建築を経済的に実現する」がモットー。自ら設計するだけでなく、「断熱」「省エネ」に関する講演も行なう。2009年、日本型超省エネ住宅の普及を目指す非営利「パッシブハウスジャパン」を立ち上げ、理事としてドイツの最先端省エネ建築の考え方を日本の気候条件に合わせる形で普及促進活動を行なっている。

冷暖房に頼らずに「すっぴん」の性能を上げる

これまでの日本の和風住宅などは、断熱性能がまるで重視されておらず、冬場の寒さは暖房をたくさん使ってしのぐものという考え方が一般的でした。この状態は、「冬場に服を着ないで体中にカイロを貼って寒さをしのぐようなもの」と例えられます。しかし、ドイツをはじめ各国では、「冬場にはしっかりダウンコートを着る」という考えのように、断熱性能を重視した住宅が建てられています。ドイツと日本の住宅の断面を図式化するとこのようになります。

家の断熱性能を高めるには、窓を厚くする、隙間をなくす、屋根の厚みは壁の倍以上にすることなどが重要ですが、日本の住宅ではそうなっていません。日本の住宅メーカーでも断熱性能のトップランナーが作る家は、ドイツの住宅のような断熱がなされていますが、それでもまだまだ数は少ないです。

例えば、このドイツの新築住宅では、大きな窓が何枚もついています。日本の一般的な新築住宅でこれだけの窓を設置すると、部屋の特に窓際はとても寒くなりますが、この住宅はそうではありません。なぜなら、窓の断熱性能が高いからです。窓枠にはアルミと比べてはるかに熱を逃がしにくい木材をつかい、ガラスは三重、ガラスの間に断熱性の高いガスを詰めるなどの工夫がされています。

家の断熱性能を測るひとつの指標として、「熱の失いやすさ」である熱損失係数(Q値[W/m2])があります。冷暖房する前の「すっぴん」の性能です。値が大きいほど、室内温度を失いやすいことを表し、この値が小さい家は、暖房なしで外気温よりも室内を高く保つことができます。例えば、室内温度を20℃に保ちたいと考えた場合を考えます。Q値2.7の家は、外気温の変化に合わせてグラフのように室内温度も変化し、20℃に達しない部分(ピンク色)は暖房で賄う必要があります。一方、Q値1.6の家の場合、暖房の使用は明け方の一番寒い時間帯のみでよく(赤色)、日中は日の光を取り入れることで熱を得て、正午から真夜中まではその熱を保つことで、暖房なしで室内温度を20℃以上にすることができます。このように、暖房を使用せずとも外気温との温度差が生まれるような家を作っていくことが大切です。

なお、日本の既存住宅のうち、Q値2.7以下の住宅は全体のわずか5%にとどまります。ドイツではQ値1以下の住宅も決して珍しくありません。

日本の断熱性能は海外の最低基準以下

諸外国には住宅の断熱性能に最低義務基準を設けているところも多いのですが、日本に義務基準はありません。国交省がいくつか基準を示していますが、これらはいずれも推奨値であって、その基準に達しない家を建てられないわけではありません。

家の断熱性能を測るもうひとつの指標として、「熱の通りやすさ」である熱貫流値(U値[W/m2・k])があります。諸外国が採用している基準と日本の基準を比較してみます。求められる断熱性能はその地域の気温に大きく影響し、寒い地域ほど高くなるため、単純な国ごとの比較ではなく、気温などの条件をそろえて比較することが大切です。HEAT20という住宅の高断熱化を目指す民間団体が示している基準(G1、G2)も合わせて、各国の基準値を比較した結果はグラフのようになります。

横軸は気温によって分けた地域区分を表し、右側ほど寒い地域です。第1地域は旭川など、第8地域は沖縄。東京、大阪、名古屋、福岡など日本の8割の人が住んでいるのは第6地域です。グラフでは下にいくほど断熱性能が高いことを表していて、日本の基準では、寒いエリアほど高い断熱性能の値となっていることがわかります。

ここで、日本の多くの人が住んでいる第6地域で日本と諸外国とを比較をしてみると、同じ地域に当てはまるアメリカやフランスが採用している値のほうが、日本の基準よりも高い断熱性能を示していることがわかります。なお、日本の値は義務ではなく推奨ですがアメリやフランスの値は最低義務基準です。そして、HEAT20が示したG2という推奨基準が現在日本にある最も厳しい値ですが、これがやっと諸外国の最低基準に相当します。このように、外気と接する住宅の外皮の性能を比較すると、日本は途上国なのです。

窓の断熱性能がエネルギー消費を抑えるカギ

家の断熱性能を高めるうえで、窓は特に大事な場所です。各部の熱の失いやすさ(熱損失係数)を比較すると、窓の値が非常に大きく、室内の熱の多くは窓から失われていることがわかります。そこで、窓を高断熱化することによって、低コストで家全体の熱損失量を大きく下げることができます。ちなみに、家の窓を高断熱化することは、一棟あたり30~50万円程度で実施可能なのですが、あまり重要視されていません。

窓はそれほどに大事な場所なので、諸外国は、窓の断熱性能に最低義務基準を設けています。残念ながら、やはり日本では義務基準は定められていません。日本の既存住宅で多く見かけるアルミサッシの単板ガラスの断熱性能は6.5です。また、新築住宅で最も多い窓の断熱性能は3.6程度です。いずれも、海外の最低義務基準よりはるかに劣る断熱性能です。日本では、冬場にいたるところで結露がついた窓を見かけますが、もはや海外でその光景は時代遅れなのです。韓国や中国も義務基準を定めており、ヨーロッパは環境先進国だから比較をしても仕方がないという言い訳はもはや通用しません。

「エネルギー性能」は家を選ぶ重要な視点

EUの不動産屋には、「エネルギーパスポート」というデータが物件情報のひとつとして並んでいます。これは、その住宅で冷暖房、除湿、換気、給湯、照明に要するエネルギー量を、一次エネルギー量換算およびCO2排出量でわかりやすく示したものです。新築はもちろん、中古物件もこのデータを示すことがほとんどのEU諸国で義務化されています。

日本で住宅を選ぶ際に参照されるものは、間取り、価格、駅からの距離、築年数などですが、これらの国では、そこにエネルギー性能も加えて物件を選びます。「この物件はちょっと駅から遠いけど、エネルギー性能が高いから光熱費が安くなりそう」などという物件選びが可能になり、「この家は住んでみたらものすごく寒い!でもいまさら引っ越すわけにいかないし我慢するしかない...」ということもなくなります。

住宅を選ぶ際に、エネルギー性能はとても大切な指標なのですが、日本ではエネルギーパスポートのような取り組みは実施されていません。そこで、住宅を選ぶ際に、例えばこのような視点を持つことが大切です。まずは、U値などの断熱性能基準が十分であるかどうかを数値で見ることが大切です。また、夏場の日差しが部屋に入らない設計は夏を涼しく過ごすうえで必須であり、これができていないと一日中エアコンをつけるはめになります。さらに、耐震等級はエネルギーに関係なさそうですが、実は、住宅を長く使うことはエネルギーを抑えるうえで重要なのです。住宅を選ぶ際には、これらの項目について是非調べてみてください。エネルギー性能などをしっかりと考えている住宅メーカーであれば説明をしてもらえると思います。

私たち生活者の多くにとって、家は生涯で一番高い買い物であり、購入後は毎日を過ごすとても大切な場所になります。「エネルギー性能」という新たな視点は、これからの住宅を選ぶ際の必須項目です。

「どうする!?エネルギー大転換」展
https://www.miraikan.jst.go.jp/sp/energiewenden/

トークイベントの様子(オンライン動画)
https://www.youtube.com/watch?v=xpzWwRSk9jA

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私たちの「選択」が進めるエネルギー大転換 ①電気の選択
https://blog.miraikan.jst.go.jp/event/20200323post-904.html

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私たちの「選択」が進めるエネルギー大転換 ➂車の選択
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