地域の発電所になるかもしれない電気自動車の意外な活用法とは? 私たちの「選択」が進めるエネルギー大転換 ➂車の選択

 国内で排出される二酸化炭素のうち、およそ2割が自動車や鉄道、船舶、航空などの運輸部門によるものです。そのうち、自家用乗用車から排出される量が約半分を占めています。つまり移動手段として何を選択するのかが持続可能なエネルギーのかたちを考える際に重要になっています。それでは具体的に、個人として社会として、どんな選択肢があるのでしょうか?

 日本科学未来館は2020年3月1日にトークセッション「今から始める! 『エネルギー大転換』~電気・家・車の選択~」を開きました。エネルギーの未来について考える「どうする!?エネルギー大転換」展の関連イベントです。本ブログでは「エネルギー大転換」の鍵を握る私たち生活者の「選択」について、3名の専門家が語った内容を紹介しています。第三弾は、電気自動車を使ったカーシェアリング事業を展開している、株式会社REXEVの代表取締役社長、渡部健氏のお話です(3月1日に都合が悪くなってしまったため先のお二人とは別日に収録を行いました。以下の内容は渡部氏が語った内容を要約・抜粋したものです)。

渡部健氏(㈱REXEV 代表取締役社長/九州大学グリーンテクノロジー研究教育センター客員教授/大阪市立大学大学院都市経営研究科非常勤講師)

電気で動く車、バス、バイクなどの「e-モビリティ」の普及を通して持続可能な社会インフラの実現に向け活動する。住友商事株式会社、株式会社エナリスを経て、2019年1月に株式会社REXEVを設立。代表取締役社長に就任。

「追加コストゼロ」による持続可能な地域社会の実現

 二酸化炭素の排出量を減少させる「低炭素社会の実現」が叫ばれるようになって久しいですが、近年の世界的な目標は二酸化炭素を全く排出しない「脱炭素社会の実現」です。そのためには、化石燃料から再生可能エネルギーへのエネルギー転換を図ることと、自動車も再生可能エネルギーによって走ることのできる電気自動車や水素自動車などへ移行(モビリティシフト)していくことが必要です。しかし、単に環境にやさしいというだけでは、社会には受け入れられません。地域社会の持続可能性を考慮した上で、脱炭素を目指す必要があります。

 その鍵となるのが、追加コストがかからない、限界費用ゼロ社会の実現というコンセプトです。日本社会、特に地方では、人口減少と少子高齢化が共通の課題となっています。これまで多くの人で支えてきた様々なインフラや社会サービスを少人数で支えなければならなくなりますが、一人当たりの負担が増加しないようにする手立てが必要です。

 例えばエネルギーについては、これまでの化石燃料の利用ではなく、再生可能エネルギーへシフトすれば、最初の導入時にはコストがかかりますが、燃料費などの後から必要な追加費用(限界費用)はほぼゼロでエネルギーを手に入れることができます。そのような再生可能エネルギーで得られた電気で電気自動車を走らせれば、燃料費はほとんどかかりません。さらには、自動運転技術も組み合わせることで、人件費などのコストも抑えることができると考えられます。私が目指しているのは、これらの仕組みを社会実装することで、すべての人が追加コストゼロで移動できる持続可能な社会インフラの実現で、これをREXEVのビジョンとして掲げています。

再生可能エネルギーと電気自動車を一緒に普及拡大する

 そこで再生可能エネルギーと電気自動車とを同時に普及拡大していきたいのですが、それぞれに壁があります。まず再生可能エネルギーの主力となる太陽光や風力は、発電出力が自然変動するという特徴があります。しかし発電量と消費量は常に一致していなければなりません。だから再生可能エネルギーを増やしていくには、発電量と消費量との時間的ずれを調整する能力の強化が必要です。

 そこに登場するのが、電気自動車です。電気自動車のバッテリーは充放電可能なので、発電した電力量が余っているときには充電に使い、足りないときには放電に使うことができます。こうした電力に対する「調整力」として電気自動車のバッテリーを使うことで、電気自動車が再生可能エネルギー普及を後押しできると考えています。

 その電気自動車の普及にもいくつもの壁があります。まずはガソリン車と比較して価格が高いことが挙げられます。また、一回の充電で走ることのできる航続距離がガソリン車に比べると短い、充電スタンドの設置場所もまだまだ少ないという現状があります。さらに、充電に時間がかかることや、一斉にみんなが充電しようとすると電力需給がひっ迫する恐れがあるなどの課題もあります。

 そこで私は、これらの電気自動車の抱えるそれぞれの弱みを解消しつつ、地域の持続可能性を高めることのできる電気自動車を基軸にしたインフラの整備を目指しています。それは以下の三つの柱からなっています。

電気自動車のシェアリングで付加価値を生む

 まず一つ目は、電気自動車のカーシェアリングです。車の利用者それぞれが車を所有するのに比べて、カーシェアリングは一台の車を大勢で利用することになり、一人当たりに必要なコストはずっと低くなります。それだけでなく電気自動車のカーシェアリングは、ガソリン自動車には無い、新たな価値も創造します。それは、電力をシェアできるという価値です。電気自動車のバッテリーに蓄えられた電力は、もちろん移動のために使われますが、移動手段として使われず駐車場で眠っている間は、他の用途に電力を供給する電源として機能させることができます。例えば、電気自動車から建物に電力を供給できるようにしておけば、それは災害時にも役立ちます。また、電力系統に接続しておけば、送電線を通じてどのような相手とでも電力のやり取りが可能となります。

 さらにバッテリーの二次利用を考えると、電気自動車のコストは将来さらに抑えられると思われます。蓄電システムの需要は家庭用などで将来高まっていくと考えられますが、そこに使用されるバッテリーは、電気自動車用ほど小型大容量である必要はありません。電気自動車用としては使い終わって、多少容量が減った中古のバッテリーでまかなうことで、コストを低く抑えられます。それはバッテリーの寿命が延びることにつながり、電気自動車の価格を抑えることにもなるでしょう。

電気自動車を地域のさまざまな活動につなげる

 二つ目の柱が、電気自動車カーシェアリングを地域ぐるみの様々な活動とつなげて実施して、地域活動のプラットフォームにすることです。そのための実証事業を、神奈川県小田原市でスタートさせました。カーシェアリングしている電気自動車を、企業などは業務用に使用します。社会福祉施設が利用者の送迎用に使用するほか、温泉旅館が、観光客を駅へ送迎するなど観光業利用も可能です。一方、住民はセカンドカーとして日常的に利用することもできるし、観光客も電車利用+電気自動車カーシェアによるエコツーリズムが可能になります。シェアリングすることで自動車の価値が上がり、利用者それぞれにとってはコストの低減につながります。また、その充電の一部には、小田原市の発電事業者が再生可能エネルギーにより発電した電力を優先的に使用します。まだ一部ではありますが電力における地産地消が実現しているのです。さらに、今後小田原市と防災協定も締結して、電気自動車が非常用電源としての役割も果たす計画です。

 こうした地域の情勢を活用したカーシェアリングを進めていくことで、利用者が増え、電気自動車インフラの拡充にもつながります。また、地域内で利用するため、航続距離の短さは問題となりません。

晴れた日には充電を。AIを活用してバッテリーの充放電管理

 そして三つ目の柱が、電気自動車を用いたエネルギーマネジメントです。再生可能エネルギーで発電された電力、例えば太陽光発電に関して、日中の太陽が出ている時間に発電量が多くなり電力が余った場合、その余剰分を捨ててしまっているのが現状です。しかし、そこに電気自動車がつないであれば、余った電力を電気自動車の充電に使うことができます。逆に、電力消費量が多くなり、発電している電力ではまかなうことができない場合、バッテリーから放電して発電量の不足分を補うことができます。

 さらに、このしくみにAIを活用することで、充放電のタイミングが調整可能となります。例えばバッテリーの充電をしようと思ったときに、翌日の天気予報を確認して晴れになっていたとします。そうすると、充電可能な状態にあってもすぐには充電を開始せず、翌日の太陽光が十分に得られる時間帯に充電を回してくれる、そういった判断がされるようになります。

 こうして、電力需要や発電状況に対応して、バッテリーの充放電をマネジメントすることで、充電にかかる時間の調整やピーク電力への対処ができるようになります。

環境性、経済性、社会性。「3つの軸」のバランスが重要

 それでは、車を選択する時に、社会に求められる視点とはなんなのでしょうか。

 ご紹介してきたように、まずは環境性という側面が重要になります。移動のためのエネルギー源として再生可能エネルギーを用いるのはもちろんですが、移動のための車を製造する段階でも再生可能エネルギーが使われているかどうか、それも注視する必要があります。

 しかし、必要な側面はそれだけではありません。環境を重視した結果、お金がかかりすぎてしまうようでは、社会は破綻してしまいます。持続可能な地域社会のためには、環境性だけでなく経済性も考慮する必要があります。今回のお話しでは、電気自動車のカーシェアリングによる経済性をご紹介いたしました。

 加えて、社会性という側面も必要になります。近年は大規模停電なども発生しており、その際に電気自動車は非常用電源としての機能を果たします。地球温暖化の解決など長期的な課題解決のために環境性は必要ですが、そうした災害対策などの短期的な課題に対応することも必要です。

 こうした環境性、経済性、社会性の3つの軸をバランスよく取り入れることが、社会として車を選択する際の重要な視点であると思います。

「どうする!?エネルギー大転換」展
https://www.miraikan.jst.go.jp/sp/energiewenden/

トークイベントの様子(オンライン動画)
https://www.youtube.com/watch?v=xpzWwRSk9jA

自然エネルギーでつくられた電気を自宅に届けられるの?
私たちの「選択」が進めるエネルギー大転換 ①電気の選択
https://blog.miraikan.jst.go.jp/event/20200323post-904.html

冷暖房を使わなくても快適に過ごせる家って?
私たちの「選択」が進めるエネルギー大転換 ②家の選択
https://blog.miraikan.jst.go.jp/event/20200330post-905.html

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