「どうする!?エネルギー大転換」~来場者が選んだエネルギー政策を報告します!~

あなたが国会議員ならどのような政策で「エネルギー転換」を進めますか?

日本科学未来館では、来場いただいた方々に、このように問いかけて、自分の考えを投票によって表明してもらう展示「どうする?!エネルギー大転換」展を開催いたしました(2020年1月17日~2月27日)。新型コロナウイルス感染症の影響で、当初予定の開催期間から1か月ほど短い会期となってしまいましたが、この間におよそ1万1000人の方々にご来場いただき、エネルギーの選択に関して5493人分の投票が集まりました。この記事では、展示の一部を紹介しながら、来場者が投票で選んだエネルギー政策の結果を発表します。

全人類の急務「エネルギー転換」を進めるための10の政策

この展示のオリジナルは、2017年にドイツ博物館で開催された企画展「energie.wenden」(読み方は"エナギー・ヴェンデン"、意味は「エネルギー転換」)です。このまま使い続けると地球温暖化を進めてしまう化石燃料から、二酸化炭素を出さず、枯渇しない持続可能なエネルギー源への転換を、全世界が協力してできるだけはやく達成させる必要があります。しかしながら、世界各国の現在の取り組みだけでは、将来的に大規模な気候変動が発生し、次世代の人々に大きな被害をもたらす恐れがあるのです。

「エネルギー転換」は人類全体に課せられた急務なのです。それではどのように「エネルギー転換」を進めていけばよいのでしょうか?この問題は、政治家や一部の専門家だけにその対応を任せていられるものではありません。市民ひとりひとりがこの問題にどのように向き合うのかを考えることが重要です。そのために、本企画展では、来場者には国会議員になったつもりで、様々な意見を聞いたうえで「エネルギー転換」を進めるために最適と思われる政策を選ぶ体験をしてもらいました。

本展示で"国会議員"の皆さんに考えてもらったのは全部で10個のテーマ。展示で示される科学的なデータや様々な立場の人からの意見を踏まえ、それぞれの設問に対して提案されている3つの政策オプションのなかから一つを選んで投票してもらいました。その10個のテーマとそれぞれの選択肢は以下のようなものでした。

  1. 発電所からの二酸化炭素、どうやって減らす?(A.天然ガスに補助金 B.炭素税 C.地下に埋める)
  2. 原子力エネルギーを使う?(A.もっと原発を建てる B.原発は閉鎖 C.核融合をめざす)
  3. 太陽光や風力エネルギーを推進するには?(A.電気の販売価格保証 B.市場競争に任せる C.国内に限らず適地に設置)
  4. 水力の今後は?(A.簡単に増やせる法律を制定 B.大型の新規建設を制限 C.小規模水力を建設)
  5. 植物資源をどう使う?(A.燃料用の作物を普及させる B.燃料用の作物生産は制限 C.燃料用は廃棄物だけ)
  6. 再生可能エネルギーをたくさん送るには?(A.多くの高圧電線をつくる B.既存の送電線を増強 C.電気で燃料ガスをつくる)
  7. 太陽光や風がなくてもいいようにするには?(A.バッテリーを研究 B.揚水発電所を増やす C.スマートメーター)
  8. 建物のエネルギー効率を高める方法は?(A.断熱工事に補助金 B.エネルギー効率に基準値 C.再エネ利用)
  9. 製品のエネルギー効率を上げるには?(A.高エネルギー効率の義務化 B.市場の自由競争 C.製品ラベル)
  10. もっと持続可能な方法で移動するには?(A.電気自動車に補助金 B.電気自動車の生産台数義務づけ C.公共交通機関の充実)

 これらのとてもリアルな設問をしっかりと考えてもらうために、ドイツ博物館でのオリジナルに加えて、日本のエネルギー事情についての最新情報も追加して情報提供を行いました。そして日本における5493人分の投票結果を集計して、ドイツ博物館で集まった93246人分の結果と比較したのが以下の図です。

一見すると日独かなり似ていますが、いくつか大きく異なるところもありました。以下では日独で特に差が大きかった3つの投票結果について詳細に見ていくことにします。

テーマ2 原子力エネルギー(日独差25ポイント)

原子力エネルギーは二酸化炭素を出さないため、気候変動に影響を与えない「エネルギー転換」のためのオプションの一つとなっています。しかし東京電力福島第一原子力発電所の事故が示したように、ひとたび事故が起こると人々の暮らしと未来に甚大な被害がもたらされます。また、放射性廃棄物を安全に保管する方法も未だ見つかっていません。福島原発事故を受けて、原発をなくしていくことを決めた国(ドイツ、ベルギー、イタリアなど)もあれば、今後も原発を使い続ける方針の国(中国、ロシア、インドなど)もあります。

日本では事故後、原発に対する新しい安全基準を定めるとともに、温暖化対策や経済対策の柱の一つとして、今後も原発を推進していく方針をとっています。

日本の発電電力量とその内訳の推移、および2030年での目標値

さて、エネルギー転換を実現するために、原子力エネルギーは必要でしょうか。日独それぞれの来場者の投票結果はこちらのようになりました。

ドイツでは「原発閉鎖」の政策を支持する人々が半数以上の53%を占めていましたが、日本では「原発閉鎖」を支持する人の割合は大幅に少なく28%。それでは「もっと原発を建てる」が支持されているかというとそういうわけでもなく、日本で最も支持を集めたのは「核融合発電をめざす」でした。来場者の多くが、長期的なエネルギー安全保障についても関心を持っていたのかもしれません。

テーマ9 製品のエネルギー効率(日独差16ポイント)

 膨大な量の化石燃料を燃やして排出される二酸化炭素の量を、できるだけ早く減らす「エネルギー転換」を実現するためは、消費するエネルギー量を減らす「省エネ」が欠かせません。また、将来的にも、いくら科学技術を発展させても供給できるエネルギーは有限です。

家庭でできる「省エネ」というと、家電製品の使用を控えて「我慢」することだと思うかもしれませんが、そうではありません。世界的には「省エネはより効率の良い製品に投資をすること」という考え方が主流です。エネルギー効率がより高く、二酸化炭素排出量の少ない製品へ買い替えることも「エネルギー転換」につながるのです。実際、主要家電製品のエネルギー効率は年々向上しています。

主要家電製品のエネルギー効率の変化

さて、製品のエネルギー効率の向上をさらにすすめるためには、どのような政策が有効でしょうか?日独それぞれの来場者の投票結果はこちらのようになりました。

ドイツでもっとも多く51%という支持を集めたのは「高エネルギー効率の義務化」という政策でした。一方、日本では「エネルギー効率のいい製品にラベル」をつけるという政策が、最も多くの45%という支持を集めました。実際日本では、各家電製品に対して、ある時点で最も優れたエネルギー効率性能がその製品の目標基準(トップランナー基準)として設定されていて、その基準に対する各家電製品の性能が「省エネ性能ラベル」で確認できるようになっています。家電製品以外にも商品の環境性能を表す「ラベル」が存在していますが、日本では多くの人々にとって、そのようなラベルに対する信頼度が高いのかもしれません。

テーマ1 化石燃料(日独差15ポイント)

「エネルギー転換」の本丸は化石燃料の使用量を減らすことです。なにせ世界で使われている総エネルギー量のうち、石油・石炭・天然ガスといった化石燃料の占める割合は未だに85%にも及んでいるのです。各国がこのまま化石燃料を使い続けると気候変動リスクは高まる一方であるだけでなく、そう遠くない将来に化石燃料資源も枯渇してしまいます。

日本では、国内で消費されるエネルギーのおよそ9割が化石燃料によって賄われています。人口で見ると日本は世界で10番目に多い国ですが、排出される二酸化炭素の量は世界で5番目の多さです。二酸化炭素の排出量を今後どのように減らしていくのか、すべての国が目標を掲げていますが、日本政府は、2030年までに26%、2050年までに80%減らすという目標を表明しています。

日本の温室効果ガス排出量のこれまでとこれから

では、どうすれば二酸化炭素の排出を減らせるのでしょうか。特に発電所からの排出を削減する方法として、日独それぞれの来場者が投票した結果はこのようになりました。

 ドイツでは「化石燃料に炭素税をかける」ことが最も支持されました。これは、二酸化炭素をより多く排出する燃料のコストを上げることで、その使用量を抑制しようという政策で、スウェーデン・スイス・フランスなどヨーロッパを中心に積極的に取り入れられている政策です。一方日本では、「天然ガスに補助金」を与える政策に最も支持が集まりました。化石燃料の中でも石炭は最も安いために世界における火力発電の主力となっていますが、石油や天然ガスに比べると同じエネルギーを得る際の二酸化炭素排出量は最も多く、エネルギー転換には「脱石炭」が重要だと考えられています。そこで、化石燃料の中でも二酸化炭素の排出量が最も少ない天然ガスによる発電へシフトしていくためのオプションとして、補助金という政策があるのです。日本では、相対的には炭素税への人気が低いという結果となりました。

エネルギーの選択は未来の選択

以上の結果について、みなさん自身はどのように感じましたか?

この展示では、来場者のみなさんに国会議員になったつもりでエネルギー政策を選ぶ体験をしてもらいました。実社会のなかでも私たち生活者が選択をする場面はたくさんあります。化石燃料に依存している現状からどのようにエネルギー転換をするのか、エネルギーの選択は、私たちの未来の選択にほかなりません。

本展示に関連して、2020年3月1日にはトークセッション「今から始める! 『エネルギー大転換』~電気・家・車の選択~」も開催しました。その映像と報告ブログもぜひご覧ください!

トークセッション動画

https://www.youtube.com/watch?v=xpzWwRSk9jA

報告ブログ

自然エネルギーでつくられた電気を自宅に届けられるの?私たちの「選択」が進めるエネルギー大転換 ①電気の選択
https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20200323post-130.html

冷暖房を使わなくても快適に過ごせる家って?私たちの「選択」が進めるエネルギー大転換 ②家の選択
https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20200330post-131.html

地域の発電所になるかもしれない電気自動車の意外な活用法とは?私たちの「選択」が進めるエネルギー大転換 ➂車の選択
https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20200512post-237.html

担当した科学コミュニケーター
宗像恵太 清水裕士 池辺靖

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