<研究エリア紹介> コミュニケーション・サイエンスプロジェクト

心理学実験でさぐる、気持ちの読みとり方

この顔文字にご注目ください。

この顔文字は喜んでいるか悲しんでいるか、どっちだと思いますか?

正解は…………………

ありません!

なぜ突然こんな質問をしたのかというと、みなさんがこの顔のどこに注目したか知りたかったのです。

まずは喜んでいると思ったみなさん。目元は笑っていますね、ここだけ見れば誰もが喜んでいると答えるでしょう。

しかし、口元を見ると……「へ」の字で悲しんでいるような気がしませんか?

この顔文字には「喜び」と「悲しみ」の両方の気持ちが含まれていました。だから、目に注目した人は喜んでいる。口に注目した人は悲しんでいると思ったはずです。

みなさんはどちらに注目しましたか?

実は、日本人は相手の気持ちを読みとるときに、西洋人と比べて口より目に注目する傾向があります(1)

次のグラフを見て下さい。顔文字の表情が「喜び」と「悲しみ」のどちらに近いと感じるかを日本人とオランダ人とで比較したグラフです。目が喜び寄りの顔については、日本人はオランダ人よりも「喜んでいる」と評価します。逆に、口が喜び寄りの顔については、オランダ人は日本人より「喜んでいる」と評価します。

日本人とオランダ人の比較

このことは、日本で使われている顔文字と西洋で使われている顔文字を比べてみてもわかります。2つの違いに何か気づきますか?

日本と西洋の顔文字比較

日本の顔文字は口の形がすべて同じで、目の形を変えて気持ちを表現しています!

一方、西洋の顔文字は口の形で気持ちを表していることがよくわかります。身近なところから、“目から気持ちを読む日本人”と、“口から気持ちを読む西洋人”という特徴が見つかりました。

一般的に、日本に比べて西洋ではマスクをつける習慣があまりありません。

これは、マスクをつけて口が隠れてしまうと相手の気持ちが読みとりにくくなってしまうから……というのが理由の一つなのかもしれません。

気持ちの読みとり方は、みんな同じではない

人と人とのコミュニケーションにおいて、相手がどんな気持ちなのか読みとることは大切ですよね。もし、相手が怒っているのに喜んでいるとかん違いしたまま話を続けてしまったら、仲がこじれてしまうかも……。

でも、気持ちの読みとり方は、先ほどの日本人とオランダ人のように全員同じではありません。

国や文化やことばの違いがコミュニケーションにどのように影響を与えているのか?

この問題を認知心理学の視点から調べているのが、田中章浩先生(東京女子大学現代教養学部教授)が代表をつとめる「コミュニケーション・サイエンス」プロジェクトです!

田中章浩 先生

コミュニケーションにおける心のはたらきを調べるために、田中先生たちは日本科学未来館に来てくれたお客さまを対象に心理学の実証実験を行っています。

「実験」と聞くと、なんだかお堅いイメージだけど、

そんなことはありません!

こちらはとある実験の様子です。

研究員の山本寿子さんが実験の手順を教えています。この日、実験に参加してくれたのは小学6年生の来館者。なごやかな雰囲気です。
実験で調べるのは、画面上で人が話しているときにどこを見ているか。視線を追うことができる装置を使ってデータをとっています。



さて、このような実験の結果を出すためには、たくさんの人に参加してもらうことが必要です。

田中先生の研究室では春休みと夏休みの期間に未来館で実験をしていて、前回の2019年夏には512才のお子さんが総勢228名も協力してくれました。

ありがとうございます!

一人ひとりの参加者から集められたデータは研究室のみなさんが

ああでもない、こうでもないと解析していきます。そこからコミュニケーションを支える心のメカニズムを解き明かし、世界中の人に知らせるために論文にしたり学会で発表したりしています。未来の心理学の教科書にのるかもしれないような新しい発見を研究者と参加者がいっしょにつくれるってすごいと思いませんか!?

田中先生たちのすごいところは、もう一つ。

実験でわかったことや、これから進めようと考えている研究を来館者に伝える活動を行っていることです。下の写真は、未来館のコ・スタジオで行われた田中先生のトークセッションの様子。最近の実験結果を一般の人にもわかるようにかみくだいて説明しています。

現在進行形の研究を研究者本人から聞ける機会は多くありません。
しかも、「心」や「コミュニケーション」は私たちの暮らしと切っても切れない関係です。
私はよく先生たちの研究のお話を実生活で役立てています(笑)。
一方で、先生たちもこのような参加者との対話の場を、研究を見つめ直す大切な機会と捉え、2015年からずっとこれらの活動を続けています。

これからの活動に乞うご期待!

これまでこの研究室は、認知心理学を専門に学ぶ東京女子大学の研究員や学生たちが中心となって活動してきましたが、4月から新しく森勢将雅先生(明治大学総合数理学部専任准教授)が副代表として加わりました!

森勢将雅 先生

森勢先生は音声分析・合成を専門に研究されています。
たしかに、相手の気持ちを読みとるとき、表情を見るだけでなく耳から入る声色などの情報も組み合わせていますね。
相手に好まれる声のトーンなども、個人差や文化差のようなものがあるのでしょうか?
私たち科学コミュニケーターは人前でお話しすることが多いので気になります……。

メンバーも増え、未来館での実証実験や活動もさらにバリエーション豊かになりそうです。
先生方や実験についての詳しい紹介は次回から行っていきます!どうぞお楽しみに!


<参考>

(1)日本人とアメリカ人の比較研究

Yuki, M., Maddux, W., & Masuda, T. (2007) Are the windows to the soul the same in the East and West? Cultural differences in using the eyes and mouth as cues to recognize emotions in Japan and the United States. Journal of Experimental Social Psychology, 43(2), 303-311.

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