本ブログは、「高エネルギー二次電池プロジェクト」の研究代表者である佐藤正春先生が「二次元物質プロジェクト」(入居期間 2017年4月~2021年3月)に在籍していた際に、科学コミュニケーターが執筆したものです。
今日は、未来館研究エリアにある「二次元物質プロジェクト」の研究室におじゃましてみたいと思います!ワクワク
二次元物質とは……西原先生と分子とシートと
このお部屋のボスである西原寛先生は、約40年にわたる研究人生のなかで、数々の新しい物質を生みだしてきました。
西原先生が物質をつくるうえでカギとなるのが「分子」です。分子とは、原子が集まってできたもので、化学の世界ではこれを一つの単位として研究を行います。分子は、組み合わせる原子や構造変えることで、光ったり、電気を流したりと、いろいろな機能をもたせることができます。
さらにその分子同士をブロックのように組み合わせることで、驚くような新しい機能を発揮する場合があります。
そんな分子たちを組み合わせてシート状に並べたものが、西原先生の生み出す二次元物質です。西原先生はこのシートの機能を活かして半導体や電池、センサーなどの新しいデバイスに応用することにも挑戦してきました。
こんなふうに分子をきれいにシート状に並べられるだけですごいなと(以前は大学の研究室で分子を扱っていた竹腰は)思うのですが、ブロックのようにいろんな種類の分子を並べることで、新しい機能を自由自在に生みだせたらかっこいいですよね!
二次元物質はこれからの化学の未来を切り開く新物質として期待されているのですが、この研究室ではもうひとつ注目しているテーマがあります。
それが「電池」です。
みなさんもお世話になっているはず……
例えば、家のなかのリモコンや懐中電灯に使われる乾電池。携帯電話やパソコンのなかにも電池はあります。家の外に行くと、電気自動車に積まれているものや、非常用電源として使われる大きな電池もあります。
上にあげた電池、すべて形は違えど、ある共通点があります。それは、電気をエネルギーとして「貯める」ことができる点です。電気を貯めることができれば、携帯電話を外に持ち出せるし、ドローンを飛ばすことだってできます。そうでなければ……常にコンセントから電気をもらわなければなりませんね。
実は電池にも種類があり、携帯やパソコンに使われている電池は「二次電池」とよばれています。二次電池とは、充電することで繰り返し使用できる電池のこと。みなさんも、携帯の電池が切れそうになったら充電して使っていますよね。
いざ、研究室へ!
さて、電池の紹介はこのくらいにして、いよいよ研究室のなかに入ってみましょう!
こちらの研究室では、実際に二次電池をつくっています。どうやって電池をつくるのか、こっそりのぞいてみましょう。
まず、「ミキサー」とよばれる装置で電池の材料をつくります。
次は、「塗工機」で先ほどの材料を塗っていきます。
そして電池の大きさに合わせてそれぞれの材料を切って……
最後に「タブ」とよばれる耳のような電極と、さきほどの材料を一緒に巻くとこのような電池ができます!
といっても、ここでつくられている二次電池はただの二次電池ではないんですよね、佐藤先生!
「みなさんこんにちは、二次元物質プロジェクトで二次電池の研究をしている佐藤正春です」
――突然おじゃましてごめんなさい。佐藤先生は新しい種類の電池をつくられていると聞いたのですが……
「はい。ここでは、今みなさんが使っている電池より、少し未来に使われる “次世代電池”を開発しているんです。」
――次世代を担う未来の電池! かっこいいですね。どんな電池なのですか?
「われわれは、次世代電池のなかでも ”多電子系電池” を中心に開発しています。電気のもととなるのが “電子” ですが、電池内でやりとりできる電子が多いのがこの多電子系電池の特徴です。原理的に、これまでよりたくさんの電気を貯めたり放出したりできます。」
――電気をたくさん貯められれば、充電が長持ちするようになりますし、同じパワーでもより軽い電池ができますね!
「そのような電池は “エネルギー密度が高い” といいます。具体的には、プラス極に有機分子、マイナス極にSi(シリコン)を使った電池を開発しています。」
さきほどみなさんに伝え忘れていましたが、電池の性能はプラス極とマイナス極にどんな材料を使うかに大きく左右されます。材料を決めるうえで重要なのが、最初に説明した分子の機能で、特に「電気を貯める・電気を出す」という機能に注目します。
佐藤先生の開発された多電子系電池では、たくさんの電気を貯めたり出したりできる分子が材料に使われているということですね。
――最近よい電池ができたとおうかがいしたのですが……
「オリジナルの次世代電池がこれです!」
「例えば、橋などのインフラを検査するためのドローンに載せることを想定しているのですが、その際は写真(下)のように数個をまとめて電池パックにして載せます。この高エネルギーな電池を使うことで飛行時間を長くすることができ、検査時間を現在の約5倍確保できると見込んでいます。」
――高エネルギーな電池を開発することで、さまざまなことが可能になりそうですね
「はい。先ほどのインフラ検査用ドローンの他にも、無人飛行機型の携帯基地局(HAPS)や、空飛ぶクルマ(eVTOL)への応用も視野にいれています。このような飛行物への応用には、軽くてかつ安全な電池が求められるので、先ほどご紹介した有機分子とシリコンの組み合わせは、条件にぴったりです。」
軽くてパワフル、かつ安全な電池は、私たちの未来の暮らしを変える力をもっているのかもしれませんね。
――今後どのような方向に技術を活かしていきたいですか?
「そのアイディアを絶賛募集中です!広く世の中にわれわれの技術を提供すべく、最近ORLIB株式会社というスタートアップベンチャーを設立しました。電池の材料や製法などの技術はいろいろな用途にカスタマイズ可能なので、こんな場所でこんな電池があったらいいな、こんな材料を電池にしたらどうでしょう、などのアイディアをどんどんぶつけてほしいです。」
みなさんが新しい電池を開発するとしたら、どんなデザインでどんな場所で使いますか?
そのアイディアは近い将来、みなさんの暮らしの当たり前を変えていくかもしれませんね。
新しい価値を目指して
――最後に、ずばり佐藤先生にとって二次電池とは?
「二次電池とは、と言われてもあれなんですが~(笑)……でもやはり、エネルギーに対する人々の要求に、とどまるところはないですよね。」
――確かに、携帯電話はもっと軽い方がいい、パソコンの充電が長持ちしない……今あるものに、全員は満足しないですよね。
「そうなんです。技術はどんどん進化して、新しいものはすぐに古くなっていきます。だからこそ我々は、常に上をみていかなければなりません。単に安いものをつくるというだけでなく、新しい価値をつくることを目的に、次世代を担う技術を開発しています。」
佐藤先生は、日本の電池産業を世界で唯一無二にする! という熱い思いをもって日々研究にとりくまれています。
分子を軸に新しい物質、そして新しい価値を生み出し続ける二次元物質プロジェクトの研究者と一緒に、未来の暮らしをちょっとよくするアイディアを一緒に考えてみませんか?