ノーベル賞の楽しみ方を科学コミュニケーターに聞いてみた―物理学賞チーム編

本日はノーベル賞2日目!物理学賞の発表です。
「ノーベル賞、しかも物理だなんて、難しそう…」という方も多いのではないでしょうか。

日々、研究の面白さを追求する日本科学未来館の科学コミュニケーターたちは、ノーベル賞をどのように見ているのでしょうか。この記事では科学コミュニケーターへのインタビューを通してノーベル賞の楽しみ方を紹介します。

インタビューブログ三部作、第二弾。
物理学賞チームの3名です。

とんでもない発見をする研究者には、いったい何が見えているのか
科学コミュニケーター・太田 努(おおた つとむ)

「原子の気持ちを考えるのが好きでした。原子や分子がこういう状態になったら気持ちよさそうだなぁ、みたいに」

太田さんの専門は物理化学。特に、原子の小さな塊、「クラスター」の特徴について研究していました。例えば、純金はとても安定した物質です。長い年月が経ってもほぼ錆びることはありません。一方、原子が10個ほどの非常に小さい塊の場合、触媒として反応に積極的に関わります。さらに、金原子の個数や結合の様子が少しでも変わると、全体としてのふるまいがガラッと変わるのです。原子の気持ちを考えてしまう太田さんにとって、とても魅力的な世界でした。

研究材料の1つとして使っていたフラーレンの分子模型と太田さん

今年の物理学賞チームのテーマは「レーザー」。実は太田さん、研究の中でレーザーを使っていました。

「もっと単純な技術だと思っていました」

その開発はたくさんの偉大な発明に支えられていたことは知らなかったと言います。開発の基礎となった理論は、かの有名なアインシュタインが提案したものでもあります。

ごく簡単に言うと、レーザーは同じ波長の光を重ね合わせ、1本の強い光を作る技術です。しかし、微妙に異なるパターンの波が必ずと言っていいほど混ざります。これでは使い勝手が悪いじゃないか、と太田さんは思いました。

ここで出てきた逆転の発想が、2005年にノーベル物理学賞を受賞した光周波数コムという技術。ここでは詳しい説明は省きますが、この微妙に異なるパターンの波を逆に利用して生まれた技術となります。太田さんはこの発想に対し、「どうしてそんなこと思いつくのだろう…」と、ものすごく驚いたと言います。

「発明された技術を後から理解することはできます。ですが、『きっと見つかるはずだ』と信じてゼロの状態から掘り下げるのは…、本当にすごいです」

原子に愛情を注ぐ太田さん、私から見れば生粋の学者肌を持っているようにも見えます。ですが、そんな太田さんすら「これは適わない」とうならせる研究者たち。世界観を変えてしまうような発見をする研究者にはいったい何が見えているのでしょうか。ノーベル賞イベントではぜひ、第一発見者の気持ちもぜひ想像してみてください。

※フェムト秒レーザーについて詳しく知りたい方は、物理学賞チームのブログへ!

研究の道、迷わず行けよ、行けばわかるさ!
科学コミュニケーター・片平 圭貴(かたひら よしたか)

「どんなに知らない分野でも、突っ込んでいけば必ず面白いことは見つかる」

ノーベル物理学賞のチームリーダーを務める片平さんはこのように話します。物理学賞チームのテーマに「レーザー」を選んだのも、「過去のノーベル賞でよく見かけたから」というシンプルな理由でした。どんなテーマでも面白さを見つけてみせる、その姿勢とスキルはいつ身についたものなのでしょうか。

現在のノーベル賞チームで最も経験年数が長い大ベテランの片平さん

片平さんの専門は熱化学。具体的には、鉄の不純物を取り除くための化学反応について研究していました。

「今もまだ、長い鉄器時代の中で過ごしています。私たち鉄を扱う研究者がその時代を作っています!」

石器時代、青銅器時代、その次が鉄器時代です。私たちの生活に欠かせない鉄は長い歴史をもちます。

「身近な建物や車に使われる鉄の特徴も何となく想像できます」

同じ鉄でも、鉄以外に含まれる成分の種類や量によって特徴が変わります。鉄を使用する製品ごとに最適なバランスを考えて調整します。逆に、鉄製品の成分を知ることで、それが作られた当時の技術力を想像することもできるそうです。
例えば、映画「タイタニック」のワンシーン、タイタニック号が折れる様子を見て、「あぁ、硫黄が多めに含まれていた昔のもろい鉄なんだな」と想像するのだとか。鉄の魅力にどっぷりとつかっている様子が伝わってきます。

ここまでの鉄愛、小さいころからハマっていたかと思いきや、「大学の研究室配属先を選ぶときに、行けそうなところに行った」とのこと。その話しぶりは、今年の物理学賞チームのテーマに「レーザー」を選んだときと似ていました。

「どんな不思議な出来事でも、こんな仕組みがあるよ、というのを説明できる瞬間がおもしろいです。まだ解明されていない出来事でも、過去に積み重ねられた研究を駆使して理論を作っていく様子も面白いです」

研究の世界、怖がらずにまず飛び込む、というのが楽しむコツの1つです。

また、ノーベル賞においては審査員になった気持ちで見るのも面白いと言います。ノーベル賞には、発表されてすぐに価値が認められるものと、長い時間を経てそのすごさが明るみに出るものの2つがあります。

「特に、発表されて長い時間が経ってから受賞が決まる研究は、言ってみれば『あなたの研究、すごいこと理解できてなかった、すまん』という気持ちで与えられるものだなと思います。」

もし、その価値が認められないままになっている研究があれば、「その研究、賞とってくれ!」と、審査員の一人になった気持ちでノーベル賞を見てみてはいかがでしょうか。

ミクロな世界とマクロな世界はつながっている!当たり前の裏側を実感しよう
科学コミュニケーター・上田 羊介(うえだ ようすけ)

私たちの周りで起こる身近な現象は、ミクロな視点で深く知れば知るほど、目に見えない、実感しづらい世界にたどり着きます。ノーベル賞は基礎的な研究が多く、ミクロの世界の話が多く登場します。こうした中、どう楽しむと良いのでしょうか。

「ミクロの世界で起こっていることは、感覚的に理解できるマクロの世界と確実につながっています。そして、つながっている、ということを体感した瞬間、認めざるを得なくなります」

手作り分光器でいろんな光を見てみました(※分光器の設計図は以下リンクを参照)

上田さんの専門は景観生態学。具体的には獣害対策に関する研究を行っていました。人里に出てくるニホンザルがどういった行動を取るのか観察したり、地域住民に聞き取り調査を行ったりと、まさに五感をフルに活用したマクロの世界の研究でした。ミクロかマクロか、という視点でいえば、ノーベル物理学賞で扱う内容とは正反対の世界とも言えるでしょう。しかし、上田さんはリサーチに苦労しながらも、チームでの活動は楽しいと話します。

「花粉症の話を思い出しました」と、上田さん。高校生のころのある日、花粉症でくしゃみをした瞬間、授業で習った花粉とアレルギー反応の話がつながったそうです。

「花粉症はつらいのですが、そのときだけはワクワクが止まりませんでした」

ミクロの世界の現象が、自分の体の中で確かに起こっているんだと衝撃を受けたと言います。

「ミクロの世界とマクロの世界の繋がりを感じると世界が広がりますし、誰かに自慢したくなります。どうやって繋がりを感じてもらうか、まだ手探りの部分はありますが、皆さまの世界が少しでも広がるよう、がんばります!」

ミクロの世界で起こっていることは、マクロの世界に必ずつながっています。日常的で当たり前の現象の裏で、何が起こっているのでしょうか。科学がわかると世界がかわる、この面白さを、ノーベル賞を通してお届けします!

おわりに

いかがでしたでしょうか。私にとって、物理というと難しいイメージが先立つ分野でした。しかし、私たちにとって当たり前な現象の仕組みを説明してしまえる面白さは物理学ならでは、と感じました。まずは飛び込んでみる、この感覚で物理学賞を楽しんでいきましょう!

なお、物理学賞チームのリサーチ内容や、2014年物理学賞を受賞した天野浩先生へのインタビュー記事を片平さんがブログでまとめています。ぜひこちらもご覧になってください。

明日はいよいよ最終日!
第三弾も乞うご期待!

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