12/21トークセッション・イベント報告

誰しもに訪れる「最期のとき」にむけて ~今、わたしたちにできること~(後編)

前編に引き続き、20191221日に開催したトークセッション「人生の最期にあなたは何を望みますか?~後悔しないための意思表明~」のイベント報告ブログ(後編)をお届けします。

イベント詳細はこちら
https://www.miraikan.jst.go.jp/event/1912211425266.html

イベント報告ブログ(前編)はこちら
https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20201015post-381.html

   

ご登壇いただいたのは、国立長寿医療研究センターの地域医療連携室長で緩和ケア医でもある医師の西川満則さんと、居宅介護支援事業所・快護相談所「和び咲び」の副所長で介護支援専門員の大城京子さんです。

   

後編では、ディスカッションと質疑応答の内容を紹介いたします。

まずは毛利から3つ、登壇者のお二人に質問をさせていただきました。

   

Q1:本日は科学館でのイベントですので、科学・医療技術の進歩はACPに貢献するのかしないのか、お聞かせ下さい。

A1(西川さん):内容によると思います。発展・複雑化する医療技術により選択肢が増えることで、迷いが生じ決断が難しくなる場合があります。また、よくあることとして、ある程度の効果が見込まれる医療行為については、「機器につながれたくない」「家族と一緒に過ごしたい」など本人の思いと対立する場合に、その意思決定に迷いが生じます。その一方で、SNSなどの情報通信技術(ICT)を活用することで、本人の想いを周りがくみ取りやすくなる場合もあります。

A1(大城さん):私たちの事業所では、セキュリティーやプライバシーの問題に配慮しつつ、ICTを利用しています。主治医を含めたチームで、患者さんの情報、例えば、写真であったり家族とお話した内容であったりを共有し、よりよい医療・介護につなげていくことを目指しています。

   

Q2:周囲の人がACPを実践しようとする場合、私たちはどのように関わっていったらよいでしょうか。

A2(西川さん): なかなか難しい問題だけれども多分回答はシンプル。その人の思いを「聴く」ということです。だけど意外に本人は思いを語ってくれませんので、信頼関係を築いてそばにいるということが大事かもしれません。医療・介護職は特にそうですが、本人のプライバシーに配慮するということも大事です。

A2(大城さん):良かれと思ってアドバイスなどをしてあげたくなるけれども、それは当事者にとっては結構無用で、ただ思いを吐き出したいだけの場合もあります。正論はときに相手を傷つけてしまうので、本人の思いに共感して聴くことが大事だと思います。

   

Q3:本人の意思を医療・介護へ反映させるためにはどうしたらよいでしょうか。

A3(西川さん):家族や周囲が本人の思いを汲み取ることができたとして、それを医療へ反映させるためには、口頭、電話、手紙などで汲み取った思いを医療・介護職の方にきちんと伝えるのが基本だと思います。これからはICTを活用することもあるでしょう。

A3(大城さん):伝えた上でどう反映させるかについて、私の専門の介護の面からお伝えします。最期のときを迎える前には家庭で介護を受ける段階がありますが、どんな環境・状態で最期のときを迎えたいのかを、そのときから話しておくことが大事です。例えば、意思表示ができなくなったとしても口にリップクリームを塗って身だしなみを整えてほしい、お酒は飲めないだろうけれども見えるところに置いていてほしいなど。その方の日常生活に近い状態を作り出し、本人の価値観・その人らしさを尊重してあげることが、人生の最終段階での支えになってくると思います。

    

続いては、参加者に付せんに質問を記入してもらい、会場全体で共有しました。

質問の一つ一つが長文で、みなさんの熱意が伝わってきました!

人生の最終段階における医療・介護やACPの実践について、当事者・家族・社会の一員としての目線で、さまざまな質問が寄せられました。ここでは、その中からいくつかをピックアップしてご紹介します。

   

Q4:ACPに消極的な医療従事者はいますか。それはなぜでしょうか。

A4(西川さん):医療関係者の中には、ACPに消極的に方もいます。理由の一つに、ACPは医療行為を差し控えることだと誤解されていることがあります。医療者は基本的に医療行為をすることが自分の使命だと思っているため、消極的にとらえてしまうのだと思います。病院あるあるですね。現在、医療現場でもACPの研修をしており、普及はまだまだこれからです。正直なところ、現在、医療・介護職にこちらの意思を伝えてもそれが反映されない場合は多いかもしれません。ただ、何年か後には違うと思います。そうなるよう、病院や地域をよくしていかなければいけないなと思います。

   

Q5:胃ろうの選択が、一番大きな決断としてよくあることなのですか?

A5(西川さん):一般的に、口からものが食べられなくなるというのは多く起こることなので、胃ろうの選択はよく話題に上ります。他に命にかかわる選択としては、自力で呼吸ができなくなったときに人工呼吸器を取り付けるかどうかや、尿が出なくなったときに透析するかどうかも、よくある話題となります。

   

Q6:いったん延命治療を選択したら、もう変えられないと聞いたのですが…

A6(西川さん):それは世の中にある一番大きな誤解です。その後自分の意思が変われば、止めることができます。

   

Q7: 社会規範から外れる選択を、本人が望むときどうしますか。

A7(西川さん): これはとても重要なことなので、ぜひ答えておきたいと思います。本人がこうしたいって言っても、それが社会的規範から外れるとか、医療上それはさすがにできないといった場合は、必ずしも本人が選んだことが尊重されるわけではありません。ACPをすることでわかった本人の意思を大切にしたいとは思うけれども、「してほしいこと」に関して、全部が全部、希望が叶えられるわけではありません。逆に、医療・介護職がやった方がいいと思う医療行為であっても、本人の意思が伴わなければ無理強いはできません。

実際の医療現場での経験を語る西川さん。

お答えできていない質問もまだまだあったのですが、時間の都合上、トークセッションは泣く泣くクロージングへ。私からは、「一人一人の価値観や思いは違います、だから、大切な人達といろいろ話してみませんか?」というメッセージをお伝えしつつ、最後に、西川さんと大城さんから一言ずついただきました。

   

大城さん:みなさんからいただいた質問の中には、「人数が限られている専門職の人達でACPをやれるのか」、「ACPをやるときどこが窓口になってくれるのか」などがありましたが、人生会議っていうのは専門職がかかわらないと始められないものではありません。もっと身近で、まずは友達や家族などの大切な人に自分の思いを伝えていく、語り合えるフラットな関係を作っていく過程だと思っています。そして医療・介護職に伝えるタイミングが来たら、それまでの話し合いの内容を伝えられればよいのではと思います。

   

西川さん: 今日の最初のアンケートで、きっかけがないからACPができないという話がありましたが、今日のトークセッションは、本当にいいきっかけになると思います。間違いなくみなさんは、自分の頭の中で自分だったらこうしたいかな、といっぱい考えたと思うんですね。次にやることは、自分の家族や親しい人に今日のトークセッションについて話してみて、自分はこう思ったんだけどあなたはどう思うかと問いかけてみることじゃないかと思います。ぜひ、一緒に考えてみませんか。

   

最後には、参加者のみなさんが今の気持ちを書き留めておくヒントになればということで、登壇者の方々に作成していただいた「勝手に人生会議ポスター」を紹介しました。

西川さんと大城さんの地元・愛知では、お二人の仲間であるケアマネージャー・大河内章三さんが、地域ぐるみで「勝手に人生会議ポスター」を作成し、メディアにも取り上げられたそうです。

記憶にある方もいらっしゃるかもしれませんが、人生会議の普及のために、201911月に厚生労働省がポスターを作成しました。後にそのポスターをアレンジした「勝手に人生会議ポスター(※)」がSNS上に次々とアップされ、一人一人の気持ちや価値観が伝わるとして話題になりました(気になる方は「勝手に人生会議ポスター」で検索してみてください)。大城さんの周囲でも、ケアマネージャーの大河内章三さんらが火付け役になりポスターが作成されていたことから、今回のイベントで紹介させていただきました。

※「勝手に」とは銘打っていますが、厚生労働省は、「どのような団体や個人においても人生会議に関するポスター等にロゴマークを使用することができる」と定めています。

  

内容が気になる!という方のために、ポスターのアップの写真も載せておきますね。

執筆者である私のものも含め、三者三様。それぞれの立場での思いを込めて、ポスターを作成しました!

イベント終了後のアンケートでは、「自分にはまだ遠いことと思っていましたが、いいきっかけになりました」、「大切な人達といろいろお話をしていきたい」、「よく考えた結果であれば納得もできるような気がするので、時間がある限り考え続けるべきだと感じました」など、さまざまな感想をいただきました。また、トークセッション終了後には、熱心に登壇者に質問したり、質問が貼ってあるホワイトボードの前で話し込んだりする参加者の姿がありました。

   

ここまで読んでいただいたみなさんは、どのように感じましたか。現在の社会状況では、人と気軽に会って話すのは難しいかもしれませんが、「大切な人とつながりたい」その気持ちがあれば、つながるための手段は、インターネット、電話、手紙などいろいろあります。

ACPは一生にわたって続いていくものだと思います。このブログを読んで、大切な人の顔を思い浮かべたり、電話をかけてみようと思ったり、自分に何かできることはないかと考えてみたり、医療や介護について調べてみようと思ったりなど、みなさんが少しでもACPに関心を持ってしてくれたとしたら、とてもうれしく思います。

参考サイト

1.厚生労働省(「人生会議」してみませんか)

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_02783.html

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