突然ですが、みなさんにクイズです。下の写真の食品には、ある共通点があります。それが何だかわかりますか?ヒントは、写真の中にあるので、よーく眺めてみてください。
答えは、のちほど…。
自宅にいながら90分間の宇宙体験
1月某日、またもや宇宙に行ってきました!旅行会社が企画する“自宅にいながら”のオンライン宇宙旅行です。山崎直子宇宙飛行士や民間宇宙機製造会社の社長、そして宇宙食の開発者らとともに、「観て、聞いて、食べて、香って、動く」という五感を使って宇宙を楽しむというものです。今回はその中でも、特に印象的だったものをご紹介したいと思います。ぜひ、一緒に宇宙旅行に行っているような気分でお楽しみください。
昨年、科学コミュニケーター中島が宇宙に行ったブログはこちら↓
https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20210114content-15.html
教えて、山崎飛行士!
2010年スペースシャトル ディスカバリー号に搭乗し、15日間の宇宙飛行を行った山崎飛行士のお話からご紹介します。山崎飛行士は、国際宇宙ステーション(ISS)で長期滞在中だった野口聡一飛行士らと合流し、さまざまなミッションに挑戦しました。ISSに入室した時のことについて、「人が滞在しているので、人や食べ物などのいろんなニオイがたまっていて、締め切った部室のようでした」と話します。さらに、「宇宙では浮いて漂っているホコリのせいで、くしゃみをしたこともありました。地球に帰還して外に出た時にそよ風やいろんな香りを感じ、地上の景色や香りの美しさ、空気の美味しさのありがたさに改めて気づかされました」と、当時のことを懐かしそうに思い出しながら語ってくださいました。病気をした時に健康であることのありがたさに気づくように、地上の生活のありがたさは、なかなか気づけないものです。お話を聞いて、自宅の窓から見える緑や青空などの風景が、普段とは少し変わって見えました。なお、ISS内のニオイは今では改善しているとのことです。
宇宙話は続きます。微小重力環境の宇宙滞在について、「楽しかったですし、どことなく懐かしさを感じました。体が浮いている感覚は、胎内にいた時の記憶を思い出すのでしょうか。また、私たちの体は宇宙のかけらでできているので、宇宙に行くというのは故郷を訪れるような感覚でした」といいます。その感覚はなかなか想像がつきませんね。さらに、宇宙に行ってから考え方は変わった?という質問に対して、「宇宙に行く前は、宇宙は憧れであり特別な場所でした。しかし、宇宙に行き地球を見てみると、地球こそが憧れの場所だったのだと気づいたのです」と山崎飛行士は話します。宇宙から撮影した写真や動画などで地球の姿を見ることはできますが、やはり宇宙に行って自分の目で地球を俯瞰して見て、心で地球を感じてみたいものですね。
ランチタイム
お昼に出発した宇宙旅行。そろそろお腹が空いてきました。…ということで、旅行の楽しみの1つであるご飯の時間です!宇宙旅行なので、もちろん食べるのは宇宙食です。特典付プランを選んだ旅行者は、あらかじめ届けられた宇宙食をそれぞれの開発者のお話を聞きながら食べることができます。ランチメニューはこちら!
チョコクリーム味の「缶入りパン」に「サバの缶詰」、そして「お水」というドリンク付きです。では、食レポと共に、開発者のお話をお届けしましょう。
同じツアーに参加したほかの旅行者の皆さんと、画面越しにいただきます!
まずはお水を一口。これは、鹿児島県の種子島で汲んだお水を、宇宙に持って行くために不純物を取り除くなどの加工を加えたものです。雑味がなく、すっと体に溶け込むようで美味しい!このお水は、補給船によって何度もISSに届けられました。宇宙では特に水は貴重なので、宇宙飛行士たちは地球から届くお水を心待ちにしているのだそう。
次は、主食のパン。缶の中にギュッと詰められていたとは思えないほど、ふわっふわの食感!味もとても美味しく、手が止まりません。この「パン・アキモト」の缶入りソフトパンは、2009年若田光一宇宙飛行士とともに宇宙へ向かい、食べられたものです。実はこのパン、もともと宇宙食用に開発されたわけではありません。さかのぼること、26年前の阪神淡路大震災。パンで支援がしたいと栃木県から約2000個のパンを被災地に届けるも、パンは長持ちせず大半が破棄されてしまったと、担当の秋元さんはいいます。そんな中、被災されたおばあちゃんの「歯が悪いから、乾パンは食べられない。こういう時こそ、保存性があって柔らかい美味しいパンが食べたい、作ってほしい」という希望を受け、缶入りパンの製作をスタートさせたそうです。防災非常食としてだけでなく、宇宙でも大活躍したパンの缶詰め。開発秘話を伺うと、美味しさがより一層増し、気づけばペロリです。
最後は、福井県立若狭高等学校の高校生が開発した「サバ醤油味付け缶詰」。14年前に開発がスタートし、代々後輩へと研究が引き継がれ、2018年に宇宙日本食として認定されました。これまで300名以上の生徒たちが関わって作り上げたサバ缶は、2020年に野口飛行士とともにISSへ届けられました。野口飛行士は自身のYouTubeで、「お魚に醤油がしっかりしみていて、美味しい!」と大絶賛。期待をふくらませ、さっそく一口。…めっちゃ美味しい…!とても柔らかいサバは、何口食べても飽きのこない味で、福井県出身の私はなんだか懐かしい気持ちにもなりました。「宇宙空間でも家庭の味の温かみを感じてもらいたい」と語る生徒さんたちは、今後もさらなる改善に向けて研究を進めるとのこと。これからの挑戦を、陰ながら応援したいですね。
食後は適度な・・・
ランチの後は、運動の時間です。山崎飛行士も宇宙で使用したというフィットネスチューブを使った簡単なストレッチを行いました。ツアー中に運動というのは、なかなかない展開です。宇宙では、歩かずに移動ができるため、足の筋肉が1日1%ずつ減ってしまうのだそうです。それを防ぐためにも、ISSでは1日2時間以上の筋力トレーニングが課されています。宇宙飛行士は、ISS内にある専用のトレーニングマシンを使いますが、今回は持ち運び可能なゴムを使ってプチストレッチ運動というわけです。じっとパソコンの前で座って旅行していたので、とてもよいリフレッシュにもなりました。
そうこうしているうちに、90分間の宇宙旅行は終了です。「ISSはちょうど90分で地球の周りを1周するので、この旅行中にISSが1周したということですね」とにこやかにまとめた山崎飛行士に、私は一人自宅で拍手しました。
共通点の答え合わせ
オンライン宇宙旅行を終え、宇宙とつながりたい欲にあふれた私は近くのスーパーへと向かいました。そこでゲットしたのが、記事の冒頭で紹介した食品たち。さて、ここでクイズの答え合わせをしましょう。それらの食品の共通点とは、一体何なのか。
それは、「宇宙食として認証されている食品である」ということです。やきとりの缶詰をよく見てみると、宇宙日本食のマークがついています。
宇宙食と聞くと、宇宙専用に作られた特別な食べ物、というイメージを持っている方もいると思います。もちろん、宇宙食の認証を受けるには、長期保存が可能であること、衛生性が高いこと、船内の電気系や空気清浄度への障害を引き起こさないように食品の飛散防止や特異な臭いを発さないことなどの条件を満たす必要があります。しかし実は、普段私たちがスーパーで見かけている食品の中には、そのままの状態、または味や形状に工夫を施し宇宙食としてISSに運ばれているものもあるのです。冒頭の写真で紹介したものは、その一部ということです。
現在、46品目が宇宙日本食として認証され、最近では「名古屋コーチン味噌煮」が新たに加わりました。その“名古屋めし”は、2021年の春頃にISS長期滞在予定の星出彰彦宇宙飛行士に提供される見通しです。星出飛行士の食レポも楽しみですね。
皆さんが今日食べたもの、もしくはこれから食べようとしているものは、ひょっとすると野口飛行士がISSで今食べているものかもしれません。宇宙ではどんな風に食べるのか、宇宙食になるためにはどんな工夫が必要になりそうか、など宇宙での食事風景を想像してみると、普段の食事がちょっと楽しくなるかもしれませんね。
今後も、宇宙日本食の数はますます増えていくことでしょう。いつか手軽に宇宙旅行に行けるようになった時、みなさんは宇宙でどんなものを食べてみたいでしょうか?(…私はトロトロオムライスと決めています。)
おまけ
未来館の1階にあるMiraikan Shopでもいくつかの宇宙食を扱っています。お店の方のお話によると、おにぎりとカレーが人気で、カレーはご飯と一緒に買われる方も多いそうです。来館の際には寄ってみてくださいね。