リアル脱出ゲーム×日本科学未来館『人類滅亡からの脱出』紹介ブログ

リアル脱出ゲームで「科学を伝える」!?~科学コミュニケーターも体験してみた!

皆さん、リアル脱出ゲーム「人類滅亡からの脱出」はもう体験しましたか?株式会社SCRAPと未来館がタッグを組んで制作した、このイベント。202012月から20212月までの開催でした。「知らなかった…」「外出を控えているうちに終わってしまった…」という方へ、大丈夫!2021年4月10日からの追加開催が決まっています。スケジュールなどはぜひこちらのサイト(https://realdgame.jp/miraikan2020/)でご確認ください。

※外部サイトにリンクしています。

ちょっとだけ内容をご説明すると…このリアル脱出ゲームでは、参加者は新米の市長となり、災害から市民を守り抜くために、謎を解きながら脱出成功(クリア)を目指します。「科学館でリアル脱出ゲーム!?」と意外に思うかもしれませんね。しかし実はこの企画には、「参加者が防災を身近に感じ、自ら行動できるようになってもらいたい」という目的があります。謎を解いたりヒントを集めたりするうちに、楽しみながら科学的知見にもとづく知識が自然と身に付くようになっているんです。皆さんに体験してもらいたいことを、企画チームの科学コミュニケーター園山がブログ記事にしておりますので、ご興味があればぜひどうぞ。

今回は「人類滅亡からの脱出」の紹介ブログ第2弾、このゲームを初めて、つまり一般来館者と同じ立場で体験した未来館の科学コミュニケーターに語ってもらいました。

彼らは、リアル脱出ゲームを「科学を伝え、考えるための手法」として考えたとき、どんな特徴や可能性があるのか、という視点で話してくれました。「どんなゲームなんだろう?」「どんなことが体験できるんだろう?」とイメージが湧かない方にもきっと参考になるはずです。

リアル脱出ゲームならではの良さって?

綾塚「このリアル脱出ゲームでは、5階の常設展示『100億人でサバイバル』で登場する水害、地震、感染症などの災害がいっぺんに来た感じで、ボリュームがあります。一つ一つの災害に対する知識も順を追って説明されていました」
三澤「(それに加えて)災害に備えるケースと実際に災害が起こったときのケース、それぞれを体験できるようになっていました。また、被災者個人、為政者としての市長、といったように複数の視点から体験できます

綾塚がふれている「100億人でサバイバル」も災害をテーマにしたもの。リアル脱出ゲーム同様、災害の被害を減らすため個人や社会に何ができるか、科学技術をどう使うか、を考えてもらう展示になっています。また、人間の営みや大気循環などといった地球規模のシステムと災害との関係を理解してもらうため、複数の災害が発生し、被害が生じる様子をジオラマで再現しています。これらを俯瞰的に知ることのできる「100億人でサバイバル」に対し、今回の「人類滅亡からの脱出」は行動を決める主体(被災者となる市民、対策をする市長)によりフォーカスしているかたちだと言えます。

「100億人でサバイバル」のジオラマ

さらに、自分で謎を解いて進むリアル脱出ゲームという手法は、参加者に「災害をいま、自分の身に起こったもの」と感じてもらいやすくなりそうだ、とのコメントも。

綾塚「没入感があるのがリアル脱出ゲームならではの良さではないでしょうか。参加者が人に任せず自らで考えざるを得なくなるのが没入できる理由だと思います」

清水「『今ここで災害が起こったら』と考えてもらうのは難しいこともあります。でも参加者が主人公になるリアル脱出ゲームなら、それをイメージしやすくなるのでは」

自分から学びたくなる!

イベントとしてのつくりの違いを別の観点から掘り下げたコメントもありました。

片平「イベントの一つの作り方として、参加者に課題となるトピックについて知ってもらったあと、それを踏まえて話し合い、出た意見をイラストなどにまとめて発表する、という順番にすることがあります。リアル脱出ゲームはその逆で、先に『謎』という形で課題が参加者に投げかけられ、自分から情報を取りに行ってもらうようなスタイルですよね」

たとえば、未来館で行っているロボットに関する実験教室では、まず筋肉の部位や動くしくみについて学んだ後、その知識をもとにロボットを動かしてもらいます。リアル脱出ゲームのつくりをそれで例えると、先にロボットを動かしてみよう!と課題を出してから、自由に材料を集めたり筋肉の部位を学んでもらう、そんな感じでしょうか。

リアル脱出ゲームの課題=謎は、皆さんの「クリアしたい!そのためのヒントがほしい!」という想いをかき立てるはず。

イベント体験後の議論で盛り上がる科学コミュニケーターたち

みんなで防災について話す第一歩に!

三澤「リアル脱出ゲームって、一緒に来た人と協力することがありますよね。むずかしい謎を解くために情報交換をしたり、ふだん話さない防災について家族で話したりできる機会になりそう」

竹下「みんなで相談しながら進むのは楽しかったです。(新型コロナウイルスの感染対策が必要な)今の状況では難しいけれど、他の人と同じグループになって防災や科学について話すのもおもしろそう」

今回の「人類滅亡からの脱出」はひとりでも楽しんで頂けますが、「一緒に参加した人とコミュニケーションしやすくなる」という点に二人の科学コミュニケーターは着目しています。竹下の言うようにコロナ禍の状況では初対面の人とはなかなかお話しできないかもしれませんが、いつも顔を合わせている家族との会話が弾むことにもメリットがあります。

家族など周りの人々と前もってコミュニケーションを取っておくことは、災害時に協力して避難するには大事と言われているのです。国も、日ごろから家族防災会議をひらき、避難場所を決めておく・緊急地震速報が来たときの行動をあらかじめ考えてみる、などを薦めています。『人類滅亡からの脱出』を家族と一緒に解けば、ご自宅の中の防災を見直したり、一緒に考えたりするきっかけになることでしょう。

「楽しい!」のその先へ

清水「『人類滅亡からの脱出』では閉館時間までに脱出できればよく、時間制限がないので、自分のペースで楽しむことができます。体験の合間に常設展示を見に来られるようになっています

実は、「100億人でサバイバル」など常設展示内に仕掛けられた謎もあるんです!その謎を解きにぶらりと常設展示を訪れたら、ぜひ私たち科学コミュニケーターに話しかけてみて下さい。実際、クリア後に展示をご覧になっていたご家族と、災害時の実体験や、防災についての対話が生まれたこともありました。科学コミュニケーターは、皆さんがリアル脱出ゲームで得た体験と現実世界を結びつける手助けをいたします。

体験後へのフォローにはこんなアイデアも。

綾塚防災食を実際に試食してみるパーティーを開催してみるとか、災害時に役立つアイテムを日用品でつくってみるとか、そういうのはおうちでも楽しく防災について考える機会になりますね」

いかがでしたでしょうか。ゲームをクリアするだけでなく防災時の対策をしっかり学びたい、という方にもお得な工夫が散りばめられていることを少しでも感じて頂ければ幸いです。家に帰ってからお互い知らなかったことを話し合うもよし、防災食をご自分で買ってみて味わうもよし、ぜひお楽しみください。参加してみれば、きっと自分でも試してみたくなりますよ!

※リアル脱出ゲームは㈱SCRAPの商標登録です。

参考文献
内閣府・防災情報のページ(閲覧日:2021年3月15日)
http://www.bousai.go.jp/kohou/kouhoubousai/h23/66/special_01.html
安斎勇樹、塩瀬隆之「問いのデザイン 創造的対話のファシリテーション」(2020)

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