※本記事は昆虫の写真が出てきます。
こんにちは、科学コミュニケーターの増田です!
夏が近づき、虫たちが我こそ主役と言わんばかりの顔で原っぱにあふれる時期となりました。昆虫好きな私としてはうれしい季節です。
にぎやかな原っぱの昆虫たちの中でも、私たち人間とかかわりの深い昆虫を今日はご紹介しましょう。
その昆虫とは…
そう、テントウムシです!
原っぱで見つけて捕まえたことのある方も多いのではないでしょうか?私も虫捕り少年時代はよく捕まえました。高いところを目指して歩く性質があるので指にとまらせて、指の先まで歩かせてよく遊んだものです。
そんなテントウムシの仲間のなかでも、特にナミテントウと呼ばれる種類は私たち人間にとってありがたい特徴をもっています。その特徴とはいったいなんでしょうか?ナミテントウのプロフィールからお話していきましょう!
大食いハンター、ナミテントウ
ナミテントウは1センチメートルに満たない大きさのテントウムシの仲間。ナナホシテントウと同じく、日本ではごく普通に見られます。またナミテントウの特徴として、さまざまな模様があります。赤地に小さな黒い点がたくさんあるものや、黒地にいくつかの赤い点があるものなど、実に200種類以上の模様が知られています(この記事の最初と最後の写真も、模様は違いますがどちらもナミテントウ!)。
まずはナミテントウの人生をご紹介しましょう。卵からふ化してから幼虫として約10日を過ごし、約6日の蛹(さなぎ)期間を経て晴れて成虫、つまり大人のナミテントウとなります。成虫としては30~50日程度生きることができるとされています。
さあ、さきほどの私たち人間にとってもありがたい特徴とは、このナミテントウが大きくなっていく過程に必要なものに関係しているのですが…
なんでしょうか?
大ヒントはこちらの写真(※この写真はナナホシテントウの幼虫です)に隠されています。
お分かりですか?答えは「アブラムシを食べてくれる」でした!
実はアブラムシは作物を育てる農家さんにとっては頭を悩ませる存在。アブラムシは植物の汁を吸って栄養としている昆虫で、大量に発生すると作物の元気がなくなるだけでなく、ときには病気を媒介することもあるようです。
そんなアブラムシをいっぱい食べて大きくなるのがナミテントウ。幼虫のころからアブラムシを捕まえて食べることで生活しています。ナミテントウの成虫1頭で1日に100頭以上のアブラムシを食べることもあるのだとか!かわいい姿をしている割にかなり食いしん坊なんですねえ。
もちろんアブラムシたちにも悪意があるわけではありません。ですが、農業においては困り者のアブラムシ。それをたくさん食べてくれるナミテントウはとってもありがたい生きものなのです。
行かないで、ナミテントウ
さて、ナミテントウが何を食べて生活しているかわかったところですが、もっともっとナミテントウたちにアブラムシを食べてもらえたら、農家さんは助かると思いませんか?このナミテントウが畑に常駐してくれたら、もうアブラムシに困ることもなくなりそうですよね。
しかし、当然ナミテントウたちも人間のために生きているわけではありません。幼虫のころに畑につれてきても、はねのある成虫になると飛んでいなくなってしまうようです。
ナミテントウとは別のテントウムシでの実験ですが、印をつけたテントウムシを330万頭以上畑に放して再度捕まえる実験ではわずか15頭しか捕まえられなかったのだとか。
うーん、どうにか飛んでいかずにその場にいてくれないものなのでしょうか。
ああ、待って、行かないで、ナミテントウ…
飛ばないナミテントウ
どうしたら飛ばないようにできるのか?
はねを接着剤で固める、はねを切るといった方法がこれまで考えられてきたようですが、なんと最新現場では遺伝的に飛ばない性質をもつナミテントウ、つまり「飛ばないナミテントウ」が育成されているとのこと!
いやいや昆虫なんだから飛ばないなんてありえるの?と思ってしまいましたが、飛ぶ能力が低いナミテントウを選んで交配、その子供のなかで再び飛ぶ能力が低いナミテントウを選んで交配…この操作を繰り返すことで飛ばないナミテントウを育成することができるのだとか。
お米や野菜で品種改良が行われているお話はよく耳にしますが、昆虫の特性を改良するという試みは私も初耳で驚きです。
たしかに生まれつき飛ばないのであればはねに処置をする手間もかからないので楽になりそうです。
この飛ばないナミテントウ、すでにナスやイチゴなどの施設栽培(ビニールハウスや温室といった施設での栽培)では実用化されアブラムシの数を抑える効果が確認されているとのこと。まだ屋外での栽培では実用化されていませんが、将来、ナミテントウの力で日本中の農家さんの負担が減ったり、農薬を減らして環境負荷を減らせるようになるのかもしれません。
生きものとともに生きていく
身近にいるテントウムシの意外な活躍、いかがでしたでしょうか?
このように生きものや環境を知ることで、よりうまく環境と付き合って生きていけたら素敵だなあ、と私は思います。
そして最後にひとつだけ。
今日は害虫として扱ってしまったアブラムシも、悪者だからいなくなってしまえばいい!ということではありません。農業をする上ではときに私たちと対立しても、生態系のなかではアブラムシも必要な存在です。
テントウムシもアブラムシも人間も、ほかの生きものたちも、みんなでバランスよくせめぎ合いながら生きていきたいものですね!
【参考文献】
1)世古智一(2015)「天敵の育種 飛ばないテントウムシ」化学と生物 Vol.53, No.8, P542-546
2)世古智一, 三浦一芸(2013)「天敵の育種:飛翔能力を欠くテントウムシ系統の育成と品質管理」日本応用動物昆虫学会誌第57巻 第4号 P219-234
3)農研機構近畿中国四国農業研究センター「飛ばないナミテントウ利用技術マニュアル」
4)野田隆志(2003)「天敵育種の展望と課題」植物防疫 第57巻 第11号 P524-529
5)田中雅也(2012)「施設イチゴにおける「飛ばないナミテントウ」の特徴と利用法」植物防疫 第66巻 第10号 P568-572
6) Ferran, A.et al.(1996)The use of Harmonia axyridis larvae (Coleoptera: Coccinellidae) against Macrosiphum rosae(Hemiptera: Sternorrhyncha: Aphididae) on rose bushes. Eur. J.Entomol. 93:59.67.
7) Kieckhefer, R. W. et al.(1974)Dispersal of marked adult coccinellids from crops in South Dakota. J. Econ. Entomol. 67:52.54.
8) Teruyuki Niimi, (2018) Nature Research Ecology & Evolution Community: Behind the Paper “Wing colour prepattern gene in ladybird beetles”(https://natureecoevocommunity.nature.com/posts/39056-wing-colour-prepattern-gene-in-ladybird-beetles?channel_id=521-behind-the-paper)