わかんないよね新型コロナ ここで一緒に考えよう

ニコ生で放送! 8月21日の振り返り 臨床の現場から見えていたこと

 8月は夏真っただ中ということで、本来であれば夏休みに夏祭りと楽しい話題が多い月のはず。しかし残念なことに、新型コロナウイルスの新規感染状況は過去最多を連日更新し、前例のない急激な陽性者数の増加に見舞われる月となってしまいました。

 そんな激動の8月21日放送の「わかんないよね新型コロナ ここで一緒に考えよう」(ニコニコ生放送)の振り返りをいたします。

20211001_sano_01.jpg

20211001_sano_02.jpg

※放送日8/21時点での状況です。各流行の波の日付はだいたいの目安です。

 放送時点では流行第5波の真っ只中。

 「若年層の割合が多く、重症化率はこれまでより低い?」という声が聞こえていた一方で状況は変わり「医療が大変ひっ迫している」など、たくさんの情報にあふれていました。
 このころ、実際の現場で見えていた風景はなんだったのか。異なる形で臨床の現場に携わるお二人の先生に今回インタビューしました。

大曲先生インタビュー「入院現場から見えること」

 お一人目は、国立国際医療研究センター 国際感染症センター・センター長 大曲貴夫(おおまがり のりお)先生です。大曲先生は東京都モニタリング会議のメンバーとして俯瞰的に状況を把握しつつ、国際医療研究センターにおいて実際に重篤な患者さんを中心に現場を見ていらっしゃいます。

 今回の感染の波においては当初、重症者が少ないのではと言われていながら、数週間で過去最多の重症者数を更新しました。こうした状況の変化に関してお聞きしました。

20211001_sano_03.png

大曲先生「最初の段階で重症者が少ないんじゃないかという声が聞こえていたのは覚えています。
 理由は高齢者を中心にワクチン接種がかなり進んでいたので。これまでの流行では高齢者の重症者が多かったから、そう見られていたんだと思います。ただ実際には今問題となっている40代50代60代も重症にはなるんですよね。高齢者ほどはリスクは高くないですけど。分母となるコロナに罹患された方が多くなってしまうと、重症となる方の数は出てくるんです。今回の流行というのは途方もない大流行で、今の40代~60代の重症の方の数になってしまっている、ということだと(思います)」

 大曲先生はさらに、医療のひっ迫状況に関して、患者が多くベッドを占有している状況そのものが、重症患者を増やしてしまう要因になりうるということをおっしゃっていました。

大曲先生「今、東京を中心に医療が非常に厳しい状況にありますが、そうすると発症してから入院までの時間が延びてしまうんですよね。この病気は、重症の場合は発症から7日目以降に悪くなることが知られていますが、医療がひっ迫した状態では発症から7日を越えて入院ということが起こっているんです。入院での医療の開始が遅れている分、さらに重症者が増えてしまっている、ある意味悪循環が起こってしまっているということだと思います」

 第5波において、これまでの感染の波と大きく異なっていたのは、
・デルタ株の感染が拡大している。
・ワクチン接種が進んでいる。特に65歳以上で8割を超える(8/21時点)。
という点です。この2点についても大曲先生にインタビューしました。

 まずデルタ株について、特に重症者の増加に関係している可能性はあるかお聞きしました。
 放送時点ではデルタ株に関しての統計的な臨床像のデータはまだ十分になく、個々の患者さんの様子を見ての所感しか述べられないとのことでした。現状は人から人にうつりやすいという影響から、患者数が多いという影響の方を大きく感じていらっしゃるようでした。

 またワクチンについては、その効果をすごく感じているとのことでした。特に65歳以上の方の重症の方の数を考えると、優先的にワクチンが接種できている影響ではないかとおっしゃっていました。
 ただ一方で、絶対数が増えてくると、ワクチン未接種だったり、接種しても感染してしまう事例が一定数出てしまったりするということを心配しているとのことでした。


 大曲先生からは、他にも抗体カクテル療法の有効性とその治療システムの問題点についてもお聞きしました。
20211001_sano_04.jpg
 7月に認可され現場でも実施されている抗体カクテル療法に関しては、有効性がある結果が出ています。一方で誤解されがちな点として、悪くならないための薬であり、悪いのをよくする薬ではないから効果が見えにくいという面があります。
さらに放送日(8/21)時点のひっ迫状況だと、この治療法が有効である発症から7日間のうちに患者さんに届けるのが正直かなり厳しく、かなりうまくやらないといけない。この治療法を必要としている人にうまく届く仕組みを作る必要があるとのことでした。


 こういったさまざまな情報や状況をお聞きすることができましたが、大曲先生はそのとらえ方の難しさについて次のようにおっしゃっています。


大曲先生「僕は仕事ですから、物事のリスク予想をするときに悪いことから考えるようにしなければいけない立場です。今は起こっていないけれど、具体的な対策が立てられるぐらいまでリスクを想像してやっていくというのは簡単じゃないなと正直思いますね。ましてや専門ではない一般の方々はそうなんだろうと思います。すごい状況を想像するのはなかなか大変なんだろうなと。そこをどうするのかが今の僕の課題でもあるんです」

佐々木先生インタビュー「在宅医療の現場では」

 放送時点(8/21)では、東京都における新型コロナウイルス感染者のうち、宿泊療養1,807 人、自宅療養者22,226人、入院・療養等調整中12,349 人と、病院に入院されていない、あるいはできない患者さんが多くいらっしゃいました。

 お二人目のインタビューとして、首都圏を中心に在宅医療専門の総合診療に従事していらっしゃる専門医療法人社団悠翔会理事長・診療部長の佐々木淳先生に、新型コロナ感染者の在宅療養への対応についてお聞きしました。これほどの大流行になる前では、佐々木先生が診る在宅医療の患者さんはご高齢だったり治らない病気だったりして、病院で積極的な治療を受けるよりも住み慣れたご自宅で少しでも快適に過ごしたいと自ら在宅医療を選んだ方がほとんどでした。新型コロナで訪問医療を受けたいという患者さんとは、そもそも前提が異なります。

20211001_sano_05.png

佐々木先生「往診の依頼はたくさんきます。そのすべてに本当は往診で対応してあげたいけど、それをやっていると一人のお医者さんがみられる患者さんの数が限られてしまって、診察してもらえない人たちが出てきてしまいます。なので、普段だったら本当はひとりひとり時間をかけて丁寧にやってあげたいんですけど、今はより多くの人に必要十分というより必要最低限の医療を届けるということをモットーにして、診察もできるだけ簡素にできるだけ迅速にすませるように心がけています」

 普段から多くの在宅医療患者を抱える佐々木先生のクリニックでは、たくさんの新型コロナ自宅療養者への往診対応のため普段の診療フローを変えながら対応しているとのことでした。

佐々木先生「例えば、東京都内だけで20人の常勤医が仕事しているんですけど、その先生たちは普段朝の9時から夕方6時までびっしり患者さんを診てるんですね。その中でコロナの患者さんを診てくれといわれると、命の危険にさらされるのはやっぱりどっちかというとコロナの患者さんなので、我々の患者さんたちは臨時の依頼が入ったときには『ちょっとこっちの患者さん優先するので遅くなります』とか『日付変えさせてください』とか『今回は薬だけで診察はスキップさせてください』とか、という形で今の在宅医療の患者さんにある程度融通をきかせていただきながら、その隙間で(新型コロナ自宅療養者の)診療をしているということになります」

 コロナ禍の前から在宅医療を専門にしてきた佐々木先生のクリニックでは「基本的には一人で通院ができない、あるいは治らない病気や障害とともに生きている方が多いので、みなさん病気を治してくださいというよりは残された時間をよりよく生きたいということで在宅医療を使われている方が多い」ということですが、今新型コロナで自宅療養を余儀なくされている方々は若い方々が多く当然その対応も普段と異なるそうです。

佐々木先生「多くの方は今すぐにでも入院したいと思っています。中には実際救急車を呼びました、と。でも搬送先が見つからないと。救急隊が3,4時間探してくれたんだけど見つからない。だから救急車で病院に行くのはあきらめましょう。代わりに在宅医療の先生に来てもらいましょう、というときに僕たちが呼ばれるケースもけっこうあるんです。これは来てくれて安心したというよりはやっぱり病院に行けなかったというがっかりのほうが大きいんですけど、とはいえ救急車呼ぶぐらい苦しい人を何もしないでほっとくわけにはいきませんので、明日は病院に行けるかもしれないよという期待を込めて、今家でやれることをちゃんとやって明日まで少なくとも死なないように、としなきゃいけないですね。」

 そうした中で、在宅医療ではやれることが限られており、医者としてはつらい中で診療を続けられているということでした。在宅での人工呼吸器の使用や抗体カクテル療法など重症化を防ぐ治療法や薬はあるが、病院でしか使えず(放送日の8/21 時点)、はやく病院をあけるまたは、感染の母数を減らすしかないとおっしゃっていました。

 佐々木先生には最後に、新型コロナを機に注目が集まった在宅医療の未来についても語っていただきました。

佐々木先生「高齢者の場合は、健康な高齢者でも病気はたくさんありますし、通院が難しくなってくるとやっぱり健康管理が難しくなって救急車呼ぶ頻度が増えます。でも重症の人はそんなに多くなくて、中等症~軽症の人が多いんです。本当は誰かが診察してあげれば病院に行かなくても救急車呼ばなくてもいい人たちが、やっぱり自分では病院にいけないから救急車呼んじゃう。結果として救急車が足りなくなったり、みんな救急病院に運ばれちゃって救急病院がいっぱいになったりということが起こっているので。そういうことを考えて、超高齢社会に最適化した医療ということを考えると、外来と入院の間に、在宅医療が育っていかないといけないんじゃないかと思っています」

 さらに病院の診療とは異なる在宅医療における患者とのコミュニケーションについてもお聞きしました。

佐々木先生「本来の在宅医療は、病気を治してほしいということで患者さんは我々を呼ぶわけではありません。こういう病気こういう障害があるんだけれども、こういう暮らしがしたいんだよ、っていう希望をもって私たちを呼ぶんですよね。我々は患者さんのおうちにいって、患者さんがどういう人生を送ってきたのか、ここから先どういう人生を送りたいのかということをまずお聞きして、今の体の機能で患者さんの望みがどこまで叶えられるのか、それを叶えるためにはどんなリスクがあって、この患者さんや家族はどこまでのリスクを許容してもらえるか、とか、そういったことを探っていくんですよね」


「病院は医者のいるところで患者さんの治療をする、在宅は患者さんのおうちでその患者さんの人生観や価値観を害さないようにむしろそれを尊重しながら、医療はどうあるべきか、とむしろこっちを調整していく。だからコミュニケーションとしては、どちらかというと、対等というよりは、あなた(患者さん)の本当の気持ちを教えてほしい、あなたの本当の願いを聞きたい。それを聞いた上で我々から提案をしていきたい。という感じなので、だからあんまり偉そうなお医者さんだと、自分がこうしたいと患者さんが言えないんですよね。ぼくたち年齢的には中年ですけど、僕らが診ている患者さんは90歳や100歳の方も多いので、彼らから見ると息子や孫の世代に見えると。だから自分たちの子供や孫だと思って話をしてもらえるような関係がつくれるといいかなと思って取り組んでいます」

 今回、異なる診療方法で新型コロナの患者さんと向き合っているお二人の先生にインタビューしました。
 このインタビューを通して、改めて状況を把握することの難しさや、有効な治療法などを活かすためにもしくみづくりの重要性を感じました。
 私自身にとっても、新型コロナに限らない公衆衛生や医療のあり方・医療とのかかわり方を見直すよい機会になりました。

放送アーカイブ

 最後に今回の放送の話題をリストアップします。
 こちらをご参考にぜひ放送のアーカイブもご覧ください。

「わかんないよね新型コロナ 8月21日(土)放送内容」
https://live.nicovideo.jp/watch/lv333187269

02:55 新型コロナウイルスに関する日本の現状
06:35 視聴者の質問にお答え
06:50 質問「ワクチン接種対象は12歳以下にも広がる?」
10:40 質問「子供の感染後の後遺症は大人と違うの?」
14:45 質問「3回目接種は必要?副反応は?」
18:35 質問「他のタイプのワクチンも開発中なの?」
19:30「いま臨床現場で見えていること」大曲先生インタビュー
20:00 第5波における状況の変化について
26:25デルタ株の影響、医療体制の変化
30:40ワクチンの効果
37:40若年層の割合が増加した影響
41:55抗体カクテル療法の有効性
51:00後遺症について
54:50新型コロナウイルス患者分布
57:45 休憩コンテンツ「自動字幕透明パネルの紹介」
1:09:50「在宅医療の現場では」佐々木先生インタビュー
1:11:20新型コロナ患者への往診
1:18:30新型コロナ流行による在宅医療患者の年齢層の変化
1:28:30新規コロナ感染症が増加している状況と在宅医療の難しさ
1:34:05在宅医療の未来のビジョン
1:39:40現場ごとに異なる患者とのコミュニケーション

「医療・医学」の記事一覧