食の現場を探る

食卓の野菜、畑ではどんなすがた?現場に行って調べました。

2021年12月末、某ハンバーガーチェーンのポテトの販売が制限されるというニュースに衝撃を受けた人も多いのではないでしょうか。
私もそのひとりです。台風後にポテトチップスが姿を消したり、鳥インフルエンザが流行すると卵や卵製品が値上げしたり──。そんなとき、私は食事が自分のもとにやってくるまでを想像します。調理、加工、流通、生産。それぞれの現場では何が起きて、どんな風につながっているんだろう?
そこで、野菜の生産現場に実際に行って調べてきました!

東京から1時間ちょっと電車に揺られ神奈川県三浦市まで行ってきました。駅から少し行くと海を見渡せる台地にダイコンやキャベツの畑が広がっていました。今回は高梨農場を訪問し、農場を営む高梨雅人さんにお話を伺いました。

今回ご協力いただいた高梨雅人さん。後ろに広がるのが高梨さんの畑。2022年1月25日撮影

高梨さんの農業スタイル

高梨さんの畑は1.65ha100m×165mの四角と同じ広さです。畑では1年間を通して様々な種類の野菜を育てており、キャベツやダイコンといった種でいうと60種類にもなります。さらにダイコンの中でも三浦大根や青首大根といった品種でいえば150種類の野菜を育てている、珍しい畑です。

高梨農場の直売所には三浦大根はじめ、スーパーではなかなか見かけない野菜もずらりと並んでいました

高梨さんは農業を始めたころ、三浦半島の名産であるダイコンやキャベツを育てて市場に卸していたそうです。しかし途中で、祖父母の代のやり方にシフトしました。お得意さんの要望にそった野菜を作るようにしたのです。

「市場出荷をしていたころは、作った野菜に対してのリアクションはクレームが多かったけれど、直売ではネガティブな反応以外も返ってきます。直売所に来てくれるお客さんのことを考えると今日は野菜があるけど、明日は売れる野菜がないということがないようにしたいので、品種をどんどん増やして収穫期を広げるようになりました。あの人はこれが好きかな、これは嫌いかなとお客さんの顔を思い浮かべながら畑を管理しています」

高梨さんはお客さんの顔を想像しながら野菜を育てる。お客さんは直売所に並ぶ野菜がどこで誰が作ったか知った上で購入する。生産者と消費者が直接やりとりできる直売所だからこそ、高梨さんと直売所のお客さんとの関係が築かれているように感じました。

畑の多様性

三浦市のある三浦半島では比較的温暖な気候や水はけと水もちがともに優れた黒ボク土を生かしてキャベツやダイコンが盛んに育てられています。高梨さんの畑は三浦市の中では北にあり、南の農家さんからは寒い土地だと言われるそうです。同じ三浦半島の中でも土壌や気温の条件にはばらつきがあります。さらに言えば、自分の畑の中でもやせているところと肥えているところがあるんだとか。

「山を均して畑を作ったことで土壌の違いがあらわれることも1つの理由です。あと肥料をまくときについ利き手側をたくさんまいてしまうとか。ちょっとしたことが積み重なって土壌の条件も変わります。気象でいえば、アメダスの温度計は地表から1.5mの高さに設置されていますが、実際に野菜を育てている地表面では3℃から5℃低くなります。畑の中でもちょっとした日当たりの違いが生じることも。このような微気象も野菜の生育に大きな影響を与えます」

地域ごとの土壌、気象の違いだけでなく、同じ人が管理する畑の中でも条件が違うとは驚きです。

「畑の中の微妙な違いを、土壌分析で調べることもあります。野菜の育ち方含め、畑をよく観察してよく考えている人がいい作物を作れると思います。畑には育てている人の性格がでます」と高梨さんは言います。
高梨農園までの道すがら見たいくつかのダイコン畑、私の目にはどれも同じものに見えていました。しかし帰り道では、この畑にはどんな特徴があってどんな栽培の工夫がされているんだろうかと思わず考えてしまいました。

三浦市の別の畑、広大な土地にキャベツやダイコンが所狭しと植えられています

旬の野菜を作り続けるということ

1年間で150種類の野菜を作る高梨さんの直売所は、行くたびに品ぞろえが変わります。ふだん利用しているスーパーの野菜コーナーではタマネギやトマトといった野菜は一年を通じて購入することができます。直売所に並んでいる野菜は何が違うのでしょうか?

「おいしいものをおいしい時期に作り続けて1年を回しているのが、自分にはとってはいいイメージです。例えば、ニンジンはこの畑では真夏以外なら育てることができます。でも育て続けようとすると、病害虫にやられたり、生育が悪くなったり難しいんです。育つ野菜もあるけど味が二の次になってしまう。おいしい野菜は虫に食われてしまうので守ってあげないといけない。だからといって1年中病害虫との戦いをしているわけじゃなく、生育適期に育てると病気や害虫にも案外強いんです。だから旬のものは安く提供できます。」

お客さんが食べたいときに食べたいものを買えるように品ぞろえが充実しているスーパーと、おいしいものをおいしい時期に用意する高梨さんの直売所、それぞれには異なる魅力があるようです。

高梨さんの畑で育てられていた芽キャベツ(上)と非結球型芽キャベツ(下) 芽キャベツの畑の姿、ちょっと衝撃的です

病気や害虫から野菜を守る

おいしい野菜を虫から守るために、高梨さんの畑ではどのような工夫がされているのでしょうか。見せていただいたのがこちら。

写真中央に注目

写真中央になにやらオレンジの丸いものが見えます。
「これは黄色ナトリウム灯です。チョウ目の害虫の対策として設置しています。ハスモンヨトウなどの虫は夜に交尾するのですが、黄色ナトリウム灯があると昼だと錯覚して交尾をしなくなるんです。その結果、産卵をしないので次世代を減らすことができる。この灯り1つで半径36mくらいはカバーできて、殺虫剤より上手に害虫を防いでくれます」
害虫駆除と言えば殺虫剤の散布がまず頭に浮かびましたが、害虫のことをよく研究し害虫の行動をコントロールするというやり方もあるんですね。他にはどんな工夫があるのでしょうか?

「別の畑ではナスを育てるけれど、ナスの周りにソルゴー(ソルガム)というイネ科の牧草も一緒に植えます。ソルゴーは背が高いので風よけにもなる上に、害虫の天敵が住み着いてくれるんです。アブラムシの天敵になるのはクサカゲロウやナミテントウ、アザミウマ類の天敵になるのはヒメハナテントウです。特にアザミウマが厄介で、植物の表面をかじって中身を吸ってしまい見た目が悪くなるし、ウイルス病も媒介するんです。殺虫剤でしか防げない害虫もいるけれど、黄色ナトリウム灯やソルゴーを組み合わせることで、農薬の使用量を減らすことができています」
病気や害虫から野菜を守るために、画一的な方法をとるのではなく、利用できる手段を上手に組み合わせる。総合的病害虫管理(IPM)と呼ばれるこの方法は、人の健康に対するリスク軽減や環境負荷軽減にもつながります。

おわりに

この記事で紹介しきれないほど高梨さんからは野菜の生産についてたっぷりお話を聞かせていただきました。

農業という営みはシンプルなものではなく、気候、土壌、病害虫、土地の歴史、畑の持ち主の性格…と数えきれないようなたくさんの要因が複雑に絡み合っているものだという気付きが私にとっての大きな収穫でした。作物の絶対的正解の育て方はなく、それぞれの畑の持ち主が自分の畑をよく観察して自分なりの育て方を実践した結果が、私たちの食卓に並んでいるのです。今日食べる野菜はどこからきて、どんな風に育てられたのか。想像しながら食事をすると新しい発見があるかもしれませんね。

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