みなさん、「環境DNA」って聞いたことありますか?
その前に、そもそも「DNA」ってなんなのでしょう?
DNAは、すべての生きものがもっている、生きもの自身のからだの設計図です。からだの中にあるのですが、うんちとかアカとか汗とかとともにからだの外にも日常的に出ています。
こうやって外に出て、水の中や空気中などの「環境」にあるDNAのことを「環境DNA」と呼びます。これを調べることによって、その環境にいる生き物の種類を知る手がかりが得られるのです。
これまで未来館では、環境DNA学会と一緒に、魚の「環境DNA」を調べて、水の中の世界を考えるイベントを行ってきました。
その様子の一部をご報告します!
どんなイベント?
このイベントの大きなポイントは「参加者自身が気になった好きな場所で採水でき、その場所にどんな魚がいるのかはもちろん、その魚がいる環境や、人間を含めた他の生きものとのつながりなどについて深くさぐることができる」ことです。
イベントは、大きく①採水②環境DNA解析③ワークショップ(三部構成)の3つの段階に分かれています。一つずつ簡単にご紹介します。
(②では、魚類のみを調べられる方法を用いています)
①採水
参加者は、未来館が提供する採水キットを使って、自分が調べたいポイントで採水することができます。これまでの参加者の中には、「今まで親しんできた近所の川から、目で見たり捕まえたりした魚のDNAが検出されるのか?」といった興味から採水地点を選んだ方もいらっしゃいました。
採取した水のサンプルを未来館に郵送していただき、未来館から研究者にサンプルを届けます。
②環境DNA解析
水の中のDNAのうち、魚のDNAのみを調べられる方法を使って、研究者が調べます。DNAの並び方が、魚の種類ごとに似ている部分もあれば、似ていない部分もあります。魚の種類と、(魚ごとに似ていない部分の)DNA配列が対応したデータベースが作られているため、解析したDNAの並びをデータベースと照らし合わせることによって、どの魚のDNAなのかを知ることができます。つまり、採水した場所にどんな魚がいたのかがわかるのです。
※ただし、DNAが見つかることと、そこにその魚がいることは必ずしも一致しないこともあります。(例えば、お昼ご飯に食べたおにぎりに入っていたサケがうっかり水の中に入ってしまった場合にも、サケのDNAが検出されることがあります)
研究者は、このような結果が出た場合にもしっかり吟味し、本当にそこにその魚がいたのか、それともDNAだけ見つかったのか、分布や魚の行動などの様々な観点から検証します。
③ワークショップ
参加者と、環境DNA学会の研究者が一緒に集まり、結果について考えていきます。
このワークショップは、
・結果を整理して、自分が注目したいポイントを見つける [第一部]
・注目したポイントを自分で調べたり、研究者や他の参加者と議論したりして深める [第二部、グループディスカッション]
・他のグループでのディスカッション結果を共有したり、研究者の研究に触れたりする [第三部]
といった三部で構成されています。
今回は特に、第一部と第二部の様子をピックアップしてご紹介します!
第一部
まず、参加者自身が環境DNA解析結果を見ます(ここで初めて!)。結果は、魚の名前(学名、和名)、すんでいる水域、外来種か絶滅危惧種かなどの情報が、リード数(サンプルの中のDNA量)が多い順番に並んだ表です。検出された魚について、より実感をもっていただくために、リード数上位10種の魚のカードを見ます。写真を見ると、一気に実感がわいてきます!
参加者ごとに、見つかる魚の種類も異なるので、十人十色の魚カードになりました!
イメージを膨らませたら、つぎは魚を分類してみます。どんな水域にすんでいる?(淡水?汽水*?海水?)外来種?絶滅危惧種?他の地点でも見つかった?といった視点で分類してみると、自分の地点の特徴が見えてきます。
それをもとに、一番注目したいポイントを参加者自身が考え、それに対応したワークシートを選び、深掘りしていきます。
*汽水(きすい)とは、淡水と海水が混ざり合った水域のことです。
第二部
第一部で注目したポイントを、さらに深掘りしていきます。
ここからは、参加者と研究者が一緒に考えるグループディスカッションです。
参加者が、図鑑や、外来種・絶滅危惧種に関するデータベースを使って調べたり、湧いてきた疑問を研究者にぶつけたりしながら、深掘りする一時間です。
グループディスカッションではこんな一幕も。
参加者のお一人から「検出された魚の種類が少ないのはなぜか」という疑問が。それに対して、研究者はもちろん、グループ内の別の参加者とも議論が盛り上がりました。特に「川の流れ」の影響についての様々な可能性からの意見が交わされ、その中で「流れが緩やかな場所と急な場所で比べてみることも大事かもしれない」、といった、流れの影響の検証方法にまで議論がおよびました。まさに、参加者と研究者が一緒になって「研究」を行っていると感じました。
このように、参加者自身が注目したポイントについて調べたり、考えを交わしている中で新たにいろいろな疑問が湧き、それをまたどうやったら調べられるのか──と議論が広がって行きます。これは他のグループでも巻き起こり、活発に意見が交わされました!
いかがでしたでしょうか?少しでもイベントの様子をイメージしていただけたら幸いです。
サンプリングから結果の考察まで盛りだくさんなイベントでした!
参加者からは、「魚の生態系を守るために環境や一人一人が意識し、考えていくことが大切だと感じた。」「海ん中にいる沢山の生物を見たくなった。」(どちらも原文ママ)といった感想が寄せられました。
環境DNA解析の強みは「水を採取するだけで、その水の中にどんな魚がいるのかの手掛かりを得られる」ことにあります。
水の中の生態系を調べようとすると、直接水の中に潜ったり、魚を網で捕まえたりと、慣れていない人にとってはハードルがとても高い作業が必要でした。環境DNA解析の場合は、水を採取してその中のDNAを調べるだけで、水の中の生きものの手掛かりが得られるため、専門家ではなくても調査に参加することができます。
もちろん、環境DNA解析が活用できるようになったのは、今まで潜ったり網で捕まえたりして、魚を直接丁寧に調べてくださった方々や、生きもののDNAのデータベースを整備してくださった方々がいたからです。これからはその基盤を存分に活かし、専門家だけではなく、私たちも一緒に、水の中の生態系について調べたり考えたりしていけたら、と思っております。
実際にどんな研究が行われている?
調査が難しかったニホンウナギの分布を、環境DNAから推定する研究もあります。以前に科学コミュニケーター小林がご紹介したこちらの記事も是非ご覧ください!
「環境DNA」をつかってわかること 〜その川にニホンウナギはいるか?~
https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20210329post-406.html