トークセッション「ヒトはなぜ孤独になるのだろう?」開催報告

ヒトはなぜ孤独になる?孤独について考えるイベントを実施しました!

皆さんは孤独を感じることはありますか?どんなときに孤独を感じるでしょうか。

引っ越しをして周りに知り合いがいないとき?学校や職場など、話す人はいるけれどどこかさみしい気持ちがあるとき?

コロナ禍で以前ほど気軽に外出ができなくなったこともあり、孤独な気持ちを抱える人もいるのではないでしょうか。私たちはなぜ孤独を感じるのか、孤独とどう向き合えばよいのかなどを考えるイベントを20218月に実施しました。

登壇者としてお招きしたのは、ボノボやチンパンジーといった私たちヒトに近い霊長類の社会性を研究している山本真也先生と、気鋭の臨床心理学者でカウンセリングを通して人の心を診ている東畑開人先生です。

山本先生にはヒトという動物としての性質の視点から、東畑先生には人の感情としての視点からお話いただき、孤独について考えていきました。

たくさんの興味深いお話がありましたが、ここではトピックを絞って紹介をしたいと思います。このブログで内容に興味を持っていただけたら、ブログの最後にイベントアーカイブのURLがありますので、ぜひご覧ください!

「ヒト」「人」が感じる孤独とは?

まずは山本先生から、動物の集団から考えるヒトの社会性、そしてヒトがなぜ孤独を感じるのか、主に霊長類学の視点でお話いただきました。

なお、「ヒト」「人」という書き分けは、動物としてのヒトのことをカタカナ、一般的な意味での人間のことは人と漢字で書く、という形で分けています。

ここでは簡単なまとめにとどめていますが、山本先生からはボノボやチンパンジーの動画を交え、彼らとの比較をしながらヒトの特徴をお話しくださっています。詳細はぜひイベントアーカイブをご覧ください!(ニコニコ生放送の10:2839:27付近です!)

ボノボやチンパンジーは進化的にヒトと近いだけでなく、私たち同様、一定の秩序をもった集団で生活する社会性動物でもあります。彼らとの比較から考えたときに、山本先生はヒト/人には2つの孤独があるのではないか、と最後のまとめでお話いただきました。

1つ目は、集団から離れると不安になるという、社会性動物のヒトとして感じる孤独。2つ目は、他者の目や評価を気にする“評判社会”に生きる人として感じる孤独です。

「ヒト」と「人」のそれぞれが感じる、2つの孤独があるのかもしれません(画像は山本先生資料より抜粋)

1つ目の社会性動物のヒトとして感じる孤独については、ヒトを含めた集団をつくる動物に共通する点として、集団で生活することが生存に有利だったという点があげられます。すると集団から離れたときには不安を感じて集団に戻ろうとするようになります。このときの不安から生じる感情が社会性動物のヒトとして感じる孤独なのではないか、とお話いただきました。

2つ目の評判社会に生きる人として感じる孤独については、ヒトが他の動物とは異なる点として、ヒトはひとりで生きられず、他者の協力が必要だという点があげられます。例えば、生存のためには食料の確保が必要ですが、霊長類をはじめ他の動物は自分の食料を自分ひとりで賄うことができますが、自分ひとりで生産・採集した食料だけで生きているヒトはまずいません。自給自足している方はいても、田畑を耕す道具や肥料まで自分自身で一から作っている方はほとんどいないのではないでしょうか。ヒトは協力なしには生活できない動物です。なお、ヒトに最も近いチンパンジーやボノボも他個体への協力はするのですが、相手の求めがあって初めてそれに応じるという形の協力行動で、ヒトのような自分から行う協力行動とは異なります。

チンパンジーは相手の状況を見て、相手が求めている道具を渡します。ボノボは他者が食べ物をねだり取っていくのを許します。しかし、これらは自発的な行動ではありません。

こうして、他者との協力のために目的の共有や共感性が発達し、「あの人は面倒見の良い人だ」などというヒトならではの自発的な利他行動に対してよい評判が生まれるようなシステムが広まっていったのではないかと山本先生は考えています。それは、裏を返せばヒトは常に社会の目にさらされており、自分がどう思われているのかを意識してしまい他者の目を気にしすぎるあまり、逆に他者と距離をおいてしまうことにもつながります。ここに評判社会に生きる人として感じる孤独があるのではないか、とお話をいただきました。

これらの2つの孤独について、このあとおふたりの先生と議論を深めていきました。

社会性動物としてのヒトが感じる孤独はどういうときに感じる?

山本先生のお話を受け、社会性動物のヒトとして感じる孤独について議論を深めた様子をまずはご紹介します。

東畑先生:人の心を診る立場として、2つ目の孤独はイメージしやすいものの、1つ目の孤独はイメージがしにくいのですが、どのようなときに感じるものなのでしょうか?

山本先生:現在のコロナ禍だと物理的に他者から切り離されている状態ですよね。こうした、物理的に独りの時間が長いと孤独を感じやすくなると思います。

これまでは、買い物などの日常生活で他者とのインタラクションが必要でしたが、最近ではインターネットで買い物ができ、置き配もできるので物理的なインタラクションがかなり減りました。霊長類に限らず、自分の研究対象であるウマなどの社会性動物でも物理的に切り離されると不安を感じることが分かっています。なので、ヒトにもそうした側面があるのではないかと考えます。

東畑先生:学校のオンライン授業でも、学生たちの成績低下などパフォーマンスが落ちています。孤独だと本人たちは感じてなくても、どこか調子がよくないとは感じているようです。今のお話から、動物として他者とのインタラクションが大事で、これが社会性を支えていたのだと感じました。さみしい気持ちのような、いわゆる「孤独」というよりも、孤独の状態から生じるイライラや不安、集中力の低下などといった状態が社会性動物としての孤独なのだと思いました。

山本先生:社会性動物としての性質は長い進化の過程で培われたものなので、現在の生活のようなたった数年での社会変化には対応しきれず、こういうひずみが生じるのではないかと思います。

チンパンジーの慰め行動から考えるヒトの孤独とは?

続いてご紹介するのは、慰め行動から見るチンパンジーの関係性、そこからヒトの孤独についてのお話です。

東畑先生:チンパンジーには、けんかに負けたときや群れになじめなかったときなどの不安が高まったときに、指を甘噛みしてもらうことで信頼感を築くなどの慰め行動があると聞いたことがあります。孤独がいわば敵に囲まれているような不安いっぱいの心理状態だとすると、慰め行動は自分が敵ではないと表明する行動のように思いますが、そもそも、集団内での敵、味方の関係性はどのようになっているのでしょうか?

山本先生:ボノボやチンパンジーは離合集散社会という、大きな集団のメンバーは同じだけどその時々で行動を共にする小さな集団のメンバーが入れ替わる社会の形をとっているので、野生では一度いじめられたとしてもそこから離れることが可能なのだと思います。強い集団性を持ちながらも集団内はゆるい関係性なので、心理的な問題が生じても回避する方法が担保されているのかもしれません。

チンパンジーは嫌なものから逃げるだけでなく、関係性を修復するということもします。けんかをした相手と仲直りもしますし、第三者による慰め行動も知られており、いじめられた個体に抱きついて落ち着かせるということもあります。

基本的に、動物は、他者の不快な情動が伝染し自分も不快な情動を感じると、不快の元から逃げたり避けたりする行動をとります。しかし、チンパンジーは不快な情動を持ちながらも、その元である他者にあえて近づいていきます。こうしたところにケアの原型があるように感じます。

東畑先生:慰めの本質とは何でしょうか。慰めというと、相手をなだめるような印象がありますが、例えば、怖いと思っていた人が実際は優しい人だとわかり、どこかほっとしたような気持ちになる、というのも慰めといえそうです。動物としての視点だとどういえるのでしょうか?

山本先生:社会性動物のヒトとして感じる孤独とも通じそうです。満員電車など、信頼していない人の輪に入ることで不快感が起こりますが、一方で、信頼できる相手であれば一緒にいるだけで安心感があります。怖いと思っていた人が信頼できる人とわかるのが慰めになるのとは逆に、人に囲まれていても相手を信頼できない場面では孤独を感じてしまうのかと思います。

2つの孤独は独立しているものではなく、相互に関係しているものだと考えています。評判社会に生きる人として、他者からの評判を意識してしまうため、相手とまだ信頼関係が築けていない場合は一緒にいても孤独(人としての孤独)を感じるようになってしまう。すると自分だけの世界をつくってしまうようになる。そうなると、相手から距離をとられるようになり、社会性動物としての孤独も感じるようになる。そして他者とのつながりが切れれば切れるほど、より他者の目を意識してしまう……といった悪循環が起こってしまうものだと考えています。

チンパンジーが評判を意識しているのかどうかは研究中ですが、ヒトほど他者の目を気にしていないと思われます。ここが孤独の感じ方の違いなのではないでしょうか。

そこにいない他者を考えられるヒト、今のその場面を考える霊長類

さらに、ヒトと霊長類とでは、そこにいない他者に対する考え方が違うようです。おふたりの話をご紹介します。

山本先生:チンパンジーは記憶力が良く、過去のことはよく覚えていて関係性にも影響します。一度嫌なことをされるとずっと覚えているとはよく言われています。チンパンジーもヒトと同様、これまでの関係で現在の関係性ができてきますが、ヒトと違って歴史のような長いスパンでは考えていません。

東畑先生:人は独りでいても、誰かを懐かしんだり、死者を偲んだりと誰かを心の支えにすることがあります。こういう孤独は悪くないですね。

山本先生:霊長類では、他個体との関係についても、今のその場面で考えており、基本的にはそこにいない個体のことは考えていません。ヒトはその場にいない人のことを考えられるからこそ言葉を介して評判が生まれ、社会で共有ができるのです。ヒトは評判により社会と良い関係を築くことができますが、また逆に社会から傷つけられることもあるのです。

孤独を補うには?

最後に、視聴者からいただいたコメント「孤独を補う方法は?」をおふたりに聞いてみました。

東畑先生:孤独は、他者との関係性に危険を感じている状態です。いかに安全な関係性を築けるか、がポイントになるのではないでしょうか。1人対1人、という関係よりも、複数人対複数人の関係性のほうが比較的安全性が高いので、居場所が社会か家庭かのいずれかになってしまうのではなく、その中間に人々が柔らかく付き合える場が必要なのだと思います。

山本先生:ヒトの特徴として、重層社会があげられます。例えば学校であれば、クラス、学年、学校全体といった、いろいろな階層のまとまりがあります。また、サークルに所属する、違う学校の友達と仲良くするなど、いろんな社会に所属することもできます。こうした関係性をいくつも持つことで、孤独を感じにくくなるのではないかと思います。

「ヒト」「人」から考えることで、人間についてより深い洞察が得られた

このイベントでは、孤独といういわば主観的なものについて、人の心理的な面のみでなく動物的な面からも考えていくことで、孤独についてより深く考察していくことができたのではと思います。

コロナ禍というご時世で、会議や授業などもオンライン化が進みましたが、身体的な接触も大切だというお話もありました。感染対策を徹底しながらも、他者との接触を大切にできると良いですね。

視聴していた方からのコメントも多数いただいたのですが、なかなかイベント内で紹介できませんでした…。たくさんのコメントをありがとうございました!

このブログでは、イベントの一部をピックアップしてご紹介しました。

他にも面白い話題が盛りだくさんですので、続きはぜひ以下のイベントアーカイブをご覧ください。

https://live.nicovideo.jp/watch/lv332867373

(ニコニコ生放送のページです。視聴者の皆さんのコメントもとても興味深いです!)

https://www.youtube.com/watch?v=VRTD3AnmvdY

(未来館のYouYubeチャンネルのページです。)

トピック一覧(記載の時間はニコニコ生放送でご覧いただくときの表示時間です)

・イントロダクション

・山本先生からの話題提供:ヒトが感じる孤独、人として感じる孤独(10:28

・社会性動物としてのヒトが感じる孤独(39:28

・群れの中でうまくいかなくなる個体(49:55

・関係に傷つき、関係に癒される(1:02:22

・コメント:ニコ生では孤独を感じない(1:17:30

・コメント:過去を美化するのは人間だけ?(1:27:00

・コメント:育児の孤独、必要とされてない孤独(1:30:35

・コメント:孤独になりたいのに孤独が寂しい(1:42:29

・コメント:孤独を補う方法は?(1:46:45

・まとめ(1:52:25

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