本人(本菌?)たちにはそのつもりはなかったけれど、電子をぽいぽい排出している微生物「発電菌」と、その発電菌を含む微生物を使って人の役に立つ装置を作ろうとしている渡邉先生率いるサステイナブルバイオテクノロジープロジェクトと出会い、一緒に活動をしてきた筆者の1年を振り返る徒然なる記録の後編スタートです!
秋:申込み一覧見て飛び跳ねる
現在、研究に用いられている主要な発電菌はシュワネラとジオバクターで、どちらもアメリカで見つかった種でした。この2種類とは全く異なる、「日本で発見された発電菌」や「発電効率の良いスーパー発電菌」を見つけたい、と考えるのは、自然なことですよね!
しかし、発電菌は川や海などの水中の土壌だけではなく、畑や森、更には動物の腸内細菌叢にまでいる可能性が高く、探すべき場所が多すぎて、渡邉先生やサステイナブルバイオテクノロジープロジェクトのメンバーだけでは到底探しきれません。そこで、未来館の外の皆さんにも協力してもらって、一緒に「未知の発電菌」や発電効率の高い「スーパー発電菌」を探すプロジェクトが発足しました。その名も、「スーパー発電菌をみんなで探そうプロジェクト」です。
プロジェクトのキーとなったのが、渡邉先生が考案した手軽に発電菌と戯れる(?)ことができる「泥電池」。これは、発電菌がいるかも知れない土壌をプラスチックの容器に入れ、電極をセットすることで、「もし発電菌がいれば、発電菌が放出した電子を検出できる」ようにしたものです。
このプロジェクトは、
全国各地から参加者を募り、泥電池を作るためのキットをお送りして、泥の確保と泥電池の準備、その土壌に発電菌がいるのか否かを知るための証拠となるデータをとる「ステップ1(実験パート):身近な泥で発電できる?泥電池を作って測って試してみよう!」と、
参加者の皆さんが持ち寄った各チームの結果を参照しつつ、発電菌がいるかも知れない条件や調べる方法などを議論する「ステップ2(考察パート):みんなで考えよう!発電菌の課題をクリアするにはどうすればいい??」の、2つのステップに分かれています。
実験期間を含めて2ヶ月以上にわたる、未来館のイベントとしては超長期のプロジェクト。企画した張本人でありながらも、申込みが1件もなかったらどうしよう……と不安で不安で、夜しか眠れませんでした。
いざ、申込み〆切の日、〆切時間を過ぎた直後。不安に震えながらも申込み者一覧を出力してみると……。なんと予想を超える数の申込みを頂いていたのです。嬉しさのあまり悲鳴を上げながら飛び跳ね、他の科学コミュニケーターに怒られたのも、今となってはいい思い出ですね。
冬:泥電池つくろう 抵抗繋いで一緒に測ろう どれくらい発電しているの?
19組の参加者のもとに泥電池キットが届き、泥電池を作って運転し始めてくださった頃。参加者から届く質問を前に、一緒に首を傾げて考えている間に、季節はもう冬になっていました。
そして、年が明けた2022年2月13日、ついに参加者全員の結果を見ながら参加者でスーパー発電菌や泥電池のことを議論する「ステップ2(考察パート):みんなで考えよう!発電菌の課題をクリアするにはどうすればいい??」当日を迎えました。
この日は、4名の研究者と4名のファシリテーターが緊急参戦!
4つのグループに分かれて、参加者の皆さんの持ち寄った結果を見ながら、こちらの5つの項目について議論を交わしました。
予定していた議論時間は40分。もしかしたら、盛り上がらずに時間が余ってしまうかも……とも思っていたのですが、実際はその逆で時間が全然足りない!という感想が続出するほど。皆さんしっかり泥電池の実験に向き合ってくださっていたようです。それぞれのグループでどのような議論がされたのか、少しだけ見ていきましょう!
グループA-1:加藤創一郎先生&中村莉沙さんグループ
こちらのグループでは、合計10個分の泥電池の実験結果を比較しながら、「発電量に影響を与えていそうな条件は何か」を中心に議論されていました。参加者が準備した土壌は沼やビオトープ、水田、畑、温泉など様々で、結果も多様性に富んでいたため、「どうしてここまで差ができたのか?」が話題になったようです。その中で、例えば土壌に含まれるミネラル(温泉とその他)や農薬の有無、温度、元々の水分量、光の種類や光量などが影響するのではないか、という仮説を作ってくださいました。
グループA-2:井上謙吾先生&加藤瑞貴さんグループ
こちらのグループでも、合計10個分の泥電池の実験結果を比較しながら、「発電量を増やすにはどうすればよいか」を議論されていました。「電圧が上がらない日に気温が低かった」という報告や「出力が高かったのは肥沃な土地、出力が低かったのは乾燥した土」という報告、更には「発電菌は酸素が少ない嫌気環境の方がよいのかも?」という声もあり、次に実験を行う時には土壌と温度と湿度を比較すると良いのでは、という実験系の提案をしてくださいました。
グループB-1:高妻篤史先生&小村桐子さんグループ
まん延防止等重点措置の影響を受けてしまって実験途中での参加となってしまった方も含めた、13個の泥電池について議論をされました。こちらのグループでは、使用する土壌に注目した方も。事前に調べ、発電菌のご飯となる有機物が多そうな土壌や、発電菌の出した電子を効率よく集めるために役に立ちそうな鉄分の多そうな土壌を選ばれていたようです。実験結果は、参加者の皆さんの予想ほど高くはなかったようですが、本業の研究者のような鋭い着目ポイントでした。さらに、発電菌を活用することで環境問題の解決にも繋がるかも、と未来のことも話題になっていました。
グループB-2:山田祥平先生&田中勇吾さんグループ
こちらのグループは、合計10個の泥電池の結果を見ながら、発電量の変化についても議論されていました。「時間経過とともに電圧が多くなっていった」という報告と、反対に「途中で電圧が下がっていった」という報告から、「土壌に含まれる発電菌のご飯を食べ尽くしてしまったのではないか」という仮説を作ったり、「電圧測定時に暖かい部屋に移動した場合に少し電圧が高くなった」という報告から、「温度や光が影響する可能性」を考えたり、と活発なやりとりがされていました。
最後に、駆けつけてくださった研究者の皆さんに、「自分でもやってみたい」検証したい」と思った仮説や、どんな泥電池実験をしたいのか、を聞いてみました。
高妻篤史先生(東京薬科大学)
「土壌中に鉄バクテリアがいるのではないか」という発表をしてくれた方もいました。鉄バクテリアと発電量との間に何か関係があるのか、興味深いです。
山田祥平先生(東京薬科大学)
気になったポイントが2つあります。1つ目は、塩濃度と泥電池の発電量の関係です。湖の土壌を使った方が実際に塩濃度を調べて発表してくれていたので、もう少し詳しく調べたら面白そうだと思いました。2つ目は、鉄バクテリアと発電量の関係です。相関関係があるのかどうか、気になりました。
井上謙吾先生(宮崎大学)
いろんなところの土を使うと面白いのではないか、という議論がありました。実際に参加者の中には、カブトムシを育てた後の土や温泉の土を使った方がいて、その結果を見ながら「暖かい地域や寒い地域での違いは何だろうか?」という議論もしています。それを踏まえて、特殊な土を使うと、これまで知られていなかったり、個性的だったりする発電菌が見つかるかも知れません。身近な場所でも意外と「特殊な環境だったんだ!」「そこがあったか!」というのがあるかもしれないですし、そういう場所が面白いのではないかと思いました。
加藤創一郎先生(産総研)
他の研究者の皆さんのコメントと被らないものだけあげると、「今まで見つかっていない発電菌を見つける」という考えのもと、「他の参加者と被らない土」を探してもらって、その結果を見たいな、と思いました。
そして最後に、渡邉先生から参加者の皆さんへのメッセージを頂きました。
いろんな泥電池を比較することで分かってくることが非常に多いです。グループの中の泥に限らず、全部の泥電池を比較することで見えてくる物があるので、全部の泥電池の結果を見返して、比べて、もう一度考えてみてください。
各グループでの議論時間はあっという間に過ぎてしまい、まだまだ話したりないことも多かった様子。その不完全燃焼な部分もあってか、プロジェクトはいったん終了したにも関わらず、泥電池の実験を継続して行っているという参加者の方もいるようです。考察パートでの議論を元に、新しい仮説や実験を考え、実際に実験する。科学研究の営みを、参加者の皆さんにも体験してもらえたようで、研究者もとても喜んでいました。
再びの春:発電菌の輪は広がる……かも?
前編後編に分けて、発電菌と泥との思い出話をさせて頂きました。中々に濃密だった1年も終わり、また新しい1年が始まりました。そして、サステイナブルバイオテクノロジープロジェクトでも、新しく準備を進めています。今度はどんなイベントを行うのか、を、今まさに渡邉先生と一緒に考えている最中です。若葉萌ゆる時期には皆さんにお知らせできる予定ですので、それまで発電菌のことを忘れないでいてくださいね!