藻でお肉を育てる?研究者に培養肉について聞いてきた!(後編)

「藻でお肉を育てる?研究者に培養肉について聞いてきた!(前編)」に引き続き、科学コミュニケーターの増田・平井・片岡が、早稲田大学先進理工学研究科(20234月より東京都市大学医用工学科に移籍)で培養肉を研究している准教授の坂口勝久さんにインタビューしてきたことを紹介していきたいと思います。

 

前編では培養肉ってなにか? どうやってつくっているのか? を中心に紹介してきました。

前編はこちらです。

藻でお肉を育てる?研究者に培養肉について聞いてきた!(前編)

https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20230224post-484.html

後編では、引き続き私増田が、坂口さんが考える培養肉研究の未来像を探っていきます。

培養装置の前で語る早稲田大学の坂口さん

食料危機と環境問題にこたえる

現状の培養肉には、生産技術や社会に受け入れられるかといった様々な課題がありそうです。坂口さんはどうして培養肉をつくろうとしているのでしょうか?

 

坂口さん「食料不足、環境負荷の問題を解決することが大きな目的ですね。特に食料不足の点では、日本は食料自給率がとても低いんです※。日本で育てている家畜も結局外国産のエサを使っていることが多く、それも考慮すると実質の自給率はもっと低いと考えられます。最近は物価も上がっているし、食料安全保障の観点からも、すべて日本で育てられる、ということがとても大事なんです」

※(カロリーベースで約36%(令和2年度))

令和2年度 日本の牛肉の食料自給率(農林水産省「食料需給表(令和3年度)」より増田が作成)

エサを輸入できなくなったら結局日本にいる家畜も育てられなくなってしまう、というわけですね。

正直私は、食料危機はひとごとだと思っていました。しかし、最近の国際情勢による物価高を見ると身近な問題なのだと感じさせられます。

一方で、前編でもご紹介したように、今のところ生産コストが非常に高いという課題があります。消費者としては少しでも安くなってほしいところですが、坂口さんたちはどのようにこの課題を解決しようとしているのでしょうか?

藻がお肉をつくる?

まず坂口さんたちは高コストな培養液を安く、そして環境負荷を低くするために、「藻」を使ってお肉をつくろうとしています。

坂口さんたちが描く、藻類で培養液をつくる循環型システム図

ムーンショット型研究開発制度:藻類と動物細胞を用いたサーキュラーセルカルチャーによるバイオエコノミカルな培養食料生産システム

https://www8.cao.go.jp/cstp/moonshot/sub5.html

クロレラなどの藻類を太陽光を使って育てて、そこから栄養を抽出して培養液にします。その培養液でお肉をつくり、その廃液をまた藻類の栄養に。つまり藻からお肉が生産される循環型の装置! こんな装置ができたらものすごいことですね。

 

坂口さん「これまでは培養液に私たちが食べる穀物の栄養や、家畜の血清を使う状況でしたが、これではサステナブル(持続可能)じゃありません。これを藻類の力で変えようというのが私たちの構想です。そして、このシステムなら穀物がつくりにくい環境であってもつくれるので、いわゆる乾燥地など環境が厳しい土地でも生産できるかもしれません。」

坂口さんが育てている藻類の一種。これが培養肉の栄養になるかも?

目指すはステーキ肉!

さらに培養肉でステーキ肉をつくろうとしています。

JST未来社会創造事業「3次元組織工学による次世代食肉生産技術の創出」

https://www.jst.go.jp/mirai/jp/program/sustainable/JPMJMI20C1.html

坂口さん「海外のベンチャー企業で作られている培養肉は、いわゆるミンチ肉です。これはほとんどが線維芽細胞という筋肉の細胞ではない、比較的簡単に育てられる細胞を使っています。しかし、ステーキ肉には筋肉の細胞をつくる必要があります。筋肉の細胞は増やすのが難しくて、断念しているところも多いのです。

ステーキ肉は一般的に、ミオグロビンという鉄分のにおい、肉独特の香りがおいしさを引き立てます。それを筋肉の細胞だとつくることができます。ここをいかに実現できるか、チャレンジしています。」

生肉を食べる未来も?

坂口さん「生の肉は実はものすごい量のビタミンを含んでいますが、そのまま食べると雑菌がいて危険です。ただ、焼いてしまうと、とたんにビタミンは失われてしまいます。しかし培養肉なら、完全クリーンな(雑菌がない)肉ができるので、生のまま食べることができるはずです」

 

ユッケや牛刺し、肉の生食は食中毒のリスクが高いためハードルは相当高いですが、培養肉ならば気軽に家庭でも食べられる日が来るかもしれません。

坂口さん「いずれ培養肉でリアルな肉ができて、1週間に23回、『あ、これ培養のほうだったの?』となるくらいみなさんに食べられるものになったらいいなと思っています。」

 

培養肉はお肉の代わりになるだけでなく、食の可能性を広げるかもしれないんですね!

おわりに

今回坂口さんから培養肉についてたくさんお話をうかがってきました。

 

藻で培養液をつくる、培養肉でステーキ肉をつくる、こうした坂口さんたちの研究が実を結ぶ日がくるのが個人的にとっても楽しみです。

参考文献

農林水産省 食料需給表(令和3年度)

https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/fbs/attach/pdf/index-13.pdf

 

ムーンショット型研究開発制度:藻類と動物細胞を用いたサーキュラーセルカルチャーによるバイオエコノミカルな培養食料生産システム

https://www8.cao.go.jp/cstp/moonshot/sub5.html

 

JST未来社会創造事業「3次元組織工学による次世代食肉生産技術の創出」

https://www.jst.go.jp/mirai/jp/program/sustainable/JPMJMI20C1.html

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