ロボットから旅行先をおすすめされる未来、どう思う?

出かけるのにも気持ちの良い気候になりましたね。旅行に行きたい! と思っている方も多いのではないでしょうか。みなさんは旅行先をどのように決めていますか?

スマホで検索する? 本屋さんでガイドブックを読む? それとも旅行代理店で相談する?


今日は仮に旅行代理店に行ったとしましょう。もし、お店で写真のようなロボットに旅行先をおすすめされたとしたら、あなたはその場所を選びますか?

【旅行代理店の対話ロボット】

少し唐突でしたね。ですが、こんなロボットに接客される未来が遠からず訪れるかもしれません。今日は「人型の対話ロボットが浸透した未来」について考えてみたいと思います。

旅行代理店でなくても、人から何かをおすすめされたり、接客されたりする場面ってありますよね。最近行った場所を思い浮かべてほしいのですが、例えば、レストランで食事を注文したり、カフェでコーヒーを買ったり、美容院で髪型を相談してみたり……こんなふうにわたしたちは日々いろんな接客サービスを受けて生活しています。

ではもし、その接客サービスの提供者が人型のロボットだったらあなたはどう感じるでしょうか? ぜひそんなことを考えながらこのブログを読んでみてください。

対話ロボットコンペティション

見た目や動きが人間そっくりの人型ロボットを「アンドロイド」といいます。

このアンドロイドにどのような動きや表情をもたせて、どのように話させれば、人間とより自然に対話できるのか、ロボット研究者らが本気で競い合う大会、それが「対話ロボットコンペティション」です!

ここではまず、20228月〜10月に開催されたコンペティションの予選~本選の様子をみなさんにご紹介します。

 

コンペティションで研究者らは、国際電気通信基礎技術研究所で開発されたアンドロイド「I(アイ)」を使用します。アイは、視線や表情を変えたり、うなずき、首振り、おじぎなどの動きをしたり、前のめりの姿勢になったりすることができます。声は合成音声で、話す速度や、声の高さ、大きさなどを変えて話すことができます。

【アンドロイド「I(アイ)」】

コンペティションに参加する研究者は事前に、アイが相手の発話に応じて、どのような内容の言葉をどのような声のスピードや表情で返すかということを示したプログラムを「対話システム」に組み込んでおきます。開発した対話システムをアイに接続することで、それぞれの対話システムに応じた「動き」や「発話」をさせることができます。

当日は、会場に設置されたカメラとマイクを通して相手の表情や発話の内容を取り込み、対話システムのプログラムをもとに文章を選んだり生成したりしながら会話を進めるため、相手との対話が始まってからは裏で人間が操作することなく自律的に対話が進みます。

そのため、研究者らの戦いは本番までにこの対話システムをいかに開発するかが勝負、ということになります。

予選会 @未来館

20228月、未来館でコンペティションの予選会が行われました。

研究者に与えられた課題は、冒頭でもお話した「旅行代理店で旅行先をおすすめする」というものです。当日未来館に訪れた来館者に評価してもらいます。

体験の手順は以下の通りです。

①アンドロイドと話す前に、6つの観光地の写真から、行ってみたい観光地を二か所選ぶ

②旅行代理店のアンドロイドと約5分間お話しする

この際、参加者には知らされていませんが、アンドロイドはランダムに選ばれたどちらか一方の観光地を特に勧めるようタスクが与えられています。

【体験の様子(アンドロイドとの対話)】

③ 終了後、対話の内容をもとに下記の項目に対する評価を記入する

アンドロイドのお勧め効果:最初に選んだ二か所の観光地のどちらに行ってみたいかの度合い(アンドロイドが勧めていた観光地を100点、もう一方の観光地をマイナス100点とし、スライドバーで回答)

印象評価:選択の満足度、情報の十分さ、対話の自然さ、対話の適切さ、対応の好ましさ、対話の満足度、ロボットの信頼度、情報の参考度(観光地を選ぶのにロボットからの情報を参考にしたか)、再来店したい度合いを各7点満点で評価する

【体験の様子(評価記入)】

予選会には全12チームが参加し、熱い戦いを繰り広げていました! 参加チームの中には、大学の研究室でチームをつくって参加している方もいれば、企業から参加している方、個人で参加している方もいらっしゃいました。

私も何チームか体験したのですが、同じ外見のアンドロイドを使っていても、チームごとの対話システムによって全く違う会話になったり、表情から受ける印象が違ったりして面白かったです。

例えば、発話内容の違いだと、「インドア派ですか? アウトドア派ですか?」など一問一答形式でおすすめを絞り込んでくるような場合もあれば、「お仕事はなんですか?」「質問はありますか?」など広い質問からこちらの情報を引き出す場合もありました。

また、表情もあえて大げさに目を開いてリアクションしてみたり、上の写真【体験の様子(アンドロイドとの対話)】のように右側にあるモニターを用いて説明する際に少し右に視線を動かしていたり、人間がついやってしまうような動作が盛り込まれていて驚きました。

 

このブログを読んでいるみなさんの中にも予選会に参加してくださった方がいるかもしれませんね。みなさんはどんな印象を受けましたか?

実際に旅行代理店に行くと、ただ自分でWebの情報を調べるのとは違って店員さんに相談しながら行先を決めることができ、より自分に合ったプランを提案してもらえるというメリットがあるのではないでしょうか。評価項目にもあるように、単に必要な情報を得ることができればよいというだけでなく、対話全体を含めて満足や信頼ができるサービスになっているかという点もポイントになりそうですね。

 

そして、参加者のみなさんからの評価をもとに、本選会に進出する3つのチームが選ばれました!

本選会 @京都

202210月、京都の国立京都国際会館にて本選が行われました。

会場の様子はこんな感じ。ロボットに関する国際会議が行われている会場の一角でコンペティションが開かれました。

【ロボットコンペティション本選会場の様子】

観客(写真左側)に見守られる中、本選に出場した3チームが順番にアイ(写真奥)を使用して対話システムを披露します。

未来館での予選会では、お台場の旅行先をおすすめするというシチュエーションでしたが、今回は会場に合わせて京都の観光名所が候補となっていました。

審査は、実行委員の研究者ら4名と旅行代理店業務の経験者1名の計5名の審査員(写真中央と手前)によって行われました。また、開発者は開発した対話システムについてのプレゼンテーションも行います。

 

実際に、3チーム(OSMIYAMALINE)が開発したシステムを披露している様子を下記の動画で順にご覧いただけます。当日の雰囲気とともに、ぜひご覧ください!

そして、選ばれた優勝者はチームLINEでした!

技術点が全審査員とも10点満点と他のチームに比べて特に高く、加えて柔軟な質疑応答ができていた点などが評価されての優勝となりました。

シティミーティング @未来館

さて、ここまで旅行代理店で対話ロボットに旅行先をおすすめされるというシチュエーションで行われた、対話ロボットコンペティションの様子をお伝えしてきました。

このブログの目的は「対話ロボットが浸透した未来」について考えてみることでしたが、動画を見たみなさんはどう感じましたか?

このコンペティションでは技術を競うのはもちろんのこと、もう一つ目的がありました。予選会で未来館の来館者にも評価してもらったように、対話ロボットが実社会に入り込んできた際に、実際にロボットと対話したりサービスを受けたりすることになる一般の方の意見を聞きたい、そうすることで研究者の目線に偏った評価や開発にならないようにしたいということです。

 

では、実際に予選会を体験したみなさんの感想はどうだったのでしょうか。

最後に、20229月に未来館で開催したイベントの様子をお伝えします。予選会の参加者のうち希望者と、ロボットコンペティションを主催している研究者らが対面で語り合うシティミーティングというイベントです。

【シティミーティングの様子】

そこでは、「対話ロボットが浸透した未来で、対話ロボットが仕事をすることが当たり前になったら、みなさんは何を思いますか?」というテーマで研究者を交えて話しました。

 

例えば、こんな意見のやりとりがありました。

「お母さんはロボットになってほしくない。雨の日に迎えにきてくれたらほっとするから」

「(家族は)何があっても受け入れてもらえる安心感がある」「生まれたときから一緒ならほっとできる関係をつくれるかも」

「(対話ロボットの場合)今から安心できる関係を築けるか不安」「突然現れると親しみは感じられないのではないか」

「自分のことをもっとよく知ってもらえたら違うのかな」「長く一緒にいると個人のデータが蓄積されて親しくなれるのかな」

また別の話題では、カフェを題材にこんな意見がでました。

「チェーン店では対話ロボットでもよいが、古民家風カフェは人間の店員さんがいい」

「方言で話せるなら、愛着がわくから対話ロボットでもよい」

「短時間での出会いで人間にしかできないことってなんだろう」

「ある環境で育ってきたという過程が感じられるかどうかが重要」

さらに、別のグループでは学校の先生に関してこんなやりとりがありました。

「先生は人間がいい」

「人間では人数的に無理だけど、一人ひとりの生徒に合わせた先生がつけるなら、ロボットの先生でもいいかも」

「ロボットに個性があったら楽しいかも。生徒に合わせてロボットに個性をつけたらどうだろう」

「生徒のことを理解して接してくれるロボットならいい」

他にも、以下のようなさまざまな話題があがっていました。

「営業のクオリティが一定になるのでは」

「健康な状態だとロボットを受け入れやすいが、病気のときや弱っているときは不安なので、同じことでもロボットより人のほうを信じるかもしれない」

「世代によっても感じ方が違うのではないか」

「ロボットと話すのが楽しすぎると、依存して病気になってしまったり、ロボットが故障したときに何もできなくなったりするのではないか」

予選会で行ったアンケートを通した評価だけでは見えてこなかった、自分自身の生活から考えたより具体的なシチュエーションでの視点もでてきました。

 

さらに、シティミーティング後のアンケートでは、

「皆さんとお話しして、未来のロボットへのワクワク感と同時に人間らしさとは……を考えてしまいました」

「ロボットはどこまでのことができるのか、具体的にイメージできていない自分を感じました。皆様のお話を聞いて、人間も生きてくる中で様々なものをインプットされ、それをある場面では型にはめてアウトプットしているのだなと考えさせられました。それは入力されたロボットと変わらないのかも……」

「ロボットと人間の差は何か探究していきたい」

など、対話ロボットについて考えているうちに人間との違いや、そもそもの人間の性質について考えることになったという意見も多くありました。

 

みなさんは、どんな仕事なら、どこまでなら、対話ロボットに任せても良いと感じましたか?

対話ロボットに仕事を任せた場合と、人間が仕事をする場合の違いは何でしょう? もしロボットに任せた場合に、違和感はありますか?

 

おそらく人それぞれ意見は違うと思います。シティミーティング後のアンケートでも、

「みなさんと対話することで、それぞれの方とロボットの距離の違いは意外と差があるなと感じました」

「未来のアンドロイドのことを話していくうちに、自分たちと未来の子どもたちでは感覚が違うかもしれないと思うようになった」

「皆さんの想像する世界にふれて、自分の世界や考えが広がっていくのも感じました。ちゃんと議論ができて、その中でどんどん想像が広がっていくのも楽しかったです。これからも考えていきたいです」

などの感想をいただき、私自身、改めてこのような新しい技術に対してさまざまな立場の人が集まって話すことの重要性を感じることができました。

「対話ロボットが浸透した未来」あなたはどう思う?

正直に言うと、私はこのイベントに関わるまで対話ロボットと共に暮らす未来についてあまり真剣に考えていませんでした。ですが、最近ではチャットGPTのニュースを毎日のように目にするようになるなど、昨年対話ロボットコンペティションに参加した際にはなかった変化が社会で起きています。

今回のコンペティションで、身近に対話ロボット研究者の意見や思いにふれたことで、実際に対話ロボットが身近なサービスとして社会に組みこまれていく日はそう遠くないのかもしれないと感じています。きっと対話ロボットを使えば、営業時間外でも対応が可能になったり、人員の配置が難しい地域でも対応が可能になったり、個別のサービスを受けられるようになったりなど、より便利な生活になっていくのでしょう。

だからこそ、それを将来使用することになるかもしれない生活者のみなさんと一緒に、その未来に違和感はないのか、自分の価値観ではどう判断していけばよいのか、意見を交わしながら考え続けていきたいと思いました。

 

対話ロボットコンペティションは今年も開催されるそうです! 機会があればぜひ参加して、「対話ロボットが浸透した未来」をみなさん自身で想像し、考えてみてください!

 

―――

対話ロボットコンペティションの取材および記事の執筆にあたり、研究者の東中竜一郎さん(名古屋大学大学院情報学研究科)、および港隆史さん(理化学研究所 カーディアンロボットプロジェクト/国際電気通信基礎技術研究所 石黒浩特別研究所)にご協力いただきました。ありがとうございました。

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