「AIをつくってみよう! 君だけの音で動かすおもちゃ」イベントレポート

パソコンを使わずにプログラミング? AIをもっと身近に

AIおもちゃをつくれるとしたら、みなさんはどんなおもちゃをつくってみたいですか?

 「え? AIおもちゃなんてつくれるの?」 「AIでどんなことができるかわからない……。」そんなふうに思われる方も多いのではないでしょうか?(AI初心者の私もそうでした。)

 日本科学未来館の研究エリアに入居しているプロジェクトの一つ、「xDiversity(クロス・ダイバーシティ)プロジェクト」ではAIを使った体験をより広く一般の人に届けるために、パソコンを使わずにプログラミングができ、これ1つで学習が完結する新しいデバイスの開発を進めてきました。その名も「xMod(クロスモッド)」。このブログでは629日にxDiversityプロジェクトと一緒に実施したxMod体験会「AIをつくってみよう! 君だけの音で動かすおもちゃ」の様子をお届けします。

拍手の音で前進! タンバリンで右回り! 音と行動をひもづけて学習して動く

手のひらサイズのデバイスxModxDiversityプロジェクトがM5Stack社と共同で開発をした触覚・音声モジュールです。マイコンモジュールM5Stack Core2/CoreS3と、位置や動きを記憶して動くロボットトイtoio™(トイオ)と組み合わせることで、様々なアプリケーションを作ることができます。

xDiversityプロジェクトではこのxModを、自分だけのAIおもちゃを作る体験のデザインに利用しています。

手のひらサイズのxMod。裏返すとロボット・トイtoio™をはめるくぼみがあります。

xModに音と動きを学習させるためには専用のマットが必要です。マットの上には「進む」、「右に回る」など行動が書かれています。xModにしてほしい動きが書かれたマスの上で、xModに好きな音を繰り返し聞かせて学習させる。たったこれだけで、音を聞き分けてそれに応じて走ったり回ったりと、行動を使い分けるAIを作ることができます。

xModが音と行動を学習するための専用マット。
どんな音を学習させようかな?
「拍手の音で動いた!」
自分で学習させたxModに、参加者からは「かわいい!!」なんて声も。

つくったAIおもちゃを使ってボウリング! あれ? 意外とむずかしい……?

xModに音を学習させて動くようになったら、今度はそのxModをボールに見立て、ボウリングのピンを倒すゲームに挑戦!

拍手の音を聞いて前進するxMod。ちょっと左に進んでしまったのでタンバリンの音を鳴らして、右回りさせよう……あれ? うまく回ってくれない! しかも何も鳴らしてないのに勝手に前に進み始めた……。

xModに使われている音認識システムは、音を聞き分け分類するシステムです。音を聞かせて学習させることで、その音の特徴をモデルに当てはめ、次に聞いたときにその音を分類(認識)することができます。そのため、拍手とタンバリンの2種類の音を行動を対応づけて学習したxModは、必ずその状況をどちらかの行動に分類し、実行してしまいます。それ以外の音を鳴らした場合や、無音の状態であっても思い通りの行動をさせるためには、音と行動の対応づけを工夫する必要があるのです。これは機械学習の訓練データを作る上で一般的にも非常に重要な視点です。

参加者のみなさんはゲームにチャレンジしながら、もっと思い通りにxModを動かすにはどうしたらいいか考えていました。研究者からのアドバイスで、覚えさせたい音の他に無音の状態を学習させてみたり、またある参加者は音の性質が似すぎているとうまくAIが音を分類できないんじゃないかと考え、違う音を新たに学習させたり。中には音を繰り返したくさん学習させた方が精度が上がるんじゃないかと、一つの音につき10回以上xModに学習させる参加者がいたりとアプローチも様々です。

xModでボウリングにチャレンジ! 何度も学習と試行を繰り返す参加者も。

多くの人がAIを使う側からつくる側に!

xDiversityプロジェクトは人や環境の「ちがい」をAIとクロスさせ、多くの人々に寄りそった問題解決の仕組みづくりを目指し、研究を進めているプロジェクトです。様々な人が集う未来館で、これまでも多様な人が一緒にできないことの壁を取り払い、できることをより拡張するための方法を考えるワークショップなどを行ってきました。

xModは敷居が高く感じる機械学習の体験をより手軽に、多くの人に届けるために開発が進められてきたデバイスです。今回の体験会ではxModを囲んで研究者と参加者の隔たりなく機械学習に触れ、xModにできることを探る議論がされていました。xModにどう学習をさせれば精度よく行動できるようになるか、どうすれば自分なりのxModを作れるか、参加者のみなさんが試行錯誤する姿から、多様な人がAIをつくり、意見を交わすことで、そこから思いもかけないアイデアが生まれてくる可能性を感じた一日でした。

みんなの困りごとを起点に座談会! 「 「AI×わたし」で世界が変わる? xDiversityの挑戦」

同日には、xDiversityプロジェクト研究代表者である落合陽一さん(筑波大学 准教授)をはじめ、プロジェクトに所属する研究者の菅野裕介さん(東京大学 准教授)、遠藤謙さん(ソニー CSL / 株式会社Xiborg代表取締役)、本多達也さん(富士通株式会社)の4名が集まり、座談会形式のトークイベントも行われました。

テーマは事前に来館者のみなさんに付箋で回答してもらった2つの問いです。

「あなたのちょっとした“困りごと”は?」

→「あなたの困りごとを楽しむために、どんなこと(道具・仕組みなど)があるといいですか?」

展示フロアで約2週間アイデアを募集したところ、なんと300枚近くの付箋を書いていただきました!

「あなたのちょっとした“困りごと”は?」→「あなたの困りごとを楽しむために、どんなこと(道具・仕組みなど)があるといいですか?」 
あなたならなんて書きますか?

座談会ではxDiversityプロジェクトのメンバーが事前に選んだ気になる付箋について、あれこれお話をしていきます。

「一見、同じ困りごとでも、よくよく見ていくと違う悩みじゃない?」、「困りごとに対しての解決策を書いているけどこれって本当に解決に繋がる?根本の問題は別のところにあるのでは……?

 

多様なみなさんの考えを知り、一緒に困りごとを乗り越えていく方法を考える。これはxDiversityプロジェクトと未来館がずっと一緒にやってきたことでもあります。わたしたちはそれぞれ性格も違えば、得意なこと、苦手ことも違います。困っていることやそれをどう解決したいかもいろいろで、一つの解決策ではないはずです。

プロジェクトのメンバーが来館者の困りごとを分解し、その人の背景にある“ちがい”を想像しながら問いを深めていく様子を、アーカイブ動画からぜひご覧ください。みなさんのちょっとした困りごとへの思わぬ処方箋が見つかるかも。

xDiversityプロジェクト https://www.miraikan.jst.go.jp/research/facilities/xDiversity/

AIをつくってみよう!君だけの音で動かすおもちゃ https://www.miraikan.jst.go.jp/events/202406293486.html

AI×わたし」で世界が変わる? xDiversityの挑戦 https://www.miraikan.jst.go.jp/events/202406293485.html

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