大阪・関西万博が2025年4月13日から10月13日まで開催されています。みなさんはもう行かれましたか? 実際に入ってみると、パビリオンの外観や休憩所などに水景や植物がたくさん使われていて、散歩するだけでも結構楽しいものです。
とはいっても、夢洲は臨海部の埋立地。植物にとってはなかなか過ごしにくい環境です。
今日は会場でいきいきと生い茂る植物に注目していきたいと思います。これから万博に行かれる方も、ぜひ歩いている最中やパビリオンに並んでいるときに注目してみてくださいね!
埋立地の環境は植物を選ぶ!
さて、万博会場がある大阪・夢洲は、面積が約390ha(甲子園球場約100個分!)の埋立地で、四方を海に囲まれています。風を遮るものも少なく、歩いていると横風が強く吹くタイミングがありました。
冒頭に万博会場は「植物にとっては過ごしにくい環境」であるとお伝えしましたが、このような塩分を含む潮風は、植物によっては致命傷になる可能性があります。
一つ目の原因は「浸透圧」。浸透圧とは、濃度が異なる水が隣り合うときに、水が濃度を一定に保とうとする圧力のことです。浸透圧は動物や植物の体がうまく機能するために必要な原理です。
植物の平均的な食塩濃度は0.59%~1%、水道水の食塩濃度はほとんど0%です。そのため、通常の水やりの際は、食塩濃度は植物内>植物外となります。植物は浸透圧の『濃度の薄いほうから濃い方に水分子が移動する』という仕組みを使って、水を根から葉などに届けています。
一方、海水の平均塩分濃度は3.4%です。土に海水が混ざったり、潮風が葉にあたったりすると、食塩濃度が植物外>植物内となってしまい、浸透圧の高低が通常と逆になります。それにより、植物の中→植物の外に水が排出されてしまい、植物はそれを止めることができないのです。つまり、土壌の塩分濃度が高まることで根から水分が逃げてしまい、植物は脱水症状になります。

もう一つの原因は、塩分が体内に入ってきてしまうことです。植物の体内のナトリウムイオン濃度より外の環境の濃度が高い場合、ナトリウムイオンが、細胞膜にあるナトリウムイオンとよく似たカリウムイオンを透過させるタンパク質(イオンチャネル)などを通って、植物の体内に入ってきてしまいます。ナトリウムイオンは植物にとって「毒」になってしまうことが多く、植物内の元々のイオンバランスが崩れてしまうと、細胞内の酵素がうまく機能しなくなるなど、代謝機能が低下してしまいます。


そんなわけで、海の近くは多くの植物にとって生きにくい環境です。一方で、わがままですが人間が生活するうえではやはり植物とつながりをもちたいですよね。「埋立地にどんな植物を植えたらいいか」は昔から研究・検討されていますが、とくに塩害に強いとされているのはクロマツです。たしかに日本三大「松」原の風景を思い起こすと、波飛沫があたりそうな位置にマツが植わっているのが想像できます。葛飾北斎の「富嶽三十六景」にもマツが描かれており、昔から『海岸=マツ』 は定石だったのかもしれません。マツ以外にも、ウバメガシやスダジイなども潮風に強く、沿岸から1km圏内でも問題なく成長できるようです。
さて、本題です。埋立地である万博にはどんな植物が植わっているでしょうか?海の近くということは、マツばかり……?
万博は緑がいっぱい!







さて、たくさんの種類の植物が確認できました。どんな植物を植えるかを考える際には、その土地の特徴や管理の手間などをあらかじめシミュレーションする視点が求められます。
にお伺いしたところ、万博の西側や南側は、より塩害の影響を受けやすいとのことで、塩害に強い樹木を選んでいるとのことでした。西側ゲートと東側ゲートでは、見られる木の種類も違うということですね! 同じく大屋根リングの上の植栽についても、潮風の影響で地上より塩害を受けやすいため、こちらも塩に強い種類の植物の選定が必要であるとのことでした。先に載せた大屋根リングの上のネモフィラは塩害に弱い種とされておりますが、人の手で潅水を行うことにより塩分を洗い流すなどで対策をしているようです。
万博会場のど真ん中!「静けさの森」
万博のなかでも、とくに緑が生い茂っているのが「静けさの森」というゾーンです。会場の中央に位置しており、海からは400mほど離れたところにあります。実際に行ってみると、こんな感じ。

多様な樹木が確認できました! マツは見当たりません。
にお聞きしたところ、静けさの森はあまり塩害を受けない場所のようで、コナラ、サクラなど里山系の樹種を選んでいるとのことでした。でもこの森、ただの森ではありません。吹田市にある1970年の万博の会場になった万博記念公園や、そのほか大阪府内の公園で管理のために間伐される予定だった木々を移植することでその多くがまかなわれているとのことです。その数、約900本!
間伐とは、森林の成長に応じてその一部を伐採することで、過密となった木の密度を調整することです。間伐により森林の適正な密度を維持し、根を丈夫にしたり、背の低い植物も共生できるようにします。低木がよく育つことで、地滑りを防いだり、保水能力の向上が期待できます。
つまり、間伐予定だった木々を「静けさの森」に移植することで、府内の公園の森林を健全に維持しながら、万博の緑も増やせて、みんなハッピー! というわけです。
もし潮風に強いマツだけの森やある1種類だけの森になると、「静けさの森」もきっとまったくイメージの違うものになったと思います。多種多様な木々があるおかげで、埋立地を歩いているはずなのに、まるで自然の中を散歩しているような安らぎを感じることができました。
ちなみに、間伐予定だった木を見分ける方法があります。それは、『形』です。万博のために新しく購入された木はこまめに手入れがされていてまっすぐな形ですが、間伐を逃れて? 移植した樹木は、細く背の高い木、片一方に伸びている木などバリエーションが豊かです。
「静けさの森」は万博の真ん中にありますので、万博に行かれる予定のある方は、ぜひ「どの木が公園の森で育った木かな」なんて予想してみてくださいね!

というわけで今回は万博の中で気になる植物ついて紹介しました。これから季節の移り変わりによって、万博会場内の植物たちは色を変えたり、花が咲いたり、今とは違う姿を見せるかも? ぜひ植物にも注目して、万博を楽しんでください!
取材協力:2025日本国際博覧会協会
参考文献:
https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=0126
一般社団法人 日本作物学会「作物の塩害の整理機構とその対策」
https://cropscience.jp/earthquake/%E4%BD%9C%E7%89%A9%E3%81%AE%E5%A1%A9%E5%AE%B3%E3%81%AE%E7%94%9F%E7%90%86%E6%A9%9F%E6%A7%8B%E3%81%A8%E3%81%9D%E3%81%AE%E5%AF%BE%E7%AD%96/
一般社団法人 日本埋立浚渫協会 「Umidas 海の基本講座」
https://www.umeshunkyo.or.jp/marinevoice21/umidas/259/index.html