街のみどりを支える「土」! 〜みどりの学術賞の研究紹介〜

夏が近づいてきましたね!
身近なみどりに毎日癒されている、みどりの科学コミュニケーターの深津です。

駅から未来館に行く途中の道では、アジサイがきれいに咲いています!

未来館のある東京お台場は、人工的な街ですが、さまざまな植物と出会うことができます。冒頭のとおり今月はアジサイがきれいですが、真夏になればサルスベリの花、秋にはどんぐり(マテバシイの実)、春にはサクラ......と、さまざまな花や実が季節ごとに私たちを楽しませてくれています!

お台場でも、春はサクラ、秋はどんぐりが楽しめます!

でもみなさん、よく考えてみてください。
未来館のあるここお台場は、かつては海で、埋立地として人工的に造られた土地なのです。アジサイもどんぐりの木も人が植えたものです。自然の森とは大きく異なる環境のため、植物の立場からしてみれば暮らしにくい側面も多いかもしれません。
しかし!ご覧の通り、花や実をつけるほど生き生きと成長しています。そのヒミツはどこにあるのかというと...。
みなさん、普段見ている花や実から、ちょっと目線を下げてみてください!
そう、今回のブログでは、みどりを支える「土」に注目します!

◆植物が育つための土とは

陸上で植物を育てるには、土が必要です。土と一言で言っても、小石まじりの土や粘土質の土など、その種類はさまざま。土の種類によって、硬さ・通気性・保水性・透水性(水が浸み込むはやさ)・化学的性質(酸性・アルカリ性の程度や、土に含まれる成分など)が異なります。
また、土自体の性質以外にも、地下に根を広げられる十分なスペースがあるかどうかも、植物にとっては重要な要素です。これらの要素が揃ってはじめて、植物は育つことができます。

植物が育つために必要な、土の要素

冒頭で紹介したようなお台場などの埋立地、また屋上などの建築物の上の土地では、人間の都合で土を盛っているので、土の状態が自然のものとは異なります。植物の生育のことを考えずに土地を整備すると、植物にとっては条件が合わない土地になってしまいます。そのような「人工地盤」をみどり豊かにするには、どのような土をどれだけ使えばいいのか?実はこの研究を行ったのが、今年のみどりの学術賞の受賞者、輿水肇(こしみず・はじめ)先生です。

輿水肇先生(公益財団法人都市緑化機構 代表理事・理事長)

輿水先生は、都市化により人工地盤が増えていくなかで先駆的に研究を進め、人工地盤の街でみどりを増やす方法を確立した先生なのです!
では、人工地盤での緑化を支えた研究とは、一体どのように行われてきたのでしょう?

◆研究を進めるために、とにかく聞いて回る!

輿水先生が研究を始めたのは昭和40年代。当時の日本では、人工地盤での緑化についての研究はほとんどありませんでした。海外にいくらか先行研究はあったものの、日本の気候、日本の植物に合わせた知見をまず集めるところから始める必要がありました。
加えて、人工地盤での緑化というものは様々な分野が融合した分野でもあります。土と植物の関係については生物学や農学の分野ですが、土と水の関係は物理学、土に含まれる成分については化学も関係します。そこで輿水先生は土に関する文献を図書館で読み漁り、わからないことは助手仲間に聞いて回ったのだそうです。

今だったらインターネットで検索をすれば、どういう分野が関係しているのかを知ることができますし、読みたい論文にもたどり着けます。しかしネットがない時代、関係する情報を自分の足だけで集めていったというのは、想像するだけでもとても大変なことだ、と深津は思いました。

◆有効土層とは

輿水先生は、植物が根を使って土に含まれる水をどのように吸収するか、あるいは水の吸収を補ったり抑えたりする土の性質などを調べていきました。そうした調査を続けるうちに行きついた考えが、「有効土層」です。
有効土層とは、植物が「生き生きと」育つために必要な土のことです。この「生き生きと」が、大事なポイント。どういうことかと言うと、都市で植物を植える際、植物が必要とする分の土を確保する必要がありますが、コストを考えれば使う土の量は抑えたいところです。また、屋上などに緑地をつくる場合は、建物がその重さに耐えられる量にする必要もあります。しかし植物がギリギリ何とか生きているような状態では、つまり花や実もつけず葉もまばらといった弱々しい姿だと、緑化植物としてふさわしくありません。
そこで輿水先生は、植物が生き生きと育つために必要な最小限の土の厚さを、根拠をもって示せるよう、その数値を調べようとしたのです。

有効土層の概念図

輿水先生は、公園の木や道路、そして屋上など、植物が植えられているさまざまな場所に足を運び調査を行い、土の状態とそこに生育する植物との関係を細かく調べていきました。いくつかの深さから採取した土の水分量と、そこに生える植物の葉の水分量との関係を調べることなどを通して、芝生、草花、樹木のそれぞれに必要な有効土層の厚さを求めていきました。

渋谷にある宮下公園。ここでも調査を行ったそうです。

◆人工地盤は丘にもあり!?

ここまでは「人工地盤」として、埋立地や建造物の上などを例に挙げてきましたが、実は丘を切り崩してできた土地も人工地盤のひとつであり、緑化をするには難しい場所なのです。
なぜかと言うと、丘を切り崩すということは、これまで植物が根を生やしていた表面部分の土が切り崩されて失われ、代わりに植物の生育には不適な、硬くて水はけの悪い土が表面に出てきてしまうからです。

丘を切り崩すと、表面の土が変わってしまう

輿水先生は、このような丘を切り崩してできた土地でも調査をしました。
都内では多摩ニュータウンなど、大規模な開発が行われた場所があります。輿水先生は、丘を切り崩した土地に植えられた木の生育具合を調査しました。その結果、切り崩して表面に出てきた土で育った木は、生育が悪いことが明らかになりました。
輿水先生は、この結果を受けて対策方法を考え、植物の生育には不適な土地の上に土を盛って木を植える方法を確立させました。

◆マニュアルを通して、現場の人とも協力!

このように、人工的な土地での緑化の方法を確立させていった輿水先生。しかし、街のみどりを維持するのは、決して輿水先生のような研究者だけではありません。実際に作業をする工事現場の方々も、大きく関わります。
そこで輿水先生は自らがリーダーとなり、みんなで街のみどりを増やし保っていけるよう、「緑化事業における植栽基盤整備マニュアル」を作成しました。

「緑化事業における植栽基盤整備マニュアル」は、18ページの中に、緑化を始める際に行う土の調査方法、土に含まれる水分や固さの目安となる数値、植物が生き生きと育つための土を整備するための計画や方法などが書かれています。
このマニュアルによって、現場でみどりを維持する人たちがデータを参照することができ、今でも造園工事のスタンダードとして活用されています。

◆興味が湧いたあなたにオススメ情報!

さて、ここまで読んで頂いた皆さんは、きっと輿水先生のご研究に興味が湧いたのではないでしょうか?研究の詳しい話、調査にまつわるエピソード、輿水先生の研究に対するアツい思いを、ご本人から直接聞いてみたくないですか!?
実は今後、輿水先生をお招きするイベントが未来館の内外で行われます。足を運べば、街のみどりに対して新たな発見ができること間違いナシです!

☆ 6月22日(土)「みどりの学術賞」受賞記念講演会
(主催:内閣府、協力:日本科学未来館。以下のURLにて16日(日)までの事前申込制となります。ギリギリの告知となり大変申し訳ありませんが、まだ間に合います!)

☆ 8月4日(日)未来館でのトークセッション
(主催:日本科学未来館)
※なお、前日3日(土)には同じくみどりの学術賞を受賞された矢野昌裕先生がご登壇されます。そちらもぜひ!

皆さまのご参加を、どうぞお待ちしております!!

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