タンパク質ワールドへようこそ!~来館者のきもち編~

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―あなたにとって、"タンパク質"とは?

みなさま、こんにちは! ろくちゃんこと六本木です。

未来館では展示フロアで15分の「タンパク質トーク」を行い、来館者のみなさまにタンパク質の大切さ、おもしろさをお伝えしております。食べ物の栄養素としておなじみのタンパク質ですが、私たちが見たり、聞いたり、歩いたり、食べたり、消化できたりするのは、全部、からだの中のタンパク質のおかげ。植物が育ったり蛍が光ったりするのだってそう、タンパク質のおかげ。タンパク質は私たち生き物の生命活動を支えている、そんな話をトークでは紹介しています。

ところでみなさんは、タンパク質と聞いて、何をイメージしますか?

ろくちゃんの「タンパク質トーク」では、来館者のみなさまに「あなたにとって、タンパク質とは?」と必ずお聞きします。その結果がこちら!

20200217_roppongis_01.jpg科学コミュニケーター・トーク「タンパク質ワールドへようこそ!」より作成(期間:2019年1月7日~2020年2月15日)

肉、卵、大豆、魚などの食品をイメージする方が半数以上という結果が出ました。続いて、筋肉、栄養素、そしてからだに必要という意見もあります。みなさん、タンパク質はからだにとって大事なもの、という認識のようですね。

ではみなさん、からだの中でタンパク質がはたらく、というイメージはお持ちですか? 

たとえば、私たちのからだの中にあるヘモグロビンというタンパク質は、酸素を私たちの細胞に送り届けてくれる、いわば郵便屋さんのようなはたらきをします。私たちのからだの中には約10万種類ものタンパク質があるといわれていますが、実は、それぞれのタンパク質が、それぞれに"はたらく"ための、"かたち"があるんです。「タンパク質トーク」では、そんな"かたち"の重要性をお伝えしています。

今回のブログでは、「タンパク質ワールドへようこそ!~来館者のきもち編~」と題して、トークをお聞きいただいた来館者のみなさまからお預かりしたご質問や感想を、研究者たちにぶつけてみました!

さてさて。来館者のみなさまは、なにに興味をもったのか。そして研究者は、どのような回答をしてくれるのか。来館者のきもちと研究者のきもち(できればろくちゃんのきもちも)、どうぞお楽しみください!


まずは、タンパク質はからだにとって大事だと思いトークを聞きに来た、という40代男性の方からのご質問です。

「どうして、タンパク質に興味をもったのですか?」

お〜!直球でドキッとする質問ですね!六本木もかれこれ9年ほどタンパク質のおっかけをしておりますが、こんな質問は初めてでした。でも、私にはこうしか答えられない。「だって、好きなんです。小ちゃなタンパク質たちが実は私たちの身近なところで一生懸命はたらいてくれているなんて、かわいいですよね!そうそう、タンパク質の結晶もかわいいんですよ!(謎回答)」面目ないので、別の方のご意見も聞きたいです。

お答えいただくのは・・・

日本のタンパク質構造解析の第一人者、大阪大学蛋白質研究所の
中川敦史(なかがわ あつし)先生です!

―どうして、タンパク質に興味をもったのですか?(来館者)

「複雑な構造(かたち)を自分の目で見たい」と思ったのがきっかけでしょうか。

小学生の頃はとにかく理科が好きで、虫とりもしていたし科学の読み物もよく読んでいました。というか、自分には理科しかできなかったんだね。社会や体育は得意ではなかったし。高校に入ると物理や化学に夢中になりました。物理や化学の先生から色々なことを教わったのだけれど、特に科学−サイエンス−に対する考え方、本質的なところを知ることができました。こういう、「人との出会い」がなかったら、今の自分はありませんでしたね。

大学では天然物有機化学に興味を持ち色々と勉強していました。ものの複雑な構造を見る、ということに出会ったのはちょうどこの頃。確か地学の課題として読んだ鉱物の本で知りました。本には、X線結晶構造解析という方法が載っていた。複雑な天然物の構造を明らかにすることができる、もっとも強力な方法です。先ほど人との出会いの話をしたけれど、坂部知平先生と知り合うことができたことも、今の自分につながっています。坂部先生はX線結晶構造解析でタンパク質の構造を見ることに挑戦されていました。当時は、今と違ってタンパク質のX線結晶構造解析は国内ではほとんどされておらず、阪大蛋白研(角戸正夫先生)、東大薬学部(三井幸雄先生)、鳥取大(月原冨武先生)、名大(坂部知平先生)の、4グループだけ。その中で自分も、あの鉱物の本で出会ったX線結晶構造解析を使って、タンパク質の構造を自分の目で見たい!タンパク質の世界初の構造を明らかにしてみたい!そんな挑戦心から、タンパク質に興味をもちましたね。


さて。中川先生のお話の中に、「物理」や「化学」という単語が出てきました。タンパク質って、「生物」の分野なんじゃないの?実は、ここに注目する来館者の方々もいらっしゃるようですよ。物理学を専攻している、大学生のみなさまからのご感想です。

お答えいただくのは・・・

物理学の総本山と名高い、高エネルギー加速器研究機構の
松垣直宏(まつがき なおひろ)先生です!

―タンパク質の研究って、生物分野だけのイメージでした。物理分野とも関係がありそうですが・・・?(来館者)

タンパク質の研究と聞いて、生物や食品などの研究という風にイメージを持っている人は多いのかもしれません。研究対象が生物や食品ではあっても、分子からできている物質なのですから、物理法則に従いますし、化学反応も起きています。つまり、背後には物理や化学があるわけです。タンパク質のかたちやはたらき、もっと言うと生き物の仕組みは、現代の物理や化学の言葉で原理的には説明できると多くの科学者は考えています。タンパク質の研究で得られた結論は、少なくとも物理法則に則っていることや化学反応に従っていることが求められますし、実験が困難な部分は、物理化学の法則を使ったシミュレーション計算を行うこともあります。

ところで、タンパク質のかたちを調べるX線回折装置は、タンパク質分子によって光(X線)が物理法則に基づいて散乱することを利用しています。その散乱の方向や強弱から逆算してタンパク質分子のかたちを知るわけです。非常に明るいX線を作り出す放射光実験施設では、有名なアインシュタインの相対性理論を駆使した粒子加速器が使われています。


さて、タンパク質そのものを調べることで明らかになるタンパク質の"かたち"や"はたらき"は、私たちの身近なところにもつながっています。来館者のみなさん、次にご紹介するこんな身近な話題に「そうだったんだ!」と大きく頷かれる方が多いんですよ。お子さんといらした30代女性の方から。タンパク質と「薬」の話を聞いての、ご感想です。

お伺いするのは・・・

岩手医科大学薬学部にてタンパク質研究をされている、
阪本泰光(さかもと やすみつ)先生です!

―薬とタンパク質が関係しているなんて。感激しました。(来館者)

薬を開発する上で、ヒトや病原体のタンパク質がどこでどのようにはたらいていて、どのような立体構造(かたち)なのかを知ることが必要です。

この冬、アメリカではインフルエンザが大流行して、亡くなった方も1万人を超えています。インフルエンザに効果のあるタミフルという薬は、インフルエンザウイルスが私たちの体の中で増えるときに欠かせない、ノイラミニダーゼというタンパク質にくっつきます。そうすることで、そのはたらきの邪魔をします(インフルエンザウイルスが体内で増えにくくなります)。タミフルはノイラミニダーゼの立体構造に基づいて、それにくっつく化合物を設計する手法で開発されました。"標的分子の立体構造(かたち)に基づくドラッグデザイン"という手法です。慢性骨髄性白血病治療薬のイマチニブも同じ手法で作られた薬です。がん細胞の増殖を助長するある特定のタンパク質を標的分子として、そのかたちにぴったりの化合物が設計されています。

もともとタンパク質には、それが作用する別の特定の分子(基質)と、鍵穴と鍵のようにぴったり合わさるという性質があります。その特定の相手とだけ、ぴったり合わさります。"標的分子の立体構造に基づくドラッグデザイン"は、タンパク質の鍵穴に入って、取れにくい物質を設計する、というようなものです。鍵穴に薬が入ってしまえば、鍵が入ることができなくなり、悪さをすることができなくなるのです。


あれ。でも、そもそも鍵穴のかたちって、そんなにちゃんとわかるものなの?どうやって調べるの?この話題に興味を持った来館者の方も多かったですよ。タンパク質のかたちに驚いた、という40代男性の方からのご質問です。

お伺いするのは・・・

宇宙航空研究開発機構JAXAきぼう利用センターの
山田貢(やまだ みつぐ)先生です!

―タンパク質のかたちって、細かいところまで正確にわかるものなんですか?(来館者)

タンパク質は大きさが1~10ナノメートル(1ナノメートルは1mの10億分の1)というとても小さい分子で、普通の顕微鏡でかたちを見ることができず、電子線やX線を使わないとみることができません。

X線を使ってタンパク質のかたちを調べるときには、同一のタンパク質を規則正しくたくさん並べて"結晶"にします。そこにエネルギーがきれいにそろったX線を当てて、X線がどちらの方向にどれくらいの強さで跳ね返ったのかを調べることで、タンパク質のかたちを調べることができます。同じかたちのタンパク質をたくさん規則正しく並べた"結晶"がタンパク質のかたちの情報を増幅してくれるので、この方法で調べたタンパク質のかたちはとても正確なものです。きれいなデータをつかってかたちを調べたときには原子と原子の間の結合の距離の誤差は0.005ナノメートルというとても小さな誤差で正確にかたちを決めることができます。ただし、きちんと規則正しく並んだきれいな結晶を作ることが難しいというのが玉にきずです。

最近は電子顕微鏡をつかってタンパク質のかたちを調べることができるようになってきました。ほんの少し前まではこの方法でタンパク質のかたちを正確に調べることは難しかったのですが、いろいろな技術の進歩のおかげで、X線を使う方法とほとんど同じくらい正確にかたちを決められるようになってきました。この方法はグリッドと呼ばれる薄い板にタンパク質をのせて、急速に凍らせたものを電子顕微鏡で観察します。X線を使う方法とちがって結晶を使わないので、かたちの情報を増幅することができません。そこで何万個、何十万個の同一のタンパク質を電子顕微鏡で観察して、コンピューターの中でかたちの情報を増幅します。この方法はX線を使う方法よりも正確さは劣るのですが、タンパク質がフラフラと揺らいでいるのか、カチッと固いのかを調べることができます。さらに、結晶を作るのが難しい巨大なタンパク質のかたちを調べることもできるので、最近ではX線を使う方法と同じくらい使われています。

メリット・デメリットを整理すると、X線を使った方法では結晶を作るのが難しいけれども、結晶ができれば正確なかたちを決められます。一方、電子線を使う方法はX線を使う方法よりすこしだけ正確さが足りないけれども、結晶を作らずに巨大なタンパク質やフラフラ揺らいでいるタンパク質のかたちを決めることができる、ということです。


以上、4組の来館者と4名の研究者の"きもち"をご紹介しました。

もうお腹いっぱいですか?でも、せっかくだから来館者のみなさまにお聞きしたものと同じ質問を、研究者の方々にもしてみましたよ。

―あなたにとって、タンパク質とは?

中川先生より
最初は、X線結晶構造解析の挑戦対象としての分子でした。ですが、複雑さと分子のうつくしさ、そして精緻な働きには、いつも感銘をうけています。はたらくためのかたちを自らつくりだすタンパク質。そんなタンパク質の自然現象の中に、うつくしさを感じます。

松垣先生より
複雑で不規則なかたちをした巨大分子で、そのかたちを見たい・決めたいと思う対象です。タンパク質は生体の中でさまざまなはたらきを担っていて、かたちも大きさも千差万別です。かたちからはたらきが予想できるものもありますが、どうしてそのかたちなの?と思うものもあります。タンパク質のかたちを明らかにする構造生物学者は生き物の仕組みを分子のレベルで解き明かそうと、タンパク質のかたちとはたらきを結びつけようと努力していますが、私にとってはその予測できない姿をいかに迅速に、精密に見ることができるかという挑戦相手です。まだかたちが分かっていないタンパク質はたくさんあります。放射光という非常に明るい光を使ってタンパク質のかたちを決めるという施設で働いていますが、研究者の皆さんが結晶になったタンパク質を持ってきて良いデータが得られ、タンパク質のかたちが浮かび上がってくる瞬間は感動モノですよ。

阪本先生より
私がタンパク質を意識したのは、大学生になってからです。高校生の頃は、DNA→(転写)→mRNA→(翻訳)→タンパク質ということを学びました。そして、その頃はヒトゲノム計画によってヒトゲノムの塩基配列がわかれば生命の謎が解明されると、私だけでなく多くの人が信じていたと思います。大学に入ってからタンパク質にはとても多くの種類があることを知り、タンパク質のはたらきはゲノム配列の解読だけではほとんど分からず、タンパク質のかたちと密接な関係がありそのかたちを解明することが、はたらきを明らかにすることへとつながっていることに気づきました。1960年からの60年間でタンパク質や生体高分子のかたちに関連して授与されたノーベル賞は30以上にもなります。タンパク質は、生命の謎を解く鍵であるとともに、私たち生命を支える影の役者ですね。

山田先生より
高校生の時にあまりにも暇だったのでNHKがやっている高校生物のテレビ授業をみました。その番組は免疫細胞がMHCというタンパク質をうまく使って自分(自己)と異物(非自己)を巧妙に見分けて、攻撃をするかしないかを決定しているという内容を東京理科大学生命科学研究所の多田富雄先生が講義していました。教科書では免疫細胞に攻撃されないようにする仕組みを言葉と文字と記号で説明されていましたが、その番組ではMHCタンパク質のかたちを示していて、野球のキャッチャーミットのような部分に"自分だという目印"のペプチドを結合させて免疫細胞に攻撃されないようにする仕組みを説明していました。ウイルスに感染している細胞は"ウイルスに感染していますという目印"をだして免疫細胞に知らせていることも説明してくれていました。

「百聞は一見に如かず」ということわざを頭では知っていましたが、そのテレビを見た時が生まれて初めてそのことわざを体験した瞬間です。それからタンパク質のかたちを見ることのすごさに憧れ、いろんな「百聞は一見に如かず」に驚かされ、今日までずっとタンパク質のかたちを調べる仕事を続けています。私にとってタンパク質とは、偶然出会って一目ぼれした絶世の美女」という感じです。無限にある出来事・可能性の中から、たまたま夜にボーッと見ていたテレビを見て、一瞬で恋に落ちました。いつか私の仕事の結果が誰かの「一目ぼれ」につながればうれしいと思っています。


以上、ろくちゃんの「タンパク質ワールド」、いかがでしたか?
みなさま、またお会いしましょうね!ありがとうございました。