さまざまなダメージを「大きさ」と「発生可能性」で科学的に評価し、総合的に対策を考えていく──。すべての中から重大なものを優先して対処する考え方は、より効果的にリスクを下げることにつながるはずです。
前回、災害ダメージ=ハザード×社会システムという考え方で、起こり得る多種多様なダメージを考えました
未知のものも含めると、ダメージの数は膨大になります。それに、うまく対応していくひとつの方法として。
リスク評価の研究がご専門の岸本充生教授(東京大学公共政策大学院)は、多種多様なダメージを「リスクマップ」で見える化することを紹介しています。守りたいものを明確にした上で、個々のダメージを「大きさ」と「発生可能性」の二軸で評価するのです。
身近な例として、学校の運営を考えます。
※本記事は、3月6日に行ったサイエンティスト・トーク「未知の災害ダメージを『想定外』といわないために」報告記事の項目別の詳細(4本中2本目)です。全体像については、「『想定外』と言わないための、リスクとの向き合い方」をご参照ください。https://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/20160325st.html(リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)
まず、「何を守りたいのか」。学校の場合は、「児童・生徒の生命・健康」が第一となるでしょう。
脅かすリスクとして、交通事故、自然災害、部活動の事故、食中毒、不審者の侵入、誘拐、火災、いじめなどが挙げられます。
それらの可能性と、発生時のダメージを、蓄積されたデータや現場での話し合いによって評価し、マップに落としていくのです。前回記事の「社会システム(曝露×脆弱性)」を「学校の状況(曝露×脆弱性)」と置き換え、「ダメージ」=「ハザード」×「学校の状況」をやってみることも有効でしょう。
また、守りたいものが複数ある場合(学校だと「教職員の健康」や「子どもが成長するための経験・機会」、「所有する貴重な文化財」などもありそうです)、重み付けをしながらバランスを取っていく作業も必要かもしれません。
最終的に、学校の状況によって異なるマップができあがり、優先すべき対策を判断する材料になります。
広い視野で総合的にリスクと向き合う「オール・ハザード・アプローチ」の考え方です。
従来の「事件衝動型」の反省
日本の安全対策・安全規制はこれまで、ダメージを受けてから再発防止策を講じる「事件衝動型」が主流でした。
学校の例なら、登下校中の誘拐事件に対する集団登下校や、交通事故に対する保護者の交通安全活動などです。
「事件衝動型」の対策は、重要ではありますが、「未知のダメージに対応できなかったり、もっと大きな隠れたリスクへの対策が後回しになったり、などの弱点がある」(岸本教授)のもまた、事実でしょう。
東日本大震災以前の原子力発電所の規制基準で、全国各地で小中規模ながら経験があった地震と比べ、原子力発電所を有してからは経験がほとんどなかった津波や重大事故発生時への対策が後手に回っていたのは、その一例と言えるでしょう。
また、各地の沿岸部で検討されたり進められたりしている「かさ上げ」「高所移転」などは、津波対策としては有効ですが、ハザードが津波だけではないということも、頭に入れておかなくてはいけません。
筆者も前職の記者時代に、事件・事故に対して「再発防止策を」という趣旨の記事を書いた際、狭い視野での検証や安直な結果論から考えていたかもしれないと、今、反省しています。
あなたもマップをつくってみませんか
「オール・ハザード・アプローチ」は、2001年の同時多発テロ事件を機に、欧米諸国で導入が進んでいるとのこと。たとえばスウェーデンでは、まず「何を守りたいのか」を明確にした上で、あらゆるハザードを挙げて、それらのリスクを評価して対策する、というサイクルを1年ごとに繰り返しているそうです。
今回は学校の安全を例に説明しましたが、「オール・ハザード・アプローチ」は個人や組織、自治体、国家、地球規模でも応用できる考え方です。
また、「ダメージ」=「ハザード」×「システム(=曝露×脆弱性)」という考え方も、本記事で学校を舞台に考えたような応用が可能です。
イベント参加者アンケートで、「会社や個人のリスクマップを考えてみます」というコメントをいただきました。
みなさんも一度、自分や家族、会社などを取り巻くリスクをマップ化してみてはいかがでしょうか。
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「想定外」と言わないための、リスクとの向き合い方 =本編=
https://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/20160325st.html(リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)
ダメージ=ハザード×(曝露×脆弱性) =詳細補足①=
https://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/20160325post-661.html(リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)
ダメージの「大きさ」と「発生可能性」を見える化 =詳細補足②=
→この記事です
安全とは? =詳細補足③=
https://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/20160325post-663.html(リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)
科学的な整理と、価値観を踏まえた合意形成 =詳細補足④=
https://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/20160325post-664.html(リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)