笑えて、そして考えさせられる研究に贈られるイグノーベル賞。本日、日本時間で朝の7時から授賞式が行われ、今年も見事に日本人が受賞しました!おめでとうございます!!授賞式の様子や、見事に受賞された研究について、科学コミュニケーターの田中がご紹介します!
5歳児の唾液分泌量はどのくらい?
今年の日本人のイグノーベル賞受賞者は渡部茂(わたなべしげる)氏、大西峰子氏、今井香氏、河野英司氏、五十嵐清治氏の5名です。「5歳児の1日当たりの唾液分泌量の推定」で化学賞を受賞されました。おめでとうございます!
唾液は口の中を清潔に保つため、そして食べ物を消化する上で重要な働きをするもの。安静時や食事中に、どのくらいの唾液が出ているのかは重要な情報ですが、子どもを対象とした調査は行われていませんでした。そこを初めて調べたのが渡部教授たちのグループ。30名の5歳児を対象に調べた結果、平均で1日当たり500 mLの唾液を分泌していると推定されました1。この研究には、先生の息子さんも参加されたようです。授賞式では、すでに成人した3人の息子さんが、食事中の唾液分泌量をどのように調べたかを実演していました。
うん、これはイグノーベルっぽい!と思っていたら、あの女の子が登場。スピーチが長くなるとやってくるミス・スウィーティープー。「もうやめて!もう飽きちゃった!」
今年の注目の受賞研究はこちら!
他にも、ユニークな研究ばかりでしたが、ここではその中でひとつだけご紹介しましょう。物理学賞「ウォンバットはどのように四角い糞をするのか、そしてそれはなぜか」という研究。受賞されたのは、Patricia Yang氏、Alexander Lee氏、Miles Chan氏、Alynn Martin氏、Ashley Edwards氏、Scott Carver氏、David Hu氏の7名です。
人工的な構造物に四角い形のモノは多いですが、自然の中に四角い形のモノはなかなかありません。たしかに、やわらかいものを四角くするためには角を作らなければいけないわけで、自然とできるような形ではないはず。ですが、ウォンバットは四角い糞をするそう!そもそも糞はやわらかいし、糞を作っている腸だってやわらかいはずなのにどうして?!と不思議に思ったPatricia Yang氏らは、ウォンバットの腸を解剖して調べることにしました。その結果、ウォンバットの腸壁の独特な柔軟さにヒミツがあることがわかりました2,3。肛門に近い部分の腸を通ると、角が3倍ほど尖るのだそう。また、ウォンバットの糞はヒトと比べても2/3ほどの水分量ということで、比較的乾燥しているため角をつくりやすいようです。
では、なぜわざわざ四角い糞を作るのでしょうか?それはコミュニケーションのためなのだとか。巣穴の横などに糞を積んでおくことで、他のウォンバットとコミュニケーションをとることができるとのこと。糞が四角いことで、しっかりと糞を積んで置けることが重要なようです2。
この研究から、丸い筒状のやわらかい構造(腸管)を使って、やわらかい物質を原料に四角い形を作れることがわかりました。人工的に四角い形をつくるときには、四角い型を使って固めたり、切り出したりするのが一般的な方法でしたが、新たな方法が見いだされたわけです。しかも生き物の研究からわかった!というのは非常におもしろいところだと思いました。
2019年のイグノーベル賞
研究紹介の最後に、今年のイグノーベル賞全10賞をご紹介します。
医学賞(イタリア、オランダ)
Silvano Gallus
イタリアで作られたピザをイタリアで食べた場合は、ピザが病死を防ぐかもしれない証拠を集めたことに対して
医学教育賞(米国)
Karen Pryor and Theresa McKeon
「指ならしトレーニング」というシンプルな動物訓練法を用いて、整形外科手術をする外科医をトレーニングしたことに対して
生物学賞(シンガポール、中国、オーストラリア、ポーランド、米国、ブルガリア)
Ling-Jun Kong, Herbert Crepaz, Agnieszka Górecka, Aleksandra Urbanek, Rainer Dumke, and Tomasz Paterek,
生きた磁化したゴキブリと死んだ磁化したゴキブリとでは、ふるまいに違いがあることを発見したことに対して
解剖学賞(フランス)
Roger Mieusset and Bourras Bengoudifa,
裸のときと服を着たときの、フランスの郵便配達人の陰嚢の温度の非対称性を測定したことに対して
化学賞(日本)
渡部茂、大西峰子、今井香、河野英司、五十嵐清治
典型的な5歳児の唾液の総量を見積もったことに対して。
授賞式にでたのは、渡部教授と、5歳のときに被験者となった息子を含む、成長した彼の息子たち
工学賞(イラン)
Iman Farahbakhsh,
幼児向けのおむつ交換機の発明に対して
経済学賞(トルコ、オランダ、ドイツ)
Habip Gedik, Timothy A. Voss, and Andreas Voss,
どの国の紙幣が病原菌を運ぶのにもっとも効果的であるかを調べたことに対して
平和賞(英国、サウジアラビア、シンガポール、米国)
Ghada A. bin Saif, Alexandru Papoiu, Liliana Banari, Francis McGlone, Shawn G. Kwatra, Yiong-Huak Chan, and Gil Yosipovitch,
かゆみを掻くことで得られる快感を測定しようとしたことに対して
心理学賞(ドイツ)
Fritz Strack,
ペンを口で押さえると笑顔をつくることができ、その笑顔でハッピーになる──わけではないことを発見したことに対して
物理学賞(米国、台湾、オーストラリア、ニュージーランド、スウェーデン、英国)
Patricia Yang, Alexander Lee, Miles Chan, Alynn Martin, Ashley Edwards, Scott Carver, and David Hu,
ウォンバットは、どのようにして、そして、なぜ、四角いフンをするのかの研究に対して
本家ノーベル賞にも要注目!
笑えるだけでなく、考えさせられる研究に贈られるイグノーベル賞は、今年もとても興味深い研究が並びましたね。そしてイグノーベル賞のあとは、本家ノーベル賞!10月に受賞者が発表されます。未来館はこちらにも注目してさまざまなイベントを予定しています。毎年恒例となっている、ニコニコ生放送「ノーベル賞発表の瞬間をみんなで迎えよう@日本科学未来館」も実施します。私たち科学コミュニケーターが、ドタバタしながら受賞研究について生解説するほか、これまでのノーベル賞受賞研究のすばらしさや、ぜひ受賞してほしい!という研究についてもご紹介します。みんなでノーベル賞を楽しみましょう。
未来館のノーベル賞イベント
https://www.miraikan.jst.go.jp/info/1909021124685.html
ニコニコ生放送「ノーベル賞発表の瞬間をみんなで迎えよう@日本科学未来館」
・生理学・医学賞 2019年10月7日(月)17:00~19:00
https://live2.nicovideo.jp/watch/lv321924903
・物理学賞 2019年10月8日(火)17:00~19:00
https://live2.nicovideo.jp/watch/lv321925003
・化学賞 2019年10月9日(水)17:00~19:00
https://live2.nicovideo.jp/watch/lv321925071
イグノーベル賞の授賞式を見逃してしまった方はこちら!(田中も運営コメントで参加させていただきました)
https://live.nicovideo.jp/gate/lv315444113
【参考文献】
1. S.Watanabe et al., Archives of Oral Biology, 40 (8), 781-782 (1995)
2. https://phys.org/news/2018-11-scientists-wombats-cubed-poop.html (リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)(閲覧日:2019年9月13日)
3. http://meetings.aps.org/Meeting/DFD18/Session/E19.1(リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)(閲覧日:2019年9月13日)