2019年は国際周期表年!でした!

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「なんでこの表でこんなにもいろいろな人と話せるんだろう?」

「1枚の表で国籍、年齢、性別、宗教を超えて語り合える......なんてすごいんだ!」


こんにちは!日本科学未来館 科学コミュニケーターの梶井です。

冒頭からいきなりすみません。早いもので、2019年も残すところあと少し。私の1年を振り返ると、上の2つに集約されました。「表」とはもちろん、元素周期表のこと。昨年末に私の記事でご紹介させていただきましたが、今年は「国際周期表年2019」でした。つい先日、その閉会式も東京で催されました。
※記事はこちらから。国際周期表年が気になった方はぜひご覧ください
https://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/20181227iypt2019.html

20191213_kajii_01.jpg

12月5日(木)に東京で開催された国際周期表年閉会式の様子。
各人が掲げているのは超重元素(原子番号104以降の元素)
(写真: 筆者撮影)


皆さんはこの1年間、元素周期表を愛でられましたか?


私はというと、ご来館いただいた方々と周期表についてお話させていただいたり、研究者をお招きした国際周期表年のイベントを開催したり......おそらく人生で最も「周期表」という言葉を使用した1年になりました。


そういった活動を通して、私に起こった周期表に対する気持ちの変化----
「その感動をぜひシェアしたい!」と、気が付いたら本記事を執筆していました。どうぞお付き合いください。


■ 皆さんとの対話を通して浮かんだ疑問

冒頭で紹介した昨年度末の記事。私にとっては、ここから国際周期表年が始まりました。


水素(H)やニホニウム(Nh)などの元素1つ1つについて知っていることを話してくれた小学生、「図鑑」という表現で周期表を語ってくださった大人、「そういえば、昔は違う姿をしていたねえ」と懐かしむ方、「周期表?頭の中に入っています」と言う研究者......周期表を通して、いろいろな方との出会いに恵まれました。その中でも、118元素すべてを暗唱してくれた幼稚園生との出会いは、ずば抜けて衝撃的でしたが(笑)


そういった皆さんとの対話を通して、ある疑問が浮かびました。


「なんでこの表でこんなにもいろいろな人と話せるんだろう?」



■ 国際周期表年を通して感じた「周期表のココがすごい!」

ご存知の通り、元素周期表は「この世を構成する元素の性質が一目でわかる、予測できる形になっている」いろいろとすごい科学のツールです。国際連合教育科学文化機関(UNESCO)や国際純正・応用化学連合(IUPAC)は、国際周期表年に関するリリースで、「科学における最大の成果の1つ」と周期表を称しています1, 2


この科学的な意味での周期表のすごさが、私の疑問(なぜ周期表でいろいろな人と語り合えるのか)の最も根本的なところを支えていることは間違いないと思います。ですが、私がモヤモヤしていた理由はそれだけではなかったことに、皆さんとの対話や、ネットでの国際周期表年関連の国内外の活動の閲覧、国際周期表年の閉会式で見ず知らずのロシアの方とお話を通して、ようやく気付いたのです。


「1枚の表で国籍、年齢、性別、宗教を超えて語り合える......なんてすごいんだ!」


改めて、下のシンプルな周期表を思い浮かべてみてください。


20191213_kajii_02.png


「同じ縦の列(同族)の元素の性質は似ている(1列目のリチウム(Li)やナトリウム(Na)などの「アルカリ金属は反応性が高い」といったアレ)」という周期表の科学的な特徴だけでなく、「変な語呂合わせで覚えたなあ」「暗記すること多くて嫌いだったなあ」「ニホニウムが正式に認められた時のニュースはすごかったなあ」「中国の周期表は金属元素が一目でわかって面白いなあ」といった記憶や想いがポツポツと出てきませんか?


科学情報にとどまらず、こういった個人的な想いやその国に根付く文化などを語り合えることのできるツールとしての周期表という新たな視点に私は感動したのでした。


■ 何を語り合おう― 周期表を通して世界を見てみる

「人類の共通財である周期表を通して、改めて今の世界について語り合おう」というのが国際周期表年の大きな狙いだったのだろうと、今だからこそ実感をもって言うことができます。例えば、ヨーロッパ化学会議がこのイベントのためにデザインした周期表3を見てみましょう。


20191213_kajii_03.jpg

ざっくりいうと、(地球で)人工的に作らなくても存在する元素約90種がどれだけ地球に存在するのかを表したものです(マスの面積が大きいほど多くの原子が存在)。地球上のあらゆる物質が、この90元素の組み合わせでできていることをヒシヒシと感じることができますね。

この周期表にはあるメッセージが込められています。ところどころある、スマートフォン(スマホ)のイラストが描かれている元素に注目してください。私たちがふだん使用しているスマホは、現時点の科学技術では、これらの元素なくしては作ることができません。そして、そのうちの多くは存在量の少ない希少元素なのです。補足情報4に以下のような一文があります。


"Next time you are offered an upgrade of your smart phone, think again and ask yourself whether you really need it or whether you might keep the one you have for a year or two more and make your personal contribution to conserving these important scarce elements"

※次にスマホを買い替える際、本当に買い替える必要があるか、もう少し使えないかを考え直してみてください。限りある希少元素を大事に使っていくためにあなたができることは?(筆者意訳)


皆さんはこの周期表をご覧になってどのようなことを考えましたか?

私は、スマホの買い替えの際の判断など、個人個人が取れる行動の重要性を改めて実感しました。それと同時に、「それでも最新機種を使っていたい!」という方の想いも大切にしてあげたいとも思いました。例えば、よりクリーンなリサイクル技術や別の元素で希少元素を代替する方法が見つかれば、両立への道が開けるかもしれません。私たちの生活を便利にし得る科学技術と持続可能に付き合っていくために、個人行動だけでなく、社会全体でどのようなことができるでしょう。皆さんはどう思いますか?


■ 最後に

上記のスマホの例以外にも、周期表に関連した女性研究者の話をフックに、科学界におけるジェンダーギャップについて語っていた方などもいました。周期表を通して語り合うことのできるテーマは多いです。

ですが、周期表で何かを語り合うためには、少なくとも周期表を知っている必要があります。世界には何かしらの理由で十分に教育を受けることのできない人が大勢います。国連によると、世界には最低限の読み書きと算術の習得ができていない子供と思春期の若者が6億1700万人、読み書きのできない成人は7億5000万人いるそうです5。世界的に見れば教育格差の小さい日本でも、やはり格差はあります。

周期律の発見から200年となる50年後、国際周期表年2069というものが開催されているかもしれません。どんな世界になっているでしょうか...... 周期表でなくとも、科学全般、芸術やスポーツなどを通して誰1人取り残されずこれからの世界について語り合えている、そんな少し先の未来を願って、私の国際周期表年2019を終わりにしようと思います。

ありがとうございました。


【謝辞】
国際周期表年2019の国内イベントをパワフルに先導され、私に貴重な機会をくださった玉尾皓平先生(公益社団法人 豊田理化学研究所 所長)に、この場を借りて厚く御礼申し上げます。

【出典】
(1)UNESCOのリリース(※英語です)
https://en.unesco.org/news/2019-proclaimed-international-year-periodic-table-chemical-elements
(2)IUPACのプレスリリース(pdfファイル ※英語です)
https://iupac.org/cms/wp-content/uploads/2017/12/Press-Release-International-Year-of-the-Periodic-Table_UN-Proclamation_21-December-2017.pdf
(3)ヨーロッパ化学会の周期表に関して(※英語です)
https://www.euchems.eu/euchems-periodic-table/
(4)上記周期表の補足情報(pdfファイル ※英語です)
https://www.euchems.eu/wp-content/uploads/2018/09/IYPT2019_Support_notes.pdf
(5)The Sustainable Development Goals Report 2019 ―国連統計部(pdfファイル ※英語です)
https://unstats.un.org/sdgs/report/2019/The-Sustainable-Development-Goals-Report-2019.pdf