みなさま、こんにちは。蓮沼一美です。
未来館5階の展示「ともに進める医療」にある「エンドクサ(良識あるみんなの考え、という意味)」のコーナーでは、6月12日~7月31日に、「昆虫サイボーグ研究」について賛成か反対か、来館者のご意見を伺いました。
「昆虫サイボーグ」とは、飛行をコントロールする機械(電子回路ユニット)を取り付けた昆虫です。無線で送られた命令は、電気信号として昆虫の脳や神経などに送られ、羽や足の筋肉が動きます。昆虫の飛行メカニズムの解明と、それをコントロールするシステムを開発できたことで、飛行の開始・停止、上昇・下降、左右への方向転換、円を描いて飛ばすことに成功しました。昆虫が飛行する様子や「昆虫サイボーグ」の研究については、こちらからマイナビニュースの記事をご確認ください。
「昆虫サイボーグ」は次の目的を達成するために、研究されています。
(1)救援 :災害や事故の現場など、人が入るのに危険な場所での調査
(2)セキュリティー:事故や犯罪を未然に防ぐための監視モニター
(3)犯罪者検挙 :気付かれないように犯罪者やテロリストを追尾する
昆虫を使用するのではなく、今ある飛行機やヘリコプターを超小型にして、カメラを載せて無線でコントロールする方法もありそうです。ですが超小型になると、飛行機を飛ばすための航空力学が通用しなくなるので、うまく飛ばせなくなります。
また、全部を機械で作ると、大きな電力を必要とするため、現在の小型電池では数分間しか飛ばせません。
そこで、うまく飛び回れて、エネルギー効率も極めて高い、昆虫の背中にカメラなどの機械を取り付けて、その飛行をコントロールする「昆虫サイボーグ」の研究が始まったのです。
この研究を行うことについて「エンドクサ」には、以下のようなご意見が寄せられました。
全体では「昆虫サイボーグ研究反対」という声が若干多く集まりました。
反対の理由は、生き物を人間が利用してはいけないという否定的な意見や、悪用への懸念の声が寄せられました。
反対の理由
「虫がかわいそう! (女性・12歳)」
「生命があるものを利用せずともサイボーグそのものを作ってほしいです。利用目的・考えはすばらしいと思うので、ぜひロボット開発を実現して下さい。 (女性・43歳)」
「プライバシー侵害の使い方が絶対される。法的な整備ができてから?? (女性・33歳)」
「本当は賛成だが、技術の拡大により犯罪につながることも (男性・27歳)」
アンケートを集計すると「10代以下」と「20代以上」で異なった結果となり、「10代以下」の反対意見が目立ちました。
「10代以下」の方から特に多く頂いたのは「虫がかわいそう」というご意見です。3割程の方から寄せられました。
一方、賛成の意見は「人命救助への期待」や「技術の発展のために昆虫を使うことは肯定する」などがありました。「かわいそう」という現実を受け止めた上での意見や、更なる可能性に期待する意見が印象的でした。
賛成の理由
「人間がいけない所に虫がいって1人でも多くの命がたすかるならいいと思う (女性・11歳)」
「さいしょは、かわいそうだと思いましたが、それで自分の家族が助かるのなら、賛成だと思ってしまいます。 (女性・30歳)」
「悪用などの想定にこだわって科学の進歩を止めることは、研究者を育てる環境をつぶすことだから。 (女性・48歳)」
「現時点では昆虫サイボーグ化が一番最適だと思う。いずれ、超小型ロボットでの実用化ができることを願う。 (男性・22歳)」
実は私も、初めて「昆虫サイボーグ」が飛行している映像を見たときに不自然さを感じました。そして同時に、昆虫が「かわいそう」だとも思いました。
しかし、昆虫サイボーグに限らず、私たちの生活は、生き物を利用することで成り立っています。例えば、洋服にはマユや毛皮、羽毛が使われています。食卓には肉や魚、卵が並んでいます。医薬品の開発では動物実験をしています。また動物園や水族館、釣り、乗馬も生き物を利用しているといえると思います。昆虫サイボーグはこれらと何が同じで何が違うのでしょうか。
反対意見の方へ問いかけると、「昆虫を無駄に犠牲にしないなら、研究を進めた方がいい」と考えを変える方もいらっしゃいます。
研究の目的や内容を理解するには、正確に情報をお伝えし、ともに考える場が必要なのかもしれません。
そして悪用への懸念は、すぐに解決策を見いだすことができません。私たちひとりひとりが最善策を考え、意見を出し合う中で、進むべき方向が見えてくるのではないでしょうか。未来をつくるのは、研究者だけではありません。研究の動向を見ていく中で、私も自分の考えをもち、イベント等の機会に研究者へお伝えしていきたいと思います。
「エンドクサ」の良いところは、他の方の意見を知った上で、自分の考えを伝えられることだと思います。今回も、他の方の意見に反応したご意見が見られました。
他の方の意見を知ることで、さらに自分の考えを深められることもあります。ここで取り上げられなかったご意見のいくつかは「エンドクサ」でご紹介しておりますので、ご興味のある方は、ぜひご来館ください。