文化財を科学の目で探る!~「おとなのリアルラボ@東京藝大」報告(後編)~

こんにちは、本田ともみです!先日、東京藝術大学で行われたリアルラボ。

前編では全体的な報告でしたので、後編では前回お伝えできなかった3つの場面をお伝えします!

1,銀銭づくり

自分たちの銀銭を作ろう!という体験コーナー。保存科学研究室の大野直志先生が、このイベントのために金型になる定鏨(ジョウタガネ)をお手製で彫ってくださいました!

(左手で固定しているのが定鏨。この下に銀板を置き、右手の金槌で打ち付けて刻印します。本来は定鏨自体を手で握りますが、今回は取っ手をつけていただきました)

そして、製作したものがこちらです!

(本田作:ちょっと中心からずれてしまいました...が、打刻はOK!)

簡単そうに見えますが、一回でドンッと定鏨を強く打ち付けないと、印がうまく刻まれなかったり、何度も打ち付けることで印がずれてしまったり。参加者のみなさまも「お!うまくいきましたよ!」、「あー惜しい...」と一喜一憂していました。

なぜ今回銀銭を作ったかと言いますと、桐野先生のご研究が銀銭の製法と関係があるから。

昔々の桃山時代、秀吉が恩賞として与えた「永楽通宝」 という銀銭。この銀銭には製造方法が2つあったと伝えられていました。桐野先生たちは2種類の銀銭を分析し、「鋳造」と「打刻」の2つの製法があったことの裏付けを得ました。

さらに、打刻では熱処理がされていたこともわかりました。熱処理によって、割れやヒビの原因となる、金属の内部に残った歪みからくる力を取り去っていたようです。

そして研究から明らかになった当時の技法を応用してみたのが、今回の銀銭でした。

さてもう一つ、先生のお話をご紹介しましょう。

2,赤色を綺麗に残すヒ・ミ・ツ

科学技術を使って、文化財を分析していく桐野文良先生。実際にどのように研究をしているのでしょうか。

版画の浮世絵に使われる赤色。一般的に赤は退色しやすい色だそうです。

しかし同じ絵に色あせた赤と綺麗に残っている赤があったら、赤を残すヒミツを探れるかもしれません!

そこで!薄い赤と濃い赤、それぞれの絵の具を走査透過電子顕微鏡で見ていきます。

薄い赤では「紅花」だけが使われていることがわかりました。そして、濃い赤は紅花に加えて別の粒子が見えてきました。(下記写真参照↓)

「ベンガラ」と言われる鉄の酸化物が混ざっていたのです。

このことから、「ベンガラ」を紅花に混ぜると赤を綺麗に残せることがわかってきました。

昔の職人さんたちはこういった違いを、経験的に知っていたのかもしれませんね。文化財の分析は、昔の技術を科学的に伝えることにも貢献しています。

3,ディスカッション

最後に、先生方の文化財保存に関する様々な観点を教えていただきました。

参加者から、

「作られた当初の状態まで技術的に修復できるようになったとしたら、どこまで修復していくのでしょうか?」

という質問がありました。

木島先生は、

「やればやるほどきれいにはなりますが、最初の状態に近づきすぎると逆に不自然になってしまいます。

色は時間とともに退色するものですが、これをどう彩色していくかは難しい。彩色すると、今までのイメージと大きく変わってしまうことが多いからです。

なので、なるべく退色はそのまま残します」

というお答えでした。

修復といっても、一番きれいな状態に戻すのではなく、鑑賞者の思いを想像しながら進める作業なんですね。

また、桐野先生は文化財を修復する1人としてこんなお話をしてくださいました。

「文化財の経済的な価値は需要と供給で決まります。でもこれは時代や社会の変動の中で変わっていくもの。

たとえ今後社会の価値観が変わっていったとしても、私たちは傷んだ作品を分析し、修復し、その結果を蓄積していくことで、これからの作品を守ることができる」と。

先生方は、これから価値が見直されるかもしれない文化財や、今後新たに生まれる文化財をも守ろうと、日々研究されているのです。


いつもと違う気持ちでのぞくことができた文化財の世界。ここには美しさだけでなく、先人たちの想いや研究者の想いがたくさん詰まっていました。

せっかく新しい視点を持てたので、何か文化財を見てみたい!と思ったそこのあなた。

現在、東京藝術大学大学美術館(東京・上野)では、「法隆寺―祈りとかたち―」という展示会も開催中です。6月22日まで。

展示会HP   <http://horyuji2014.jp/> (リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)

先人たちがモノに込めた想い。

私もちょっと足をのばして、文化財を見つめながら、未来について考えるヒントをもらってこようかと思います。

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