前回に引き続き、ニコニコ生放送「油井飛行士、宇宙へ!フライトディレクタ生出演」のダイジェスト後編である【油井さんのミッション編】をお送りします。
JAXA・フライトディレクタである井田さんは、油井さんが宇宙にいく前からサポートしつづけている女房役です。今もまさに、地上にある管制室から油井飛行士の活動を支えているところです。そんな井田さんに、油井さんの人柄や、宇宙飛行士としての強み、関わりそうなミッションについて聞きました。
油井さんの人柄とは?強みってなに?
少し前のブログで油井さんの努力家エピソードを紹介しました。それに加え、井田さんは「油井さんは物腰が柔らかく、気遣いが素晴らしい方」ということをおっしゃっていました。
油井さんは、懇親会の時にはスタッフ全員のところをまわって挨拶するなど気遣いを欠かさないそうです。場の雰囲気を一気に和ませ、お互いに話しやすくなる空気を作ってしまうのです。視聴者から「コミュ力、大事だな」とコメントをお寄せいただいたように、小さなコミュニケーションの積み重ねを大切にしているんですね。
そして、井田さんに油井飛行士の強みは何ですか?と聞いてみたところ、
「前職の航空自衛隊でテストパイロットをやっていた経験が強み」と答えていました。新しい戦闘機や飛行機が開発されたときに、試し乗りをして、飛行機の性能などをテストする職業です。高度な操縦技術が求められるだけでなく、どんな場面でも冷静に対応する力が必要です。その能力が今回のミッションでも活きてくるのです。
油井さんが関わりそうなミッションとは!?
今回のミッションでは、これまでにはなかった新しい装置を使った実験が予定されています。油井さんがテストパイロット時代に培った経験が活きてくるところです。その装置をいくつかご紹介します。
静電浮遊炉(ELF)
ELFを使えばセラミックや金属を高温で溶かしたときの性質を精密に調べることができます。地上でも材料の性質を調べることはできますが、重力があるため材料を容器にいれて溶かす必要があります。そうすると、容器の素材物質が少なからず調べたいものに混ざってしまい、純粋に材料の性質を見るというのが難しいのです。一方、きぼうの中は微少重力空間の環境のため、材料そのものを浮かして溶かすことができます。材料の性質がわかれば、新しい機能をもった材料の開発が可能になります。現段階ではジェットエンジンに使われる新型タービンがつくれるのではと期待されています。
簡易曝露実験装置(ExHAM)
ExHAMに素材を乗せて宇宙空間にさらすことで、素材がどれぐらいのスピードで劣化していくか調べることができます。ISSの外側は宇宙放射線が飛び交う過酷な環境。この実験で、宇宙空間でも耐えられるような材料開発のヒントが得られるかもしれません。現在、宇宙エレベーターの素材として使われるのではと期待されているカーボンナノチューブが曝露されています。
高エネルギー、ガンマ線観測装置CALET
CALETは、ダークマターや宇宙線の起源など天体の謎を究明するために開発された装置です。宇宙に存在する物質のうち、これまで観測できた物質は5%にすぎないと言われています。その他はタークマターやダークエネルギーで占められていると考えられていますが、観測に成功したことは一度もありません。今回、CALETを使ってダークマターから発生する宇宙線をとらえることで、その有無を調べようとしているのです。もし、ダークマターを見つけ出すことができたのなら、ノーベル賞級の研究になるといわれており、非常に注目度の高い研究です。油井さんも「楽しみにしている」と記者会見で述べていました。
そもそもミッションってどのように選ばれているの?
「いろいろミッションはあるけれども、どういった基準で選ばれてきているんだろう?」と、私はふと疑問に思いました。その基準について調べてみたところ、JAXA・きぼうのホームページにポイントが記載されておりました。
・宇宙探査を視野に入れた技術の取得
将来、人類が月や火星にいくための技術の取得をめざしています。火星に行く場合、往復3年かかると言われています。人が宇宙船の中で長く暮らすためにどんな技術があったらいいか知見を集める研究が求められています。
・ 国の戦略的な研究開発
国が抱えている課題に対応した技術の開発が求められています。例えば、病気を治すための医薬品の開発や、私たちの生活をより良くするための新材料を開発するような研究を推進しています。
・ 民間の「きぼう」利用を本格化
タンパク質の解析や小型衛星の放出に関しては、民間の企業でも利用できるようになってきています。民間利用は昔から行われてきましたが、その動きが最近、活発化しているようです。
人類をさらに遠い宇宙へ行けるようにする技術や、地球で暮らす私たちの生活をより良くしていくための技術開発を行なっているのです。民間の利用枠も拡大しているようですし、上記の意義にあてはまるような研究であれば、皆さんもアイデアを提案できるのではないでしょうか。
アイデアが採択されれば、きぼうの運用統括をしている井田さんのようなフライトディレクタがミッション遂行の指揮をとり、油井さんのような宇宙飛行士が実行します。そして、宇宙でのミッションで得られた知見や技術が、私たちの未来の生活を変える手がかりとなるかもしれないのです。
少し大きな話になってしまいましたが、今回の油井さんが行うミッション1つ1つもまた、私たちの未来につながる可能性を秘めているのです。そんなことを心の中で感じていただきながら、油井宇宙飛行士の残り4カ月間の滞在を楽しみながら注目していただければと思います。
ここまでざっくり番組内容をお伝えしてきましたが、実際の放送では「油井さんはカール好き!?」といった話題にも触れていました。もっと詳しく知りたいという方はMiraikan Channelの動画をご覧ください。「油井飛行士、宇宙へ! フライトディレクタ生出演」
放送終了後の話になりますが、井田さんは携帯電話を見るや、すぐさま未来館を後にしました。そのときは、何があったか私たちには知らされませんでした。後日、井田さんに聞いてみたところ、スペースデブリと呼ばれる宇宙ゴミがISSに接近していたそう。ISSは高速で飛んでいるため、万が一このスペースデブリにあたってしまうと大事故へと繋がります。宇宙飛行士たちは宇宙船に避難するという緊急事態にあったそうです。結果的にことなきをえましたが、ISSを運用している人たちにとっては、宇宙飛行士はもちろん、地上スタッフも24時間休みがないということを実感しました。いろいろな人に支えられながら国際宇宙ステーションは運用されているんですね。