【祝!】遠藤章先生、ガードナー国際賞受賞!

 遠藤章先生、ガードナー国際賞受賞おめでとうございます!!

 血中コレステロールを下げる物質「コンパクチン(スタチン)」を発見し、動脈硬化の治療薬の開発に貢献した、東京農工大学 特別栄誉教授の遠藤章先生が、ガードナー国際賞を受賞されたと3月28日に発表されました。

 と言うことで、なぜ私がこのニュースを担当させて頂くかと言うと...、 実はつい先日、執筆のお仕事で遠藤先生にお目にかかったばかり、というエピソードがあるためです! 朗報を伺い、密かに舞い上がった一人がここにも!という(鼻息)。

 そこで今日は、受賞対象となった「遠藤先生の研究について」と「訪問時のエピソード」を紹介したいと思います。

コンパクチンを産生する青カビ、コンパクチンの結晶など
(東京農工大学科学博物館 遠藤章特別栄誉教授顕彰記念室にて撮影)

ガードナー国際賞と遠藤先生の受賞研究とは

 まずガードナー国際賞とは何ぞや、というお話から。
 毎年3~6人の受賞者を出しているこの賞は、医学の分野で大きな発見や貢献をした研究者に贈られる学術賞です。カナダのガードナー財団が授与するもので、医学の分野では最も有名な国際賞のひとつです。1983年には利根川進先生、2009年には山中伸弥先生、2015年には大隅良典先生が受賞。また同財団が2009年に新たに創設したガードナー国際保健賞には、2014年大村智先生が受賞者に選ばれています。このことからも、皆さんの頭をよぎるものがあるのでは...そう、ガードナー国際賞はノーベル賞の登竜門とも言われる賞なのです(再び鼻息)!
 以前から心臓(病)学における20世紀の偉業を成し遂げた一人として取り上げられていた遠藤先生(Braunwald E. J Am Coll Cardiol 2003;42:2031-2041)。おどろくことではない、と言いたいところでもあります。なんと言っても、現在世界中で4000万人の人が、先生の発見した物質(のちに薬となる)のお世話になっているのですから。
(※かくいう私の父もお世話になっております。)

 続いて、そのお薬のお話です。
 遠藤先生は1973年、血中コレステロールを低下させる「コンパクチン」という物質を青カビから発見しました。日本より一歩先に飽食と生活習慣病の問題を抱えていたアメリカに渡り、高コレステロールに起因する疾患の多さを知ったことも、研究に拍車をかける経験だったそうです。
 幼い頃から自然と親しんできた先生は、はじめからカビやキノコ、微生物の中からこの物質を探す、と決めて研究を始めました。1グラムの土があれば、その中に微生物は1億以上も存在するということですから、その中に必ず目的の物質はある!という信念があったのです。結果的に、調べた微生物株は6000以上、研究グループを立ち上げて2年目のことだったそうです。ただし、コンパクチンが「スタチン」という薬となり、世に出回るまで、10数年の歳月がかかりました。副作用の評価、効果を示す動物と示さない動物の評価など、様々な課題を克服する必要がありました。商業用として発売されたのは、1987年、アメリカでのことでした。コンパクチンの発見から、実に14年後のことです(個人が辛抱強く何かを続けるのには長い時間ですが、薬の開発としては特別に長いというわけではありません)。

先生にお目にかかって...

 コンパクチンの発見と、スタチンの実用化については、様々な文献、記事にまとめられていますので、解説はこの辺にして、私自身が頂いた貴重なご面会のエピソードについて、書きたいと思います。

「人のいやがることをやる」

 3月某日、東京農工大学の特別栄誉教授室に伺ったとき、電車の遅延で大幅に遅刻してしまった私を、穏やかな表情で迎えてくださった遠藤先生。焦って駆け込み、内心はらはらしていたのが、すっと落ち着きました。そんな温かい雰囲気の遠藤先生。秘書の方は、親子2代で秘書を務めているそうで、お部屋には亡くなられた先代秘書のお母様のお写真が飾られていました。子供の頃から、お母様と先生の元に通われたそうです。何とも素敵なエピソードだと感じました。 その後も、大学構内のどこのお店がおいしいとか、昔からあるのはどこの建物だとか、ざっくばらんなお話に花が咲きました。
 研究について、先生が強調してお話くださったのは「人がいやがることをやる」ということでした。これは精神論ではなく、人がやらない、手をつけないことの中に、新しい発見が埋もれている可能性が高い、ということです。先生が研究対象として、コレステロールに関心を持つきっかけとなったエピソードも、面白いものです。 コレステロールは、簡単に言うと脂。先生が研究を始められたころは、実験器具などはすべて手洗いの時代で、コレステロールを実験に使うと、えらく片付けが大変だったそうです。だからコレステロールは嫌われ者。だれも研究対象に選ばなかった、と言います。ここに目をつけたところから、一つ目の歯車が動き出したわけです。その後の渡米で見聞きした経験が、前述のようにコレステロールを下げる「薬」の研究をする、という目的につながっていきました。

「20年30年先も読まれるものを」

 これは、科学コミュニケーターの仕事をする私へいただいた言葉です。 研究室を尋ねたきっかけは、先生の研究紹介記事を書かせて頂くためでした。おのずと研究を「記事」という形で伝えることについて、話が及びます。先生は、ご自身の研究紹介記事をスクラップ保存されており、その中でも、よく研究を理解し書かれた記事だ、と絶賛される記事は、だいぶ年期の入った海外のものでした。当時の記者の取材姿勢も高く評価されていました。気になることがあれば、何度でも電話がかかってきて、そのたびに対応、議論したそうです。スピード勝負の情報社会の中で、書き手も十分な下調べと推敲の時間が取りづらい現在、なかなかこのレベルの記事をつくるのは難しい、でもがんばってくださいと。嬉しい激励でした。大きな課題、目標を頂き、背筋が伸びる思いでした。 そうして意気揚々と帰路についたのでした。

 素敵なご縁に恵まれた遠藤先生のこの度の受賞を、おそらく未来館内で一番喜んでいる自信のある西岡でした。

写真:伺った際に頂いた宝物。遠藤先生の著書「新薬スタチンの発見 コレステロールに挑む」(岩波ライブラリー)

 科学コミュニケーターというお仕事をさせて頂き、本当に幸せに感じることのひとつが、魅力あふれる研究者、偉大な研究者の方々との出会いです。その情熱や想いに触れたとき、科学を知りたい、研究者の歩んでこられた軌跡にもっと触れたい、そんな気持ちに満たされます。幸せホルモン大放出!な瞬間を与えてくれる、このお仕事に感謝です。

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