お久しぶりです!
日本科学未来館の生物部(非公認)メンバー、山本です。
前回 (リンクは削除されました)は、初登場ということでうっかりまじめな記事を書いてしまったので、今回は軽い内容でお送りします。
0.お話の概要
小学校で、酸性かアルカリ性かを調べるのに、リトマス試験紙を使いました。
赤と青の紙を液体に浸して、青い紙が赤くなったら酸性、赤い紙が青くなったらアルカリ性。
よく分からないなりに、そういうものとして覚えていたあの頃。
それから数十年経った最近、リトマス試験紙の色素は、リトマスという名前がついた生物から見つかったものだと知りました。
しかも、この生き物を使えば、自分でリトマス試験紙を作れるとのこと。
そういうことなら仕方ない。
手作りしようじゃないですか!
なお、今回は、とある事情(途中で気付いた)により、1回では完結しません。
1.青になったらアルこう
小学校の頃、「リトマス試験紙がどっちの色になったら何性だっけ?」の覚え方として、先生が「信号と一緒だよ! 青になったらアルこう!」って教えてくれました。
おかげさまで、青くなったらアルカリ性、というのは未だに間違えません。
そんな思い出のリトマスという言葉、僕は見つけた人の名前だと思ってました。
リトマス色素の発見者は、アルナルドゥス・デ・ビラ・ノバさん。
うん、発見者の名前は全然関係なさそう。
実は、リトマス色素は、リトマスゴケという地衣類から発見されたんだそうです。
知らなかった・・・。
地衣類が、そんなところで日本中の小学生に関わっていたなんて。
残念ながら、オリジナルになったリトマスゴケは日本には自生していませんが、ウメノキゴケという日本の在来種で代用できるとのこと。
そんなの、やってみるしかないでしょう。
やってみることにしましょう。
2.そもそも「地衣類」ってなにさ
僕が「地衣類」って言葉をはじめて聞いたのは、学校の理科じゃなくて、社会の時間だったように思います。
ツンドラ気候の代表的な植生は地衣類だよ、みたいな登場の仕方でした。
それだけ、生物としてマイナーな存在とも言えます。
地衣類というのは、体の中に藻類を共生させている菌類です。
見た目は緑色や黄色などで、コケに似ている(コケという名前がついていたりもする)んですが、実際はキノコの仲間です。
地衣類は住処を供給し、藻類は光合成をして栄養分を供給する、という緊密な協力関係を築いています。
熱帯から極地、海岸線から高山までと幅広く、多様な種が分布します。
地上の面積の6%程度は地衣類が覆っているのだとか。
日本だけで約1,800種というからかなり多様です。
みなさんも、岩や木の幹に張り付いているカビのような、コケのような、あるいはサビのような、でもなんだかちょっと違った見た目の生き物、見たことないでしょうか?
そういう生き物が実は地衣類、ということも多いようです。
3.リトマス(の仲間)はどこにいるの
そういうわけで、未来館の周辺でリトマスゴケの仲間、ウメノキゴケを探してみました。
ウメやサクラの木の幹、岩などに生えている地衣類なら、今までにもどこかで見たことがある気がします。
これは楽勝でしょう。
・・・と思いきや、全然生えていません。
お台場にはサクラの木がたくさん生えていますが、幹を観察してもきれいなものです。
別の種類の木には、地衣類っぽいのが生えてるんですが・・・これは一体?
調べてみると、ウメノキゴケは排気ガス(二酸化硫黄)に弱く、大気汚染の指標としても使えるんだそうです(生えてないところは排気ガスで汚れがち)。
未来館の周りはそれほど車も多くないし、木も植わっているんですが・・・大きな道路が近くを走っているせいかもしれませんね。
仕切りなおします。
関東の郊外に用事(カエル探し)があったので、ついでに探してみることにしました。
東京都心から少し離れるだけでも、山あり海ありの素敵な土地がまだまだあるんですよね。
というわけで、日を改めて、郊外で・・・あれ?
意外と排気ガスの匂いがしますね。
というか、お台場よりも車がたくさん走っているような。
そういえば郊外って、車社会だったりしますもんね。
そのせいか、見回してもウメノキゴケらしきものは全然なさそうです、がっかりです。
お目当てのカエルも、まだ出てきてなくてがっかりです。
4.リトマス(の仲間)らしきもの
困りました。
原料が手に入りません。
日も暮れてきたし、雨の気配もしてきました。
帰れるうちにバスに乗りたいです。
人里にさっさと見切りをつけて、車が入れないような場所を狙って、手近な山を登ってみることにします。
排気ガスは空気より重い、と習いました。
もしかしたら、車社会であっても、車道がない場所の上の方なら、ウメノキゴケが生えているかも知れません。
すると・・・。
ありました!
サクラの木の幹に生えるカサカサヒラヒラした白っぽいうす緑、ウメノキゴケです!(たぶん)
キウメノキゴケとか、ナミガタウメノキゴケとか、早口言葉みたいな名前の近縁種がいるようですが、図鑑と見比べた感じ、きっとウメノキゴケ。
それぞれの木からちょっとずつ拝借して、50mlのチューブに詰めて持って帰ってきました。
サクラの幹に、小さなコロニーを作っていたり、みっしりと覆っていたり。
コケといわれればコケかもしれないし、キノコといわれればキノコ。
その正体は、菌類と藻類との運命共同体。
なんとも不思議な生物です(見た目かなり地味ですが)。
意外な苦労をしましたが、ようやく会えました。
人里で排気ガスのない場所って、なかなかないんですね。
排気ガスに慣れすぎて、意識しなくなっている自分を発見してしまいました。
5.リトマス溶液を作ろう
原料も手に入ったので、いよいよリトマス試験紙作りに移りましょう。
紙にしみこませる色素液(リトマス溶液)作りからです。
まずは、ウメノキゴケを10g測ります。
大体でいいです。
あれっ。
全部で2gちょっとしかない・・・。
結構取ってきたつもりだったんですが、全然足りませんね。
訂正します。
2g測ります(手元のメモの数字を全部5で割りつつ)。
2gの地衣類を、刻んで、ガラス瓶に移します。
インスタントコーヒーの空き瓶でも大丈夫です。
市販のアンモニア水を3倍に薄めたものを、100cc、じゃなくて20cc加えます。
さらに、オキシドールを5cc、もとい1cc加えます。
どちらも薬局などで買えます(アンモニアはお台場で見つけられず、通販で入手しました。ウメノキゴケもアンモニアも見つけられないとはっ)。
アンモニアは刺激臭がするので、うっかり目や鼻を近づけないようにお願いします。
オキシドールも、目に入ると痛そうです。
あとは簡単、混ぜるだけです。
よくかき混ぜながら、1ヶ月・・・えっ、1ヶ月!?
そう、毎日1回~数回よくかき混ぜて蓋をし、遮光をして1ヶ月で赤い液体になったら完成!・・・ということだそうです。
長い、長いですね1ヶ月は長い。
1ヶ月かけてどのように変化が起こっていくのかも、楽しみといえば楽しみですが。
長い期間毎日混ぜなければいけないことに今さら気付き、愕然としています。
6.リトマス溶液作成中
というわけで、毎日かき混ぜて、6月中頃に次のステップに進む予定です。
それまでは未来館のどこかで(臭いと排斥されながら)毎日混ぜていますので、良かったら見に来てくださいね。
フロアでお声掛けいただければ、喜んでお見せします。
量が少なすぎて不安なので、こぼさないように気をつけて混ぜ続けます。
※ 今回は、『街なかの地衣類ハンドブック』(大村嘉人 著)を参考にしました。