皆さん、こんにちは!科学コミュニケーターの渡邉です。
年が明けてから1ヶ月半が経ちましたが、2月初旬の未来館は正月と変わらない活気であふれていました。というのも、この時期は旧正月。中国や東南アジアの多くの国は休日で、海外からたくさんのお客様が来館されているからです。
未来館を訪れる多くの方々が新しい気持ちで新年を迎えているので、こんな時期ですが、私も1ヶ月半時間を巻き戻した気分で2016年を振り返ってみようと思います。
私にとって2016年は、科学コミュニケーターとして働きはじめた年ということもあり、新鮮な体験も、一筋縄ではいかない経験も、いろんなことがあった1年でした。
皆さんの2016年はどんな年でしたか? リオ五輪、ポケモンGOの世界的流行、英国のEU離脱、米国大統領選のトランプ氏勝利など、世界で大きな動きがあった年として、印象深く感じる方も多かったのではないでしょうか。
それでは、科学の方面では、どんな動きがあったでしょうか?ざっくりと振り返ってみたいと思います!
NatureやScienceといった国際的な科学雑誌では毎年、前年に科学分野で顕著な業績を残した科学者や、革新的な科学研究を10テーマ選んで紹介しています。同じようなコンセプトで、未来館の科学コミュニケーターが皆さんに紹介したい、2016年の10大科学ニュースをピックアップしてみました。それは、こちらです!
オートファジーの研究での大隅良典先生のノーベル生理学・医学賞受賞が選ばれていないぞ!との突っ込みが来そうですが、ノーベル賞関係の情報は今までたくさん発信してきたので今回は割愛させていただきます。
大隅先生の業績は、科学コミュニケーターの志水が紹介していますので、ご参照ください。
★2016年ノーベル生理学・医学賞発表!「細胞の中のお掃除係」の解明で大隅良典先生が受賞!!
2016年の科学の出来事を、次の3つの観点で整理して紹介します。
- 「初めて」な出来事
- 私たちの生活を変える技術の進歩
- 私たちの命を脅かすもの
「初めて」な出来事
まずは、物理系の発見から見ていきましょう!
アメリカを中心とする研究チームが昨年2月、「重力波」を世界で初めて直接観測できたと発表しました。一昨年の9月に観測した時空のゆがみが、詳細な解析の結果、2つのブラックホールが合体する時に生じた重力波であったと発表したのです。
重力波は、アインシュタインが100年前に発表した一般相対性理論によって予測されていました。しかし、それを観測でとらえることはとても難しく、「アインシュタイン100年の宿題」と呼ばれているほどです。
重力波を観測すると、例えば超新星爆発が起こったときの星の中心部の変化や、宇宙の始まりなど、今までの光を使った観測では見ることができなかった現象をとらえられると言われています。つまり重力波という新たな知覚機能を持つことで、まったく新しい天文学が切り開かれるのです。
今回の成果は近いうちにノーベル物理学賞を受賞するだろう、と期待されていることもあり、最初に取り上げてみました!
★2016年ノーベル物理学賞を予想する③ アインシュタイン最後の宿題!重力波の直接観測
引き続き宇宙の話になります。昨年9月にNASA(米航空宇宙局)は、木星の衛星エウロパから水蒸気が噴出している様子をハッブル宇宙望遠鏡がとらえたと発表しました。
太陽の光がわずかしか届かない極低温のエウロパでも、その表面の氷の下には海(液体の水)があると予想されていました。それがついに、本当に存在すると実証できたわけです。
エウロパの海は現在の地球の深海や、地球ができた当時の海に似ているかもしれないと言われています。ということは、エウロパの氷の下の海を調べれば、私たち生き物の起源に迫れるかもしれません。地球外生命の期待さえあります。今後の惑星探査に期待ですね!
続いて化学系の話題です。こちらは「初めての発見」ではなく、「初めての快挙」の紹介です。
2015年12月31日に元素周期表の113番目の元素の命名権を日本の理化学研究所のチームが獲得し、昨年3月18日に、「ニホニウム」という名前を提案、11月30日に正式決定しました。
命名権の獲得はアジア初の快挙! ということで、記憶に残っている人も多いかもしれません。未来館では、「サイエンティスト・トーク」などのイベントで、そのドキドキを皆さんにお届けしました。ブログ記事も残っていますので、そちらもご参照ください。
生物系の話題はどうだったでしょうか。見ていきましょう!
昨年10月、九州大学と京都大学の研究グループがマウスのiPS細胞(人工多能性幹細胞)からたくさんの卵子をつくることに成功しました。さらにはその卵子を受精させて、健康な赤ちゃんマウスも産まれてきました。
iPS細胞は、皮膚や血液の細胞などに遺伝子を導入することでつくる細胞です。そのiPS細胞から卵子ができるということは、皮膚や血液の細胞から卵子をつくることが可能になったことを意味します。
日本では、ヒトのiPS細胞から卵子・精子をつくる研究は認められていますが、倫理的な理由などから受精させることは禁止されています。
研究の詳しい内容は、科学技術振興機構(JST)が運営するサイエンスポータルの記事をご参照ください。
「iPS細胞から卵子を実験室培養で大量生成 九大などマウスを誕生させる」
不妊治療などで体外受精されたヒトの胚を培養する技術はありますが、受精から7日を超えて培養することはできませんでした。それが、7日を大きく超えての培養に米国、英国のチームが成功したと、5月に発表されました。
ただ、ヒト胚に関しては、「14日を超えて培養してはいけない。その前に母体に移植するか、廃棄しなくてはいけない」というルールがあります。今回の研究でも、このルールに則って14日になる前に廃棄されました。
しかし、体外で培養できるとなれば、ヒトがどのようにして発生していくかを詳細に調べることが可能になります。不妊治療に役立つ発見が期待できるだけに、この14日ルールを改正すべきかどうかが今後の議論になりそうです。
次は類人猿も「心を読める」、という話題です。以下の4コマを見て下さい。
戻ってきた姉は、どこからボールを取りだそうとするでしょうか?正解はカバンですが、正しく答えるには、「(相手の)心を読む能力」、すなわち「他人の視点に立つ能力」が必要です。
昨年の京都大学の研究者を含む国際的な共同研究により、類人猿もこの能力を持っているかもしれないことがわかりました。私たちヒトの複雑なコミュニケーションを支える能力を類人猿も持つということは、ヒトと類人猿の境目は想像以上にあいまいなのかもしれません。
研究の詳しい内容は、京都大学のプレスリリースをご参照ください。
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2016/161007_2.html
今までは「初めて」をキーワードに紹介しましたが、今度は技術の「進歩」に着眼してみます!
私たちの生活を変える技術の進歩
昨年は様々な方面でAI(人工知能)の進歩が話題になりました。囲碁AIの"AlphaGO"が世界最高峰の棋士を破ったこと、車の自動運転の一部が実際に社会に実装され始めたことなど、注目を集めたトピックはたくさんありました。
医療分野でも、米IBMが開発したAI"Watson"が患者の診断と治療方針を助言する医師のパートナーとして医療現場に出て、患者を助けた例があります。西洋医学だけではなく、漢方を用いる東洋医学でも、一人ひとりの症状に合わせて適切な治療法や漢方薬を提案できるシステムを開発する試みもあります。
もしかしたら、皆さんが気づかない間にAIに支えられているということが、今後増えてくるのではないでしょうか。
★あなたに合う漢方薬を人工知能が予測する未来 ~<前編>漢方医学で診断と治療ってどうやるの?~
★あなたに合う漢方薬を人工知能が予測する未来 ~<後編>自動問診システムが切り開く未来の医療~
進化したのはAIだけではありません。VR(バーチャルリアリティ)技術も飛躍的に進化してきています。
HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を装着することで、仮想的に創り出した空間をまるで現実であるかのように感じさせるVR技術。その特性を活かして、現実では実現が難しいこと(例えば、宇宙飛行士の訓練)や、現実では失敗が許されないこと(例えば、医師の手術の練習)など、さまざまな分野で使われ始めています。
今まで私たち一般消費者にとって手の届きづらいものでしたが、2016年が「VR元年」と言われるほど私たちの身の回りに普及しはじめました。特に、ゲーム機やスマートフォンなどでVRを楽しむために必要な環境が、昔より低価格で揃えられるようになりました。そしてVRを楽しめる施設も登場しています。未来館では昨年、企画展「GAME ON」の中で、そんな身近になりつつあるVR技術を紹介してきました。
★「ゲームってなんでおもしろい?」を、考えてみました。 ~企画展「GAME ON」~
ただ、ワクワクするニュースだけではありません。私たちの健康や命を脅かすニュースもありました。
私たちの命を脅かすもの
昨年4月14日に起きた熊本大地震は忘れがたい、大きな震災でした。世界でも大規模な地震がありました。イタリア中部は8月と10月に二度の大きな地震に襲われ、人的にも経済的にも大きな被害が発生しました。そして台風や集中豪雨などの天災にも見舞われた年でした。
こうしたリスクにどのように立ち向かうべきなのか、未来館ではブログや展示、イベントなどの様々なかたちで情報を発信してきました。
★もう「想定外」と言わないために-5年前の教訓から ~3月6日、トークイベント開催
★ダメージ=ハザード×(曝露×脆弱性) =リスクとの向き合い方の詳細補足①=
★ダメージの「大きさ」と「発生可能性」を見える化 =リスクとの向き合い方の詳細補足②=
★科学的な整理と、価値観を踏まえた合意形成 =リスクとの向き合い方の詳細補足④=
★熊本に行くべきか迷う私が、ボランティア・物資支援について聞いてきました
★Ciao!イタリアへのエールを。アマトリチャーナを食べて伝えよう!
蚊が媒介する「ジカウイルス」による感染症、ジカ熱が中南米を中心に広がりました。感染しても重篤化することは滅多にありませんが、妊婦さんがジカ熱に感染した場合、お腹の赤ちゃんに大きな影響を及ぼすということで、話題になりました。
感染の拡大を防ぐため、WHO(世界保健機関)は緊急事態宣言を出しました。この問題は今も続いています。
★白いネッタイシマカ ~人間の生活環境にもっとも適応した媒介昆虫~
2016年に起こったことをざっと振り返ってみましたが、いかがでしたか?個人的な印象として、良いニュースも、悪いニュースも、考えさせられるニュースも多かったのかな、と感じています。
では今年、2017年はどんな年になるでしょう?実はこちらも、科学コミュニケーターが6つトピックを選んでいます。こんな感じです。
え、もっと詳しく知りたいですか?
未来館では、サイエンスミニトークとして、2016年の振り返りと2017年の科学の予想を3月初旬までお話しいたします(不定期の実施)。未来館にお越しの際は、ぜひとも5階のコ・スタジオに立ち寄ってみてください。
また、本ブログでも追って、2017年の科学の予想についてお伝えしようと思っています。お楽しみに!