前回のブログでは、「はやぶさ2」プロジェクトを率いる津田雄一先生からの問い「どうやって小惑星を深く掘る?」に対して、皆さんからいただいたアイデアをご紹介しました。その中には、ドリルで掘るという王道で攻める方法から、いっそ掘らずに小惑星ごと地球の近くまで持ち帰るという思い切った方法まで、たくさんのユニークなアイデアがありました。
今回は、津田先生からのもう一つの問い「大量にサンプルを持って帰ってきたら何をする?」、番外編として「はやぶさ3があったら何がしたい?」をご紹介します。
なお、津田先生の問いは2月23日に未来館で行われたイベント「小惑星探査機「はやぶさ2」地球へ帰還中~プロジェクトを率いるキーパーソンとクールに熱く語り合う」で出されたものです。その問いに対するアイデアを、会場の皆さんに付せんに書いていただきました。
イベントについては以下の記事をご覧ください。
◆小惑星探査機「はやぶさ2」地球へ帰還中① あのとき、管制室では何が起こっていた?
https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/202003252-2.html
◆小惑星探査機「はやぶさ2」地球へ帰還中② 「次」があるなら何をしたい?
https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/202003252-1.html
◆小惑星探査機「はやぶさ2」地球へ帰還中③ 皆さんのアイデアと津田先生のコメント「どうやって小惑星を深く掘る?」
https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/202005202-6.html
◆小惑星探査機「はやぶさ2」地球へ帰還中④ 皆さんのアイデアと津田先生のコメント「大量にサンプルを持って帰って何をする?」
この記事
問い:大量にサンプルを持って帰って何をする?
ポイント:せっかく行ったのなら大量のサンプルを持ってきてほしいと思いますよね。でも実は科学的な分析は少しのサンプルがあれば出来てしまうそうです(はやぶさ2のサンプル採取量の目標は0.1 g)。それでも大量のサンプルを持ち帰れたら、分析以外にもいろいろなことに使えるかもしれません。皆さんは何がしたいですか?
分配する
松島:はやぶさ2も持って帰ってきたサンプルは分配する予定ですよね?
津田先生:そうですね。分配するためにはまず、どれくらい取れたかなっていう全体を把握した上でそれを小分けにする作業をして、小分けにしたものにはIDをつけてどれを誰に分けたかを全部記録に残るようにします。基本的な初期分析と呼ばれるものを1年間くらいかけてやった後、世界中から公募で研究提案をしてもらって、いい研究提案をしてくれたところに配っていきます。
松島:どれくらいのチームに分けることになるんですか?
津田先生:物質を受け取ってきちんと管理して研究できる人は多くはないので、そんなにたくさんのチームに分けるということはありません。十数件~数十件になるかと思います。ただこれから数年、数十年経っても研究したいという人は出てくるので、最初に公募する時に全量を分配するのではなくて、半分以上は次世代のために残しておくということをします。
松島:残しておくのも、ただしまっておくだけではなくて管理された環境下でということですよね。
津田先生:そうです。絶対に地球上の大気とか、地球上の物質と混ざらないような環境で保存します。
売ってお金にする
松島:資金のことを心配してくれたのか、売るというアイデアもたくさんありますね(笑)
津田先生:いくらで買ってくれるかなー(笑)こういうことに価値を感じてくれる人が多くなるといいなと思います。現在は、研究内容の審査を通った人しかサンプルを使った実験は出来ませんが、一般の人もちょっとお金を払えばどんどん楽しい実験をやってもらえるくらい身近になると素晴らしいですよね。
溶かして調べる
松島:たしかにサンプルの量が少ないと、大事に扱わないといけないので、性質を変えること自体が難しいですよね。たくさんあれば溶かすことができて、それによって新たに分かることもあるかもしれないですね。
津田先生:まさにそうですね。非破壊検査じゃなくて、破壊検査的なこともできるし、溶かすこともできる。さっきの燃やすというのも試せるようになりますね。
松島:はやぶさ2が持って帰ってくるサンプルでは、溶かしたり燃やしたりすることはできないのですか?
津田先生:ちゃんと研究提案ができればやってもいいんですよ。ただちょっと気軽にライターで火をつけるというのは怒られますけど(笑)誰か研究としてやってくれるといいなー。
使う
松島:薬の開発というアイデアもありますが、小惑星探査の目的としていかがですか?
津田先生:正直、そのレベルにはまだ全然至っていないですね。薬というのは基本的には有機物なのですが、現段階では小惑星にどんな有機物があるかを分かっていない初歩の初歩の状態です。リュウグウのサンプルを分析した結果、地球では見たことのないような有機物が見つかったりしたら、何かのヒントになる可能性はあります。でも、薬にするまでにはそこからさらに何ステップも間にはありそうです。
松島:地球にはない物質が見つかるかもしれないですよね。
津田先生:今は小惑星から何が取れるか全く分からないけれども、リュウグウのサンプルを調べたとたん、「あっそういうことか」「それだったら」という思ってもみなかった新たな方向に科学が発展する可能性はあるので、それは楽しみですよね。もしかしたら難病治療薬の開発に何らかのヒントがあるのかもしれないですし。
松島:はやぶさ2の帰還のタイミングで、今回いただいたアイデアが一気に現実味を帯びる可能性があるっていうことですよね。
津田先生:物質を見てみると、今までは想像でしかなかったことが現実としてわかるので、そこから始まる科学はきっとあるはずです。
ユニークな利用
津田先生:これは良いですねー。リュウグウの石を混ぜるとよく育つとか(笑)夢がありますよね。アート作品とか、科学を超えたものに使いたいってなるといいですね。
番外編:はやぶさ3があったら何がしたい?
ここからは番外編です。皆さんからいただいた付せんの中に、はやぶさ3のアイデアが書かれたものがいくつかありましたので、こちらも津田先生のコメントを付けてご紹介します!
一瞬のタッチダウンではなく、しっかり着陸してほしい
松島:これまでに着陸というのは議論されたことがありますか?
津田先生:初代はやぶさをやっていた時に、着陸してサンプルを採るという選択肢もあったと聞いています。
松島:直陸をする場合のメリットとデメリットはどのように考えられるのでしょうか?
津田先生:着陸ということは、地表にしっかりと足を下ろして、足場を固めた上でサンプルを拾うということかと思います。小惑星の場合、表面の様子は行ってみるまで全く分かりません。特に初代はやぶさの頃は、人類が小惑星そのものを詳しく見たことがほとんどありませんでした。どのくらいデコボコしているのか、石ころがたくさんあるのか、コンクリートみたいなのか、鉄板みたいなものなのか...硬さもわかりません。そのため、降り立つための仕組みや、何をしなければいけないかもわからず、設計しようがないんです。はやぶさの目的は着陸することではなくて、星のかけらを採ってくることなので、量は少なくても構わないからとにかく確実に星のかけらを持ってくる方法は何かという方向で考えて、タッチ アンド ゴー(地面に着陸した後すぐに上昇)の方式になりました。
松島:たしかに、何も分からない状況で小惑星に着陸をするというのは作戦が立てられなくて大変ですね。
津田先生:今、火星衛星探査のMMXというプロジェクトが進められていますが、MMXの場合は着陸するフォボスの素性が分かっているから、降り立つ方法も考えられるんです。
もっと遠くへ行ってほしい
松島:次に行くとしたら、どのくらい遠くを目指せそうですか?
津田先生:行きたいのは、メインベルト(火星と木星の間にある小惑星が帯のようにたくさんある領域)か、木星くらいの距離にある小惑星ですね。
松島:かなり遠いですね!
津田先生:リュウグウはギリギリ火星くらいの距離ですが、メインベルトまで行くとより取り見取りでいろんな小惑星があるので、そこまで行けると面白いな。太陽系外まで行ってほしいというのも、行けたらいいですね。
以上、皆さんからいただいた付せんと津田先生のコメントのご紹介でした。小惑星探査を想う皆さんの熱い気持ちがひしひしと伝わってきました。
他にもたくさんの付せんをいただいておりましたが、ご紹介できなかった皆さんごめんなさい!
津田先生からのメッセージ
松島:一通り皆さんの付せんを見ていただきましたが、いかがでしたか?
津田先生:こちらがお話ししたかったことやメッセージをちゃんと受け取っていただいて、ありがとうございます。自分なりに一生懸命考えて、思ったことを書いていただいて。こんなに反応をいただけたのは嬉しいですね!具体的なアイデアを書いていただいた人はさらにもう一歩、じゃあどうすればいいのかというのを考えていただけるとさらに素敵ですね。
松島:今回、皆さんはなかなか普段の日常では使わない脳の使い方をしたかもしれませんね。でもこうやって研究者と一緒にみんなで考えることは、よりよい将来の研究の形にも繋がるのかなと、個人的に思っています。
津田先生:そうですね。 特に子ども達は、この先5年、10年...と生きていく中で、今回の「何が今課題なのか」「だったらこうすればいいじゃん!」という科学的な思考をした記憶が引っかかって、思い付きが生まれたらいいですね。それが科学だと思うので、これから先に繋がると嬉しいです。
おわりに
皆さんと一緒に会場で感じた高揚感は今も鮮明に思い出されます。
はやぶさ2はちょっと遠い存在で、応援することしかできない...そんなことを思っていませんでしたか?今回のイベントでは、津田先生と皆さんの対話のラリーができるだけ多く続くように、イベント前~イベント中~イベント後まで、津田先生と皆さんの声を双方向に届けることを心掛けてきました。このブログを以て、今回のイベントは一区切りとなりますが、まだまだラリーを続けるべく、新たな企画を考えていきたいと思います!
イベントにご参加いただいた方も、今回は残念ながら参加できなかった方も、未来館でお会いした際にはぜひお声掛けください。はやぶさ2についてクールに熱く語り合いましょう!
お忙しい中オンラインでの取材に快く応じていただき、たくさんのコメントをくださった津田雄一先生に心より感謝を申し上げます。
参考
宇宙開発はお金の制約が大きいということを実感された方は多いのではないでしょうか。実は、以下のJAXAのサイトから寄付という形で力になれる方法もあります。実際に、あのはやぶさ2のタッチダウン成功の瞬間を捕らえたカメラ(CAM-H 1))は、寄付金約1176万円によって制作されたものでした。寄付を促進するための広告がしたいのではありませんが、このような形で「プロジェクトに関わったよ!」と言えるのも素敵かなと思い紹介させていただきます。
JAXA HP https://www.jaxa.jp/about/donations/index_j.html
1)CAM-Hについて JAXA HP http://www.hayabusa2.jaxa.jp/topics/20181030_TD1R3_CAMH/