皆さんこんにちは!科学(間取り)コミュニケーターの高橋明子です。
様子をうかがいながら社会が動き出しているところですが、未来館もまさにそんな状態。みなさんのまわりはいかがでしょうか?
さて、新型コロナウイルス感染症の流行が始まってから半年ほど経ちました。
最初はどんな感染症なのかほとんど情報がありませんでしたが、研究が猛スピードで進み、少しずつこの感染症の輪郭が見えてきました。
6月のニコニコ生放送「わかんないよね新型コロナ~ここでいったん振り返ろう~」では、ゲストや視聴者の皆さんと一緒にこの半年を振り返りつつ、次に来るであろう第二波への備えについて考えていきます。
第2回目、6月14日(日)の放送のテーマは「新型コロナの症状・治療のこと」。
東京ベイ・浦安市川医療センターの感染症内科 医長、感染対策室室長も兼務されている織田錬太郎先生にご出演いただきました。
織田先生が勤務されている病院は、千葉県浦安市と市川市のちょうど境目にあります(チーバ君の舌あたり。チーバ君は千葉県の形をしたゆるキャラ。ぜひ検索してその姿を確認してください)。
東京ディズニーランドやお台場など、海外からの観光客が多いスポットの近くで、国内での流行の初期(1月頃)からすでに新型コロナの患者を診察していたとのこと。
その後のダイヤモンドプリンセス号、市川市で発生した集団感染、首都圏での感染拡大…と現在に至るまで感染の対応をされていました。
実際に現場で患者を診てきた織田先生の視点から、症状や治療についての情報がどう更新され、対応が変化したのかを語っていただきました。
半年で「症状」の情報はどう変わった?
国内で患者が出たばかりのころ、新型コロナは「軽症なら風邪症状、悪化するとウイルス性の肺炎」という症状をもたらす、呼吸器の感染症と考えられていました。
ところがその後、新たな症状が次々に報告されます。
血管の内側に炎症を起こしたり、血栓を作ったり…と全身性の症状を示す感染症として、見方が徐々に変わっていきました。
後から明らかになった症状といえば、味覚・嗅覚障害を思い出す方が多いかもしれません。
野球選手が感染時に訴えた症状として3月末頃話題になりましたが、論文が出たのもほぼ同時期。
織田先生も論文が出る前から、味覚・嗅覚障害の症状を持つ患者に出会っていたそうです。
実際に患者を診る臨床の現場は最前線なので、聞いたことのない症例に出会った後で報告が追いかけてくる、なんてこともしばしば。
情報がないところから診療が始まる、新興感染症ならではの事態です。
その後、世界中で驚異的な早さで研究が進められ、どんどん新型コロナ関連の論文が増えていきます。
論文数の増加スピードはすさまじく、重要な論文を探して読むだけでも大変な状況の中、よりよい診療のために臨床現場の医師たちも必死に情報収集をしていたそうです。
そんな折に先日医療業界をざわつかせた話題がこちら、論文の捏造問題です。
捏造の詳細についてはここでは触れませんが、織田先生いわく、診察と並行して頑張って論文を読んでいたので「心が折れそうな事件だった」とのこと。
今回は他にも多くの論文で同じ結果が出ているので、ひとつ欠けても結論は変わりませんでしたが、場合によっては、世界各国の対策や診断基準、治療方針などが変わる可能性もあります。
新型コロナのように世の中が早く情報を欲しがっている分野では、大量の論文の査読(論文の内容のチェック)が追い付かないこともあり、こういった事件が起こりやすい土壌があるのかもしれません。
半年で治療の方針は変わった?
そして次に治療についてのお話です。
現時点で特効薬のような抗ウイルス薬(ウイルスの増殖を抑える薬)はありません。
以前の放送でも、自分の免疫システムでウイルスを排除するのが基本、そのために真面目に休むのが大事、そして重症化した場合には、症状に合わせた対症療法(肺の働きをサポートするための人工呼吸器の使用、合併症の予防・対処など)を進めるというのが基本的な治療の方針、というお話をしました。
感染症を治すのは自分の体、重症化した場合は体の状態をつぶさに観察し、体が治そうとするのを治療でサポートする、ということですね。
現在もこの基本は変わっていないそうです。
そして治療についての話題の中で、治療の方針だけではなく、体制も治療の成否に影響するかもしれないと織田先生は仰いました。
集中治療室がある病院は全国にたくさんありますが、集中治療に特化した集中治療医のいる病院は限られるそうです。
集中治療医はつきっきりで患者の全身状態を観察し、異変があれば素早く対応することができますが、多くの医師は書類の記入など、たくさんの雑務もこなしながらの対応になってしまうとのこと…集中治療に病院間でそんな違いがあるとは知りませんでした。
第2波を考えるとき、すべての集中治療室に集中治療医を置くのは現実的ではないでしょうから、重症度に合わせて適切な病院に患者を移送する仕組み作りなども必要になってくるかもしれません。
そしてなるべく雑務を減らし、医師が治療に専念できる環境づくりを進めるのも、備えの重要なポイントになりそうです。
医療体制について
医療体制に関して、第1波で困ったことを織田先生に伺いました。
たくさん困りごとの中で一番困ったのは、「流行状況に合わせて病院の体制を変えること」。
患者数が増えれば、院内感染防止のために新型コロナ専用のスペースを増やし、他の病気の患者のためのスペースと完全に分けなければいけません。
またたくさんの患者を受け入れるということは、そのための人(医療者)と物(防護具など)も必要になります。
一方で、新型コロナ専用スペースを多く確保しすぎると、他の病気の患者の受け入れ可能数が減ってしまい、地域医療に影響が出ます。
そして新型コロナの患者を頑張って受け入れれば受け入れるほど、病院の経営的にはマイナスになるという問題も…。
流行状況に合わせて受け入れ態勢を変えていかないと、新型コロナ以外の地域医療、病院の経営などに大きな影響が出てしまう…とはいえ頻繁に受け入れ態勢を変えるのは、病院にとってかなりストレスのかかる作業になりそうです。
では第2波に向けて、医療現場でするべきことは何でしょうか?
織田先生のお答えは、「地域の医療機関どうしの連携」。
東京ベイ・浦安市川医療センターは感染症指定病院で、地域の新型コロナ患者を多く受け入れてきましたが、第2波を乗り切るには1病院だけ頑張っても無理なので、地域全体で流行状況に合わせた体制作りをする必要があります。
治療についてのお話の中で出てきた「重症度に合わせた患者の受け入れ」も、地域での連携がないと実現できないことですね。
一方で、「連携が大事」という言葉、新型コロナだけではなく、いろいろな場面で見かける言葉です。
つまり、連携が大事なのは誰もが最初からわかっているんですね。
でも現実にはそれができていないケースが圧倒的に多く、現場がうまく回らない状況ができてしまっている、新型コロナではそれが目に見える形で問題化したわけです。
第2波に向けての体制作りについて、医療者の皆さんが今議論しているところですが、堀さんのコメントの通り、個々の機関がどう動くのか、具体的なアクションが見えるレベルでのシミュレーションまでできると、連携がうまくいくのかもしれません。
国内流行初期から現在に至るまで、患者を診続けている織田先生にお話をお伺いしましたが、その時々で持てる情報は違えど、最善を尽くしながら診療にあたってくださっていることを強く感じました。
まだまだわからないことだらけの新型コロナですから、日々更新されていく情報に合わせて、これからも臨床現場での症状の認識や治療方針が変わっていくはずです。
その変化は臨床現場の医師たちの多くの努力によって支えられている、ということが少しでも伝われば幸いです。
そして新型コロナに限りませんが、よくわからない感染症にかかってとても不安に感じているときに織田先生のような先生に診察してもらえたら、すごく心強いですよね。
「マジでベイエリア近くに引っ越そうかなw」というコメント、激しく同意です!(そして引っ越す予定もないのに物件サイトで間取りをチェックする…)
織田先生、お忙しい中ご出演いただき、本当にありがとうございました!
そしてご視聴いただいた皆さんもありがとうございます!
次回も番組でお待ちしております。
6月14日の放送トピック一覧
【半年で「症状」の情報はどう変わった?】
- いつごろから患者を受け入れていた?(06:57~)
- 流行初期から「症状」はどう変化した?(10:45~)
- 診断基準が少ない中でどう診断する?(17:30~)
- 研究の進み方が速くてキャッチアップが大変だった(24:28~)
- 論文の捏造問題について(27:39~)
【半年で治療の方針は変わった? 】
- 治療の方針に変化はあった?(44:06~)
- 病院によって違う集中治療の体制と治療の関係(46:45~)
- 治療薬はどう使う?(50:35~)
- 治療の成否と基礎疾患・年齢に関係はありそう?(53:28~)
【医療体制について】
- 第1波での課題と今後やるべきこと(1:00:34~)
- 行政区を超えた連携の重要性( 1:07:04~)
- 私たち一般市民にできること(1:12:35~)
6月は毎週日曜日14:00から放送します!
当番組「わかんないよね新型コロナ ここでいったん振り返ろう」は、6月21日、6月28日と放送予定です。
放送内容:https://www.miraikan.jst.go.jp/info/2003310925716.html
- 7日「私たちが本当に困ったこと」
担当科学コミュニケーター:綾塚 - 14日「新型コロナの症状・治療のこと」
担当科学コミュニケーター:髙橋 - 21日「不要不急ってどんなこと」
担当科学コミュニケーター:田中、山本 - 28日「日本のこと、世界のこと」
担当科学コミュニケーター:伊達、小林
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