こんにちは!科学コミュニケーターの田中沙紀子です。
緊急事態宣言が全国で解除されて1か月ほど経ちました。「新しい生活様式」と言われていますが、みなさんの生活はいかがですか?「これはOK?」「やめた方が良い?」 「どこまでならいいの?」とまだまだ悩むことが多いのではないでしょうか。線引きはなかなか難しいものですよね。
さて、6月のニコニコ生放送「わかんないよね新型コロナ~ここでいったん振り返ろう~」では、新型コロナの第1波で起きていたことやわかってきたことを一緒に振り返ってきました。「新しい生活様式」と同様、はっきりとは言い切れないことも少なくありませんが、これから来るであろう第2波に備えるために、まずは振り返り、整理してきました。
6月21日のテーマは「不要不急ってどういうこと?」。特に4~5月は強く呼びかけられていた「不要不急の外出自粛」ですが、不要不急っていったいなに? この言葉の曖昧さに困った方も多かったのではないでしょうか。また、自粛したけれど、振り返ってみると不要不急じゃなかった! と後悔したことがあった方もいるかもしれません。この日の放送では、そんな線引きの難しい不要不急について、前半と後半に分けて考えていきました。ご登場いただいたのは、毎回の放送でおなじみの感染症対策のプロ・国立国際医療研究センター 国際感染症センターの堀成美さん。そしてゲストに千葉大学 総合安全衛生管理機構准教授・医師の潤間励子先生をお呼びしました(いわば、大学の“保健室の先生”のような存在です)。このブログでは、前半部分、医療や健康に関する内容についてお届けします。
これって不要不急? ①献血
まず取り上げたのは、献血。「献血は不要不急ではありません!」「外出自粛はしても献血は自粛しないで!」とSNSで呼びかけられていたり、ニュースでも報じられたりしていたのをご存じの方もいらっしゃるでしょう。では、なぜ献血は不要不急にあたらないのでしょうか。それは、血液は医療に欠かせないものであるにも関わらず、人工的に作ることができず、また血液製剤には有効期限があるからです。輸血用の血液製剤にはいくつか種類がありますが、期限が短いものだと、わずか4日間しか使えません。したがって、継続的な献血の協力が必要なのです。安定した医療のためには1日あたり1万3000人分の献血が必要だそうです。
外出自粛、献血への影響は?
医療にとって欠かせない献血ですが、外出自粛の影響はどのくらいあったのでしょうか。現場の声を知るため、献血ルームへインタビューに行ってきました。答えてくれたのは、東京都赤十字血液センター事業推進一副部長 兼 新宿東口駅前出張所長・乙訓高一さんです。
乙訓さんによると、外出自粛の影響で献血への協力は減少する傾向にあったものの、全国で必要な在庫の調整をすることで、医療機関に必要な血液が足りないという事態にはならずに済んだそうです。東京の場合、通常では他県からの通勤通学者が多かったため、東京への移動が制限されたことで協力者が減ったという影響もあるようです。また、大学への献血バスの運行が、休学によりできなくなった影響も大きいとのこと。この回のゲストとしてご参加いただいた潤間先生に千葉大学での献血について伺ったところ、これまでは献血バスを3か月に1回程度受け入れており、1回あたり約300人の献血が行われていたそうです。これだけの協力が、千葉大学のみでなく全国の大学で集められなくなっていたわけです。それでもなんとか血液が不足することがなかったのは、本当によかったです。きっと全国の血液センターの方々のご苦労があり、その中で協力してくださる方がいて……と考えると、頭が下がります。
大学の他にも、企業やイベントなどで行ってきた献血バスの運行ができなくなったため、ここ最近は駅前などで街頭献血を行っているそうです。お近くに献血ルームがない場合でも、こうした献血バスが運行されているかもしれません。各都道府県の血液センターのホームページで検索できますので、献血に協力できる方はぜひ調べてみてください。
加えて、乙訓さんには献血ルームや献血バスでの新型コロナウイルス感染症対策についても教えていただきました。一人ひとり検温を行い、手指消毒やマスクの着用といった対策をお願いするほか、採血の前に行う医師の問診でしっかりと健康状態を確認しているとのことでした。
献血ルームはどんな様子? 行ってみました!
では、いまの実際の献血ルームはどのような様子なのでしょうか? 実際に行って、献血をしてきました! 放送中ではその様子を動画でお伝えしましたが、ここでは一部を画像でお届けします。
受付や問診など、向かい合ってお話しする必要がある場所では、アクリル板やビニールカーテンが設置されていました。
待合室では基本的に、イスが向かい合わないように配置されていました。一部、テーブルとそれを囲むイスが置かれているところもありましたが、テーブルの上には、あまり長時間滞在しないようにと注意書きがありました。
採血ベッドは下の写真のようなもの。採血用のベッドは、ひとつの部屋の中である程度密集しており、看護師の方が何人も行き来していました。この状況について、感染症対策上どう感じたかを堀さんに聞いてみたところ、「献血している間はひとりぼっち」、そして「喋らない」ということから、あまり心配しなくても大丈夫とのことでした。
この日、田中は成分献血をしました。成分献血は、採血した血液をそのまま提供するのではなく、一部のみを提供し、提供しない赤血球などは体に戻すというもの。上の写真でベッドの左側にある装置は、血液を回収して分離し、提供しない部分を体に戻すためのものです。採血するときと、逆に体に戻すときで、異なるポンプが回っている様子も動画でご紹介しました。そしてこれは個人的な好みなのですが、体に戻ってくるときに「おっ、戻ってきた!」という感覚がわかるのが、とても楽しいです。成分献血のオススメポイントです。興味を持った方は、ぜひ体験してみてください! ※あくまでも個人の感想です。
番組中では、4/24の「わかんないよね新型コロナ~だからプロにきいてみよう~」でご登場いただいた産婦人科医・太田寛先生(アルテミスウイメンズホスピタル)の言葉も改めてご紹介しました。それが「妊婦の夫は献血へ!」。お産には一定の確率で輸血が必要になるリスクのあるイベントです。それに対して夫が直接できることはない、とのことですが、献血に協力することで、輸血が必要になった妊婦さんや、他の病気などで輸血が必要な方を助けることができます。
ぜひ、献血に行ける方は、予約をして行ってみてください。献血の楽しさにも目覚めるかも?!
これって不要不急? ②定期接種のワクチン
続いて取り上げたのは、定期接種のワクチンです。国が感染症予防のため指定したワクチンですが、ワクチンの種類によって自己負担なしに受けられる期間(年齢)が決められています。感染症対策の上でとても大切なものであることから、厚生労働省は3月に、各自治体に向けて「定期接種の延期は感染症の罹患リスクを上げるため、接種機会を確保するように」という通知を出していました(https://www.mhlw.go.jp/content/000612054.pdf)。では、実際の接種はこれまでどおり行われていたのでしょうか? それとも外出自粛の影響があったのでしょうか?
定期接種のワクチン接種率はどうなった?
定期接種ワクチンの接種率を調べたNPO法人「VPDを知って、子どもを守ろうの会」の調査結果(リリース「新型コロナウイルスの流行で小児ワクチンの接種率が低下」)を見てみました。すると、赤ちゃんのワクチンデビューの指標といえる肺炎球菌ワクチンの3か月齢時点での接種率が、11月生まれ以降の赤ちゃん(3か月齢を迎えるのが2020年2月)でだんだんと低くなる傾向が見られました。2月は、日本でも新型コロナ感染者数が少しずつ増えてきたり、ダイヤモンドプリンセス号内での感染が注目されたり、というタイミング。接種率の低下は、コロナ禍における外出自粛の影響であると考えられます。
定期接種ワクチンの重要性
このように、定期接種が遅れてしまったり、そのまま打ち忘れてしまったりすると、本来はワクチンによって防げたはずの感染症のリスクが大きく高まります。ワクチンのおかげでかからないのが当たり前になった病気は、感染への危機感が薄れがち。ですが、ワクチンが普及していなかった数十年前には、たくさんの人の命を奪っていた麻疹(はしか)のような病気もあります。逆にいうと、ワクチンのおかげで私たちはこうした防げる病気を恐れずに済んでいるわけです。定期接種のワクチンは、忘れずに打つようにしましょう。外出自粛をしている間に定期接種の期間を逃してしまった場合、多くの自治体では期間を延長して対応しているようです。周りにも打ちそびれている方がいたら、きちんと接種するように声をかけてあげてください。
新型コロナだけを考えても、定期接種は重要
また、定期接種は新型コロナだけを考えてみても重要です。というのは、きちんとワクチンを打っていれば、その病気にかかる可能性が低いと、医師が判断できるからです。これから新型コロナの第2波がやってきたときに体調を崩してしまった場合、はしかかもしれないし、コロナかもしれないし……という状況を避けるには、ワクチンの接種歴が重要なのです。医師の負担も、診断を受ける側の負担も減らすことになります。ぜひ、コロナが落ち着いている間に、ワクチン接種は済ませておきましょう。
第2波が来る前に
医療や健康は、私たちにとって非常に重要なもの。新型コロナで改めてそれを感じることもあったかもしれません。定期接種のワクチン以外にも、たとえば定期健診やがん検診などを受けそびれてしまった、ということがあれば、ぜひ早めに済ませてしまいましょう。そして、医療をきちんと維持するために、協力できる方は献血に協力していただければと思います。献血は楽しいですしね! ※個人の感想です
番組の後半では、千葉大学・潤間先生とともに、大学の場合を例にして、学生だけではなくすべての人たちの生活における「不要不急」を考えました。後半の内容は、山本のブログで紹介する予定です。
6月21日の放送トピック一覧
この番組のアーカイブは無料でご視聴いただけます。放送トピックを一覧にしましたので、ご視聴の際の目安にお使いください。
視聴URL:https://live2.nicovideo.jp/watch/lv326323626
前半
【これって不要不急? ①献血】
- 医療現場に欠かせない血液 (07:30~)
- 東京都赤十字血液センターへのインタビュー動画 (08:20~)
- 献血の種類と血液製剤の種類・有効期間 (13:47~)
- 大学での献血バスの受け入れ状況は? (14:57~)
- 献血ルームの感染対策の様子、献血の様子(動画) (15:56~)
- お産にも欠かせない血液 (21:55~)
【これって不要不急? ②ワクチンの定期接種】
- 外出自粛の影響で低下した接種率(23:30~)
- 外出自粛の影響で低下した接種率(23:30~)
- 定期接種の大きな効果、麻疹を例に考える(25:37~)
- 身近な感染者がいないと、感染への危機感も低下する(27:35~)
- コロナ以外のワクチンの接種、コロナ対策にも関係ある?(30:27~)
- 定期健診やがん検診なども忘れずに(31:55~)
後半
【生活の中の不要不急(大学を例に)】(33:08~)
ゲスト:潤間励子先生(千葉大学 総合安全衛生管理機構准教授・医師)
- 千葉大学はどんな状況?(44:55~)
- パンデミック下でも研究を進められる体制を考える(48:04~)
- 過剰な対応から、合理的な不要不急の判断へ(52:28~)
- 千葉大学での、研究教育活動の実施の工夫(55:50~)
- 感染はゼロにはできない。対策の責任者や感染者を責めることのマイナス面(58:55~)
- オンラインで迎える新生活…新人歓迎のイベントは不要不急?(1:02:22~)
- 後回しにされがちな課外活動の重要性(1:04:49~)
- 学生や研究者の国をまたぐ移動、どう対応?(1:09:40~)
- 研究活動を一度中断すると、再開が難しいことも(1:16:24~)
6月は毎週日曜日14:00から放送しました
当番組「わかんないよね新型コロナ~ここでいったん振り返ろう~」はニコニコ生放送で放送しました。ぜひ気になるところから、過去の放送を覗いてみてください。すべて無料でご視聴いただけます。
放送内容:https://www.miraikan.jst.go.jp/info/2003310925716.html(※)
- 7日「私たちが本当に困ったこと」
担当科学コミュニケーター:綾塚
視聴URL:https://live2.nicovideo.jp/watch/lv326323350
内容紹介ブログ:https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20200612-67.html -
14日「新型コロナの症状・治療のこと」
担当科学コミュニケーター:髙橋
視聴URL:https://live2.nicovideo.jp/watch/lv326323414
内容紹介ブログ:https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20200626-614.html -
21日「不要不急ってどんなこと?」
担当科学コミュニケーター:田中、山本
視聴URL:https://live2.nicovideo.jp/watch/lv326323626
内容紹介ブログ:
<前半>/articles/20200701-621.html(この記事)
<後半>後日公開予定です -
28日「日本のこと、世界のこと」
担当科学コミュニケーター:伊達、小林
視聴URL:https://live2.nicovideo.jp/watch/lv326323634
内容紹介ブログ:後日公開予定です
※「過去の放送内容」として、4, 5月に放送していた「わかんないよね新型コロナ~だからプロにきいてみよう~」の内容紹介ブログも一覧にしています。各ブログでは、各回の放送トピックと視聴URLもご紹介しています。