みなさんこんにちは!
科学コミュニケーターの山本です。
「新型コロナって終わったんでしょ?」みたいな空気も一部にありつつ、いつまた流行の波が来て医療機関に負荷がかかってしまうか誰にも分からない、という微妙な状態が続いていますね(そんな波、来ないならそれが一番ですが・・・)。
というわけで、小康状態の今のうちに、前の波を振り返って次に備えようという狙いで、6月の毎週日曜日に新型コロナについての番組を配信しました。
ご視聴URL:https://live2.nicovideo.jp/watch/lv326323626)。
(・・・などと書いている間にも、東京の新規感染者数が増え始めている様子。配信から半月しか経っていないのですが・・・。状況の変化の速さを改めて思い知らされています)
6月21日は、やたらと目や耳にした「不要不急」という言葉を考えてみました。このブログ記事では、その放送後半の内容をピックアップしてご紹介します(ブログの末尾に、内容やリンクの一覧があります)。
田中が担当した前半では、「不要不急に思われがちだけど、ぜひともやって欲しいこと」ということで、ワクチンの接種と献血を扱いました。
前半のブログ記事:https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20200701-621.html
後半では、「その時にどうしてもやりたい人もいるが、そうでない人もいること」という若干ややこしいところに踏み込んでみました。そういうわけで、明確な答えは出ません。「じゃあどうしたらいいの」と一緒に悩みながら読んでいただけると嬉しいです。
一連の番組ですっかりおなじみになった国立国際医療研究センター 国際感染症センターの堀成美さんに加えて、ゲスト出演の千葉大学 総合安全衛生管理機構(大学の保健室、いわゆる「ホケカン」)の潤間励子(うるま・れいこ)医師にお話を伺いました。ホケカンは、学生も教職員も、国内の方も海外の方も、いろんな人の健康をカバーしています。カラダの健康に限らず、ココロのこと、生活のこと、人間関係の事、学業や研究のこと、とカバー範囲も広いです。
大学というと特殊な世界にも思えますが、意外と大学外の世界とも共通するいろいろなお話を伺うことができました。
千葉大学の現状は?
オンラインでの授業(千葉大学では「メディア授業」と呼んでいるそうです)がメインのため、大学構内は以下の写真のようにほとんど人がいない状態だそうです。
大学への立ち入りを制限することには、感染症対策としては大きな意味がありそうです。
とはいえ、今までと違う環境での講義を用意する教員たちも大変だし、パソコンやネットワークが突然必要になった学生たちも大変だし、とご苦労も多いとのこと。
オンライン化に時間や費用がかかるというだけではなく、どうしてもオンラインではできないこともあります。資格取得のための実習も必要だし、成果主義の風潮の中では教員も学生も研究を進めないといけない・・・ということで、緊急事態の解除宣言後の対応に追われているとのこと。
「学びや研究なんて後回しでも良い」という意見もあると思いますが、当事者としてはそうも言っていられません。
山本も学生時代は野外でサンショウウオの研究をしていたんですが、ちょうど新型コロナの第一波のあった時期がサンショウウオの繁殖期くらいということもあって、もし今も現役で研究していて「家に居て」「都道府県を越えた移動は避けて」といわれたらかなり悩んだだろうと思います。研究が1年遅れるのも困りますし、その年のデータはその年にしか取れませんからね。
このような悩みは、学校に限らず、いろいろな現場であったのではないでしょうか。
また、第一波では、流行が始まっていない地域にも一斉に休校の要請が出たり、とにかく外出せずに自粛した方が良いという圧力がかかったりと、感染拡大を防ぐ意味では過剰とも思える反応がありました。
わからないことの多い新しい感染症を防ぐ意味では、まず過剰でも安全をとる、ということには意味があります。ですが、いつまでもそれを続けていくと社会が成り立たなくなってしまいます。
新型コロナウイルスの情報も増えてきましたので、感染拡大に意味のなさそうなことや過剰なことを整理しながら、その時に必要なこと(大学では研究と教育)と、感染症対策とのバランスを今のうちに考えて整備できるのが理想だと思います。
新入生の歓迎イベントや、卒業旅行は?
研究と教育の必要性には納得できるという方も多いのではないかと思います。そうでない方もいらっしゃることも知りつつ、進めます。すみません。
では、卒業や入学に伴うイベントはどうでしょう?
皆さんは、歓送迎会や卒業旅行は、不要不急だと思われますか?
新型コロナの流行状況がパンデミックにあたるとWHOが表明したのが2020年3月、日本の緊急事態宣言が全国対象になったのが4月でしたから、まさに卒業、入学、就職などのシーズンと重なっていたことになります。
「不要不急って何なのか」「計画を実行に移していいのかダメなのか」と悩んだ人も多かったはずです。潤間先生に伺ったところ、大学でも、新歓や卒業旅行について、たくさん相談があったそうです。
新入生歓迎のコンパは?
新歓なんて我慢すれば良いでしょ、という気もします。ですが、誰とも会わずにオンラインだけで始まってしまった学生生活に戸惑い、中には大学をやめることを検討し始める新入生もいるのだそうです。
言われてみれば、自分が大学に入ったときにも、いきなりシラバスという講義の一覧のような分厚い冊子を渡されたものの、どこから手を付けていいか分からず途方にくれました。いつの間にか先輩と仲良くなっているすごい同級生がいて、彼らの握っている情報のおこぼれにあずかって乗り切ったのを覚えています。
多くの新入生にとっては、それが同級生や先輩との人間関係を作る場として機能している面もあるんですね。そういうイベントなしに、「はじめまして」をオンラインでやって、そこから交流の輪を広げていくのはハードルが高い気がします。
そうすると、新歓のコンパも一概には「不要不急」とは言えないかもしれません。
卒業旅行は?
卒業旅行に行かなかったからといって、命にかかわるというものでもありません。延期できるなら、そうした方がよさそうです。
とはいえ、卒業してから同じメンバーで旅ができる機会が将来あるか、といえば疑問ではあります。キャンセル料が発生するケースも多かったそうで、懐具合によってはキャンセルしたら仕切りなおす資金もなくなる、という学生さんもいたのではないでしょうか。意外と延期も難しいのが卒業旅行なんですね。
「不要不急のことは避けるように要請された」というあいまいな状況下で、断腸の思いであきらめた人もいれば、思い切って行くことにした人もいる、といういろいろな判断があった背景が少しだけ見えた気がします。
潤間先生のお話を伺う前に、番組の中で視聴者対象のアンケートにご協力いただいたので、その結果もご紹介します。
Q. そのメンバーと一緒に行けるチャンスは最初で最後かも? 卒業旅行は不要不急でしょうか?
みなさんは、どのようなご意見でしょうか。
反対意見も理解はできるという方も、まったく理解できないという方も、いらっしゃるのではないかと思います。
賛否はさておき、「不要不急の行動はさけてください」とだけ言われても、その判断基準は人や立場によって様々です。感染症は、社会全体にかかわる問題なので、「もう勝手にしていてください」とも言えません。
第二波が来る前の、今が、多様な意見と行動があるという前提で意見交換をして、「不要不急とはなにか」を整理するとよいタイミングなのかもしれません。
また、堀さんのお話では、感染症が広がる中では、感染してしまった人に対して「危険なことをしたからだ」と攻撃することも一般的にみられるそうです。責める人の気持ちもわかるけれど、責められたくないあまりに感染を隠す人が増えると、感染が広がる可能性が高まり、逆効果になるとのこと。
それともうひとつ、対策のルールを考える担当者を責めたり吊るし上げたりも起こりがちで、これも逆効果なのだそうです。
問題点や改善できるところを、冷静に、建設的に議論していきたいですね。
まとめ
冒頭でもお伝えした通り、どうすればよいかの結論は出ませんでした。ですが、私たち市民にできそうなことも、いくつか浮かび上がってきました。
- 対立構造に飲まれない
- 違う意見の持ち主を責めるよりも、相手の事情を踏まえて意見交換する
- 対策をする人やルールを考える人を吊るし上げたりせず、冷静に改善方法を検討する
- 過剰な反応、対策がないか、情報を更新して整理する
これに納得される方も、まったく違うご意見の方も、もっと良いアイデアのある方も、いらっしゃるかもしれません。
そんなご意見や、新たに浮かんだご質問がありましたら、以下のサイトにお寄せください。2020年7月31日に、皆さんからのご質問やご意見におこたえする番組の配信を予定していますので、この機会にぜひ。
以下のサイトでアクセスコード「97984」をご入力の上、ご意見、ご質問をご記入ください。
Sli.do:https://app.sli.do/event/nfxbjsdl/live/polls
7/31の番組はこちらから。
日本科学未来館チャンネル(ニコニコ生放送):https://ch.nicovideo.jp/miraikan
執筆時点で再開館をしている未来館でも、科学コミュニケーターが皆さんをお待ちしています。いろいろなご意見をお聞かせください。
最後に、潤間先生からのメッセージ
潤間先生から、「大学のみなさんは、悩みがあったらどんどんホケカンに相談してください」というメッセージをいただいています。
悩むことはきっとたくさんありますが、相談するか悩むくらいなら相談しちゃいましょう、ということでここはひとつ。
ちなみにですが、事前に潤間先生には、本番でお伺いしたい質問内容をワードファイル(676文字)でお渡ししておりました。その翌日には8,515文字のファイルになって返ってきたというエピソードをご紹介しておきます(参考までに、このブログは5,000文字くらいです)。
先生の学生への愛、深い・・・!
そんな潤間先生からは、オンラインがメインになったことで、人間関係を作って広げることが得意な人がつらくなった一方で、それまで周囲との関わりに悩みが多かった人が楽になってもいる、というご指摘もありました。
新型コロナをきっかけに、どちらのタイプでも快適に生活できる、状況に合わせて選択できるような仕組みづくりも進むとよいですね。
6月21日の放送トピック一覧
この番組のアーカイブは無料でご視聴いただけます。放送トピックを一覧にしましたので、( )の中のニコニコ生放送内での経過時間とあわせて、ご視聴の際の目安にお使いください。
視聴URL:https://live2.nicovideo.jp/watch/lv326323626
前半
【これって不要不急? ①献血】
医療現場に欠かせない血液 (07:30~)
東京都赤十字血液センターへのインタビュー動画 (08:20~)
献血の種類と血液製剤の種類・有効期間 (13:47~)
大学での献血バスの受け入れ状況は? (14:57~)
献血ルームの感染対策の様子、献血の様子(動画) (15:56~)
お産にも欠かせない血液 (21:55~)
【これって不要不急? ②ワクチンの定期接種】
外出自粛の影響で低下した接種率(23:30~)
外出自粛の影響で低下した接種率(23:30~)
定期接種の大きな効果、麻疹を例に考える(25:37~)
身近な感染者がいないと、感染への危機感も低下する(27:35~)
コロナ以外のワクチンの接種、コロナ対策にも関係ある?(30:27~)
定期健診やがん検診なども忘れずに(31:55~)
後半
【生活の中の不要不急(大学を例に)】(33:08~)
ゲスト:潤間励子先生(千葉大学 総合安全衛生管理機構准教授・医師)
千葉大学はどんな状況?(44:55~)
パンデミック下でも研究を進められる体制を考える(48:04~)
過剰な対応から、合理的な不要不急の判断へ(52:28~)
感染はゼロにはできない。対策の責任者や感染者を責めることのマイナス面(58:55~)
オンラインで迎える新生活…新人歓迎のイベントは不要不急?(1:02:22~)
後回しにされがちな課外活動の重要性(1:04:49~)
学生や研究者の国をまたぐ移動、どう対応?(1:09:40~)
研究活動を一度中断すると、再開が難しいことも(1:16:24~)
これまでの放送内容について
全ての配信を見ると50時間以上になるということで、番組視聴者の方が、見たいところから見られるリンク集を作って公開してくださいました! かのえ/Pattie/柿人(@kanoekakihito)さま、ありがとうございます! メンバー一同大感激です!
ご本人の許可のもと、共有をさせていただきます。気になる話題から、過去の番組をご覧ください。ドワンゴさんのご厚意で、アカウント登録不要、無料で見られます。
ニコニコ生放送「わかんないよね新型コロナ」再生用リンク集:https://t.co/MhXtN5tn2F?amp=1
50時間以上の内容を丸ごと視聴したい、という豪快な方は、未来館の配信一覧をご利用ください(新型コロナ関連以外の配信も含みます)。
日本科学未来館チャンネル(ニコニコ生放送):https://ch.nicovideo.jp/miraikan