xDiversity(クロス・ダイバーシティ) × 日本科学未来館 vol.4

未来館にはどんな「音」がある? 音を感じる展示ツアーでの発見

私たちのまわりにあふれるさまざまな音。耳が聞こえる人には、何かの情報を伝えてくれる便利なもの。ほかにも音楽やラジオなど耳で楽しむ娯楽もあります。でも、ときには否応なしに聞こえてくる音がうるさくて耳をふさぐこともあるでしょう。聞こえない人にとっては、音がわからなくて不便なこともあるけれど、音に邪魔されずに過ごせていたりするかもしれません。一言で音といっても、いろんな側面がありそうです。

未来館の展示エリアにも、さまざまな音があります。では、展示を目で見るだけでなく、展示の音に注目してみたらどんなことが起きるでしょうか? 聞こえる人も聞こえない人も一緒に、音を感じながら展示をまわってみることにしました。2日間行ったイベントで、聞こえる人26人、聞こえない人15人の参加者が集まり、たくさんの意見をいただきました。今回は、そんなイベントの様子をお届けします。

※このイベントは、xDiversity(クロス・ダイバーシティ)プロジェクトと日本科学未来館のコラボイベントです

Ontennaを使って、みんなで一緒に音を感じる

音を感じるために使ったのは、Ontenna(オンテナ)というデバイス。音の情報を振動と光に変換して伝えてくれるので、耳が聞こえる人も聞こえない人も一緒に音を感じることができます。クリップ型のOntennaを髪の毛や襟元などに挟んだら、未来館の展示ツアーへ出発です!

音の大きさを振動と光の強さに換えて伝えるデバイス「Ontenna(オンテナ)」。髪の毛や服の襟元などにつけて使用する(画像提供:富士通株式会社)

ロボット「オルタ」の声は、どう感じる?

はじめに向かったのは、ロボットの「オルタ」。人のような形をしていますが、皮膚のようなものに覆われているのは、手首から先と顔だけ。胴体部分や腕などは機械がむき出しの状態です。この姿で、絶えず動き続けています。くねくねと腕の関節を動かしながら腕を上下させる動きは、みなさんがパッと思い浮かべるロボットの動きとは、きっと異なるでしょう。そんなオルタの動きのポイントは、オルタ自身が決めているということ。つくった人も、予測することはできません。動きに連動して、オルタは声も出しています。その声は「ライオンのうめき声みたい」と、ツアーに参加してくれたお子さん。姿かたちも、動く様子や声も、人間とは異なる特徴をもつロボットです。

自分で自分の動きを決めているロボット「オルタ」。動きに連動して声も出している

では、オルタの声をOntennaで感じてみるとどうでしょうか? オルタの前でOntennaのスイッチを入れると、声に反応してOntennaが光って振動し始めました。ツアー参加者に「オルタは生きてるみたいに感じるかな?」と聞いてみると、耳の聞こえるお子さんのひとりから「話しかけてくれてるみたい」という答えが返ってきました。その理由は「(オルタの声に反応したOntennaの振動が)強くなったり弱くなったりするから」。オルタの声は、耳で聞くと人の話し声とはまったく異なります。ですが、一定の強さの持続音ではなく、うめき声のような抑揚があるため、Ontennaの振動を通して受け取ると人の声のように感じられたようです。こうした声の抑揚は、「人間っぽさ」を感じさせる要素のひとつなのかもしれません。これは、毎日展示エリアでお客さんとお話ししている私たち科学コミュニケーターにとっても、新たな発見でした。

耳の聞こえないお子さんからは、「(オルタが)もっとしゃべれば、もっと楽しめると思う」という意見がありました。オルタの声をOntennaで感じられることで、もっとオルタとコミュニケーションをとってみたいと思ったのでしょうか。音を感じることが、聞こえない方が新しい何かに興味を持つきっかけになるのかもしれません。

参加者にも開発者にも、新たな発見が

オルタの後は、次の展示へ!……と、このツアーでは全部で5つの展示をまわりましたが、すべてご紹介すると長くなってしまうので、その様子は記事の最後にある動画から、ぜひご確認ください。

ツアーを通して、聞こえる大人の方には「まわりにはこんなに音があふれているんだ、ということに気づかされた」「聞き取れていなかった音に、Ontennaの振動で気づいた」といった発見があったようです。未来館には目を引くたくさんの展示があり、あちこちに解説の文字も書かれています。それらを目で追っているとなかなか音に気づかずに過ごしてしまいますが、私も未来館は本当にいろんな音が鳴っているなと、改めて感じました。

一方で、Ontennaではなかなか音を感じられない展示もありました。もっとも難しかったのが、「ドレミの形」という不思議な形をした鉄琴の音。この展示は高さ3m以上の場所に置かれています。音は、鳴っているものに近づくほど大きく聞こえます。それは私たちの耳だけでなく、Ontenna でも同じです。しかし、この鉄琴は手を伸ばしてもまったく触れられない高さにあり、近づこうにも限界があります。しかも、まわりのほかの展示からもたくさんの音が鳴っていて、その音もOntennaに届きます。そのため届く音の大きさは、鉄琴の音もほかの展示からの音もほとんど変わりません。耳では音の大きさ以外の特徴から、ほかの音と聞き分けることができますが、Ontennaで伝えられるのは音の大きさだけ。だからOntennaで鉄琴の音だけを感じることがきでなかったのです。耳の聞こえない子からは「全然わからない」という正直な感想をいただきました。

未来館3階「計算機と自然、計算機の自然」の中にある「ドレミの形」。見慣れた鉄琴の長方形の鍵盤とは異なる不思議な形でも、きちんと音階になっている

ですが、こうした意見もとっても大切。Ontenna開発者の本多達也さんは「Ontennaに対して良い意見も悪い意見も、率直な声が集まったことがよかった」と言います。Ontennaを体験した人に楽しんでもらうことはひとつの大事な目標ですが、それだけでなく、今のOntennaではできないことや足りないことを把握することも、今後への大事なステップです。こうしたみなさんの意見が、次の研究開発や今回のイベントの改良版のような取り組みにつながっていきます。未来館でも、引き続きみなさんを巻き込んだ企画をしていきたいと考えています。ぜひ、これからのOntennaにも注目していただき、イベントの際にはご参加ください!


音を感じる未来の展示WORKSHOP

未来館で展示中!(12月13日まで)

今回紹介したOntennaのイベントは、パネルと動画にギュッとまとめて未来館の5階に展示中です。「ちがうっておもしろい! 未来館の障害者週間2020」と題したイベントのコンテンツのひとつとなっています。Ontennaを体験していただくこともできます。聞こえる・聞こえないといったちがいがあるから、それぞれにちがう発見があっておもしろい。そのほかのコンテンツからも、おもしろさがみつかるはずです。詳細は、こちらから→https://www.miraikan.jst.go.jp/events/202012031663.html


※xDiversity(クロス・ダイバーシティ)プロジェクトと、未来館の「研究エリア」とは
xDiversiyプロジェクトは、私たち一人ひとりの身体的・能力的な「ちがい」を起点に、それを乗り越えるようなさまざまなテクノロジーを研究しています。Ontennaの研究もそのひとつです。また、xDiversityは未来館の「研究エリア」に入居しているプロジェクトです。
未来館の展示エリアの隣にある「研究エリア」には最先端の科学技術研究を進める12の外部プロジェクトチームが常駐しています。化学、生命科学、ロボット工学、情報学、認知科学、心理学など多様なプロジェクトチームが、日々研究にとりくんでいます。ですがここは、研究者だけのための場所ではありません。来館者のみなさんが最先端の研究に参加する場所でもあります。研究者たちは、ともに研究を進め、未来をつくっていくために、みなさんをお待ちしています。

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