万博サイエンスナビ~アクセシビリティ編

大阪・関西万博を"触って"楽しむ! 視覚障害者向けパビリオンを探してみました(前編)

みなさん、こんにちは。科学コミュニケーターの三浦です。私は普段未来館で、科学コミュニケーション活動の一環として、障がいのある方など多様な人が楽しめる展示ツアーやアクティビティの企画開発に取り組んでいます。

 

さて、413日に大阪・関西万博が開幕しましたね! 気になっている方も多いと思います。未来館では現在、科学の視点から大阪・関西万博を紹介するYouTube番組「万博サイエンスナビ ~ 科学コミュニケーターが大調査!」を配信中。撮影のために1週間ほど会場を取材していたのですが、その中で「障害のある人もない人もみんなで楽しめそう!」と思った展示がいくつもありました。大阪・関西万博は、ユニバーサルデザインによる「アクセシブルでインクルーシブな博覧会」を目指しているそうなのです。

そんな私の視点から、万博で見つけたアクセシビリティ関係のトピックを前後編に分けてご紹介します。

まずはここへ! 「アクセシビリティセンター」

大阪・関西万博には、東ゲートと西ゲートに、それぞれアクセシビリティセンターがあります。こちらでは、車いすや歩行補助器具、杖、高齢者用イヤホン(軟骨伝導集音器)などを借りることができるほか、遠隔手話サービスなど障害のある方も安心してお問い合わせができる環境となっていました。

東ゲート近くにあるアクセシビリティセンター。

万博は158カ国・地域、7つの国際機関が参加しています(2025年2月13日現在)。8つのゾーンに分かれていて、パビリオンは、国内勢27館と、40余りの独自館を含む海外館がリング内外に並んでいます。会場の広さは、なんと東京ドーム約33個分! とにかく、とても広いです。自分がどこにいるのか、どこに何のパビリオンがあるのか、迷ってしまいますよね。

 視覚障害のある方は、アクセシビリティセンターで公式触知図(線や図形を盛り上げて点字を施したマップ)を借りることができます。紙は黒色、文字は白色とコントラストも明瞭で、文字もはっきりとしています。

大阪・関西万博公式触知図。中心にある公式ロゴも凹凸があり、触って形を確認することができます。

ページは全部で51ページ。リング内外の会場全体の地図から、8つのゾーンの中にどのようなパビリオンがあるのか、詳しく説明されています。

西ゲートゾーンの詳しい触知図。大屋根リングの内外にあるパビリオンの位置がわかります。

各パビリオンの詳しいマップも知りたいな、と思い会場を歩いていると、日本館の前で「日本館 パビリオンマップ」を見つけました!

日本館のパビリオンマップ。出口やお手洗いの場所、動線なども触ってわかるようになっています。

日本館はファームエリア、ファクトリーエリア、プラントエリアの3つに分かれているのですが、それぞれの出入り口が、見ても、触ってもわかるようになっています。 

「ほかにもあるかな」と会場内を探索していると、多くのパビリオンだけではなく、トイレなどの施設案内図も触知図となっていました! 会場内にはたくさんのお手洗いがありますが、それぞれデザインが異なり、祈祷室など他の部屋と併設されている場合もあります。1つ1つ、出入り口をしっかり確認でき、安心して利用することができました。

とあるトイレの触地図。トイレの全体図や出入り口を確認できます。

大阪・関西万博では、触知図のほかに「公式センサリーマップ」「公式バリアフリーマップ」が公開されています。自由に閲覧可能で、HPからダウンロードすることができます。これらのマップは、各アクセシビリティセンターや案内所で配布もされているそうです。それぞれには、カームダウン/クールダウンスペースの場所などが記されています。

センサリーマップとは光や音、におい等、感覚に関する情報を掲載したマップのことで、感覚がするどい方にも安心して過ごしてもらうためのものです。マップには、パビリオンでの感覚情報がまとめられた「センサリーリスト」があり、6つの感覚情報「まぶしい」「うるさい」「におい」「水がかかる」「振動がある」「傾斜がある」が記載されています。

大阪・関西万博の公式センサリーリスト。(画像引用:大阪・関西万博 公式HPより)

マップはこちらのサイトから閲覧、ダウンロード可能です。

https://www.expo2025.or.jp/expo-map-index/map/

 万博はとてもにぎやかですし、会場も広く迷いやすいので、不安になることもあると思います。初めて行く場所に緊張してしまう方や、人混みが疲れてしまう方など、こちらのマップを参考に安心して過ごしていただけたらいいなあと感じました。

 

ここからは、実際に体験したパビリオンをご紹介します。

まずはナビゲーションロボット「AIスーツケース」を体験!

視覚に障害のある方の移動をサポートすることを目的に開発されている、スーツケース型のナビゲーションロボット「AIスーツケース」。未来館の館長・浅川智恵子が開発のリーダーで、いくつかの企業や研究機関と共同しながら研究開発が進められています。

大阪・関西万博では、「スマートモビリティ万博」の一環として実施される「ロボットエクスペリエンス」に採択されていて、未来館も賛助会員として加盟している一般社団法人次世代移動技術開発コンソーシアム(通称、「AIスーツケースコンソーシアム」)が主体となり実証実験を行っています。

ロボット&モビリティステーション前にあるAIスーツケース。「ロボット実証実験中」という紙が貼られている。

AIスーツケースは未来館内でも体験していただけますが、万博会場での大きな違いはAIスーツケースで移動するのが「屋外である」ということ!多少の段差があっても走行できるよう、後輪に大きな車輪が装備されています。また、屋外でも正確に位置を測定できるように、衛星からの電波を受信するアンテナが取り付けられています。ほかにも、音声対話で目的地設定や簡単な質疑応答ができたり、搭載したカメラから取得する画像をもとにリアルタイムに周辺環境の説明をしてくれたりと、これまでのものから機能が大きくバージョンアップされているんです。

AIスーツケースに搭載されているスマートフォンの画面。専用アプリで音声対話ができます。「おすすめのツアーは何か」を聞くと教えてくれました。

私も、このAIスーツケースを実際に体験してみました! 「アメリカ館に行きたい!」と声をかけると、さっそくアメリカ館の方向へ進み始めました。

ドキドキしながらも目を閉じてみると……「目の前に人がいます」「周囲の環境を確認しています」と、その都度状況を教えてくれます。

AIスーツケースを体験している筆者。目を閉じています。

AIスーツケースは、LiDARというセンサーが周囲の障害物を認識しているほか、3方向についているカメラ(RGB-Dカメラ)で、周りの歩行者の位置・歩く方向やスピードを認識していているそうです。ですので、たくさんの人が往来する会場内でも安心して体験することができます。

20分ほどの体験は、あっという間に終了! ほとんどの時間目を閉じていましたが、人にぶつかることなく、ロボット&モビリティステーションと、途中経由するフランス館、アメリカ館を往復することができました。どんどん進化しているAIスーツケース。今後の発展がとても楽しみです!

 

ということで、前編では万博会場内にある触知図や、実証実験に参加することができるAIスーツケースについてご紹介いたしました。後編では、海外のパビリオンに注目してレポートします!

参考資料

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