万博サイエンスナビ ~アクセシビリティ編

大阪・関西万博を"触って"楽しむ! 視覚障害者向けパビリオンを探してみました(後編)

皆さんこんにちは。科学コミュニケーターの三浦です。大阪・関西万博のアクセシビリティに注目したブログの後編。今回は海外パビリオンをご紹介します!

前回ブログはこちらhttps://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20250602post-552.html

あの名画を立体で! イタリアの宝に触れる

 まずは、イタリアパビリオン。中に入ると、高さ2メートル、天球儀を肩に担ぐアトラスを描いた、大理石の「ファルネーゼ・アトラス像」が私たちを出迎えてくれます。また、レオナルド・ダ・ヴィンチの直筆スケッチなど、国宝級の品々が展示されており、圧倒されてしまいました。

 その中でも、私が思わず息を飲んだのは、カラヴァッジョの傑作「キリストの降架」です。暗い背景の中から浮かび上がるように、キリストの体と埋葬する人々が描かれていて、非常に迫力がありました。私はこれまで「キリストの死」と聞くと、十字架にかけられている姿を想像することが多かったのですが、この作品は非常に人間的な姿のように感じられ、心揺さぶられました。

カラヴァッジョ作「キリストの降架」。キリストの体を、数名の人々が埋葬する様子が描かれている。

 絵画が展示されている反対側には、なんと「キリストの降架」の立体模型がありました! スタッフさんから「視覚に障害がある人にも楽しんでもらえるように作ったんです。是非触って感じてください」と声をかけてもらい、さっそく触ってみました。

カラヴァッジョ作「キリストの降架」の立体模型。大理石のよう(?)なクリーム色で、つるっとした触り心地でした。

 登場人物の表情や、洋服のしわまで丁寧に表現されていて、絵画では少しわかりづらい位置関係も、模型を触るとしっかり理解できます。この立体模型自体が、もう一つの作品のように感じられるほどでした。

ヨルダンの砂漠を歩く!

 続いては、ヨルダンパビリオン。たくさんの真っ赤な飾りのある外観が特徴的です。このパビリオンにも、触れる展示がいろいろありました。まず中に入ると、スタッフさんが展示について説明をしてくれました。そこで、どこの展示に触れても良いのかも教えていただけるので、安心して展示に触ることができます。

 入って右側にあるヨルダンの石で作られた楽器も、演奏することができます。楽器上部にあるモニターと連動していて、タイミングよく演奏できるとモニターの映像に変化が起きるのも楽しかったです。この楽器、現代の音程では存在しない音が鳴るそう。音楽に詳しい方にぜひ体験していただきたいです。(私にはまったく分かりませんでした笑)

実際に演奏できる楽器。ヨルダンの石で作られているそうです。

 部屋を進むと、ヨルダンの砂漠地帯保護区ワディ・ラムから持ってきた本物の砂が敷き詰められた場所があり、その砂の上を裸足で歩くことができます。砂は赤茶色で、粒子がとても細かく、非常にさらさらとしていました。足を踏み入れてみると……ひんやり! 夜の砂漠を歩くとこんな心地かしらと、まるで旅行気分です。

ヨルダンの砂の上を裸足で歩いている筆者。裸足を避けたい方は、靴カバーを付けて歩くことも可能です

 ちなみにヨルダンは、映画「スター・ウォーズ」や「インディー・ジョーンズ」の舞台にもなった場所。砂漠を取り囲むように設置された円形のモニターには、夜の砂漠などが投影されて、まるで映画の中に入り込んだような感覚になりました。

砂の上に座りながら、ヨルダンの映像を眺めている筆者。レイ(『スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け』の主人公)やR2-D2も、この砂の上を歩いたのかなあ……なんて想像中。

 ほかにも、中東のコーヒーを読むことができたり(有料)、死海の塩や泥を使ったハンドマッサージ(要予約、有料)を体験することもできます。五感でヨルダンを感じることができました!

民族楽器を演奏! 異国の音を楽しもう

 コモンズ館には多くの国のパビリオンが入っています。その中のいくつかのパビリオンでは、民族楽器を触り、演奏することができるんです!

 

 コモンズA館に入っている南太平洋の島国・バヌアツのパビリオンでは、Tamtam(タムタム)という民族楽器の音を聞くことができます。大きな丸太をくり抜いて作られている木製打楽器で、大きさによって、音も変化します。「大きいTamtamは、家よりも高くて数十メートルもあるんだよ!」とバヌアツパビリオンのスタッフさんが声をかけてくれました。

バヌアツの民族楽器Tamtam。楽器の下の方を叩くと、「コンコン」「トントン」と鳴ります。

 バヌアツでは昔、Tamtamを使って合図を送り合っていたそう。儀式などでも使われていて、神聖なものでもあるんだとか。スタッフさんが、「このTamtamは万博会場内でも、僕たちを見守ってくれているんだよ」と、穏やかな目をTamtamに向けながら、説明してくれました。

 

 続いても、コモンズA館に入っているガーナパビリオン。こちらでも太鼓などの民族楽器を体験できます。太鼓は脇に挟んで演奏するのですが、脇の締め具合で音が変わるのです! 私も実際に演奏してみましたが、なかなか力を入れられず、近くのスタッフさんに笑われてしまいました() また、華やかな色合いの民族衣装を試着することもできます。

赤色、黄色、緑色の糸で作られた、鮮やかなガーナの民族衣装を着用している筆者。大変満足そうな表情をしています。

 アクセサリーを付けてもらいながら「まるで王女さまみたいだわ~!」と、ガーナパビリオンのスタッフさんがとても気さくに話をしてくれました。

 

 ここでの紹介はバヌアツとガーナに留めますが、コモンズ館は民族楽器に触れたり、伝統的な遊びを体験できたり、特産品の香りを感じたり……。小さなブースながら、1つ1つが各国の魅力にあふれていました。実物を触ったり、演奏したりなど、展示を体験するのも楽しいですが、やはりふだんなかなかお会いできない国の人たちと、互いの文化について伝えあうことができる。万博の一番の魅力はそれなんじゃないかなと、一期一会の出会いに感謝することができた時間でした。

触察や音声ガイドで楽しめるパビリオン

すべてのパビリオンに行けたわけではないのですが、他にも入場できた中で視覚に障害のある方にも楽しんでいただけそうな展示やサービスがあるパビリオンをご紹介します!

 

①日本館

 壁にQRコードが印刷されていて、スマホで読み込むと、詳しい説明の記載があるHPに飛ぶことができます。また、日本館のプラントエリアには、火星由来の隕石「火星の石」が展示されており、壁に展示されている火星の石の欠片には触ることができます。

 

②ドイツパビリオン

音声ガイドが11台配られ、自分のペースで展示の説明を聞くことができます。その音声ガイドは、ドイツパビリオンのマスコットキャラクター「サーキュラー」の形(丸みを帯びた体に、小さな手足があります)になっていて、サーキュラーが館内を案内してくれます。特定のエリアへ行くと、音声ガイドが振動し、自動で説明を開始してくれます。

 

③欧州連合EUパビリオン

パビリオンの全体マップだけではなく、パビリオン内部の展示がどのように配置されているのかがわかる立体地図がありました。また、環境負荷の少ない素材や、循環資源素材の例を実際に触れながら知ることができます。

環境負荷の少ない素材や、循環資源素材の例。素材の質感を触って感じられます。

④インドネシアパビリオン

 インドネシアから運ばれてきた本物の木々の中を進んでいきます。木の香りや音、湿気も感じられ、熱帯林に来たような感覚になりました。

 

⑤スペインパビリオン

 「黒潮」に焦点を当てた内容。館内は青色の壁で囲まれていて、海の中に入り込んだような気分になります。各パネルの図や説明は、触知地図と点字での説明がありました。

 

⑥サウジアラビアパビリオン

 パビリオンで使用されているリヤド・ストーンや、観光都市の1つ「アル・バラド」の町で建物の素材として使われるサンゴ石などを、比較しながら触ることができます。また、動植物の形を知ることができる展示(凹面デザイン)がありました。出口付近では、サウジアラビアコービーを購入することができます。(おいしかったです!)

 

⑦サンマリノパビリオン(コモンズC

 イタリア半島の中にある小さな国、サンマリノの世界遺産であるティターノ山の岩石が展示されていて、触ることができます。白亜色でざらっとした触り心地でした。岩石の1つは、ティターノ山の峰に建設された3つの砦が削りだされており、ティターノ山の輪郭を知ることができます。

また、サンマリノの音を楽しめるブースもあり、サンマリノの景色が想像できました。

サンマリノパビリオンの触れる展示の1つ。ティターノ山の峰に建設された3つの砦が削りだされています。

まとめ

 今回、「触って楽しむ」をテーマに、いくつかのパビリオンをご紹介しました。これ以外にも、あちこちで演奏会が開催されたり、伝統舞踊のパフォーマンスがあったり、会場を歩くだけで様々な音楽、香り、言語を聞くことができます。体験型の展示や、触って楽しめる内容の展示も多くあり、五感で楽しめる空間だと思いました。

 そして何より、万博は多くの国の人たちと交流ができる場所! それぞれの国の説明をしていただけるだけではなく、待ち時間にその国の言葉を教えてもらったり、外国人の来場者の方とお話したり……。「私は今、世界とつながっているんだ」と感じることができました。

みなさんもぜひ、その日限りの出会いを大切に、大阪・関西万博を楽しんでみてくださいね。

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