私たちの身の回りの自然は、おいしい海産物や農産物、楽しいレジャーなどさまざまな恵みを与えてくれます。私たちはその自然の恵みを受けながら、街をつくり暮らしています。しかし、時に自然は地震や台風、土砂災害、火山噴火など、人間に対し災いをもたらすことがあります。私たち人間にとって、恵みも災いももたらす自然。気候や生活スタイルが変わる中、私たちは自然とどのように向き合って、暮らしていったらよいのでしょうか。
このことを全国の高校生とともに考えるため、「高校生ちきゅうワークショップ」を2021年3/27(土)に開催しました。
(イベントページ:https://www.miraikan.jst.go.jp/events/202103271703.html)
掲げたテーマは「恵みと災いをもたらす自然の中で、どう生きるのか?」。学校での探求活動や部活動での取り組みを発表した7校31名の高校生、北海道から九州まで幅広い地域から環境問題や防災への取り組みに関心のある21名の高校生の合わせて52名がオンラインで集まり、学校や地域の活動、自身の体験を通して考えていることなどを意見交換しました。
ワークショップは第1部と第2部の2部構成で行いました。第1部では7つの高校から、フィールドワークや実験によって得られた成果「自然の恵みと災い」のテーマに沿って発表してもらいました。第2部は、火山/地震・津波/地球環境・海洋環境/伝承・歴史の4つのテーマに分かれての分科会。第1部の発表内容も踏まえつつ、専門家も交えて高校生同士でディスカッションを行いました。
各分科会に専門家コメンテーターとして参加してくださったのは、火山研究者の林信太郎さん(秋田大学大学院)、防災に関心のある若者の繋がりを支援している鈴木さちさん(UNESCOジャカルタ事務局)、海洋生態系を研究している北里洋さん(東京海洋大学)、福島の原発事故を人々と語る活動を行っている吉川彰浩さん(一般社団法人AFW)でした。
参加者の高校生は初対面同士、しかもオンラインという環境ではじめは緊張感もありましたが、徐々に意見交換も盛り上がり、時間内では話し足りないほどでした。
以下で、ワークショップの中で語られた主な話題を紹介します。
まずは第1部。7つの高校から、それぞれの地域の環境をフィールドにした様々な活動を紹介してくれました。特に、自然の恵みとその変化について、そして、その背後にある災害リスクについて語られました。
身近な自然のもたらす恵みとその変化に注目する
高田高校(岩手県)の生徒さんがフィールドとしている広田湾は、栄養豊かな水と土によって漁業が盛んな場所です。2011年の東日本大震災後に海洋環境が変わり、海産物の生産量にも変化が見られたこと、また、それによって例年行っていた海洋実習にも影響が出たと言います。
三重高校では、松名瀬干潟の生物相の観測を11年もの長い間継続しています。それによって、干潟にすむ巻き貝の季節変化や年ごとの変化について、種ごとに異なる特徴を示すことを発見しました。そしてその変化には、護岸工事などの人間活動がもたらした環境変化が影響していそうだということです。
伊達緑丘高校(北海道)では、噴火を繰り返してきた有珠山について、噴火の後の植生環境の変遷についてフィールド調査し、変化しつづける自然環境の姿を紹介してくれました。
このように身近な自然と向き合い、自然環境のもたらす恵みを意識的に観察すると、実に数年程度の短い時間で自然環境が変化している事例がいたるところに存在していることがわかります。さらにその変化には人間活動がかかわっている可能性のあること、そして、その変化によって逆に人間活動が大きく影響をうけていることに気づかされます。
恵みの背後にある災害リスクをとらえる
宮城県多賀城高校の生徒さんたちが発表してくれたのは、高い建物が密集して建てられている都市ならではの津波リスクである「都市型津波」。東日本大震災時の多賀城市を襲った津波の映像の詳細な分析とともに、津波が建物の間を通る時にどのような変化を受けるのか、様々な実験によって明らかにした結果について発表してくれました。
兵庫県の舞子高校の位置する六甲山のふもとは、豊かな水環境に恵まれていますが、その一方で地形的に水害や土砂災害のリスクが高い地域。舞子高校の生徒さんたちは、災害に備えて中学校で出前授業を行い、地域の災害リスクを伝え、「逃げ地図」の作成などの活動を行っています。
熊本の天草高校のある天草市は、有明海、八代海、東シナ海に囲まれた島。将来の地球温暖化に伴う海面上昇の影響が懸念される地域の一つです。天草高校の生徒さんたちは、干潟土壌のボーリングコアから過去の気温と海水準の変化を見つけ、そこから将来の天草の海水準予測を行ったことを紹介してくれました。
宮城県の仙台第三高校の生徒さんたちが着目したのは、普段は意識に上らない、海で発生する災害。人々に楽しみながら海洋環境問題について考えてもらうために、すごろくゲームを開発して、校内で生徒と教員たちに体験してもらったとのこと。開発した自分たちも、地元の海や、日本の海洋環境の現状を知ったと言います。
このように身近な自然を見つめることで、恵みの背後にある災害リスクも見えてきましたが、どのようにこれらのリスクに向きあえばよいのでしょうか?
つづく第2部の分科会では、専門家を交えて高校生同士で様々な意見が交わされました。
災害リスクに備えるためには
火山の分科会では、災害時の対応として正確な情報を得ることの大切さや、避難所で高校生ができることについてこれまでの事例やアイデアをもとに話し合いました。実際に2000年の有珠山噴火の際には、伊達緑丘高校の生徒たちが避難所の受付や、子供たちと一緒に運動することでストレスを軽減させる活動を行っていたと紹介がありました。火山研究者である林さんからは、避難者自身が主体的に関わることが避難所運営をスムーズにするには不可欠であると指摘してくれました。
地震・津波の分科会では、防災を楽しく伝えることで、多くの人にリスクを伝え、災害に備えるための活動に巻き込むための実践例がたくさん出てきました。たとえばクイズやイベントを通して参加者に楽しみながら学んでもらう活動についての紹介がありましたが、このような活動が防災に向き合うハードルを下げて年代問わず多くの人に災害に向き合うきっかけを持ってもらえるという意見がありました。UNESCOの鈴木さんからは、防災を息の長い活動にしていくには、一緒に取り組む仲間とともに楽しむ工夫も必要だとお話がありました。
地球環境・海洋環境の分科会では、災害リスクの元となる、人間活動が引き起こす様々な環境問題について議論が交わされました。たとえば温暖化のような地球規模の環境問題を解決するには“我慢”のような負担イメージが強く、また問題の規模が大きく一人の力ではどうにもならないと感じてしまう人も多いと指摘がありました。これに対して、まずは人々が話し合いを始めることが大事、学校など身近なところを変えていくことから始めるのがよいのではないか、などの意見が出ました。海洋生態学者の北里さんからは、環境問題を考えるうえで重要なのは、自然の中に人間の産物をのせたときにどうなるのか、科学的な根拠をもとに「想像力」を発揮して考えることだとコメントがありました。
伝承・歴史の分科会では、「防災」とは自分や地域が最も大切にしているもの、アイデンティティを守る活動と同じではないか、そして、その大切なものを失った被災の記憶を如何に伝承していくかについて語られました。震災から時間が経つにつれて被災経験者よりも災害を経験していない世代が増えていく中、災害経験のない人であっても被災者の気持ちに共感した人々が語り部となって伝え続けることができるはずだと参加者同士で確認しあいました。福島の原発事故を人々と語る活動を行っている吉川さんからは、人の痛みを知るということは誰の心の中にもあるもので、他者の痛みを知ることが災害を「自分ごと」にすることであるとお話がありました。
参加した高校生たちの中には、第1部で取り組みを発表してくれた高校生だけでなく、学校単位で地域の自然環境を調べたり、防災活動に取り組んでいる人が多くいました。一方で、周囲にはこのようなことに関心を持つ仲間がいないと話す人もいました。今回、オンラインで開催したことにより、さまざまな地域、さまざまな自然環境のもとに暮らす高校生が集まりました。普段はなかなか出会うことのできない、同年代の高校生から、それぞれの活動事例や問題意識にふれることは、参加高校生たちにとって貴重な機会となったのではないかと思います。今後も地域を超えて高校生のつながりを持っていきたいという意見も出ました。
ひとりのちからでは、多くの人に届けたり、社会に変化を起こすことは難しいですが、同じ思いを共有する仲間を見つけ、一緒に活動することで、大きな変化を起こすことができます。これからの高校生たちの活躍が楽しみです。
高校生の発表、分科会の概要については、報告書にまとめられています。内容についてもっと詳しく知りたい方は、こちらもご覧ください。
高校生ちきゅうワークショップ2021実施報告書
https://www.miraikan.jst.go.jp/events/docs/chikyuWS_Report2021.pdf