ツッコミどころ満載の防災リュックを見直したら、安心感につながったお話

2021107日の22:41、千葉県北西部を震源とする震度5強の地震が発生しました。被害にあわれた皆様には、お見舞い申し上げます。

私が暮らす東京の自宅も大きく揺れました。鳴り響く緊急地震速報アラートと大きな揺れに驚きは感じつつも、不思議と不安感はありませんでした。なぜかというと、地震が起こる数日前に防災リュックの中身をリニューアルしたばかりだったからです。防災リュックがあれば地震が起きても絶対に助かる、というわけではありませんが、私にとって確かな安心感につながっていました。

この記事では、その防災リュックをどのように見直したかについてご紹介したいと思います。防災に対する安心の作り方、ちょこっとおすそわけです。


中島の防災リュック リニューアル奮闘記

▼目次

第1章 自信作の防災リュック、笑われる

第2章 備えあれば憂いなし、とはこのこと

第3章 防災リュックに必要なものとは?

第4章 リニューアルした私の防災リュック

第5章 さいごに

第1章 自信作の防災リュック、笑われる

みなさんの自宅には、防災リュック(非常持ち出し袋)はあるだろうか。私は2018年に東京に越してきたタイミングで用意した。見知らぬ土地でなにか起きたとしても、頼れる人が周囲にいないし、自分の命を守れるのは自分自身しかいないからだ。せっかくなので、我が家の防災リュックの中身を、みなさんにもご覧いただこう。

こちらが、私の防災リュックだ。

私の防災リュック(2021年5月撮影)

いかがだろうか。主な中身は、水や保存食、暗闇を照らす懐中電灯やロウソク、そして防寒具などだ。

防災リュックについて詳しいことはよく知らないが、たしか災害が起きた時に避難場所で生活するためのものがまとまっているもの、のはずである。これといった防災情報を集めずに私のフィーリングで中身を選定したのだが、必要そうなものがそろっていると思う。我ながら、結構自信作の防災リュックだ。

せっかく綺麗に陳列したことだし、災害対策に関するブログ記事も書いている科学コミュニケーターの保科さんにこの写真を送ることにした。すると、「中島さんのリュック、食べものと懐中電灯ばっかり!()」と予想外にも笑われてしまった。ある程度必要なものが揃っていると自負していた防災リュックは、どうやらいろいろと足りておらず、ツッコミどころ満載らしい。ちょっとショックだった。ひょっとすると、この記事を読んでいる方の中にも、リュックの中身に違和感を覚えている方もいるかもしれない。

フィーリングで準備した防災リュックなので、確かに不足しているものはあるだろう。でもそれが一体何なのか、何のために必要なのか、はわからない。自信作の防災リュックをより良くするために、まずはきちんとした情報を集めてみよう、と思ったのが緊急事態宣言下中の5月のことだった。

第2章 備えあれば憂いなし、とはこのこと

気がつけば、防災リュックについて調べようと思ってから早4か月が経過してしまった。その間に何があったのかというと、「めんどくさい病」にかかってしまったのだ。皆さんも同じような経験があるのではないだろうか。やらねばと思っていても、ついつい後回しにしてしまうことが。(ちなみに私の場合、この病は一過性のものではなく、慢性的なものだ)

ところが、幸いにもその病に(一旦)終止符を打つことになる出来事が起きた。それは、新型コロナウイルスのワクチン接種だ。

ワクチン接種2回目の方が1回目に比べ副反応の発現確率が高く、それに向けた備えをしておくのが良いという情報を至る所で見聞きした。そこで、副反応による高熱を経験した同僚数名に詳しく話を聞き、飲み物や栄養補給用ゼリー、解熱鎮痛剤などを購入し、万全の態勢で副反応に備えた。その甲斐あって、不安なくワクチン接種2回目と副反応を迎え、無事に乗り越えることができた。

この経験をとおして強く感じたのが、「備え」は「心の安心感」につながるということだ。備えあれば憂いなしとは、まさにこのことである。身をもって体験したところで、ふと防災リュックのことを思い出した。もしも今日、大地震が発生したとしたら、私は生き抜けるのだろうか、備えは万全だったといえるだろうか…。そんなことを考えていたら、背筋がゾッとした。

備えへの行動は今すぐにでもできる、動くなら今だ!と、防災リュックに関する情報を集め始めた。

第3章 防災リュックに必要なものとは?

改めて、防災リュックとは何のためのものなのかについて押さえておこう。

防災リュックとは、災害が発生し、自宅から安全な場所へと素早く避難する際に持ち出すもので、避難先で最低限の生活ができるように飲食物や生活用品などがまとまって入っているものだ

水や食料は3日分程度を用意するのが良いらしい。これは大規模災害が発生後、3日間程度は人命救助や消火活動などが優先されるため、支援物資が届かないことが想定されるからだ。飲料水は1人1日あたり3リットルが目安のようだが、リュックの容量を考えると3日分を詰めるのはさすがに厳しい。適宜、他の準備物とのバランスをみながら分量を判断するのが良さそうだ。

さらに調べていくと、防災リュックに必要なものがまとめられた「チェックリスト」に出合うことができた。書籍やサイトごとで多少の違いは見られたものの、必要なものとして飲食物、避難用具、生活用品、救急用品、そして貴重品などがあることは共通していた。下記は、チェックリストの一例である。

想像以上に準備すべきものが多い、というのが正直な感想だ。

チェックリストの一例(首相官邸のホームページより)

チェックリストと照らし合わせながら我が家の中身を改めて見直してみると、不備だらけであることに気づく。もちろん用意できていたものもあるが、ツッコミたくなるものもちらほら…。せっかくなのでその一部を紹介する。

ご飯類やパンの缶詰:保存食としては◎!でも、ご飯ものが7食にパンの缶詰が5つとはちょっと多い!他にも準備すべきものがたくさんあるよ〜当時の私、気づいて!

さんまの蒲焼きの缶詰:保存食としては◎!だけど、箸がないね。手で食べるつもりだったのかな?

防災用保温シート:2つもあるけど、これは1つでいいね。

懐中電灯:4つもあるね。どんだけ世界を明るく照らしたいんだろうね。しかも1つは電池切れ。アウトだね。

使い捨てカイロ:有効期限が20154月。今は2021年。そもそも防災リュックを準備した時点で期限が切れてたね。どうして入れたんだろうね。

有効期限が2015年4月の使い捨てカイロ

ちょっとここで横道にそれさせてほしい。実は、防災リュックの中に宇宙要素を忍ばせておいたのだが、お気づきの方はいるだろうか。

それは、ミニ救急箱である。2012年に行われた古川聡宇宙飛行士の長期滞在ミッション報告会でのいただきものである。非常時に古川飛行士の朗らかな笑顔を思い浮かべると、癒されそうだ。これを防災リュックの中に入れておいた自分には、ツッコミではなく小さな拍手を送りたい。

古川聡宇宙飛行士の長期滞在ミッション報告会でいただいたミニ救急箱

話を戻そう。

さらに情報を詳しく調べる中で、防災リュックを準備する上での重要ポイントをいくつか見つけたため、ここでまとめておきたいと思う。

①食品の種類:非常時の体調や気分によって、どのような食べ物を食べたいと思うかはわからないため、味や食感が異なるものを準備するのが◎

②お菓子の準備:気持ちをホッとさせる役割もある甘いものも用意するのが◎。飴は喉を乾燥から守ってくれたり、ガムは歯磨きができない状況で口の中をスッキリさせたりする役割もアリ!

③家族構成に応じた準備物:家族の性別や構成(乳幼児や高齢者がいるなど)に合わせて、中身のアレンジをするのが◎

④中身は密閉袋にいれる:雨でリュックの中身が濡れてしまわないように、中身は小分けにして密閉袋に入れるのが◎

⑤詰め込み注意:非常時は防災リュックに貴重品が加わるため、それが入るだけの空間を残しておくことが◎

⑥背負って歩ける重さに:背負って歩けるか、あらかじめ背負って重さを確認しておくのが◎

第4章 リニューアルした私の防災リュック

これまで集めた情報をもとに、買い出しにスーパーへと向かった。たまたまその日は台風が近づいている時期ということもあって、防災グッズ特設コーナーが設置されており、どんな備えをするのが良いかひと目でわかるようになっていた。保存食置き場には、「ガス、電気、水を使わずに食べられる」や「ガス、電気を使わずに食べられる」というような店員さん手作りポップもついていた。保存食とひとことにいっても調理の仕方はさまざまであるため、こういった情報は選ぶ際の参考になる。とてもありがたかった。

スーパーにとっては販売促進の一環だろうが、市民の防災意識を高めるという意味で、こういった取り組みは重要だと思った。

ではここで、リニューアルした私の防災リュックをお披露目したいと思う。じっくりとご覧あれ!

リニューアルした私の防災リュック
リュックの中身のリスト。大半が新たに追加したものだ。

不足していた体を清潔に保つものや女性に必要なグッズを充実させたり、食品のバリエーションを豊富にしたりした。水はこまめに清潔なものを飲めるようにと、大容量の2リットルから500ミリリットルのものへと変更した。

さらに準備の中では、非常時の自分の気持ちをできる限り想像する、ということにも意識した。知り合いがいない避難所で、自分はどんな気持ちになりそうか、どんなものがあれば気分が落ち着きそうか、ということを想像することで、自分に合ったグッズ選びができると思ったからだ。

2011年の東日本大震災で被災した時は、大学の友人宅に食料を持ち寄りたわいもない話をすることで、不安な気分を紛らわすことができた。しかし今は、近くに友人や知り合いは誰もいない。そこで、不安な気持ちが少しでもリラックスできるようにと、ちょっとワクワクするようなお菓子や、好みの匂いがするアイマスクも追加した。

今回は、防災リュックのリニューアルが目的だったが、自宅での避難生活を想定し、日持ちする飲食物や、給水バッグ、簡易トイレも購入した。ここ一ヶ月ほどで、我が家の災害への備えレベルは爆上がりである。

第5章 さいごに

防災リュックのリニューアルを行ってわかったことは、災害への備え=安心のストックにもなる、ということだ。参考情報をもとに防災リュックの中身を充実させたことは、自分の命をつなぐグッズが増えただけでなく、心の安心感にもつながったのだ。実際に先日の地震では、備えがあったことで不安を感じることはなかった。こんなことは初めてだ。

“その日”がいつどこで起こるかは、わからない。しかし、“その日”に向けた備えは今すぐにでも始められる。もしまだ備えをされていない方がいれば、自分のために自分ができることに向けて、一歩を踏み出してほしいと願う。安心のストックは、誰にでもできることだから。

【番外編】失敗はつきもの

非常食を買いにスーパーに行くと、たこ焼きやチーズケーキの缶詰など、見たことのない魅力的な非常食が並んでいた。食いしん坊の私は、ついつい両手いっぱいに缶詰を抱えてレジに並んだ。ホクホクした気持ちで帰宅し、リュックに入れる予定のグッズを床に並べた。そこで、小さなリュックを前に気づくのである。

…入らない…入りきらない。

仕方なく買いすぎた食料品を前に「防災リュック 入閣選抜大会」を開催した。何名もの選抜落ちするメンバー(缶詰やお菓子)たち…気の毒でたまらなかった。

いくつになっても適切な分量を見極められない自分に落胆したが、味見をする楽しみができたともいえるだろう。自分を納得させるために、ちょっとしたご褒美ができた、と思うことにした。

【参考文献】

1) 今泉マユ子,防災教室 災害食がわかる本,理論社,2018.

2) 今泉マユ子,防災教室 防災グッズがわかる本,理論社,2021.

3) 島本美由紀,もしもに備える! おうち備蓄と防災のアイデア帖,パイインターナショナル,2020.

4) 地震に備えるスマートサバイバル読本 (タウンムック),徳間書店,2021

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