ゲノムと医療、どう考える? ~みなさんの声をご報告~

こんにちは。科学コミュニケーターの三澤です。

みなさんはゲノム医療をご存じでしょうか。

私たち一人一人が持っている「ゲノム」情報を集めて解析することで、がんや難病などの病気の診断や治療法の開発に役立てようという取り組みです。

現在、国内では、このための体制の整備および実際の運用について、議論が進められています。

この「ゲノム医療」について、どのようなかたちで実現するのがいいのか、みなさんの意見を伺うために「ご意見募集! ~ ゲノム情報を医療で使うとしたら ~」という意見調査を昨年の夏に行いました。

ご協力いただいたみなさま、ありがとうございました。

実は先日118日に、厚生労働省の「厚生科学審議会 科学技術部会 全ゲノム解析等の推進に関する専門委員会」で、調査の結果を発表する機会をいただきました。

この委員会では、様々な分野の専門家の方、がんや難病の患者の代表の方が集まり、ゲノム医療の推進のために意見を交わします。

未来館からも、一般の方の意見を届けるために発表しました。

このブログでは、先の委員会で発表した内容をもとに、本調査の結果をご報告いたします。


委員会で使用した発表資料は、以下から閲覧することができます。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_23226.html


あわせて、今回調査を行った、未来館の意見収集システム「オピニオン・バンク」のページでも、みなさんにいただいた自由記入を含むすべての結果を公開しました。どうぞご覧ください。

https://www.miraikan.jst.go.jp/research/opinionbank/index.html


目次

1 調査の概要

2 回答者の属性

3 結果・「ゲノム」「ゲノム医療」についての理解度

4 結果・利活用への期待

5 結果・利活用への不安

6 結果・不安を解消するために

7 おわりに

1 調査の概要

以下が調査の概要です。

タイトル

ご意見募集! ~ ゲノム情報を医療で使うとしたら ~

調査期間

2021811日~930日(51日間)

形式

日本科学未来館の展示及びWeb

※日本製薬工業協会様にご協力いただき、がんや難病領域などの複数の患者団体に本調査の回答への協力依頼を行った。

回答数

272件

展示からの回答 42件 Webからの回答 230件

内容

・ゲノム医療についてのイラスト解説

・回答者属性についての質問(性別、年齢、ご専門、自身または家族の入院歴など)

・ゲノム情報の利活用について期待すること、不安なことについての質問

・意見や要望についての自由記入形式の質問

主催

日本科学未来館

監修

神里彩子氏

東京大学 医科学研究所 生命倫理研究分野 准教授

協力

日本製薬工業協会

今回の調査は、51日という比較的短期間の調査でしたが、272人の方から回答をいただきました。

そのうち、8割以上がWebからの回答でした。

今回、アンケート調査の周知として、日本製薬工業協会さまに協力いただき、がんや難病領域などの複数の患者団体に本調査の回答の協力依頼を行いました。

この後の結果でも見ていきますが、今回、患者さんやそのご家族のように、ゲノム情報の利活用に関して当事者性の高い方からたくさんの回答をいただくことができたのではないかと考えています。

調査では、全ゲノム情報の活用について、知っているかどうか、回答者が期待していることや不安に思うこと、ご意見などを質問しました。

2 回答者の属性

それではまず、272名の回答者の方の属性について簡単にまとめます。

回答者の性別比は、グラフの通り、女性と男性がそれぞれ全体のほぼ半数となり、女性が130人、男性が137人でした。また、「その他」「答えたくない」と回答された方はそれぞれ3名、2名でした。

回答者の性別(グラフ)

回答者の年齢は、18歳未満の方から70代の方まで。特に、18歳以上、50代までの各年代については、それぞれ40名~60名程度と広い年代の方々からまんべんなく回答いただきました。

回答者の年齢(グラフ)

次に、ゲノム医療について、どのような立場から回答されたかを大まかに把握するために、以下の2つの質問をしました。

ご職業(学生の場合は専攻)は医療関連や製薬関連ですか

これまでにご自身やご家族など大切な人が2週間以上の入院をしたことがありますか

それぞれ、職業についての質問では回答者の「専門性」を、入院経験についての質問では「当事者性」を知るための質問です。

医療や製薬に関連するかどうかの設問で「はい」と答えた方は、全体の回答者のうち、89名(32.7%)でした。

回答者の専門性(グラフ)

また、自分や家族などの大切な人が2週間以上に入院されたことのある方は、全体の67.3%である183名でした。

回答者の当事者性(グラフ)

これらの結果から、今回の調査では、一般の方の中でも、患者さんやそのご家族、医療関係の従事者など、医療に身近な方の回答が多かったのではと考えています。

3 結果・「ゲノム」「ゲノム医療」についての理解度

ここからはゲノム医療について質問した結果です。

まず、「ゲノム」や「ゲノム医療」について、回答される方がどの程度知っているかについて、2つ質問しました。

Q1.「ゲノム」や「遺伝子」を知っていましたか?

Q2.ゲノム情報を活用した医療や薬づくりの研究があることを知っていましたか?

Q1では、前から知っていた方が206名(75.7%)、説明を読むことで理解できた方が54名(19%)でした。この2つをあわせると全体の9割以上になります。

Q1. 「ゲノム」「遺伝子」についての理解度(グラフ)

「ゲノム医療」について知っているかを聞いたQ2でも、前からご存じの方が196名(72.1%)、説明を読むことで理解できた方が66名(24.3%)で、あわせて9割以上となりました。

Q2. 「ゲノム医療」についての理解度(グラフ)

Q1とQ2の結果から、今回の調査に回答された方の多くは、ゲノムやゲノム医療をすでにご存じの方、また理解度の高い方が多数を占めていることがわかります。

この結果は、回答された方の属性として、ゲノム医療に近い専門性をお持ちであったり、当事者性の高い方が多いことともおそらく対応しているのではないかと考えています。

4 結果・利活用への期待

では、ゲノム医療について、みなさんはどのように考えていらっしゃるのでしょうか。

まずは、こちらの質問。

Q3. ゲノム情報を医療や研究にどのように役立ててほしいと思いますか(複数回答可)

選択肢として、以下から当てはまるものをすべて選んでいただきました。

A. 自分が将来かかるかもしれない病気のリスクを知ることができるよう役立ててほしい

B. 自分がかかっている病気を正確に診断できるよう役立ててほしい

C. 自分にあった治療法を選べるよう役立ててほしい

D. 自分の子や孫のために大学などでの病気の基礎研究に役立ててほしい

E. 自分の子や孫のために製薬会社などでの薬の開発に役立ててほしい

F. 将来の人のために大学などでの病気の基礎研究に役立ててほしい

G. 将来の人のために製薬会社などでの薬の開発に役立ててほしい

H. その他

I. とくに期待することはない、わからない

全回答者(272名)のうちそれぞれの選択肢を選択された方の割合を「回答率」としてグラフにしたところ、以下のような結果になりました。

Q3. 利活用への期待(グラフ)

回答として一番多かったのは「C. 自分にあった治療法を選べるよう役立ててほしい(216名、79%)」でした。Cを含む、自分のために役立てることを期待する選択肢(A、B、C)は、いずれも6割以上の方が選択しており、期待が高いことがわかります。

しかしながら、選択肢AからGまで、いずれも約半数、またはそれ以上の多くの方が、ゲノム情報を医療や研究に役立ててほしいと回答をされており、応用の対象(自分、子や孫、将来の人)によらずゲノム情報の利活用に対して積極的な方も多かったのではないかと考えられます。

「I. とくに期待することはない、わからない」と回答された方が少数(4名、2%)であったことからも、私たちのゲノム情報を活用した医療の開発や実現に前向きな方が多いことがわかります。

ただし、このようにゲノム医療に対しての期待が高いという傾向は、これまでにお示しした回答者の属性も少なからず影響していると考えられます。

ここでは紹介しませんが、選択した回答について補足や意見を質問した自由記入の結果については、冒頭で紹介した資料にまとめてあります(このブログの終わりでもリンクを設けています)。

5 結果・利活用への不安

期待の一方で、ゲノム情報の医療への応用で、不安に思うことがあるかどうかを、以下のような質問で伺いました。

Q4-1. ゲノム情報の医療への利用で、不安なことはありますか。1番不安なことを教えてください

この質問のあと、「特にない」と回答された方以外については、2番目に不安なこと(Q4-2)、そして3番目に不安なこと(Q4-3)を続けて質問しました。

設問の流れについては、冒頭で紹介した報告資料を参照してください。

回答の選択肢として、以下から当てはまるものを、それぞれの質問ごとにひとつずつ選んでいただきました。

A. とくにない

B. 知りたくない病気のリスクがわかってしまう

C. 血縁者への影響

D. 情報漏洩とその悪用

E. ゲノム情報による差別

F. なんとなく怖い、イヤだ

G. その他

1番目から3番目に選んでいただいた不安なことをすべて合わせると、全体としてどのような不安が多くあるかを見ることができます。

グラフの回答率は、全回答者のうち不安であると回答された方の割合です。

※Q4-2、および、Q4-3において「A. とくにない」を回答された方は、一つ以上不安があるとして回答されているので、グラフでは「A. とくにない」に関してのみ、Q4-1の回答数のみを表示しています。

Q4. 利活用への不安(グラフ)

まず、「A.とくにない」を回答された方が、2割程度(18%)いらっしゃいました。

一番多く回答いただいたのが「E. ゲノム情報による差別(164名、60%)」でした。これは、回答者の5人に3人の方が、不安があるとして回答されたことになります。

続いて、同程度に多かったのが、「D. 情報漏洩とその悪用(151名、56%)」です。

3番目に多かった回答が「C. 血縁者への影響(108名、40%)」でした。

F. なんとなく怖い、イヤだ(11名、4%)」と回答された方は、ごく少数にとどまりました。

6 結果・不安を解消するために

ひとつ前の質問での不安の内容をふまえて、その後に以下のような自由記入式の質問を行いました。

Q5. お答えいただいた「不安なこと」はどういう取り組みがあれば、その不安が和らぐとお考えでしょうか。

この質問に対して、99件の回答が得られました。

いただいたコメントをひとつずつ読み、全体の傾向として以下の4つのトピックに大きく分けて整理しました。

  • 情報の取り扱い
  • 差別の対策
  • 教育
  • 相談窓口

このいずれかに関係があると読み取れる記入の件数をグラフで示しています。

コメントの中には、2つ以上のトピックについて触れている内容のものもあり、それらについては、重複して、それぞれ1件として、集計しました。

Q5. 不安解消のための取り組み トピックと件数(グラフ)

「情報の取り扱い」が51件、「差別の対策」が16件、「教育・理解増進」が21件、「相談窓口」が14件という結果になりました。

情報の取り扱い

ひとつめは「情報の取り扱い」についてです。

Q5. 不安解消のための取り組み 「情報の取り扱い」の内容

このトピックは、取り扱う「情報」が多岐にわたることから、件数も他のトピックに比べて多かったです。

主なものとして、「取得した情報を安全に管理する体制の整備」や、その管理体制について、第三者機関などによる定期的な監査など「信頼性を担保するための仕組み」、そして、こうした情報の管理の仕組みについてきちんと説明を行う「透明性」を求める意見がありました。

また、特に、提供できる情報の内容や、研究開発のために使用してもよいデータの種類について、患者さん自身の意思を反映してほしい、という意見もありました。

差別の対策

2つめは「差別の対策」についてです。

Q5. 不安解消のための取り組み 「差別の対策」の内容

ゲノム情報による差別に対し、あらかじめ対策をしてほしい、という内容のコメントです。

コメントの中には、コンプライアンスの順守や、法で差別を禁止するといったものまで、さまざまなレベルのものがありました。具体的な懸念としては、健康保険や就職、業務内容などがあげられていました。

教育・理解増進

3つめは「教育・理解増進」です。

Q5. 不安解消のための取り組み 「教育・理解増進」の内容

内容としては、大きく2つあり、ゲノム情報の利活用で可能になることなどを一般向けに広く、わかりやすい形で発信してほしい、ということがひとつ。もうひとつは、差別防止に対する働きかけを求めるものでした。

相談窓口

最後に、4つ目が「相談窓口」です。

Q5. 不安解消のための取り組み 「相談窓口」の内容

解析結果を受け止めての医療的な相談のできる窓口や仕組みをきちんと作ってほしいという声、また、それとは別に、差別や情報漏洩といった社会的な不利益を被った場合に相談したり、被害救済のサポートを求めることのできる窓口を設置してほしいという声がありました。

7 おわりに

いかがだったでしょうか。

ご意見ご要望など、このブログでは省略したものもありますが、以上が結果のご報告になります。

今回の調査は、関心の高い方や当事者性の高い方から多くの回答をいただいたこともあり、結果を見ると、全体として、ゲノム情報の利活用に高い期待を寄せていることがわかりました。一方で、期待と同時に、ゲノム情報の取得に伴う差別や悩みについて不安に思われていることがわかりました。

比較的小規模な調査ではありましたが、期待や不安、不安を解消するための取り組みなど、ひとつひとつの質問に対して、具体性に富む自由記入の回答をいただけたことで、非常に貴重な調査になったのではないかと思います。

未来館では、今後も、ゲノム医療をはじめとする科学技術の社会への応用について、みなさんのご意見や意識を収集し、それをもとに情報の発信や、さまざまな立場の人を交えた対話の場を作ってまいります。

本調査を行うにあたり、内容の監修をいただいた東京大学の神里彩子先生、患者団体の方への協力依頼をいただいた日本製薬工業協会のみなさまにお礼申し上げます。

最後になりましたが、

本調査に協力いただいたすべての回答者のみなさまにお礼申し上げます。

ありがとうございました。

発表資料

「ゲノム情報の利活用」に関する調査結果についての報告(日本科学未来館)

配布資料一覧 ( 厚生労働省HP )

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_23226.html

※資料は、「参考資料11 日本科学未来館資料[PDF形式:641KB]」をご覧ください

PDFはこちら

https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/000882377.pdf

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調査報告書

オピニオン・バンク 実施調査一覧

https://www.miraikan.jst.go.jp/research/opinionbank/index.html

PDFはこちら

https://www.miraikan.jst.go.jp/research/docs/report_202201.pdf

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最後まで読んでいただいてありがとうございました。

ゲノムについて知りたい方は、「ゲノムと医療、どう考える?」をどうぞ。

科学コミュニケーターブログ

ゲノムと医療、どう考える? ( 2021年8月11日 公開 )

https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20210811GenomeMed.html

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