こんにちは! 科学コミュニケーターの若林です。
3月25日は「電気記念日」といわれています。1878年(明治11年)のこの日、電信中央局の開局祝賀会が開催され、そこで日本で初めて電灯が公の場で点灯されたのです1。
その後、1882年(明治15年)には、東京・銀座に日本初の電気街灯(アーク灯)が設置されました。この「最初の電灯」を記念する碑が、実は銀座中央通りにあることをご存じでしょうか? よく見ると、夜の銀座を照らす街灯の中に一つだけデザインが異なるものがあるので、ぜひ探してみてください。

さて、今回は電気記念日にちなんで、「直流」と「交流」をキーワードに電力システムの歴史を少しだけひも解いてみたいと思います。
家電の電気は「直流」なのに、コンセントの電気は「交流」?
家電のアダプタなどで「AC/DC」という表記を見かけたことはありませんか? DCはDirect Current、ACはAlternating Currentの略で、それぞれ「直流」と「交流」を指します。
直流(DC)は、一定の方向に流れる電流のことです。電池にはプラスとマイナスの向きがありますが、電流は常にプラスからマイナスの方へ流れています。理科の授業で学んだ、豆電球を光らせる回路に流れる電気をイメージするとわかりやすいかもしれません。
一方、交流(AC)とは、周期的に向きが変わる電流のことで、常にプラスとマイナスが入れ替わります。電池にはセットする向きがありますが、コンセントには差し込みの向きがありません。これはコンセントから供給される電流が交流であり、プラスとマイナスの向きが変化するためです。
AC/DCアダプタは、コンセントから交流(AC)の電流を受け取って、家電などを動かすための直流(DC)に変換しています。では、家電が直流で動くのに対して、なぜコンセントからは交流の電気が届けられているのでしょうか?
交流の電気は変圧しやすい
電気が交流で届けられる理由は、交流電流の「電圧の変えやすさ」にあります。ここでは詳しい説明は割愛しますが、交流の場合は「電磁誘導」という仕組みで電圧を調整できるのです。
電圧を変えることを「変電」と呼ぶのですが、発電所でつくられた電気は「変電所」と呼ばれる場所での変電を繰り返して私たちのもとに届きます。私たちの家庭に届く電気は100Vですが、発電所で発電される電気は27万5000V~50万Vほどです。これは、高電圧のほうが電気を長い距離送るときのエネルギーロスが少なくなるためです2。
直流は電圧と電流が一定のため、安定した電力供給が可能ですが、交流のように簡単に変圧できません。こうした理由から、現在では世界的に家庭用電力は交流が採用されています。

エジソンとテスラの電流戦争
しかし、電気の歴史をさかのぼると、最初からすべての電気事業が交流で行われていたわけではありません。
電力事業が始まったばかりのアメリカでは、直流と交流の両方の電力システムが存在しており、どちらを標準とするかを巡って激しい争いが巻き起こりました。これが、いわゆる「電流戦争」です3。
直流システムを推進していたのはエジソン・ゼネラル・エレクトリックで、これは発明王トーマス・エジソンが設立した会社です。これに対し、交流システムを推進していたのが、鉄道の空気ブレーキの発明などで知られるジョージ・ウェスティングハウスが設立したウェスティングハウス・エレクトリックです。
一見すると、電流戦争はエジソンとウェスティングハウスの戦いに見えますが、実際には「エジソンvsテスラ」の戦いとしても知られています。というのも、ニコラ・テスラは、かつてエジソンの元で働いていたものの、関係がうまくいかずウェスティングハウスのもとに移り、交流の電力システムの確立に貢献したためです。

電流戦争において、エジソンは交流電気のネガティブキャンペーンを始めました。彼は「交流は危険」というイメージを市民に植え付けるため、交流電気による電気椅子の開発に乗り出したのです。さらに、交流の電気で処刑することを「ウェスティングハウスする」という言葉で表現することを思いつきました。この表現は、初めて電気椅子による処刑が施行された翌朝の朝刊の見出しにも使われたといわれています4。
しかし、エジソンの攻撃にもかかわらず、最終的にはウェスティングハウスが電流戦争で勝利を収めました。シカゴ万博での交流システム採用や、ナイアガラ瀑布の水力発電所の建設で交流システムが導入されたことをきっかけに、交流が次第に標準となっていったのです。
直流システムだって、役に立つ!
電流戦争では交流が勝利し、現在、世界の標準的な送電システムには交流が採用されていますが、直流にも独自のメリットが存在します。
実際、送電において直流が使われるケースもあります。例えば、異なる電力エリアをつなぐ「連系線」では、直流が採用されることがあるのです。高電圧で長距離送電を行う場合、直流の方が送電ロスを少なくすることができ、効率が上がるためです。また、日本では東日本と西日本で周波数が異なるため、電気をやり取りする際に一度交流を直流に変換する仕組みが導入されています。
さらに、直流送電は再生可能エネルギーとの相性が良いとも言われています。なぜなら、太陽光発電や大型の風力発電で発生する電気は直流であるため、直流で送電すれば変換の手間が省けるからです。近年は変換技術の発展により、直流・交流の変換効率も向上しているため、直流送電システムの利点が再評価されています。
このように、現在の電力システムでは、直流と交流のそれぞれのメリット・デメリットを踏まえ、目的に応じて使い分けることが重要です。
調べてみると、電気の仕組みは面白い!?
今回は電気の歴史を紹介しながら、どうして私たちがふだん使っている電気は交流なのかというお話をしました。
スイッチを押せば簡単に電気がつく現代ですが、その仕組みやシステムにも目を向けてみると、いろいろな発見があって面白いかもしれません。
興味を持った方は、ぜひいろいろと調べてみてください!

参考文献
1 日本電気協会 「電気記念日の由来」
https://www.denki.or.jp/about-event-origin/ (2025/3/6閲覧)
2 電気事業連合会 「電気が伝わる経路」
https://www.fepc.or.jp/enterprise/souden/keiro/index.html (2025/3/6閲覧)
3 リチャード・モラン著、岩舘葉子訳 (2004) 『処刑電流』 みすず書房
4 田中聡 (2015) 『電気は誰のものか』 晶文社