研究者と考える 次のパンデミックを防ぐには? vol.1

パンデミックを防ぐ鍵、「ワンヘルス」ってなに?

シリーズ「研究者と考える 次のパンデミックを防ぐには?」は、公衆衛生学、ウイルス学、生態学の研究者と日本科学未来館の協働活動を紹介するブログです。

vol.2 パンデミックを立体的に捉える ~三つの視点が重なり合うところ https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20260212post-598.html

vol.3 問いを共有し、考え続けるということ https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20260213post-599.html

私たち人間は大昔から、さまざまな感染症と向き合って生きてきました。ちょうどいま、冬の時期はインフルエンザが流行しますし、去年はマダニに刺されることで感染する感染症、SFTS(重症熱性血小板減少症候群)もニュースになりましたよね。さらにさかのぼると、2020年の新型コロナウイルス感染症、2009年の新型インフルエンザ、1918年のスペインかぜのように、感染症の世界的な大流行(パンデミック)も数多く起こってきました。そしてパンデミックが起こると、自分や家族が感染してしまうだけでなく、外出制限がかかったり、スーパーの商品が品薄になったり、SNS上で不確かな情報が拡散されたりと、私たちの生活にも大きな影響が出てくることは、新型コロナウイルス感染症の経験から実感をもっている方も多いはずです。

 

では、このように大きな影響を与えるパンデミックは、どうすれば防ぐことができるのでしょうか?

 

なかなか手ごわいこの問いへの答えを見つけるべく、未来館では2025年の秋に、トークイベントをはじめさまざまな取り組みを行いました。トークイベントの詳細は次のブログでご紹介するとして、このブログではその基礎にあたる、パンデミックが起こる道筋や、パンデミックを防ぐ鍵となる「ワンヘルス」の考え方をお伝えします。

未来館で2025年の秋に行った取り組みの1つ、パネル展示「パンデミックを防げ! 鍵は“ワンヘルス”?」。公衆衛生学、ウイルス学、生態学を専門とする3名の研究者にご協力いただきながら作成しました。

パンデミックはどのように起こる?

どうすればパンデミックを防げるか考えるためには、まずはパンデミックが起こる道筋を知ることが重要です。ここでは2020年の新型コロナウイルス感染症がどのように起こったのかを見ていきましょう。これまでに行われてきた数多くの研究にもとづくと、新型コロナウイルス感染症は、もともとコウモリがもっていたウイルスが人間社会に広がって起きたと考えられています。

 

「いやいや、どうしていきなりコウモリなの?」とツッコみたくなりますよね。順を追って説明しましょう。

 

あらゆる生き物はさまざまなウイルスとともに生きています。先ほどいきなり登場したコウモリも例外ではありませんし、コウモリからは新型コロナウイルスやエボラウイルス、ニパウイルスなど、さまざまなウイルスが検出されています。コウモリはこのような特定のウイルスと共存しながら生きていくことができる生き物(自然宿主)というわけです。

これらのウイルスのうち新型コロナウイルスは、コウモリの間だけでなく、コウモリとの接触などを通じて、異なる種類の動物に感染したとされています。そして、ウイルスが動物間を感染していくなかで、いまだ完全には解明されていない何らかの経路でヒトにも感染したと考えられているのです。このように、ウイルスがある動物から(ヒトも含む)別の動物へと感染することをスピルオーバーといいます。

その後、ウイルスに感染したヒトと接触したり、呼気や飛沫を吸い込んだりすることで、一部のヒトの間に感染が広がり、さらに感染したヒトがいろいろなところに移動することでパンデミックが起こります。

このように、一見人間社会の問題であるかのように思えるパンデミックも、その道筋をひも解いていくと動物もかかわっていることが浮かび上がってきます。

新たな病原体によるパンデミック(世界的大流行)が起こるまで(パネル内の画像は生成AIによって作成された生成物を利用して作成しています。)

どうやってパンデミックを防ぐ?

パンデミックが起こる道筋がわかると、どうすればパンデミックを防げるかという、冒頭で紹介した問いに対する答えの1つが浮かび上がってきます。先ほど紹介したように、パンデミックには人間だけでなく動物もかかわっています。そしてもう1つ忘れてはならないのは、人間と動物は地球環境のなかで関わり合いながら生きているということ。人間、動物、環境、これらすべてに目を向けることが、パンデミックを防ぐうえで重要です。

そう、これこそがパンデミックを防ぐ鍵となる「ワンヘルス」の考え方なんです。ワンヘルスとは、人間の健康、動物の健康、環境の健全性をそれぞれ別々のものと捉えるのではなく、ひとつのつながったものとして考え、関係する機関が協力しながら総合的に守っていくことを指します。

では、このワンヘルスの考え方に立つと、どのような対策が見えてくるのでしょうか。たとえば、生物多様性の保全。パンデミックと一見関係がなさそうにみえますが、人間、動物、環境のすべてに目を向けると、パンデミックとのつながりが見えてきます。

生物多様性というと“生き物の種類が多い”ことをイメージしがちですが、それだけでなくたくさんの種類の生き物たちが生み出す“生態系が多様である”ことも指します。この多様な生態系によって私たちは、生きていくための食料やきれいな水といった、さまざまなめぐみを受け取ることができているのです。

こういった生物多様性の高い生態系がもつ機能の1つに、感染症の拡大を抑えることもあるのではないかと考えられています。その仕組みについては研究の真っ最中ですが、仮説の1つとして挙げられているのは、「生物多様性が高い生態系には、いろんな動物がもっているさまざまなウイルスを生態系の外に出さない働きが備わっている」というものです。しかし、森林伐採や乱獲といった人間の活動によって生物多様性が失われると、このような感染症の拡大を抑える仕組みも失われてしまうことになります。それゆえ、生物多様性が失われていくとウイルスが動物からヒトへと感染するスピルオーバーのリスクが高まるのではないか、という予測がされているのです。そして、この予測の検証がいま進められています。

このようにワンヘルスの考え方に立つと、パンデミックと一見関係がなさそうにみえる生物多様性の保全が、実はパンデミックを防ぐために重要であることが見えてきます。そして現在では、生物多様性を守るべく、さまざまな機関が連携しながら対策を進めています。

もちろん、「生物多様性を守ればパンデミックを防げるぞ!」という単純な話ではありません。このほかにもさまざまなところにリスクがあり、それらが蓄積した結果としてパンデミックが起こります。ワンヘルスの考え方も取り入れながらリスクを見つけ、リスクを減らす対策を積み重ねていくことが、パンデミックを防ぐことにつながっていくのです。

パンデミックを防ぐための「ワンヘルス」という考え方(パネル内の画像は生成AIによって作成された生成物を利用して作成しています。)

研究者と考える、「次のパンデミックを防ぐために社会として何ができる?」

ここまで、パンデミックが起こる道筋と、パンデミックを防ぐ鍵となるワンヘルスの考え方を紹介してきました。これまでさまざまな感染症と向き合ってきた私たちは、今後もさまざまな感染症に立ち向かっていくことになるでしょう。そしてそれがパンデミックにならないようにするためには、新型コロナウイルス感染症のような過去のパンデミックの教訓を活かしながら対策を進めていくことが必要です。

 

では、私たちは過去からどのような教訓を得て、次のパンデミックを防ぐために社会として何ができるのでしょうか。

 

次のブログでは、この問いへの答えを見つけるべく行った、公衆衛生学、ウイルス学、生態学を専門とする3名の研究者とのトークイベントの様子をお届けします。

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