2015年ノーベル物理学賞を予想する② あったぞ!太陽系外惑星

「生命がすむ星は、やっぱり、地球以外にもきっとある!」

今から20年前、私たち人類にそう確信させた男がいました。あるスイス人天文学者が、夜空の彼方に輝く恒星の周りを回る「太陽系外惑星」を初めて発見したのです。

科学コミュニケーター谷明洋が予想する2015年のノーベル物理学賞の受賞者は、

ミシェル・マイヨール(Michel Mayor)博士(1942年生まれ)。

テーマは「太陽系外惑星の発見」です。
photo by Franck Schneider via Wikimedia commons, CC BY SA-3.0

それは宇宙における生命の存在を考える上での大きな節目となり、私たちの宇宙観をも変えた発見でした。空気が澄み、星や月が綺麗に見える秋の夜長。予想解説にお付き合いください。

マイヨール博士は1995年、弟子で当時大学院生だったディディエル・クエロッツ博士(同時受賞の可能性があります)とともに、ペガスス座にある51番星という恒星を観測し、その周りに「太陽系外惑星」が回っていることを突き止めました。

太陽系外惑星とは

太陽系外惑星は、その字の如く、太陽系の外にある惑星です。

つまりは、夜空に輝く星(恒星)のまわりを回っている惑星です。そのイメージを膨らませるために、まずは太陽系で恒星と惑星の関係をおさらいしましょう。

太陽系の中心に、太陽があります。太陽系で一番大きな天体であり、光と熱を自ら発して輝く恒星です。

その太陽のまわりを、地球を含む8つの惑星が回っています。惑星は、恒星である太陽よりもずっと小さく、光と熱をほとんど発しません。地球の夜空に惑星が輝いて見えるのは、惑星の表面で太陽の光を反射しているため。その輝きが光の源である太陽と比べはるかに暗いのは、みなさんも知っているとおりです。

太陽の周りを惑星が回ります。サイズなどが強調されています。

そして夜空には、たくさんの星が輝いています。このほとんどが、恒星です。遠くはなれているため点にしか見えませんが、つまりは太陽と同じような天体が、無数にあるということになります。

夜空には無数の恒星(=太陽のような天体)が遠くで輝いています。筆者撮影。

「太陽系外惑星」は、この夜空に輝く恒星の周りを回っている惑星です。太陽の周りを8つの惑星が回っているように、はるか彼方でも同じことが起こっているのです。その中に、地球によく似た天体があって生命が存在しても、不思議ではありません。

マイヨール博士は太陽のような恒星を回る惑星を最初に発見し(*)、その可能性をハッキリと示したのです。

*「初の太陽系外惑星の発見」は、この3年前の1992年、ポーランド出身のアレクサンデル・ヴォルシュチャン博士によってなされました。ただし、中心にあったのは太陽のような恒星ではなく、「パルサー」と呼ばれる超新星の残骸でした。

地球は孤独ではないし、特別でもない!

それは私たちの宇宙観を、より深める発見だったと言えます。

かつて「宇宙の中心にある地球の周りを、全ての天体が回っている」(=天動説)と考えていた人類は、地球が太陽の周りを回っている(=地動説)ことに気づき、20世紀序盤にはその太陽も天の川銀河にたくさんある恒星の一つに過ぎないことを知りました。

宇宙観の変遷。宇宙の中心は「地球→太陽→どちらでもない」と更新されていきました。

と、なれば。「夜空の星の周りにも、太陽系のように惑星が回っているはずだ」。多くの科学者が思ったことでしょう。20世紀も半ばに差し掛かかり、探査が試みられるようになります。太陽系外惑星はしかし、遠く、小さく、暗いため、数十年が過ぎても見つかりませんでした。

「やっぱり、恒星はたくさんあっても、惑星を持つというのは特別なことなのかもしれない」「生命が存在する天体は、地球のほかにはないのかな」。そんな考え方が広まる気配もありました。

秋の星空。以前は「やっぱり地球って特別なのかな」と思った人も多かったことでしょう
マイヨール博士は太陽系外惑星を発見することで、「そんなことないよ、ほら!」と示したのです。

その発見方法はドップラー法と呼ばれる方法。惑星ではなく中心にある恒星を観測し、色の周期的な変化を見つけることで、周りを回る惑星の引力によって恒星がわずかに円運動をしていることを確かめ、間接的に太陽系外惑星を発見して報告。6日後にはアメリカの天文学者ジェフリー・マーシー博士(同時受賞の可能性があります)によって、その存在が確認されました。

その惑星は、①中心にある恒星にとても近く(太陽系に持ってくると水星よりずっと内側)を、②わずか101時間で公転する(つまり1年が101時間の)、③質量が木星並に(地球の10倍くらい)大きい----という、太陽系の常識からはかけ離れた天体でした。生命には過酷な天体ですが、宇宙が予想以上に多様な環境に満ちていることを示したとも言えます。

太陽系との比較(上)と、恒星の周りを回る太陽系外惑星の想像図

20年の節目に

マイヨール博士の発見を機に、太陽系外惑星の探査は加速的に進み、これまでに2000個近い太陽系外惑星が見つかりました。そのなかには、私たちの地球によく似たタイプの惑星もあります。「夜空に輝く星の周りに生命が住む惑星があるかもしれない」と思うと、宇宙観や生命観、星空の見え方が変わってくるような気がします。

○でマークした恒星に、惑星があることが分かっています

近年のケプラー望遠鏡などの活躍による太陽系外惑星発見数の大幅増(詳しくはこの記事の後半へ)や、今年はここ数年の傾向から宇宙分野での選出が有力なことも、マイヨール博士の受賞を後押ししているように思います。

ペガスス座が天高くに輝く秋、物理学賞の発表は10月6日。太陽系外惑星の発見が1995年10月6日にイタリア・フィレンツェでの国際会議で初めて報告されて(その論文のPDF)からピッタリ20年でノーベル賞に輝くというのは、出来すぎたストーリーでしょうか。


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ノーベル賞を予想しよう!2015(現在は公開を終了)
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