熊本地震、何がおこっているのか?

4月14日以降、熊本県を中心とした九州地方で何度も大きな地震が発生しました。震度7の地震が、同じ地域で短期間に2回も観測される(※4月14日の地震は当初震度6強とされていましたが、気象庁によるその後の調査で、震度7に訂正されました)のは日本での地震観測史上初めてのことです。

 

今回の地震は複数の別な活断層帯がそれぞれで地震を起こしているのだというのが、気象庁のこれまでの見解です。

5月1日現在も活発な余震活動が続いております。熊本地方、ならびに大分地方にお住まいの皆様は十分ご注意ください。

 

いったい今、九州で何が起こっているのか。気象庁などの資料をもとに、整理してみたいと思います。

1.4月14日以降、熊本・大分地方で起こった地震

気象庁によると、4月14日21時26分の地震以降、30日15:00 現在までに、震度7を観測した前震ならびに本震のほか、震度5弱以上の強い余震が16回も発生しています。気象庁の震度階級では、震度5弱でも「大半の人が、恐怖を覚え、物につかまりたいと感じる」揺れですので、それよりも強い揺れに何度も見舞われた地域にお住まいの方々の心労は計り知れません。

余震回数の比較(気象庁報道発表資料 第37報)

上の図は、今回の熊本の地震(赤線)と過去の内陸・沿岸で発生したおもな地震での揺れの回数(マグニチュード3.5以上)を比較したものです。赤線で示した今回の地震では、最初の地震が発生した4月14日から3日と経たずに、「余震のとても多かった地震」として知られていた平成16年(2004年)新潟県中越地震を超えました。

観測体制が整った1995年以降に発生した内陸地震としては過去最多を記録したことになり、現在も記録を更新し続けています。これは、非常に活発な地震活動が現在も続いているということを表しています。

2.「前震」「本震」「余震」、そして「誘発地震」とは?

今回の一連の地震では、気象庁が当初「本震」としていた揺れが後になって「前震」と発表されるなど、異例の事態となりました。さらに、前震や本震の発生地から離れた大分地方でも大きな地震が起きました。そして現在も続いている「余震」。それぞれどのような関係があるのでしょうか。

前震・本震・余震

地震調査研究推進本部は、前震、本震、余震のそれぞれについて次のように定義しています。

「前震: 本震が発生するより前に、本震の震源域となる領域で地震が発生することがあり、それを前震と言います。」
「本震・余震: 地震が発生すると、多くの場合、その地震が発生した場所の周辺で、それより小さい地震が多数発生します。最初の地震(最も大きな地震)を本震、それに続く小さな地震を余震と言います。」

つまりこれは、

『一連の地震のうち、もっとも規模の大きなものを「本震」、本震よりも前の地震を「前震」、本震よりも後の地震を「余震」』

というふうにとらえればよいことがわかります。

 

4月14日21時26分に、熊本県熊本地方で1回目の震度7を観測した、マグニチュード6.5の地震が起こり、その後たくさんの余震が続いたことから、気象庁も当初はこの14日の揺れを「本震」であるとしていました。

ところが、4月16日になって状況が一変します。1時25分にこれまでで最大規模のマグニチュード7.3の地震が発生し、続いて大きな余震が多発しました。気象庁は4月20日になって、16日の地震を「本震」とし、14日の地震を「前震」とする見解を発表しました。

 

本震が発生するより前に、ある地震が前震かどうかを判断するのは、今のところ難しいのが現状です。あとになって「あれが前震だった」と判明することが多いのです。

誘発地震

16日の7時11分に、今度は少し離れた大分県で、最大震度5弱を観測する地震が発生し、周辺地域で余震が多発しました。東京大学地震研究所の古村孝志教授は、大分地方の地震は、14日以降に熊本地方で起こった地震に関連する「誘発地震」であると指摘しています。
 

規模の大きな地震があると、地盤にかかる力のバランスが広範囲で変化し、数十キロ~数百キロ離れた地域にもその変化がおよぶことがあります。その影響を受けた場所で新たに地震が起こることがあり、「誘発地震」と呼ばれています。

 

2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震でも、本震の震源から数百キロ離れた長野県北部で翌日に、また3日後には静岡県東部でそれぞれ最大震度6強を観測する大きな地震が発生しました。名古屋大学環境学研究科などは、これらの2つの地震は3月11日の本震による誘発地震であるとしています。

3.複数の異なる活断層帯で発生した、熊本・大分の地震

熊本地震の報道では、「活断層」という言葉をたくさん見聞きした方もいらっしゃるかと思います。今回の地震は、この地域にある活断層が動いたことによって発生していることが、気象庁などの調査によってわかってきています。

活断層ってそもそもなに?

私たちの住む地面の下は、硬い岩の層、岩盤で覆われています。岩盤には常にいろいろな方向から力がかかっていて、無数の割れ目があります。これが「断層」です。力がかかり続け、断層がさらに壊れてずれたときの動きが地上に伝わると「地震」となります。  

断層のうち、地質調査によって、特に数十万年前から現在までに、少なくとも一回以上ずれた跡が確認でき、なおかつ将来も動くと考えられる断層を「活断層」と呼びます。断層の中でも、動きが活発な断層、という意味です。

 

数十万年というと、私たち人間から見ればとても気が遠くなりそうな長い年月ですよね。でも地球の年齢は約45億歳。45億と数十万には、10の4乗(1万)ものひらき―があります。人間の寿命を100年とすると、10の4乗違えば、数日に相当します。この数日に起きたことであれば「つい最近」と言えるように、断層にとって数十万年前の動きは、つい最近に動いたばかりの活発な状態といえるのです。

熊本地震で動いた活断層の一部(写真:東京大学地震研究所)

活断層はどこにある?

活断層は、日本全体で現在見つかっているだけでも約2000あるといわれています。その多くは、密集して帯のように広がる「活断層帯」となっています。この活断層帯のうち、国が重点的に評価を行っているものは「主要活断層帯」と呼ばれ、2016年4月現在、全国に97カ所あります。

日本全国の主要活断層帯(赤)と活断層帯(黒)の分布図(防災科学技術研究所HPより)

今回の地震で動いた活断層

4月14日21時26分に発生した前震、4月16日1時25分に発生した本震、さらに、16日7時11分に大分地方で起こった震度5弱の地震は、それぞれ別の活断層帯で起こりました。4月14日の前震は日奈久断層帯、4月16日の本震は布田川断層帯、大分県の地震は別府-万年山断層帯で起こったことが、気象庁などの調査によってわかっています。

これら3断層帯はいずれも国の「主要活断層帯」に指定されており、再び動く可能性、つまり地震の発生確率などが統計的に評価されていました。

 

これら3つの地震のあと、それぞれの活断層帯で余震が多発しています。大きな地震のあとは、地盤にかかる力のバランスが大きく変わるため、不安定になった場所がバランスをとろうとして、そこにもともとあった断層が動くことで、余震が次々と起こっているのです。

前震、本震、余震分布と断層の位置(気象庁報道発表資料 第37報より)

多発する余震と活断層 ~なぜこんなに余震が多いのか~

余震の傾向と動いた活断層について、過去に内陸で起こった地震と比較してみましょう。

1995年の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)では、六甲・淡路島断層帯という一つの活断層帯に沿って本震・余震が発生していて、余震の発生回数は本震発生から時間の経過と共に減少しています。(注1)

兵庫県南部地震(1995年)における、本震発生から約1ヶ月間に発生した
マグニチュード2以上の地震(右)と、余震回数の傾向(気象庁資料)

一方、2004年の新潟県中越地震では、余震は単純には減っていかず、一時的に増えたりしています。これは、本震から3日後と16日後に発生した規模の大きな余震にともなう「余震の余震」が起こった為です。

規模の大きな余震は、本震とは別の活断層内で発生しているために、本震とは別の新しい地震が発生したとみなした方がよいかもしれません。そのため、「余震の余震」は、本震の余震とは独立した地震活動なので、本震の余震に加えて、地震回数がさらにつみあがっていくことになります。

兵庫県南部地震では、動いたのは六甲・淡路島断層帯の断層だけで、地震が他の断層帯にも広がって余震がだらだらと続く事態にはなっていません。(注2)

新潟県中越地震(2004年)における、本震発生から約1ヶ月間に発生した
マグニチュード2以上の地震(右)と、余震回数の傾向(気象庁資料)

そして今回の熊本地震では、本震に誘発されて、周辺の活断層が動き、その影響がまた別の活断層帯に及ぶというふうに(注3)、本震とは別の新しい地震の発生が連鎖的に次々と起こっていることがわかります。それに伴って、余震が非常に多い状態が続いています。

4.今後の地震活動は?

4月16日の本震以降、5月1日現在も、熊本ならびに大分地方を中心に、活発な余震活動が続いています。最初の地震(4月14日)から15日後の4月29日に、大分県中部で震度5強を観測する地震も発生しています。余震も含めると、今回の一連の地震の震源域、北東側は別府湾から、南西側は八代海に至る長さ130km以上の広範囲に及んでおり、今後の地震活動がどのように推移していくかは研究者の間でも見解が分かれています。

 

気象庁もこれまで、大きな地震の発生後に「余震の発生確率」を発表しており、今回の地震でも当初は発表していましたが、その後、過去の経験則が当てはめられないとして発表を取りやめるなど、今回の一連の地震が、前例のないパターンであることを示しています。東京大学地震研究所の古村教授によると、「次にどの活断層が動きそうか」といったことは目で見てわかるものではないため、この地域では当分の間、どこで大きな余震が起こってもおかしくないと考え、余震の推移を注意深く見守る必要があるとのことです。

 

 

余震が続く地域にお住まいの皆様は、今後の余震活動に十分注意してください。余震が続く中、片付けや修繕などの作業を行っていらっしゃる方々も多いかと思います。これから気温や湿度が高くなる季節を迎えます。余震からの身の安全を第一に、体調に無理のない範囲での活動をなさって下さい。


<自己紹介>

今回初投稿となりました、金城 文乃(きんじょう ふみの)と申します。幼少の頃から地震があると、親より先にテレビの前に正座して地震情報を見ている子どもでした。そのまま大きくなってしまい、大学時代は古地震について研究し、修士課程では人工地震探査による地下の構造を研究していました。次第に興味関心は科学全般に広がり、今では心理学や精神医学なども関心テーマの一つです。今後何らかの形で皆さんにお伝えしていきたいと思っています。どうぞ宜しくお願いします。

編集管理人による注(2016年5月23日)
注1、注2の箇所で触れている兵庫県南部地震に関する文章で、「野島断層」としていたものを「六甲・淡路島断層帯」に訂正いたしました。また、注3の箇所では「その影響がまた別の活断層に及ぶ」となっていたところ、活断層を活断層帯に訂正しております。

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