ロボットは硬いもの?やわらかいロボットだから叶うかもしれない未来の暮らし

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科学コミュニケーターが雑誌ケトルとコラボした「Nextイグノーベル賞を探せ!!」の連動ブログ。第2弾は、科学コミュニケーターの田中が「やわらかいロボット」の魅力をお伝えします!

第1弾はこちらhttps://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/20191224post-886.html

◇"自分で自分をハグする"ための、やわらかさ

あなたはどんなときに、だれとハグをしたいですか? そして、してもらいたいですか? きっと多くの方が、身近な大切な人とのハグを思い浮かべたと思います。では、もし自分で自分をハグできたら、あなたはどう感じるでしょうか? でもそんなこと、そもそも不可能? いえいえ、テクノロジーで不可能を可能にすることもできるのです。「Nextイグノーベル賞を探せ!!」の第2弾では、そんな"自分で自分をハグする"装置をご紹介しました。開発したのは、電気通信大学博士課程の髙橋宣裕(たかはしのぶひろ)さん。ハグのデータを記録するベスト型の装置(下図右)をマネキンや人に着てもらい、自分のハグをデータ化しておけば、そのハグを再現する装置(下図左)を着て自分のハグを体感できる、そんな夢の(?)装置でした。いったいなぜそんなものを?!という興味も沸きそうですが、このブログでは、装置の重要な構成要素である「人工筋肉」に注目してみましょう。

20200207_tanakas_01.jpgハグのデータを記録する装置(右)と、そのハグを再現する装置(左)を組み合わせた「センスロイド タイプS」。"自分で自分をハグする"ことも可能に。
(画像提供:髙橋宣裕さん)

記録したハグのデータを再現するためのベスト(上図左)は、「人工筋肉」を編み込んで作られています。この人工筋肉は、太さ5 mmほどのひも状でやわらかい物質。中には空気の入るチューブが通っており、空気が入るとチューブの太さは太くなり、その分長さが短くなります。収縮するときに太くなるのが動物の筋肉と同じなので、「人工筋肉」と呼ばれています。収縮するやわらかな人工筋肉で、ぎゅっと抱きしめられる動きを再現するのが、このベストです。ここで重要なのは、人工筋肉のやわらかさ。だって、硬いものにぎゅっと圧力をかけられても、ハグされているというより、拘束されている! という感じになってしまいますよね。ハグを再現するなら、やわらかくなければならないのです。

◇やわらかいロボットは、何ができる?

人工筋肉は、「ソフトロボティクス」という学問分野の産物のひとつです。この「ソフトロボティクス」について、もう少し詳しくみていきましょう。

ソフトロボティクスは、「ソフト」という名前の通り、やわらかいロボットが研究対象。「ロボットや機械は硬いもの」という常識を覆し、ぶつかってしまってもやわらかく包み込む柔軟性を生かす研究が進んでいます。フィクションの世界でいえば、ガンダムやR2-D2(スター・ウォーズ)のような硬い素材でできたロボットではなく、ベイマックスのようなやわらかいロボット。では、やわらかさの魅力って何でしょうか?

柔軟性の魅力 その1:生き物に近づく?!

そもそも、私たちの体ってやわらかいですよね。人工筋肉も、動物のやわらかい筋肉を模してつくられたわけです。ですが、従来のロボットは金属や強化プラスチックなどでできており、硬くて冷たく、つくられた形はずっと変わらないまま。それが常識でした。やわらかいロボットは、そんな常識から離れ、生き物に近づいたといえるかもしれません。

ここで、人型ロボットと暮らす未来を考えてみましょう。もし、硬いロボットだったら、たとえば硬い足のせいでフローリングの床は傷だらけ......なんてことがあるかもしれません。他にも、壁にぶつかったときに壁紙が破れた! という事態も考えられます。ですが、やわらかいロボットだったらどうでしょうか。床も壁も傷つけなくて済みそうですね。それに、抱きついたときには、やわらかいロボットの方が温かみを感じやすいのではないでしょうか。

他にも、従来のロボットにはない生き物ならではの特徴といえば、「体型が変わる」ことも挙げられます。ソフトロボットなら、そんな体型の変化も実現できます。こちらは高橋さんがつくった「SHIN-TAI」という作品です。


「SHIN-TAI」は、痩せたり太ったり筋肉質になったりと、体型を変化させることができる

こんなに自由自在にはならないところが人間の悲しい現実かもしれませんが、体型の変わるロボットは、より人に近い存在といえるかもしれませんね。また、こうしたソフトロボットの特徴が、私たちに寄り添いやすい存在となる可能性を秘めているのではないでしょうか。

柔軟性の魅力その2:柔軟にいろんなものにフィット! 壊れやすいものでも大丈夫!

現在すでに実用化され始めているソフトロボットとして、ロボットハンド(ロボットアームの先端部分)があります。工場で使われるようなロボットアームのモノを掴む部分だけがやわらかい素材でできています。従来の硬いロボットハンドは、掴みたいモノの形が変わるとうまく掴めなくなります。また、力の強さをうまく調整できないと、掴もうとしたモノをつぶしてしまう恐れもあり、その調整は難しい課題でした。ですが、やわらかいロボットハンドは、掴むモノの形が多少変わっても、ロボットハンド側の形が変わることで包み込むように掴むことができます。もし少し強めに掴んだとしても、やわらかさが力を吸収してくれます。


ソフトロボティクス社が開発したソフトロボットハンドは、さまざまな形・硬さの食べ物を掴むことができる

おうちで一緒に暮らす人型ロボットが、決まった形のものしか掴めないとしたら、あまり便利に働いてくれなさそうですね。それに、割れやすいグラスなど、硬いロボットが触ったら傷もつくかもしれないし、潰したり落としたりして壊してしまうのも怖いですよね。その点、やわらかいロボットであれば、ある程度安心して任せられそうです。

◇やわらかいロボットと暮らせる未来もやってくる?

このように考えてみると、私たちの体ってよくできているなあと思いませんか? そしてやわらかいロボットは、そんな私たちの体に近づいてきているといえそうです。ですが、やわらかいロボットでもまだ実現できていない、生き物の体の特徴もあります。そのひとつは、自己修復すること。私たちは、少しケガをしたとしても、しばらくすると傷は消えて皮膚は元通りになります。ですが、ロボットだとそう簡単にはいきません。では、どうしたらよいでしょうか。ひとつは、破損しないように耐久性が高く傷つきにくい素材をつくること。そしてもうひとつは、生き物の体のように自己修復する素材をつくること。自己修復する素材なんて、現実味がなさそうと感じるかもしれませんが、こちらの研究も進んでいます。たとえば、熱を与えることで傷が治るソフトロボットハンドがすでに報告されています*1

こうした研究が進めば、その先にはベイマックスのようなロボットと暮らせる未来が待っているかもしれませんね。そんな未来に、あなたは何を望むでしょうか? やわらかいロボットとだったら、どんなことができるでしょうか? ぜひ考えてみてください!

【参考文献】
*1 Terryn et al., Sci. Robot. 2, eaan4268 (2017)

【関連リンク】
NEXTイグノーベル賞を探せ!!第1弾「声に出したくなる!?音象徴の世界」https://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/20191224post-886.html

【謝辞】
本記事を執筆するにあたりご協力くださった電気通信大学博士課程の髙橋宣裕さんに、この場を借りて厚く御礼申し上げます。