みどりでつくる、ひととのつながり ~みどりの学術賞 研究紹介~

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みどりの科学コミュニケーターの深津です。
あっという間に5月ですね。街路樹や植え込みが輝いて見えます。上を見れば青々とした木々のみどり、下を見ればさまざまな種類の草花...!その両方を楽しむことのできる、私が一番好きな季節です!!

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我が家のチェリーセージとともに。
みなさんも、みどり楽しんでいますか?

たとえば街を歩くだけでも、街路樹や花壇に咲く花を見ることができますし、公園ではみどりに囲まれながら体を動かすことができます。自然が豊かな地域では、街全体でみどりを楽しむこともできます。
こんな風に、生活のなかでみどりと触れ合っている皆さんに、ぜひ知ってもらいたい研究分野、そして研究者がいます。今回は、「ランドスケープアーキテクチャ(造園学・景観学)」の世界で活躍する研究者を紹介したいと思います!!

「みどりの学術賞」でも大注目の分野
毎年「みどりの日」の時期に合わせ、みどりに関する顕著な研究功績を挙げた方に「みどりの学術賞」が授与されます。(みどりの学術賞については、こちらのブログでもご紹介しています!)
冒頭でご紹介したランドスケープアーキテクチャの分野からも、これまで多くの先生方が受賞されているのですが、今年も...!

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中瀬 勲 先生
(ご所属:兵庫県立人と自然の博物館館長、兵庫県立淡路景観園芸学校学長、兵庫県立大学名誉教授)

「災害復興や多自然居住地域創生のためのみどりを通じたコミュニティ形成に関わる理論の構築とその実践」に関するご功績で、中瀬 勲(なかせ・いさお)先生が受賞されました!
中瀬先生のご所属を見て、その数に驚いた方も多いのではないでしょうか。そう、中瀬先生は研究者であり、かつ博物館長や園芸学校の学長としても大活躍されているのです!
ちなみにこの写真は、東日本大震災の復興支援として行った出前博物館で、お子さんと話している様子。笑顔がステキです!(写真提供:中瀬勲先生)

まさに開拓者!中瀬先生の研究のはじまり
中瀬先生が今に至るまでに欠かせなかったこと。それは、新しい場へのチャレンジです!
かつての中瀬先生は農学部に入学し、当初は農業土木という、現在のご専門とは異なる分野を目指していました。が、学部時代の先生との出会いで、「ランドスケープアーキテクチャ」の道に進むことになったのです。この分野は、庭や公園だけでなく、街や地域全体といった大きなスケールの設計も研究の対象となります。当時の日本ではとても斬新な分野で、研究の中心はアメリカでした。
授業やゼミでは、アメリカから先生が教えにきてくれることも多く、当時の中瀬先生は直接の指導を受け、多くの刺激を受けたといいます。

大学から博物館へ、そして地域の自然へ!
新しい場へのチャレンジは、その後も続きます。
中瀬先生は、博士号取得後も大学で研究を続けていました。そんな中で大学の先生を通して、博物館の開館準備室に行ってみないかと声がかかったのです。新しいことに挑戦したかった中瀬先生は活動のフィールドを変え、現在の「兵庫県立人と自然の博物館」の開館準備のメンバーになりました。

特に関西圏にお住まいの方は、こちらの博物館に行ったことのある方も多いのではないでしょうか? 私も一度遊びに行ったことがあり、たくさんのはく製や展示を見て楽しむことができました。が、人と自然の博物館は、来館者がただ楽しく過ごすだけの場ではないのです。博物館職員の一部が大学教員を兼務しており、研究成果を地域づくりや自然環境の保全や再生に活かしているのです!
中瀬先生は博物館の活動を通して地元の方々とつながりを深め、研究で学び構築してきた理論と、持ち前のリーダーシップを活かし、兵庫県内のさまざまな取り組みの構想を立て、自然環境施設の組織づくりや運営をリードされました。例えば、丹波地域の貴重な里山を守り育てるための指針「丹波の森構想」、県内最大の公園「兵庫県立有馬富士公園」、絶滅危惧種コウノトリの野生復帰の拠点「兵庫県立コウノトリの郷公園」などなど...。すでに多くの場を挙げましたが、驚くなかれ、中瀬先生が携わった取り組みは他にもたくさんあります!

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「丹波の森構想」の舞台、丹波地域の夕ぐれ時
(写真提供:中瀬勲先生)

みどりの力を、震災復興に活かす
「震災」と「みどり」、一見関係のないものかと思うかもしれませんが、実はとても深い関係があります。例えば、緑地がガラスや看板の落下を軟らかく受け止めたり、公園が避難場所となったり、花の栽培が被災者同士のコミュニケーションを生み出したり...。
そしてこのような「みどりが防災に役立つ」という事例や考えを、日本で初めて学問的に調査し記録にまとめたのは、中瀬先生を中心とした研究者のみなさんたちでした。

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建物の崩壊を支えた街路樹
(写真提供:中瀬勲先生)

中瀬先生の暮らす阪神地域では、1995年1月に阪神淡路大震災が発生し、多くの方が被害に遭われました。地震発生後に自宅で待機していた中瀬先生は、みどりの専門家として今何ができるだろうかと考えている中で、「今、現場の調査をできるのは、私たち専門家やその下で学ぶ学生だけだ。早急に現場のデータを収集し、兵庫県、神戸市などに届けよう。」と思いを抱いたのだそうです。そして早速、周囲の研究者や学生に声をかけ、阪神淡路大震災でみどりがどのように役立ったのかを調査し、調査結果を「公園緑地等に関する阪神大震災緊急調査報告書」にまとめました。この報告書は、街のみどりに関する研究者の参考資料となり、まちの防災を考える上で重要なデータとして活用されています。

中瀬先生はこの調査以外にも、みどりを通じて被災者を元気づける「阪神グリーンネット」というプロジェクトでも、まとめ役として活躍されました。花の苗を配ったり、園芸の講習会をしたり、街の花壇の整備などを行ったり...といった活動を、市民・研究者・役所や会社の人など、さまざまな立場の人が協力して取り組んでいけるよう橋渡しをしたのです。

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震災後の仮設住宅でのミニ菜園づくり
(写真引用:兵庫県立人と自然の博物館ホームページより)

みどりがあると生まれるもの
ここまで読んでくださったみなさんに、改めて考えてほしいことがあります。
それは「みどりによって何が生まれる?」ということです。
中瀬先生はランドスケープアーキテクチャの専門家として、街のみどりに関するさまざまな研究、そしてさまざまな実践のまとめ役をされてきました。その結果、まちにみどりのある空間が生まれましたが、それだけではなく、みどりを通じた「コミュニティ」も生まれたのです。里山が廃れずにきちんと守られる仕組みがあれば、そこで住民同士や訪れた人の間にあたたかい関係が生まれます。街に公園や緑地が整備されれば、震災に強く暮らしやすいまちづくりにつながったり、散歩や花の世話などを通して会話のきっかけが生まれたりするかもしれません。
そのようなことも含めた中瀬先生のご活躍が、冒頭で紹介したみどりの学術賞のご功績「災害復興や多自然居住地域創生のためのみどりを通じたコミュニティ形成に関わる理論の構築とその実践」となっています。

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中瀬先生が学長を務める、淡路景観園芸学校。
一般開放された庭園や花壇には、多くの見学者が訪れます!
(写真提供:中瀬勲先生)

新緑が気持ちいいこの季節、ぜひ身近なみどりを楽しんでください。そして、目の前のみどりを楽しむだけでなく、その背景にある研究や研究者のことにも思いを馳せてみてください。きっと、みどりがより青々と輝いて見え、みどりをきっかけに身近な誰かとあたたかいひと時を過ごせるかもしれません!

【関連リンク】
内閣府ウェブサイト:「みどりの学術賞」
https://www.cao.go.jp/midorisho/
未来館ブログ:「みどりの学術賞」第14回受賞者が決まりました!
https://blog.miraikan.jst.go.jp/other/2020040114-1.html