2014年ノーベル化学賞を予想する① 超伝導のあの方

ニーハオ!

科学コミュニケーターの陳ドゥです!

未来館で人気のものはいっぱいありますが、

超伝導体の実演もそのひとつ。

これが、その実演で使う超伝導体です。

・・・ちょっと地味ですね~

ですが、この何の変哲もない黒い小石は劇的なパワーを持っています。

実演中、超伝導体と磁石の不思議な関係を紹介しています。

その関係はこちら↓

あっ、浮いてる!

なんで浮いているかはぜひ未来館で確かめてみてくださいね。

実は超伝導分野で日本には非常に優秀な研究者はいます。

今年のノーベル化学賞の有力候補者だと私は見ています。

その方はこちら↓東京工業大学教授の細野秀雄(ほそのひでお)先生(60歳)です。

*写真提供:東京工業大学

細野先生の一番の業績は、超伝導の常識を覆したこと。

その常識とは何かという話の前に、まず超伝導体とは何かから話しましょう。

超伝導体とは、文字通りとてもとても伝えます。

伝えるものは、電気です。

電線に使う銅など普通の導体は電気を伝える際に、電気抵抗があります。

電気抵抗は電気を通りにくくさせる性質のこと。

ところが、超伝導体は種類によってはマイナス135℃*以下に冷やされると、

電気抵抗は急に消えて、0になります。

(*注:超伝導状態になる温度は「移転温度」と呼ばれています。

今現在最も高い移転温度は、銅系の超伝導体のマイナス135℃です。)

昔から、金属を冷やすと電気をよく通すようになることは知られていました。

それで科学者はさまざまな金属をなるべく低温にして、

電気を通す実験を繰り返してきました。

約100年前、つい電気抵抗が0になる「超伝導現象」が発見されます。

1911年にオランダのヘイケ・カメルリング・オンネス氏は

水銀が約マイナス269℃まで冷えると電気抵抗はほぼ0になることを発見しました。以来、多くの科学者が超伝導に魅了され研究を進めてきました。

超伝導体の大きなメリットの一つは、省エネです。

たとえば、発電所から送られてくる電気は、送電線に電気抵抗があるため、運ばれる途中で5%が熱になっていると言われています。

もし電気抵抗が0であれば、全くロスなしで電気を送ることができます。

さらに、世界中で電力を効率的にシェアできるようになります。

たとえば、日本が急な大停電に陥ったとしましょう。

このときに地球の反対側のブラジルでは、電力が余っていたとしましょう。

現在、ブラジルから電気を送ろうとすると、途中でたくさん失われてしまいます。

でも、電気抵抗のない超伝導体を送電線に使えれば、

電力は100%日本に届きます。

電線以外にも、医療用MRIでの応用や、リニア高速鉄道への実用化など

超伝導は多くのところで役に立っていて、

とにかく夢がいっぱいな材料なのです!

次に、細野先生は破った超伝導の常識についてお話ししましょう。

さきほど一番最初に発見された超伝導体は、水銀だと話しましたね。

ですが、マイナス269℃というのは冷やすだけでも大変です。

そこで、科学者はさまざまな金属を試しました。金属に何かを混ぜたりもしました。

この研究から、多くの金属は超伝導体になれることがわかりました。

が、唯一みんなに敬遠された金属があります。

それは、鉄です。

どん!

・・・私の故郷の中華鍋は全く関係ないので、ごめんなさいm(_ _;)m

鉄は磁石になる性質があります。

この性質と超伝導になろうという性質は

相性が悪いだろうと思われ、鉄は超伝導に向いていないとされていたのです。

ところが、2008年に細野先生が鉄にヒ素やほかの何種類かの元素を混ぜて

実験してみると、超伝導体ができてしまいました!

*写真提供:東京工業大学

この発見できたきっかけは、物質の結晶構造にありました。

結晶とは、空間的に繰り返されるパターンを持っている物質のことです。

例えば、雪はまさに立派な結晶です

細野先生は元々セラミックス半導体の研究をされていました。

その物質の結晶構造はこちら↓です。

*セラミックス半導体の結晶構造1)

セラミックスとはお茶碗やガラスと同じように、焼き物です。

元々電流を通さないはずなのに、細野先生のグループは実験を重ね、

結晶構造を変えると電気が流れました。

そこで、細野先生はずっと注目していた安価で扱いやすい鉄を

この構造に取り込めば、電気を通すのではないかと考えました。

そして、真ん中の銅(Cu)とセレン(Se)を取り除いたのち、

*銅とセレンを取り除いて1)

色んな金属を試し、実験を繰り返し、鉄(Fe)とヒ素(As)を置き換えたら、誰でも予想しなかった鉄系超伝導体ができました。

*鉄系超伝導物質の結晶構造1)

この論文は化学系の権威的な学術雑誌-

米国化学会誌 (Journal of the American Chemical Society)で

発表されたのち、2008年の世界中の最も引用された論文になりました。

約10年近く停滞気味だった超伝導分野の研究は、細野先生の発見によって、

もう一度大いに盛り上がっています。

いまや約2000本以上の鉄系超伝導体の論文が発表されています。

まさにお祭り状態です。

この研究成果で細野先生は短い間に

ノーベル賞の有力候補者と呼ばれるようになりました。

ただ、細野先生は研究が鉄系超伝導体だけではありません。

ほかにも電気の流れるセメントや新材料での半導体の開発など

偉業ともいえる研究成果を数々挙げています。

実は私は、細野先生の在籍されている

東京工業大学総合理工研究科で2年間を過ごし、修士号を得ました。

残念なことにお会いしたことがありませんでしたが、

細野先生と同じ東工大すずかけ台キャンパスにいたことは

いまでも誇りに思います。

細野先生にノーベル賞を取って頂いて、

あの田舎キャンパスが少しでも光の当たる場所になれば

いいな!と密かに願っています。

・・・えっとミーハーですみませんでした。

<(_ _)><(_ _)><(_ _)>

引用1):最先端研究開発支援プログラム(FIRSTプログラム)『新超電導および関連機能物質の探索と産業用超電導線材の応用』

今年のノーベル賞関連イベントに関してはこちら。 (リンクは削除されました)

2014年ノーベル賞を予想!今年もやります(リンクは削除されました)
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