2014年ノーベル物理学賞を予想する!➂ 高速・大容量光通信の実現で世界を変えた男たち

この記事を読んでいるみなさんはまさに今、
 彼らの研究の恩恵を受けているかもしれません。

ノーベル物理学賞の予想ブログ記事第3弾は、
光通信に関する研究を紹介します。

受賞テーマ:

「エルビウム添加光ファイバー増幅器の開発、実用化」

受賞者:

デビッド・ペイン(David N. Payne)、
エマニュエル・デザビア(Emmanuel Desurvire)、
中沢正隆(なかざわ・まさたか)

この増幅器なくして、
これほど便利なインターネットや携帯電話は実現しなかったでしょう。

まさに、21世紀を変えた研究です。

ペイン博士(提供:Southampton大学)
デザビア博士(提供:SubOptic)
中沢正隆博士(提供:東北大学)

世界の情報交換を支える光通信

携帯電話での通話、メールや、インターネットで楽しむ動画、ゲーム。音や文字、映像などをデジタルデータに変換し、離れた場所に伝える際、現代社会では光通信が主流となっています。

携帯電話やパソコンなどの端末は一見、無線の電波やLANケーブルでつながっているようにも思えるかもしれませんが、信号はすぐに光に変換されて、光ファイバーの中を進んでいくのです。

ただ、光信号にも弱点があります。それは、進めば進むほど弱くなってしまうこと。これでは、いくら光ファイバーを張り巡らせても、信号を遠くまで届けることができません。

そこで登場するのが、「光ファイバー増幅器」。文字通り「光を増幅」する機器で、「アンプ」とも言います。この3氏は1980年代の後半に、エルビウムという物質を添加した極めて実用的な光ファイバー増幅器を作り上げました。その使い勝手の良さから一気に普及し、通信の大容量化、高速化、長距離化、安定化を実現しました。多くの人が今日も、恩恵を受けているのです。

光を電気に変えず、そのまま増幅

この研究のすごいところは、光を電気に変えずにそのまま増幅できること。これにより、通信できる情報量が格段に大きくなりました。

光信号をそのまま増幅する手段がなかったころも、光通信そのものは行われていました。ただ、中継器で増幅する時には、➀光信号を電気に変えて、➁それを増幅し、➂また光信号に戻して送る──ということをやっていました。通信コストなどの面でさまざまな課題を含んでいました。

光をそのまま増幅できるようになったことで、コストが下がったばかりでなく、少し波長が異なる複数の光を1本の光ファイバーで同時に使うことができるようになりました。波長多重方式と言います。大容量の情報を一気に送れるようになったのです。

イメージするならば、それぞれ別の情報を持った赤、青、黄などさまざまな色(=波長)の光が、1本の光ファイバーの中を一緒に進んでいき、必要に応じて波長ごとにまた分割されて、配信されるのです。光のまま増幅できるから、数百チャンネルの光を一緒に増幅しても、あとでまた分割することができるということです。

光を増幅するしくみ

光を増幅するしくみは、ごくごく簡略化すると次のような感じです。

ポイントは2つ。丸くループを描いている部分の光ファイバーにエルビウムを加えていること。そして、レーザー照射によってエルビウムが加わった部分のエネルギーを高めていることです。2つめは少しだけ専門的に言うと、エルビウムイオンを励起状態にする、ということです。光信号がここを通過するときに、このエネルギーを受け取って増幅するのです。

同タイプの光ファイバー増幅器では、エルビウム以外の物質を添加したものもあり、その物質によって増幅できる光の波長域が異なります。その中で、エルビウムを添加した増幅器が一番実用的なのです。なぜなら、エルビウムは光ファイバーでの伝送に最も適した(=減衰が少ない)波長域の光を増幅する特性を持っているためです。

中沢博士が決め手を打った

3氏は共同研究ではありません。それぞれ別々に、エルビウム添加光ファイバー増幅器への関心と期待から研究を進めていたようです。

まずペイン博士が、エルビウム添加光ファイバーによって光信号を増幅させる基礎実験に成功します。

デザビエ博士は、エルビウムの添加量や必要な光ファイバーの長さを検討して光ファイバー部分を突き詰めていきました。

しかし、この時点ではまだ実用レベルには遠いものでした。エルビウムのエネルギーを高める光源に巨大な色素レーザーを使っていたためです。

その問題を解決し、増幅器を一気に実用レベルに持っていったのが、かねてからエルビウムに着目していた中沢博士です。小型の半導体レーザーでエルビウムのエネルギーを高められることを実証し、大幅な小型化と効率化を同時に実現したのです。

その数年後、1990年代のうちに、エルビウム添加光ファイバー増幅器は一気に普及していきました。海底ケーブルにも設置されています。信号を同時に複数箇所に送るために分岐する際にも、十分な光量を得るために使われています。90年代以降のインターネットをはじめとする通信の爆発的発展は、この小さな増幅器が可能にしたのです。

この研究、もっと詳しく知りたい方は

ここまで書いて、内容を再確認しようとインターネット検索をしていたところ、数日前にアップされたと思われる、こんなページ(リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)を見つけてしまいました。研究の経緯などをもっと詳しく知りたい方には、きっと参考になると思います。

「予想屋」福田も太鼓判

昨年の物理チームの予想記事で、受賞分野には法則があると書いていた「予想屋」福田も、「今年は物性、中でも光に関する分野が来る」と言っております。なんか、当たりそうな気がしてきました。当たらないかな-。

予想ブログは一段落

さてさて、立て続けにブログを更新してきた「ノーベル賞予想隊」。生理学・医学賞、化学賞、物理学賞で各3本の予想記事が出そろいました。(最後の谷の記事、締め切りギリギリでした。ふぅー)。

各賞の発表まで2週間あまり。ここから先は、科学コミュニケーターが独自の視点をめいっぱい盛り込んだ番外編や、研究者による予想、皆さまの予想などをお楽しみください(文末にリストを作りました)。そして各賞の発表当日、未来館はどんな風になっていて、どんなブログ記事ができあがるのでしょうか。こちらもお楽しみに。


さらに詳しく知りたい方は、以下のサイトをどうぞ
(リンクは削除されました。また、URLは無効な場合があります。)

https://sangakukan.jp/journal/journal_contents/2014/09/articles/1409-03/1409-03_article.html
http://www.kendenkyo.or.jp/pdf/technology/120_basic.pdf
http://www.ceramic.or.jp/museum/contents/pdf/2006_10_04.pdf
https://www.ins-news.com/en/100/838/1941/?ls-art0=50
https://www.jsap.or.jp/activities/award/outstanding/prizewinner2012.pdf


・2014年のノーベル賞関連のブログ記事

2014年ノーベル賞を予想!今年もやります(リンクは削除されました)
2014年ノーベル賞受賞者を予想する!番外編 そもそもノーベル賞はなぜすごい?(リンクは削除されました)

・2014年ノーベル生理学・医学賞を予想する
① 脳の働く様子が見える?!
② DNAの使い方を決める仕組みとは!?
③ 博士が見た「大きな夢」と「小さなRNA」
番外編 〇〇ニンジンは世界を救う!
研究者に聞く!ノーベル賞は誰の手に?② 細胞を守る3つの掟

・2014年ノーベル物理学賞を予想する
① 超伝導のあのお方~その2
② スピンを操るあの方!
③ 高速・大容量光通信の実現で世界を変えた男たち

・2014年ノーベル化学賞を予想する
① 超伝導のあの方
②~家族計画を可能にした男~(リンクは削除されました)
③ 分子1つを見る
研究者に聞く!ノーベル賞は誰の手に?①化学賞に分子シャペロン?

2014年ノーベル賞 皆さまの予想~生理学・医学賞①
2014年ノーベル賞 皆さまの予想~生理学・医学賞②
2014年ノーベル賞 皆さまの予想~物理学賞
2014年ノーベル賞 皆さまの予想~化学賞

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